ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
「試合開始10秒前! 9、8、7、6、5、4、3、2、1、試合開始!」
『大洗女子学園! 全車! パンツァー・フォー』
遠藤祐子の号令により、大洗女子学園の全戦車が一斉に動き始めた。
「全車輌! 進軍隊形へ! 進軍目標、西側メイン道路中央大ジャンクション!」
『了解!』
遠藤祐子は全車輌に向けて命令を出した。
それに対して『あんこうチーム』全員が答える。
もちろん、各車両からも無線を通じて返事が返ってきた。
綺麗に車間距離を保ちながら、隊形を素早く変えてゆく各戦車達である。
「こちら『あひるチーム』! 索敵の為『石橋』へ向かいます!」
「こちら『カメチーム』! 同じく『北部バイパス』へ向かいます!」
「こちら『うさぎチーム』! 同じく『北部バイパス』へ向かいます!」
3両の索敵隊の戦車チームから報告が入った。
「こちら『あんこう』了解! みんな、気をつけてね!」
『了解! 行ってきます!』
北川亜希子が応答と連絡すると、各チームから元気に返事が返ってきた。
キューポラから外を見た遠藤祐子の目に、3輌の戦車が一斉に進行方向をかえて北上し始めた様子が写った。
(皆、本当に気をつけてね……)
遠藤祐子は心の中でそう呟くと、3輌の小さな戦車達を見送った。
しばらくは敵戦車との遭遇もないはずである。
車長席に座った遠藤祐子は自分を落ち着かせる為に、いつもやっている瞑想を始めた。
「前方に西側メイン道路入口を確認! 距離約800m!」
北川亜希子が報告を叫んだ。
報告を聞いた遠藤祐子は、再びキューポラから身を乗り出した。
「全車輌へ連絡! メイン道路に入ったらすぐに3時の方向へ転進! 真っ直ぐに西側メイン道路中央大ジャンクションへ向かいます」
「了解! こちら『あんこうチーム』! 大洗女子全車両へ連絡! メイン道路に入ったら全車すぐに3時の方向へ転進して、真っ直ぐに西側メイン道路中央大ジャンクションへ向かってください!」
『了解!』
「全車輌への連絡完了!」
遠藤祐子からの指示を的確に各車輌へ伝えた北川亜希子は、連絡完了の報告をした。
「さて……。いよいよ始まるな!」
大森翔子が操縦桿を握り直し、ポツリと呟いた。
北川亜希子が大森翔子の方を向いて言った。
「練習試合で負けた借りを返さないとね!」
「いや、練習試合だけでないよ、去年の決勝戦の負けもまとめて返さないと……」
浦田かなえが照準器から目を離して、北川亜希子に言った。
「そうね……。まとめて返してやろうね」
北川亜希子が同意すると、他のメンバー全員が黙って頷いた。
「メイン道路に入ったぞ!」
大森翔子がクルッペから外を見ながら叫んだ!
「翔子ちゃん! 3時の方向へ転進!」
「了解! 3時の方向へ転進します!」
先頭を走る『ティガーⅠ』がグイっと方向転換した。
それに合わせるように、綺麗に速度を調整しながら他のチームの戦車達が隊列を崩さず方向転換していく。
見事な大洗女子学園チームの動きである。
そこへ、索敵に出ている3輌の各チームから第一報が入ってきた。
「こちら『あひるチーム』から『あんこうチーム』へ連絡! 現在、北側メイン道路に入って、東へ向けて移動中! 黒森峰戦車群及びフラッグ車見当たりません!」
「こちら『あんこう』了解! 引き続き目的地までの索敵を続行してください!」
「了解!」
足の速い『八九式』が先陣を切って索敵報告を行ってきた。
続いて『38t』と『M3リー』からも報告が入ってきた。
「こちら『カメチーム』から『あんこうチーム』へ連絡! 現在、北側メイン道路に入りました! 黒森峰戦車群及び、フラッグ車確認できません!」
「こちら『うさぎチーム』です! 『カメさん』に続いて北側メイン道路に入りました。同じく、敵戦車群及び、フラッグ車発見できません!」
