ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
西住みほの命令により、五十鈴華は『ティガーⅠ』を隠すように立っている森の木の一本に照準を合わせた。
冷泉麻子は、いつでも吊り橋にむかっていける体勢で『Ⅳ号中戦車』を動かしている。
五十鈴華から西住みほへ報告が走る。
そして西住みほは号令をかけた。
「照準合わせ……照準良し!」
「撃て!」
『ドッガーン』という発射音とともに、徹甲弾が『Ⅳ号中戦車』から発射された。
《バキッ! ミシミシッ! ドドーン!》
『ティガーⅠ』の前の道を塞ぐように、一本の大きな大木が倒れた。
双眼鏡でそれを確認した西住みほは、今度は冷泉麻子に指示を出した。
「麻子さん! 今です!」
「……了解!」
エンジンが唸りを上げると『Ⅳ号中戦車』は、吊り橋の入口へ向かって猛スピードで走り出した。
クルッペから外を見ていた大森翔子は、突然倒れてきた木に驚いて遠藤祐子へ連絡した。
「おい、祐子! 倒れた木が道を塞いじまったぞ!」
「えっ……そんな……」
キューポラから顔を出して、倒れた木の状態を遠藤祐子は確認した。
そして、ホッとしたように呟いた。
「大丈夫! 乗り越えられ……」
遠藤祐子は、話を途中で止めた。
『Ⅳ号中戦車』のエンジンが唸りを上げるように響いてくるのを聞いたからだ。
「みんな! 『Ⅳ号』が吊り橋を渡ってくるよ!」
「そうか、木を倒して吊り橋を渡る時間を作ったんだ……さすが、先輩達だ」
大森翔子は感心して言った。
そして、通信手席から振り向きながら北川亜希子が聞いてきた。
「どうする? 祐子ちゃん?」
「……逃げる?」
浦田恵も同じように、遠藤祐子へ尋ねてきた。
遠藤祐子は、みんなの顔を見渡した。
そして、にっこり笑うと、みんなに指示をだしたのである。
「もちろん、格闘戦にもちこむよ!」
「そうこなくっちゃ!」
大森翔子は、操縦桿を握り直しながら笑って言った。もちろん他のメンバーも同じ気持ちである。
「もう時間もないし、こっちも捨て身で戦おうよ」
「そうと決まれば……急がなきゃね」
浦田かなえと北川亜希子が言うと、浦田恵が気合を込めて叫んだ。
「装填準備に入ります!」
『ティガーⅠ』は倒れた木を強引に乗り越えて『Ⅳ号中戦車』の前に出た。
『Ⅳ号中戦車』は、吊り橋を渡り終えて、谷底を背に停車している。
『ティガーⅠ』も、砲身を正面にしながら『Ⅳ号中戦車』の真向かいに対峙するように停車した。
遠藤祐子は、キューポラから再び顔をだして、双眼鏡で『Ⅳ号中戦車』の車長席で、キューポラから身を出している、西住みほの顔を見た。
すると、不思議な光景に出くわしたのである。
(えっ……西住先輩、笑ってる……。何だろう……絶対の自信に満ちた笑顔だわ……)
遠藤祐子は双眼鏡をさらに注意深く凝視したのである。
(……嫌な予感がする……)
遠藤祐子が西住みほを見ている間、次々とメンバーから報告が入ってきた。
「前方250m! 『Ⅳ号中戦車』停車中!」
「照準合わせ完了! 発射準備良し!」
「発進準備完了!」
遠藤祐子はその報告を聞きながら、じっと『Ⅳ号中戦車』の出方を見た。
(前面装甲はこちら側が上だから、この距離から発射されても問題はない。『Ⅳ号中戦車』が動き出したら、静止射撃の方が確実に撃破できる)
そして……
双眼鏡の中の西住みほが命令をだしたのが、遠藤祐子にはわかった。
「パンツァー・フォー」
来た!
ついに来た!
『Ⅳ号中戦車』が正面から突っ込んでくる!
