ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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良い事を思いついたよ。

 

「『女神達』って……。澤隊長、なんのことなんですか?」

 

 遠藤祐子は、想像もしなかった澤梓の言葉に質問をした。

 しかし、澤梓はそれには答えず、逆に質問を返してきた。

 

「祐子ちゃん。今から時間取れる?」

「はい。私は大丈夫ですけど……」

「じゃあ、今からちょっと行きたい所があるから、一緒に来てもらえる?」

「……はい、分かりました」

「こっちよ。ついて来て!」

 

 澤梓は遠藤祐子の手を取って、引っ張りながら歩き出した。

 澤梓は、自分たちがいたベンチ近くにある左舷デッキ公園の中央口から市街に出た。

 公園を出た2人は、今度は学園艦を縦断するメイン道路を艦首方面へ歩き出した。

 澤梓は、公園近くにある女子学園の生徒がよく集まるアイスクリーム屋がある方向へ歩いていくのである。

 訳がわからないまま遠藤祐子は、黙って後をついていく。

 しばらくすると澤梓は、アイスクリーム屋の前に近づいたあたりから、キョロキョロ回りを見ながら歩き始めた。

 何かを探しているようである。

 遠藤祐子は、澤梓が歩きながら独り言を言っているのに気が付いた。

 

「『オムレツ』……『オムレツ』って……どこ?」

 

 澤梓は、独り言が大声になっているのに気がつかない。

 遠藤祐子は、その様子を後ろから、黙って見ていた。

 

(澤隊長、さっきから『オムレツ』って言っているのかなぁ? でも『オムレツ』ってなんのこと?)

 

 

 澤梓は、少し前に電話で近況を報告し合った丸山紗希の言葉を思い出していた。

 

(……紗希ちゃんは、確か「『オムレツ』で先輩に会った」って言ってたわよね……)

 

 澤梓は、今度は立ち止まり、道を挟んだ反対側へ歩き出した。

 今度は何本かある小さな路地を覗き込み始めた。

 そして、その路地の様子をうかがっている。

 何本目かの、アイスクリーム屋の前の小さな路地を覗き込んで、澤梓はジッと奥を見つめている。

 

「……あった! あれが『オムレツ』かぁ……」

 

 探していたものがようやく見つかったようだ。

 

「祐子ちゃん、こっちだよ。こっち!」

 

 澤梓は、後ろで立ちすくんでいる、遠藤祐子にむかって手招きをした。

 その路地の通りの中ほどの左手側に、小さな喫茶店があった。

 喫茶店の前にある看板には『洋食の店、オムレツ』とある。

 澤梓に引っ張られるようにして、遠藤祐子は店の前に立った。

 

「……澤隊長。あのぅ、ここって……」

 

 遠藤祐子は、全く訳が分からず、ボーゼンとした表情で澤梓に聞いた。

 しかし、澤梓は全く気にしない。

 逆になんだか嬉しそうである。

 

「うん。ここに用事があるの……。さあ、入ろっ!」

 

 そう言うと澤梓は、またも遠藤祐子の手を引いて店のドアを開けた。

 

 

 

〘ガラン、ガランガラン!〙

 

 ドアを開けると、呼び鈴代わりの大きな鈴が店内に響いた。

 店内は、広すぎず狭すぎずのちょうど良い広さの間取りであった。

 入ってすぐ、正面右にレジがあり、その前を通って店内に入った。

 店内は、レンガ調の壁で全面が覆われており、左にカウンター席と右手にテーブル席がある。

 カウンター席は全部で椅子が6脚あり、随分広いカウンターテーブルである。

 テーブル席は全部で3テーブルあり、基本は4人掛けのようだが、無理すれば6人まで大丈夫そうである。

 

 

 入ってきた2人の気配に気づいて、後ろ向きでテーブルを拭いていた女性が、返事をしながら振り向いた。

 

「いらっしゃいませ! 何人様……。……あら! 梓ちゃんじゃん!」

 