「こちら『あんこう』了解です! 引き続き警戒しながら、北部バイパスへ移動してください!」
『了解です!』
索敵隊の3輌の戦車達は今のところ無事に目的地に向かっているようである。
「今のところ、黒森峰は北側にいないようね」
北川亜希子は報告を受けて、ホッとした表情で呟いた。
「そうね……」
そう言いながら、遠藤祐子の顔がにわかに厳しくなった。
(おかしい……。もし北側メイン道路に黒森峰が向かっているのなら、少なくとも『あひるさん』は、もうそろそろエンジン音ぐらいは聞こえるはず……)
遠藤祐子が考え込んでいるうちに、西側メイン道路中央大ジャンクションに到着した。
大洗女子学園全車両は、市街地中央に向かっている東西中央メイン道路に横一列に車体を向けて停車した。
索敵隊の報告を待って、一気にフラッグ車にむかって突撃するつもりである。
しばらくして『八九式』の「あひるチーム」から緊急を要するような無線が入った。
「こちら『あひるチーム』! 今、遠くで爆発音が聞こえました! 聞こえた方角は、目標とする石橋がある当たりで……。あっ、前方に黒森峰の戦車を発見! 『マウス』です! 『マウス』を発見しました。台数1輌! 単独でこちらに向かってきます!」
「『あひるさん』! 直ぐにその場に一番近い路地に逃げ込んでください!」
「了解!」
『3代目あんこうチーム』のメンバーが一斉に遠藤祐子の方を見た。
「『マウス』1台で北側メイン道路を走っている?」
「どういうことだ? 黒森峰は、北側メイン道路に向かっていないのか?」
北川亜希子と大森翔子が遠藤祐子に聞いてきたが、遠藤祐子は首を横に振って言った。
「わからない……。どういう事なんだろう」
遠藤祐子は、先ほどの「あひるチーム」からの連絡を懸命に分析し始めた。
(「あひるさん」は爆発音が聞こえたって言っていた……。そして、その直後に『マウス』が単独で走っているって言ってきた……)
『3代目あんこうチーム』のメンバー全員が、それぞれ思案をめぐらせている。
そこへ「あひるチーム」から再度連絡が入った。
「こちら『あひるチーム』から『あんこうチーム』へ連絡! 『マウス』を無事にやり過ごしました。確認したところ、やはり1台の単独で移動しています! このまま直進すると、もしかしたら北側中央大ジャンクションあたりで『カメさん』『うさぎさん』とぶつかるかもしれません!」
「こちら『あんこう』了解! 無事で何よりです……。『あひるさん』はそのまま『石橋』の索敵に向かってください。爆発音が気になりますので、十分注意してください!」
『了解!』
北川亜希子は、即座に遠藤祐子に確認を取って続けざまに無線を発信した。
「こちら『あんこう』から『カメさん』『うさぎさん』へ連絡! 『あひるさん』からの連絡で、北側メイン道路を『マウス』がそちらに向かって進んでいます。十分に注意してください!」
『了解です!』
北川亜希子が通信を終わらせると、遠藤祐子の方に振り向いて意見を言った。
「祐子ちゃん……もしかしてなんだけど、私の意見具申、聞いてくれる?」
「もちろんよ、亜希子ちゃん」
「さっき、『あひるさん』の爆発音が聞こえたって報告で、その聞こえた方角が『石橋』あたりって言いかけたんだけど……、もしかして、黒森峰は『石橋』を壊したんじゃないかな?」
「えっ……亜希子、なんで壊す必要があるんだ?」
大森翔子が不思議に思って聞き返した。
それに対して、さらに北川亜希子は意見を続けた。
「私達、通信手はこの市街地とその周辺の森や橋、川全て暗記しているわ。その中でさっきの報告を聞いて思ったことがあるの。石橋が壊されて通ることができないのなら、北へ向かう道路は、北側メイン道路の中央大ジャンクションからつながる『北部バイパス』だけになっちゃうって……」
『あっ……!』
『3代目あんこうチーム』他の4人全員が同時に声を上げた!
