ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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忘れないようにしよう

 

 武部沙織は両手を後ろに組んで、そして少し前かがみになりながら言ったのである。

 

 「ミポリン達と話し合って決めたんだ。……実は、今の『技』にはまだ『名前』がついてないんだよ。戦車道の後輩のみんなに、この『技の名前』をつけてもらいたいの」

「……えっ。『技の名前』を……ですか?」

 

 遠藤祐子達は驚いて『初代あんこうチーム』のメンバーを見つめた。

 『初代あんこうチーム』のメンバーは、全員笑顔で頷いている。

 しかし……、普通『技の名前』というものは、編み出した人物が考えるものである。

 しかもこの『技』は長い戦車道の歴史の中で、初めて編み出された『技』なのである。

 そんな大事なことを、あっさりと受けてしまっていいのだろうか。

 

「そんな……、先輩達が作った『技』なんですから、先輩達で……」

 

 遠藤祐子が思わず断ろうとするのを遮る形で、秋山優花里が笑いながら、話をしたのである。

 

「いいんですよ。遠藤殿……。逆に私達は、皆さん達につけて欲しいんです」

 

 五十鈴華と冷泉麻子も同じように微笑みながら話を続けた。

 

「優花里さんの言う通りです。私達にはもうこの『技』を使う機会は2度とありません」

「……編み出された『技』は使うものがいて、はじめて生き続けることができる」

 

 西住みほも同じ気持ちなのであろう『初代あんこうチーム』全員の気持ちを代弁するように言った。

 

「後輩の皆さん達が、私達を呼んでくれなければ『初代あんこうチーム』の5人はもう揃って戦車に乗ることはありませんでした。5人が揃わなければ、この『技』も永久に教えることはできなかったのです」

 

 そして、少しうつむいて西住みほは、自分の胸に手を当てながら言った。

 

「……今、私達は自分達の持っていた全てのものを、後輩である皆さん全員に伝える事ができてホッとしています。その機会をつくってくれた皆さんに対しての、私達からの『ささやかなプレゼント』なんです。皆さんでステキな『名前』をつけてあげてください」

 

 そう話した西住みほは、顔を少し左に傾けてニッコリと笑ったのである。

 

 遠藤祐子達『3代目戦車道チーム』の後輩達全員は、直立不動で『ハイッ!』と返事をした。

 そして、遠藤祐子ら、戦車道チームは、輪になって相談をはじめたのである。

 「こんなのはどう・・・」「いや、この呼び方が・・・」と聞こえてくる。

 それを、笑顔で見ていた「初代あんこうチーム」の5人。

 そして、再び整列をし直して、遠藤祐子が後輩全員を代表するように5人の前に直立不動で立った。

 

「先輩達、お待たせしました! 私達、全員で決めました! 先輩達から贈ってもらったこの大切な『技』を……」

 

 遠藤祐子は、胸を張り大きな声で言った。

 

 

「『ストライク・オブ・ゴッデス(女神の一撃)』と名づけたいと思います!」

 

 

 西住みほ、武部沙織、秋山優花里、五十鈴華、冷泉麻子の5人の女神達が編み出した『技』。

 同じ戦車に乗る仲間を信じ、大切に思う気持ちが集まってできる『技』。

 今晴れて、その呼び名ができたのである。

 

 武部沙織はその場で飛び上がりながら手を叩いて喜んだ。

 

「うわぁ! メチャメチャかっこいい!」

「はい! とってもいいですね」

「女神の一撃ですか……。とっても素敵です」

「……うん、私も気に入った」

 

 秋山優花里と五十鈴華、冷泉麻子もそれぞれ嬉しそうに言った。

 西住みほはその様子を見ながら、自分も嬉しそうに言った。

 

「……じゃあ、皆さん『ストライク・オブ・ゴッデス(女神の一撃)』のこと宜しくね!」

 

 再び『現戦車道チーム』全員が一列に直立不動になり『ハイっ!』と大きな返事をした。

 

 

 

 今、すべての指導訓練が終わった。

 

 時間が刻々と過ぎていく。

 『初代あんこうチーム』の西住みほ、武部沙織、五十鈴華、秋山優花里、冷泉麻子の5人は、笑顔で後輩達を見つめ返している。

 そして、遠藤祐子は少し恥ずかしそうにしながら、再び西住みほの前に立った。

 