 澤梓を見て、懐かしそうに女性が声をかけた。

 澤梓は、本当に会えて嬉しいといった表情で、女性に向かって挨拶をした。

 

 

「御無沙汰しています。……武部先輩!」

 

 

「ほんと、ひっさしぶりだね。梓ちゃん、元気だった?」

「はい! 武部先輩も頑張っているそうで……。紗希ちゃんから聞きました」

「そっかあ。そういえば、紗希ちゃんここに来たもんね。……しかも、なんと紗希ちゃん、彼氏連れててね」

 

 澤梓は、女性の言った言葉を、笑いながら打ち消した。

 

「いいえ、武部先輩。紗希ちゃんは、ただの男友達って言ってましたよ。」

「いや! あれは違うな! 『恋愛の達人』の私が見たところ、絶対、彼氏に違いない。……うん! 間違いない」

 

 澤梓は、相変わらずなのねと思った。

 遠藤祐子は、この2人のやり取りを、傍でただ黙って見ているだけだった。

 澤梓が「武部先輩」と呼んだこの女性。

 

 

『武部沙織』

 20歳。元大洗女子学園戦車道チーム『初代あんこうチーム』で、他の戦車チームとの連絡や状況報告を行う『通信手』だった女性である。

 髪は明るい栗毛色で、少しウェーブがかかっている。今風の女性である。

 世話好きな女性であるが、実は、初代あんこうチームのメンバーは、彼女が集めたといっても過言ではない。

 自称「恋愛の達人」しかし、今だに彼氏はいない。

 もともと料理を作るのが好きだったのだが、それがこうじて将来調理師になる事を目指していた。

 2ヶ月前に偶然この喫茶店に入り、オムレツを食べたところ、その美味しさに感動し、その作り方を盗もうと半ば強引にアルバイトとして働いていた。

 

 

 武部沙織は、澤梓と立ったまま話をしていることに、やっと気づいて、照れながら4人掛けのテーブルに案内した。

 

「とにかく2人とも座って! 注文は何にする?」

 

 武部沙織は、エプロンの前ポケットからオーダー表を出すと2人に訊いた。

 

「オレンジジュースをください」

「私も同じものを……」

 

 澤梓は嬉しそうに、遠藤祐子はちょっと控えめな声で、それぞれ注文した。

 武部沙織は、注文されたものをオーダー表に記入すると「オレンジジュース、2つですね。しばらくお待ち下さい!」と復唱し、挨拶をした。

 そして、クルリと振り向き、厨房に向かって大声で叫んだ。

 

「オーダー入ります! ツーオレンジジュース!」

 

 そう言うと、彼女自身も厨房へ入っていった。

 何も聞かされていない遠藤祐子は、ただ黙って席に座っていた。

 澤梓も何も喋らない。

 テーブルの上に置いてあるメニュー表をペラペラとめくり、料理写真を見ていた。

 しばらくして、厨房から武部沙織が戻ってきた。

 オレンジジュースの入ったグラスを、トレーに乗せて運んでいる。

 2人が座るテーブルのところへやって来ると「お待ちどう様でした。オレンジジュース2つです」と言って、2人の前にグラスとストローを並べておいた。

 並べ終わると、2人の座っている席の真向かいの席に、武部沙織は腰掛けた。

 そして、澤梓と遠藤祐子の方を見て、微笑みながら話しかけた。

 

「……それで、私になんの相談なのかな?」

 

 遠藤祐子は、ビックリして2人を見比べた。

 

(2人ともそんな素振りは全然見せていなかったのに。なんで?)