「しまった! 黒森峰は私達を市街地の中にとじ込める作戦なんだ」
「そうすると……フラッグ車はこの市街地にはもしかしていない?」
大森翔子と浦田恵が言った。
しかし遠藤祐子は頭を左右に振りながら言った。
「そう考えたほうがいい気がするけど、まだわからないよ」
「どうする? 祐子!」
浦田かなえが、照準器を覗くのをやめて、振り向きながら聞いてきた。
「全車輌、一列縦隊で市街地中央十文字大ジャンクションへ移動します! ここだと包囲されたとき逃げ場があまりに少なすぎます!」
『了解!』
遠藤祐子の命令を即座に全車両へ連絡する北川亜希子。
そして、すかさず急発進させる大森翔子である。
『ティガーⅠ』が先頭になり、待機していた9輌の戦車が順に縦一列となって東西メイン道路の中央を結んでいる東西中央メイン道路に入った。
そこへ、続けざまに『カメさんチーム』と『うさぎさんチーム』から通信が入った。
「こちら『カメチーム』! 北部バイパスへ入りました! しかし、後ろから『マウス』も同様に北部バイパスに入ってきました!」
「こちら『うさぎチーム』! 『カメさん』に続いて北部バイパスを北上中ですが、『マウス』に後ろを取られました!」
《ドッガーン》
「きゃあーっ!」
ものすごい爆裂音が無線から聞こえ『うさぎチーム』の叫び声が続いて聞こえた。
遠藤祐子は、即座に両チームにむかって指示を出した。
「『カメさん』『うさぎさん』! 両チームともそのままバイパスから北へ逃げてください! 途中が上り坂だったはずですから、そこで『マウス』を振り切れるはずです! 皆!頑張って!」
『了解です!』
そして、また今度は『あひるチーム』から連絡が入った。
「こちら『あひるチーム』から『あんこうチーム』へ連絡! 『石橋』に到着しましたが、石橋がありません! 破壊されています!」
北川亜希子の予見が当たってしまった。
遠藤祐子は、それを聞いてまた指示を出した。
「わかりました。『あひるさん』はそのまま引き返して、東側メイン道路を南下して南側メイン道路へ向かってください! 多分ですが黒森峰の後続部隊の後ろへ着けるはずです。そこにフラッグ車がいるか確認してください!」
『了解! 東側メイン道路を南下して南側メイン道路へ向かいます』
「祐子! 南側メイン道路だって?」
「うん、私はこの『マウス』の配置を考えたら黒森峰の車両は南側から北上してくると思う!」
大森翔子が聞いてきた質問に、遠藤祐子は確信があるかのように自信を持って答えた。
「……あっ、挟み撃ちにするつもりか!」
大森翔子はハッとした声で遠藤祐子の言うことを理解した。
「そう! だから、十文字ジャンクションに着いたら部隊を2手に分けます。3番ブロックと4番ブロックの路地に逃げ込んで「フラフラ作戦」で敵戦車を分散させます!」
『了解!』
北川亜希子は即座に全車輌へ今の遠藤祐子の作戦を通達した。
大洗女子学園は、2部隊、3部隊と別れることになった場合、戦車の性能やメンバーの力に合わせてその部隊編成をあらかじめ決めてある。
中央十文字大ジャンクションへ到達した大洗女子学園戦車道チーム。
そこへ予想通り、南側から北南中央メイン道路を北上してくる黒森峰女学園の戦車群が現れた。
「『あんこう』以下1番部隊は3番ブロックへ! 『ぞうさん』以下2番部隊は4番ブロックへ移動! 『フラフラ作戦』開始します!」
『「フラフラ作戦」了解!』
遠藤祐子の号令で、大洗女子学園の戦車が2手に別れて路地に突入した。。
そのあとを追うように、黒森峰女学園の戦車群が2手に別れて路地に入ってきた。
さあ、路地を使った両校の『かくれんぼ』と『鬼ごっこ』が始まった。
路地の各場所で発砲音と建物が破壊される音が響き渡る。
相手戦車の後ろを取ったり取られたり、側面をつく為に廻り込んだり……。
各チーム『初代あんこうチーム』の訓練指導で受けた技術をフルに発揮し応戦していく。
その戦闘の中で『あひるチーム』『カメチーム』『うさぎチーム』から通信が入った!