「あの……、先輩達にお願いがあるんです」

「なあに、祐子ちゃん?」

 

 西住みほは、遠藤祐子を見ながら聞いた。

 

「実は、……サインを頂きたいのです」

「えっ……サインって、私のサイン?」

「はい、私は西住隊長のを……」

 

 そこまで言った遠藤祐子は『3代目あんこうチーム』のメンバーの方を見た。

 それを見た大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の4人も、それぞれ指導訓練してくれた先輩の前に移動した。

 

「私は、冷泉先輩のが欲しいんです!」

「……私もなのか」

「私は、秋山先輩です」

「……自分もでありますか」

「私は、五十鈴先輩のものです」

「……私もですの?」

「私は、武部先輩のサインが欲しいです」

「やったー! 私も『欲しい』って言われたよ!」

 

  一人だけ違う反応をした武部沙織にむかって、冷泉麻子がまたツッコミを入れた。

 

「……おい、沙織! なぜ、お前だけ返事が違うんだ」

「ウフフ」

「アハハッ!」

 

 五十鈴華は、手で口を隠しながら、秋山優花里は空を見上げながら大声で笑った。

 もちろん、西住みほも同じように笑っている。

 笑いが収まると、西住みほは遠藤祐子にむかってあらためて聞いた。

 

「……でも、祐子ちゃん。私達のサインなんかもらってどうするの?」

「それは内緒です。先輩!」

 

 遠藤祐子はいたずらっ子のような言い方で言った。

 

 西住みほ達は、言われるままに一人一人色紙にサインをした。

 書いてもらった色紙を、5人はそれぞれ大事そうに抱えたのである。

 そして、また遠藤祐子は5人の先輩達に向かってお願いをしたのである。

 

「それともう1つ、私達は先輩達の集合写真が欲しいんです」

「うん、それはいい考えよね。ちょっと着替えてから、皆で写真を撮ろうよ!」

 

 武部沙織が『初代あんこうチーム』全員を見渡しながら言ったのだが、遠藤祐子は申し訳なさそうにそれを否定した。

 

「……いえ。武部先輩、すみません。今の『パンツァー・ジャケット』を着ている先輩達を撮りたいんです」

「えーっ。そうなの……。でも髪がボサボサだよ、私」

「……いつもそんな感じだろう。沙織は……」

 

 冷泉麻子がそう言うと、武部沙織は口を尖らせながら冷泉麻子に抗議した。

 

「麻子って、ひどーい。そんなことないもん!」

「……まあまあ、2人とも。でも、私もその写真は欲しいですね」

 

 秋山優花里がそう言うと、五十鈴華も嬉しそうに同意した。

 

「そうですわね。私もぜひ撮ってもらいたいです」

「……じゃあ、祐子ちゃんにお願いしよっか?」

 

 西住みほがそう言うと、メンバー全員が頷いた。

 

 5人は『Ⅳ号中戦車』をバックに、遠藤祐子に集合写真を撮ってもらった。

 中央が西住みほ。左側に冷泉麻子と秋山優花里。右側に武部沙織と五十鈴華。

 みんなが、溢れるほどの笑顔である。

 

 写真を撮り終わると『初代あんこうチーム』は『親友』である『Ⅳ号中戦車D型』をあらためて見上げた。

 

「『Ⅳ号』……お疲れ様。また必ず会いに来るからね」

「はいっ! 今度会う時は『Ⅳ号』の上でまたご飯を食べましょう」

 

 西住みほと秋山優花里がそう言うと、武部沙織が秋山優花里に優しく言った。

 

「ユカリン! 『Ⅳ号』はもう箱の中に戻るんだよ!」

「あっ……そうでしたね。……なんだか淋しいです」

 

 少しうつむき視線を落とす秋山優花里の肩に、西住みほは手を置いて励ますように言った。

 

「優花里さん『Ⅳ号』にはこれからの『戦車道チーム』を見守ってもらいましょう!」

「そうですね、西住殿の言う通りですね! ……『Ⅳ号』宜しくお願いしますね!」

 

 夕日をあびて、『Ⅳ号中戦車』の75mm長砲身が輝いている。

 そして『Ⅳ号中戦車』の砲塔に描かれている「あんこうマーク」が笑っているように見えた。

 