 

 澤梓は『我が意を得たり』といった表情で、武部沙織の質問に答えた。

 

「やっぱり分かりますか? 先輩」

「そりゃあ分かるわよ! 可愛い後輩の表情の変化は見逃したことはないもん」

「そういえば、先輩たちの中で一番最初に仲良しになれたのが、武部先輩でしたね」

「そうだったね……」

 

 武部沙織はニッコリと笑うと、思い出すように答えた。

 

「梓ちゃん達に、戦車倉庫の中で、恋愛講座をしたのが最初だったね」

 

 

 澤梓は、オレンジジュースにストローを指して一口のみ喉を潤すと、座りを正して、武部沙織の方に正対した。

 そして、右手に座っている遠藤祐子の方を軽く見てから、話し始めた。

 

「武部先輩、彼女をまず紹介します。彼女は『遠藤祐子』さんです。……今の戦車道チームの隊長さんです」

 

 遠藤祐子は、澤梓に紹介されて姿勢を正し、武部沙織の方に45度のお辞儀をした。

 

「遠藤祐子です。よろしくお願いします」

 

 武部沙織は、遠藤祐子の方をみて、ニッコリ笑うと「祐子ちゃんね、武部沙織です。よろしくね!」と挨拶をした。

 武部沙織が遠藤祐子に挨拶をしたのを見た澤梓は、今度は遠藤祐子の方に顔を向けて、武部沙織の紹介をした。

 

「祐子ちゃん……。こちらの先輩は『初代あんこうチーム』のメンバーで『通信手』だった先輩なの!」

 

 遠藤祐子は、この澤梓の紹介を聞いて、大変驚いた表情になった。

 

「『初代あんこうチーム』って……。それじゃあ、澤隊長! 全国優勝した時の隊長車メンバーの方なんですか?」

「そうよっ! 通称『女神のお告げ』って、呼んでいた先輩よ!」

 

 

 武部沙織は、この最後の『女神のお告げ』という言葉に、びっくりした表情で澤梓に聞き返した。

 

「梓ちゃん! 何、今の『女神のなんとか』っていうのは?」

 

 聞き返された澤梓は、再び武部沙織の方を見ると、笑いながら答えた。

 

「先輩達は知らないと思います。後輩の私達だけで呼んでいた、武部先輩のあだ名ですからね! 武部先輩は、冷静に連絡指示を送ってくれて、他の車輌が撃破された時、いつも真っ先に『みんな、大丈夫?』って聞いてくれてましたから……。いつ頃からか、みんなの中で先輩の事を『女神のお告げ』って呼び始めたんです」

「おおっ!すごい。 なんだかそれって格好いいよね!」

 

 武部沙織は、手を叩きながらとても喜んだ。

 澤梓は、少し口調を変えて、真剣に話を続けた。

 

「それで武部先輩に相談というのが、私が祐子ちゃんから受けた相談なんですけど……」

 

 すると、武部沙織は、話を最後まで聞かずに、いきなり割り込んだ。

 

「なになに? もしかして恋愛相談なの? それなら私にドーンと任せてよ!」

 

 自分の胸を叩きながら胸を張る武部沙織だったが、それを見た澤梓が目の前で手を左右に振りながら「違う違う」のサインを送った。

 

「いいえ、武部先輩が好きな相談じゃないんです。……実は戦車道についてなんです」

 

 期待した相談ではなかったため、少しがっくりした感の武部沙織だったが、改めて、真剣に後輩の相談を聴き始めた。

 澤梓は、今現在、昨年までいた戦車道経験者が激減したことや、見てきた訓練の様子を説明し、遠藤祐子の率いる『3代目戦車道チーム』が、いかに難しい状況になっているのかを、武部沙織に伝えた。

 武部沙織は、黙って聞いていたが、思い出したように話を始めた。

 

「そういえば、おとといだったかな。ここに角谷会長達が来たんだよ」

「えっ……。角谷会長って『カメさんチーム』だった角谷会長ですか?」

 

 澤梓は、びっくりした様子で、武部沙織に聞いた。

 武部沙織は無言で頷くと、さらに話を続けた。

 

「梓ちゃん……、角谷会長と小山先輩、河嶋先輩は、同じ大学に行ったんだけど、そこでベンチャー企業をはじめたって事は知ってた?」

「……いいえ、知りませんでした」

「もちろん、私も知らなかったんだけどね」

 

 武部沙織は、また少し思い出すように、間を空けた。

 