『Ⅳ号中戦車』は右に、左にステップを踏みながら、爆音を響かせて近づいてくる。
西住みほは、あいかわらず体を外に出してこちら側を見据えている。
遠藤祐子は(タイミング……タイミング……)と心で繰り返していた。
《ドッガーン!》
『Ⅳ号中戦車』から徹甲弾が発射された。
《ゴワン、ガキーン!》
『ティガーⅠ』の正面装甲で、砲弾は弾かれた。
それを見た遠藤祐子は、自信を持って命令した。
「撃て!」
今度は『ティガーⅠ』から徹甲弾が発射された。
『Ⅳ号中戦車』は、むかって右側に動き砲弾をかわすと、そのまま右側部に向かおうとしている。
「かなえちゃん、砲塔右回転!」
「了解!」
遠藤祐子が浦田かなえに、砲塔を回転させるよう指示を出した。
しかし、砲塔が右に動き出した途端、急に『Ⅳ号中戦車』が今度は一気に左を向いたのである。
遠藤祐子はこの予期せぬ『Ⅳ号中戦車』の動きに驚き、パニックになった。
「えっ……えっ、ちょっと……何! かなえちゃん! 逆! 逆!」
「ちょっと、どこに『Ⅳ号』いるの! ……『Ⅳ号』が消えたわ!」
浦田かなえが、照準器から『Ⅳ号中戦車』が急に消えてしまい慌てている。
遠藤祐子の目の前を横切りながら、なおも『Ⅳ号中戦車』が一気に近づいてくる。
砲身が小刻みに動いているのがはっきりと見えた。
(ヤバイ! ヤバイ! やられる!)
遠藤祐子がそう思った直後に、澤梓からの無線が入ってきた。
『試合終了。両チームとも停車してください!』
今、1時間の1対1の試合は、幕を閉じた。
『ティガーⅠ』に向かってきた『Ⅳ号中戦車』は、急にスピードを緩めて『ティガーⅠ』の左側部に並ぶように停車した。
「遠藤隊長―っ。素晴らしい作戦でした!」
「……西住先輩―い!」
キューポラから身を乗り出していた西住みほは、停車と同時に遠藤祐子に笑顔で声をかけ、それに遠藤祐子が半分泣きながら答えた。
それが合図だったかの如く、両方の戦車のハッチから続々と顔が出てくる。
「亜希子ちゃーん。凄かったよー!」
「武部先輩……ありがとうございます」
「恵さん! 素晴らしい集中力でしたよ」
「五十鈴先輩……五十鈴先輩……」
「浦田殿! もう立派な装填手ですよ!」
「秋山先輩……ありがとうございます」
「……大森! よくあそこまで、戦車を動かせるようになったな」
「……冷泉先輩」
もう『3代目あんこうチーム』の顔は、涙でくしゃくしゃである。
戦車道をしていてこんなに泣いたのは、多分初めてだろう。
最初『初代あんこうチーム』の技量に「恐怖」さえ覚えた彼女達が、今、1対1の試合で勝てなかったが、負けなかったのである。
両戦車から下りた計10人の女の子は、5人は泣きじゃくり、5人は満面の笑顔である。
澤梓と他の戦車道チームのメンバーも、双眼鏡越しに、この光景をみて涙している。
あの『初代あんこうチーム』の先輩達の笑顔を見ればすべてがわかる。
無事に、卒業試験は合格したのだ。
両チームのメンバーは戦車の傍で、お互いの健闘を称え合っている。
「祐子ちゃん『作戦』は、祐子ちゃんが立てたの?」
西住みほが質問すると、遠藤祐子は涙を拭きながら答えた。
「立てたのは私ですけど、みんなの意見も参考にしました」
「うん、それでいいのよ。1人より2人。2人より5人で考えるほうが、ずっといい方法が生まれる」
その2人の傍で武部沙織と五十鈴華、秋山優花里の3人が指導した後輩、北川亜希子と浦田かなえ、浦田恵に話しかけている。
「亜希子ちゃん! みんな、息がぴったり合ってたよ」
「かなえさん! もう、私、感動しています……」
武部沙織と五十鈴華が喜びながら言うと、浦田かなえがうつむいて言った。
「……でも、1発も当てられませんでした」
「これからですよ。浦田殿! 皆さんには、まだたくさんの可能性があります」
秋山優花里が言うと、それに続けるように五十鈴華が言った。
「そうです。優花里さんの言う通りですよ。いずれ、かなえさんは、私よりも上手になると思いますよ」
「……五十鈴先輩、ありがとうございます」
浦田かなえは顔を上げて2人の先輩の顔を見て言った。
そして、五十鈴華が笑顔で浦田かなえに続けて言った。
「かなえさん…… 『決して妥協せず。日々修練』ですよ」
「はい。決して先輩の言葉は忘れません」