(まかせて! みんな)

 

 そう言っているように見えたのである。

 

 

 

 『現戦車道チーム』の後輩達は学園の校門のところでお別れをし、代表として『3代目あんこうチーム』のメンバーが大洗の街に戻る五十鈴華と冷泉麻子、そして熊本に帰る西住みほを見送るために武部沙織、秋山優花里、澤梓に同行させてもらった。

 大洗の街までの連絡船が出る発着場まで、先輩、後輩関係なく、楽しくおしゃべりをしながら、西住みほ、武部沙織、五十鈴華、秋山優花里、冷泉麻子、澤梓、遠藤祐子、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の女の子11人は歩いて行った。

 

 本当に名残惜しい……

 もう女神達が揃って同じ戦車に乗ることはないのである。

 そう考えると、いてもたってもいられなくなる。

 『3代目あんこうチーム』は『初代あんこうチーム』が贈ってくれた、あの『ストライク・オブ・ゴッデス』を絶対にマスターする。

 マスターして、初めて先輩達のあとを継げる。

 そう、心に固く誓うのであった。

 

 大洗の街にむかう連絡船とを繋ぐ桟橋の上で、西住みほと五十鈴華、冷泉麻子の3人は見送りに来てくれた他の仲間と後輩達にむかって言った。

 

「それじゃあ、みんな! ……私達いくね」

「私と華で隊長を駅まで送っていくから、心配するな」

「みなさん、ごきげんよう」

 

 その別れの挨拶に対して、秋山優花里と武部沙織、澤梓が順に返事をした。

 

「西住殿、五十鈴殿、冷泉殿! また一緒に遊びましょうね!」

「ミポリン、華、麻子! ……元気でね」

「先輩方! 本当にありがとうございました!」

 

 そして、遠藤祐子達『3代目あんこうチーム』の5人が横一列に並び、深々と頭を下げた。

 

『ありがとうございました!』

 

 今、西住みほ、冷泉麻子、五十鈴華を乗せた連絡船が、ゆっくりと桟橋をはなれた。

 3人の乗った連絡船が小さくなるまで、武部沙織、秋山優花里、澤梓、遠藤祐子、大森翔子、浦田恵、浦田かなえ、北川亜希子の8人は手を振り続けたのである。

 

 

 ―――3日後―――

 

「よいしょ……っと! おーい、祐子! 全部平行に並んでいるか?」

「うん、翔子ちゃん! バッチリだよ!」

「じゃあ、この位置で固定するぞ!」

 うん、お願いね!」

 

 戦車道の更衣室に入った正面の壁に、額縁に入った5枚のサイン色紙が並べられた。

 そのサイン色紙には、それぞれに人名のサインが入っている。

 その並べられたサイン色紙の上側にA3サイズに引き伸ばされた、これも額縁に入れられた写真が飾られた。

 その写真に写っているものは1輌の『戦車』とその前で「パンツァー・ジャケット」に身を包んで、とびきりの笑顔で笑っている『5人の女性達』である。

 

 飾り終えた遠藤祐子と大森翔子、それを傍で見ていた浦田かなえ、恵の姉妹に北川亜希子は、感慨深げだった。

 

「こうしてあらためて見てみると、なんだか本当に先輩達に会っていたのか不思議な気持ちだね」

「そうだな、なんだか夢を見ていたような気分にもなるなぁ」

 

 遠藤祐子と大森翔子は笑っている『初代あんこうチーム』を見てそう呟いた。

 しかし、北川亜希子は2人の言葉を聞いて、戒めるように言った。

 

「祐子ちゃん、翔子ちゃん! 夢とかじゃないんだよ、私達は先輩達から大切なものを受け取っているんだよ!」

「そうだね、亜希子ちゃんの言う通りだね……。先輩達から受け取ったもの。絶対に忘れないようにしようね」

「ああっ、絶対に忘れないようにしような!」

 

 遠藤祐子と大森翔子は反省しながら、あらためて決意した。

 もちろん、浦田かなえと浦田恵も同じ気持ちなのだろう。2人とも頷いている。

 そして5人は横一列に並び直して、写真と色紙に向かって一礼をしたのであった。

 