「こちら『あひるチーム』! 南側メイン道路に到着! そのまま西へ移動中です! フラッグ車が見つかりません!」
「こちら『カメチーム』! 『うさぎさん』と共に『マウス』を振り切りました! 現在『北部バイパス』の一番高い地点に到着! 『マウス』は上り坂に入る直前で停車! 車体を横にして道を塞ぐように停車してます!」
「こちら『うさぎチーム』! 『マウス』の砲身は北側メイン道路の方を向いてます!」
大洗女子学園は、完全に市街地に封じ込まれてしまった。
遠藤祐子は3輌の索敵隊に向かってそれぞれ指示を出した。
「『カメさん』『うさぎさん』は其の位置で『マウス』の動きに注意しながら黒森峰の戦車の動きを連絡及びフラッグ車の捜索をしてください! 『あひるさん』は南側中央大ジャンクションまで移動しながら引き続きフラッグ車の捜索を続行してください!」
『了解!』
今、この市街地の中にいる両校の戦車は、大洗女子学園が10輌、もしフラッグ車がいれば、黒森峰女学園は『マウス』を含めて20輌のはずである。
「亜希子ちゃん! 各車両の位置の確認と、交戦中の戦車の数を報告させて!」
「了解!」
北川亜希子は、各車両の通信手へ遠藤祐子の指示を伝えた。
それに応じて、次々に自分達の戦車の位置と応戦中の戦車の数が報告されてきた。
北川亜希子はその報告を遠藤祐子に報告しながら、頭の中で足し算をしていた。
「祐子ちゃん! やっぱり黒森峰の車両数が1輌足りない!」
「ちくしょう! フラッグ車、逃げやがったな!」
『ティガーⅠ』を巧みに操りながら、路地を爆走させる大森翔子が叫んだ!
「どうする? 祐子ちゃん……、このままでは、この試合勝ち目がないよ」
《ドッガーン》
後ろから追ってくる黒森峰の戦車から徹甲弾が発射されて、至近距離に着弾した。
このままでは、戦車の数が決定的に足りない大洗女子学園に勝ち目がない!
そこへ、意外なチームの車長から意見具申が上がってきた。
「こちら『レオポン』! 遠藤隊長へ意見具申!」
「こちら『あんこう』! 『レオポンさん』どうぞ!」
「私達が『マウス』に勝負を挑みます! 許可をください!」
「えっ……『レオポンさん』どうするんですか?」
レオポンチームから上がってきた作戦。
その内容は『ポルシェ・ティガー』による特攻であり、殉死であった。
あの超重戦車『マウス』は現在、道を塞ぐように横向きに停車している。
その側面に全速力で突っ込み『マウス』を半回転させて、北へ向かうための脱出口を作り、そのあとはその場に留まり砲台として黒森峰と戦うというものだった。
「そんな作戦、許可できません!」
遠藤祐子は、作戦内容を聞くと、即座に却下したのであった。
しかし『レオポンチーム』の車長は退かなかった。
「隊長! このままでは負けは確実です。フラッグ車がいないこの場所での戦いは全く意味がありません!」
「でも……」
「西住先輩は言っていましたよね。『自分達が仲間の為にできることがあれば、喜んでやりなさい』って……。この序盤戦で、あの『マウス』に勝負を挑めるのは、サポート戦車の私達『レオポン』の『ポルシェ・ティガー』だけです。……それに『マウス』の後ろにある上り坂は急なので『ポルシェ・ティガー』が上りきるまで時間がかかります。私達が上りきるのを待っていると、306地点の川を渡れなくなってしまう可能性があります。……皆のために、勝つために『ポルシェ・ティガー』の花道を作らせてください」
『レオポンチーム』車長の、この意見具申は無線解放されている為、大洗女子学園全車両へ伝わっている。
各チームの車長達は、この悲しい結果にしかならない特攻作戦を支持できるはずがなかった。
「祐子ちゃん……」
涙もろい浦田恵が、徹甲弾を持ったまま、涙を浮かべて遠藤祐子に聞いてきた。
大森翔子も『ティガーⅠ』を走らせながら泣いていた。
浦田かなえも照準器で涙を隠していた
北川亜希子は手で口を抑えて嗚咽を上げないように泣いていた。