「その起こした会社が順調に大きくなったんだって、……それで、角谷会長達は、ちょうどこのテーブルに座って、私に話してくれたんだ。……『あの時、学園が廃校になることにならなければ、戦車道を復活させることはなかったし、私たちにも、あんな大変な重圧をかけさせずに済んだはずだ』って言って、河嶋先輩や、小山先輩も一緒になって謝ってくれたの。今、大きくなりつつあるその会社には、ひとつの目的があるんだって……。『この会社の利益は、全て「大洗女子学園」の運営に役立てるんだって……。戦車道だって、自分達の時のような、絶対負けられないプレッシャーなどを受けずに、売れ残りや、廃車寸前の戦車じゃなくて、立派に他校と戦えるものを揃えてあげたいんだ』って先輩達は言ってたの」

 

 そこまで話をした武部沙織は、また間を開けて、今度は澤梓に尋ねてきた。

 

「梓ちゃん、確か新しい戦車達は、梓ちゃん達が準優勝したあと、一度にやってきたんだったよね」

「はい、そうです」

「実はあの戦車達って、角谷先輩たちからの贈り物なんだよ」

「えっ……。そうだったんですか? 私は生徒会から助成金で買ったからって聞かされていましたけど」

「無理だよ、いくらなんでも。大洗女子学園ぐらいの規模であれだけの戦車を一度に買うことはできないわよ。それに『自分達が買ってあげたことは内緒にするように』って、角谷会長自身が口止めしたそうなんだよ」

「そうだったんですか……」

 

 遠藤祐子は、改めて新しく購入された戦車を生かしきれない自分が腹立たしくて、唇を噛んだ。

 

「だけど、梓ちゃん。私なんかに戦車道について聞いても、いいアドバイスなんてできないよ」

 

 武部沙織は、両肘をついて、顔を両手で支える格好となり、自分の前に座る2人の顔を交互に見ながら話をした。

 しかし、澤梓の答えは違った。

 

「いえ、もちろん先輩の力も貸して欲しいんですけど……。今、祐子ちゃんに必要なアドバイスができる先輩は『西住隊長』だと思うんです」

 

 『西住隊長』と言った、澤梓の言葉には自信があるようだった。

 それを聞いた武部沙織は、体を起こすと、納得したかのように答えた。

 

「ミポリンかぁ……。なるほどね、確かに私達の中で戦車道続けているのは、ミポリンだけ、だもんね」

 

 しかし、また急に難しげな顔つきになった。

 

「でも、ミポリン。熊本の実家に帰っちゃったからなぁ。それに世界大会日本代表として忙しそうだしね」

「はいっ。それは知っています。だから先輩のところに相談に来たんです」

「ウーン……、ちょっと待っててね、考えてみるから!」

 

 武部沙織は、そう言うと腕組みをして、目を閉じて考え込んでしまった。

 澤梓も、同じく下を向いて考え込んでしまった。

 遠藤祐子は、二人の先輩のやり取りをみながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになり頭を下げてしまった。

 澤梓は、うつむく遠藤祐子の方をみると、優しく声をかけた。

 

「祐子ちゃん、大丈夫だからね。武部先輩が協力してくれれば、絶対うまくいくから」

「澤隊長、本当にすみません。私達のために……」

「祐子ちゃん、本当にいいんだって! さっき、私は言ったでしょ。『みんなの力を借りなさい』って。私だって武部先輩の力を借りているんだから」

 

 腕組みをして、目を閉じて考えていた武部沙織は、パッと目を開けると、2人にむかって明るい口調で呼びかけた。

 

 

「そうだ! 梓ちゃん、祐子ちゃん、いいこと考えた! これならうまく行けるかも……」

 

 澤梓は、笑いながら自分を見ている武部沙織に質問した。

 

「武部先輩……何かいい方法があるんですか?」

 

 遠藤祐子は、黙って2人の様子を見ている。

          

「私に任せて! 可愛い後輩が困っているなら、なんとかしてあげるのが先輩でしょ!」

 