その様子を笑って見ていた冷泉麻子だが、皆が一通り落ち着いた頃を見計らい、西住みほにむかって言った。
「隊長、そろそろ戻ろうか?」
「そうですね。ブリーフィング広場へ移動しましょう」
『Ⅳ号中戦車』『ティガーⅠ』の順番に、ブリーフィング広場へ向かって移動し始めた。
『ティガーⅠ』の中で遠藤祐子達は、皆、満足そうな表情で、前を行く『Ⅳ号中戦車』の車体を眺めている。
遠藤祐子は、誰に聞いてもらうでもなくポツリと呟いた。
「先輩達、笑っていたね……」
「ああ、笑ってた……」
大森翔子が遠藤祐子の言葉に返事をすると、浦田恵が続けて呟いた。
「……もう、先輩達と一緒に訓練できないんだね」
すると突然、北川亜希子が声を上げて泣き出した。
それにつられて、残りの4人も泣き始めた。
「(ヒック、ヒック)……寂しいよ」
「(ヒック、ヒック)……泣くなよ、泣くな!」
「(ヒック、ヒック)……みんな、泣いちゃダメ。」
ブリーフィング広場に並んで、『Ⅳ号中戦車』と『ティガーⅠ』が並んで止まった。
高台の上から他の戦車道の仲間達、皆が歓声を上げている。
澤梓は黙って、2輌の戦車から降りてくる彼女達を見つめていた。
笑顔で後輩達の肩を抱きかかえながら、高台へ登ってくる『初代あんこうチーム』。
目を真っ赤にさせて、先輩に支えられて登ってくる『3代目あんこうチーム』
今、『3代目あんこうチーム』の挑戦は終わった。
『初代あんこうチーム』は『現戦車道チーム』の前に整列した。
『3代目あんこうチーム』も、対峙するかたちで先輩の前に並んだ。
西住みほが『3代目大洗女子戦車道チーム』全員を見渡して、満面の笑みで話を始めた。
「皆さん、本当によくここまでがんばりましたね。私達はもう何も心配しなくていいです。遠藤隊長以下、大洗女子学園戦車道チームは、生まれ変わりました」
そこまで話した西住みほは、一旦『初代あんこうチーム』の方を見た。
みんなの気持ちも一緒なのだろう。全員が頷いている。
そして、再び『3代目戦車道チーム』全員を見て言った。
「もう、皆さん達は1人で歩いて行けます。私達も安心して訓練指導が終われます。みんな、よくがんばったね!」
西住みほがそう言うと『初代あんこうチーム』のメンバー全員から激励の言葉が贈られたのである。
「ほんと、立派になったよ!」
いつも明るい武部沙織である。そして、優しい言葉で伝える五十鈴華である。
「……これからもがんばってくださいね」
「自分も、安心して見守ることができます」
「……お前たちの後ろから、ずっと私たちが見ているからな」
秋山優花里と冷泉麻子も満面の笑顔である。
遠藤祐子が澤梓に救いを求めてから、約1ヶ月。
今、長いようで短かった、訓練指導が終わった。
そこに、西住みほから突然の話が始ったのである。
「……それじゃあ最後に、私達から『3代目大洗女子学園戦車道チーム』の皆さんに、伝えておきたいものがあります」
澤梓は、西住みほの言葉にドキッとした。
2週間前、初めて5人揃っての訓練指導の時、昼食を食べ終わってから『初代あんこうチーム』」が話していたことなのであろう。
(私達に教えられなかったもののことだ)
遠藤祐子をはじめ『現戦車道チーム』は、西住みほの言葉に耳を傾けた。
「これから皆さん達に、私達がひとつの『技』を披露します。この『技』は1対1の格闘戦用の技です。きっと皆さん達の役にたつと思います」
『初代あんこうチーム』のメンバーが、笑顔で全員頷いた。
遠藤祐子達『3代目あんこうチーム』は、この言葉に驚きを隠せなかった。
「……西住先輩、格闘戦用というと、さっき……」
「うん、祐子ちゃん達に最後仕掛けようとしたんだけどね。……時間切れで、不発だった」
遠藤祐子は、時間切れ直前に見た、西住みほの自信に満ちた笑顔を思い出した。
『3代目あんこうチーム』も含めて『現大洗女子学園戦車道チーム』は、お互いの顔を見合わせてざわつき始めた。
「梓ちゃん! ビデオカメラは準備できてる?」
「はい。準備はしていますが……。西住隊長、ビデオでその『技』を撮るんですか?」
「うん。多分世界で誰もやったことのない『技』だから記録しておかないとね……もうこの『技』ができる私達5人が揃うことはできないからね……」
西住みほのこの突飛もない発言に、さらにザワつきが大きくなった。