遠藤祐子は、今にもこぼれそうな涙を右手で拭うと、凛とした口調で命令した。
「わかりました……。『レオポンチーム』に連絡します! 現在の地点から、北南中央メイン道路へ出て北上! 北部バイパスに入って待ち受ける『マウス』に攻撃をかけてください!」
「こちら『レオポン』了解しました! 隊長ありがとうございます! みんな! 必ず突破口を作るから待っててね! 『レオポンチーム』パンツァー・フォー!」
(『レオポンさん』……)
無線から明るい声で聞こえてくる『レオポンチーム』車長の号令に、大洗女子学園の各チームの車長はあらためて、西住みほから教えられた『大洗女子学園戦車道』を思い出したのである。
「大洗女子学園1番、2番部隊に連絡! 各部隊車輌は黒森峰が『レオポンチーム』を追いかけないよう、北側メイン道路中央大ジャンクション周辺で敵戦車を迎え撃ちます! 全車、パンツァー・フォー!」
『了解!』
市街地の方々へ散っていた大洗女子学園の戦車群が、続々と今居る路地から一番近いメイン道路へ出てきた。
そして全速力で北側メイン道路中央ジャンクションへむかって行った。
「こちら『うさぎチーム』! 遠藤隊長にお願いがあります!」
「こちら『あんこう』! 『うさぎさん』どうぞ!」
「『レオポンチーム』援護の為『マウス』の注意をひきつけたいと思います。許可をください!」
「こちら『カメチーム』! 同じく援護に向かわせてください!」
「わかりました! 『うさぎさん』『カメさん』! 十分に注意してください!」
「了解です!」
索敵の為に『マウス』の裏側にある上り坂の頂上で待機していた『うさぎチーム』と『カメさんチーム』は進路を上り坂の入口を塞ぐ『マウス』に向けた。
「『レオポン』の車長! 聞こえる?」
「うん、聞こえるよ!」
『うさぎチーム』の車長からの問いかけに『レオポンチーム』の車長が応じた。
「『アレ』をやる気ね!」
「うん! あなたに、私の考えが間違っていないことを見せてあげるわ!」
「わかったわ! じっくりと拝見させてもらうからね!」
『レオポンチーム』と『うさぎチーム』のメンバーはお互い大の仲良しであり、大の重戦車ファンである。
顔を合わせれば重戦車の話をするメンバーだが、いつだったか超重戦車『マウスの沈め方』で大激論となったのである。
そして、その時に『レオポンチーム』車長が言った超重戦車『マウス』を行動不能にする方法。
今からそれを実践しようというのだ。
北側メイン道路中央大ジャンクションから『マウス』が停車している位置まで約800mのほぼ直線道路である。
『うさぎチーム』と『カメチーム』の2人の車長は『マウス』の主砲を自分の方に向けさせて、突撃時間を稼ぐつもりだった。
「……見えた! 車長! 『ポルシェ・ティガー』です。現在北部バイパス入口まで約200m!」
「あの『鈍足ティガー』が懸命に走ってくるわ。頑張れ! 『レオポン』! 皆、こっちも行くよ!」
『了解です!』
「うさぎチーム! パンツァー・フォー!」
「カメチーム! パンツァー・フォー!」
『M3中戦車リー』に乗る「うさぎチーム」と『38t軽戦車ヘッツァー改造型』に乗る「カメチーム」は坂を下り始め『マウス』に攻撃を始めた。
「主砲! 副砲! 撃て!」
「主砲! 発射!」
轟音と共に『M3リー』の独特の2門の大砲と『38t軽戦車』の主砲が同時に火を噴いた
しかし、超重戦車『マウス』は蚊にでも刺されたように、甲高い音を立てただけであった。
そして、ゆっくりとその128mm戦車砲を回転させ始めた。
「皆! 来るよ! 絶対当たっちゃダメだからね。うさぎは逃げ足早いのよ!」
「カメの甲羅は硬いけど、絶対当たらないようにして!」
『ハイっ!』
いよいよ『マウス』が『M3リー』『38t』を仕留めようとしている頃『ポルシェ・ティガー』は『北部バイパス』に突入した。
『レオポンチーム』車長が、メンバー全員に激を飛ばした!