 

 放課後、戦車道を履修する仲間が1人、更衣室に入ってきた。

 

「おはようございます!」

 

 入口正面の壁にむかって一礼をしている。

 そして着替えを済ませて更衣室から出ていく直前に、また振り向いて壁に向かって一礼をした。

 

「失礼します!」

 

 今、戦車道チームの更衣室に入ってくる者、出て行く者、全員が壁に向かって一礼をしていく。

 『大洗女子学園戦車道チーム』が続いていく限り、この壁に飾られている5人と1両の集合写真とサイン色紙は、戦車道の仲間達すべてを静かに見守っていくのであろう……。

 

 

 時は少し流れて、季節はいよいよ高校戦車道全国大会が開かれる季節となった。

 

 『初代あんこうチーム』の訓練指導が終わったあと『3代目大洗女子学園戦車道チーム』は、今では定例となった『聖グロリアーナ女学院高校』との親善試合で初めて勝利を収めた。

 大洗の街を舞台にして行われるこの親善試合は『殲滅戦』形式で行われる。

 今回は6台対6台で行われ、大洗女子学園は3台の戦車を残して『聖グロリアーナ』の重装甲戦車を殲滅させた。

 遠藤祐子は、6輌の戦車を2輌ずつの3隊に分けて、各隊の1輌が囮となり敵戦車を引き付けつつバラバラに逃げて敵戦車を分散させ、隠れているもう1輌の戦車で撃破する作戦を実行し、初めて勝利を掴んだのである。

 『3代目大洗女子学園戦車道チーム』は、この勝利により無くしていた自信を取り戻すことができたのであった。

 

 しかし『3代目あんこうチーム』全員は『初代あんこうチーム』との実力の差を痛感していた。

 

 あの『ストライク・オブ・ゴッデス』をまだ習得できていないのである。

 全体訓練が終わったあと、居残りをし何度も何度も挑戦するのだが、どうしても成功しないのである。

 

「どうして、どうして回り込めないんだ……。冷泉先輩とどこが違うんだ……」

 

 大森翔子は操縦桿を握り締め、俯きながら呟いた。

 

「翔子ちゃん……」

 

 遠藤祐子や浦田かなえ、浦田恵に北川亜希子は、大森翔子の苦悩が痛いほど分かっている。

 あの冷泉麻子以外に初めて「戦車ドリフト」をマスターした彼女なのだが、その頂点の技が『ストライク・オブ・ゴッデス』の中で出される「戦車ドリフト」なのである。

 大森翔子は、冷泉麻子が言った『操縦手というのは、攻防の要であることを自覚しなさい』の言葉を痛烈に感じている。

 『ストライク・オブ・ゴッデス』における操縦手の役目はその究極なのである。

 

「くっそー、今度こそ……、今度こそ回り込んでみせる!」

「頑張って翔子ちゃん! 例え履帯が切れても皆ですぐに修理するから……」

「そうだよ! 何度でも切っていいからね。翔子ちゃん!」

 

 大森翔子の言葉に、それを支える遠藤祐子と北川亜希子の言葉である。

 

「みんな、ごめんな。私ができないと全員のコンビネーション練習ができないんだもんな」

「気にしないで、翔子ちゃん!」

「そうだよ、私達もちゃんと発射までのコンビネーションは練習できているんだし、発射後の『防御』も何度もイメージトレーニングしてるから心配しないで!」

 

 浦田かなえ、恵の双子の姉妹も、大森翔子を励ました。

 

「よし! じゃあもう一回いこう!」

『了解!』

 

 彼女達は「絶対習得してやるんだ」という鉄の意志で、訓練を続けている。

 

 そうしているうちに、高校戦車道全国大会の本番を迎えた。

 組み合わせ抽選会で、永遠のライバル高となった『黒森峰女学園高校』とは、またもや反対側のトーナメントに入ってしまった。

 昨年の決勝戦での敗北の借りを返すには、両校とも決勝戦まで進まなければならない。

 1回戦、2回戦、準決勝と順調に勝ち上がっていく両高校。

 そして、いよいよ決勝戦の相手校が決まった。

 4年連続の『大洗女子学園高校対黒森峰女学園高校』である。

 

 いよいよ決勝戦である……。

 

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