「皆! 私達に託された皆の願いはものすごく重いよ! 絶対失敗できないからね!」
「わかっています! 『鈍足ティガー』の意地を見せてやりますよ!」
レオポンチームの操縦手は操縦桿を握り直し、愛機「ポルシェ・ティガー」を励まし続けていた。
「頑張れ! 頑張って走って! 『鈍足ティガー』! もうちょっと、もうちょっとだから……」
壊れやすいエンジンが唸りを上げながらシリンダーを懸命に動かして推進力を産み出し、持てる最高速度で超重戦車『マウス』にむかって突撃していく『ポルシェ・ティガー』
「主砲発射準備! 目標『マウス』の砲身の付け根の位置! 照準合わせ始め!」
「了解! 照準合わせ……」
「『マウス』まで、距離約100m! 『マウス』の砲塔、こちらにむかって移行始めました!」
「ポルシェ・ティガー」の接近にやっと気づいた『マウス』は、今度は「ポルシェ・ティガー」に向けて砲塔を動かし始めた。
『レオポンチーム』の砲手は、やがて見えてくるだろう主砲の付け根の部分を予測しながら照準を合わせる。
「チャンスは一瞬よ! 落ち着いてね!」
『レオポンチーム』車長は、照準を合わせる砲手を励ました。
「了解です! 五十鈴先輩のように落ち着いて、集中して……、照準固定!」
「任意発砲許可! 発射用意!」
「了解! ……発射!」
《ドッガーン!》
『マウス』の128mm砲の付け根部分が、ちょうど照準器の中央を真っ直ぐに横切ろうとした瞬間、「ポルシェ・ティガー」の88mm砲が火を噴いた。
発射された徹甲弾が真っ直ぐに128mm砲身の付け根部分にむかって飛んでいく。
《グワッギーン》
なんとも初めて聞く不思議な音だった。
128mmの砲身が砲塔の根元部分からポッキリと折れた。
「砲塔回転!」
「ハイっ!」
発射した直後、砲塔を回転させ始めた「ポルシェ・ティガー」
砲身が極端に前に出ている『ポルシェ・ティガー』の砲身と砲塔を守るため、砲手は後ろに向けて砲塔を回し始めた
「『マウス』まで残り50m! 全員衝撃に備えて!」
「いっっつけぇぇぇぇ!」
「ドーン」という、まるで天地が爆発したかのような凄まじい音が辺りに響いた。
『ポルシェ・ティガー』は『マウス』の左側前方転輪の位置にむかって猛スピードで体当たりをした。
すると『マウス』は「ゴゴゴッ」と鈍い音を立てながら動いたのだった。
「バシュ!」
『マウス』の砲塔から白旗が上がった。
『ああっ……!』
『レオポンチーム』全員が悲鳴を上げた。
目指した『マウス』の半回転ができていなかったのである。
半回転まで、あと4分の1で『マウス』は止まっている!
「ちくしょう! あと少しだったのに……」
『レオポンチーム』車長が悔しさのあまり涙が浮かんだ、その瞬間、無線が入ってきた。
「あきらめないで! 今度はこっちが行くよ! 『うさぎチーム』突撃!」
『了解!』
なんと下り坂を利用して『M3リー』が猛スピードで『マウス』の右後方転輪めがけて突っ込んできた。
ものすごい音と共に衝突された『マウス』は、今度は完全に半回転した位置で止まった。
「やったぁ! やったよ! みんな!」
「サンキュー、うさぎさん!」
「なんの、なんの! それより確かにあなたの考え方は正しかったわね。『レオポンチーム』のみんな!」
「……だろう! さあ、報告だ! こちら『レオポン』! 大洗女子全車輌へ連絡します。『マウス』の撃破を確認! 北部バイパス突破口ができました。みんな、もう大丈夫だよ!」
「こちら『あんこう』! 『レオポンさん』『うさぎさん』『カメさん』ありがとう! 全車輌直ちに北部バイパスに突入! 北にむかって脱出します!」
『了解!』
黒森峰の戦車群とそれぞれ応戦していた大洗女子学園の戦車達は一斉に『北部バイパス』へと進路を取り、全速力で走り出した。