 よっぽど自信があるようだ。

 武部沙織は、今度は別のことを2人に質問した。

 

「梓ちゃんも、祐子ちゃんも、今から時間は大丈夫かなぁ?」

「はい、大丈夫です!」

「私も、大丈夫です!」

 

 澤梓も、遠藤祐子も同じように答えた。

 武部沙織は、自分がつけてるかわいい女性用腕時計をチラリと見た。

 

「じゃあ今から私と一緒についてきて。行きたいとこがあるの」

 

 さっき遠藤祐子に対して言った澤梓の言葉が、今度は同じように、武部沙織の口から2人に告げられた。

 

「ちょうど私もバイト時間が終わるから、ちょっと支度してくるからね。あっ、そうそう、ジュースは私のおごりだからね! お代はいいわよ!」

「えっ……。先輩、そんなの悪いです……」

 

 2人同時に立ち上がって、財布を出そうとカバンに手を入れた。

 それを見た武部沙織は、両手を広げて「ストップ!」のサインを出した。

 

「いいから……。私は、あなた達の先輩なの。だから、ここは私におごらせて頂戴!」

 

 そう言うと武部沙織は厨房に入って行き、着けていたエプロンを脱いで戻ってきた。

 

「さあ、行きましょう! マスター、お疲れ様でした!」

 

 厨房の奥の方から「お疲れさん」という男性の声が聞こえた。

 武部沙織は、二人を押し出すようにして「洋食の店 オムレツ」を、あとにした。

 

 

 

 店を出ると武部沙織は二人の前に立って、メイン道路の方に向かって歩き出した。

 後輩の2人は、黙って後からついていく。

 メイン道路に出た武部沙織は、右舷デッキ方面へ向かう道に向かって歩き始めた

 10分ぐらい歩いただろうか。

 気がつけば、3人は住宅街の道を歩いていた。

 いくつかの角を曲がり、しばらく歩いていた3人だったが、あるところに来て、先を歩いていた武部沙織が、2人の方に振り向いて声をかけた。

 

「着いた! ここだよ!」

 

 澤梓と遠藤祐子は、武部沙織の背後にある建物を見た。

 

「武部先輩。ここって、もしかして……」

 

「うん。ユカリンの実家だよ」

 

 3人の目の前に、一軒の理髪店があった。

 看板には「秋山理髪店」と書いてある。

 理髪店によくある赤と青の渦を巻いた回転灯がくるくると回っている。

 

「ここが、秋山先輩の実家ですか?」

「うん! ユカリンの家は床屋さんなのよ!」

 

 そう言うと、武部沙織は、玄関のドアを押して中に入った。

 

「ごめんくださーい!」

 

 

「ハーイ、いらっしゃい!」

 

 ちょうど床のゴミを掃除していた女性が返事をして、声がした方に顔を向けた。

 

「た……武部殿じゃないですか。一体どうしたんですか?」

 

 いきなりの武部沙織の出現に、女性は少しびっくりしたような声になった。

 女性の顔を見た武部沙織は、嬉しそうに彼女に声をかけた。

 

「ユカリン、久しぶりね! 元気にしてたぁ?」

「そりゃ、元気ですけど……。あれ? 後ろにいるのは……、澤殿じゃないですか?」

「はい、秋山先輩、ご無沙汰しています」

「はいっ! こちらこそご無沙汰しております!」

 

 女性は軍隊式の敬礼をしながら、澤梓の挨拶に応えた。

 澤梓の後ろで、遠藤祐子は、またポカンとなってこのやりとりを見ていた。

 武部沙織は苦笑しながら、女性に問いかけた。

 

「ユカリン、相変わらずその口調なの?」

「やっぱり、変ですよね……。でも、なんかクセみたいになってしまって、治らないんですよ」

 

 女性は持っていたほうきとチリトリを片付けながら、3人の方にやってきた。

 

「でも、お客さんにその口調はびっくりされるでしょ?」

 

 武部沙織は、ずっと思っていた疑問を、この女性に聞いてみた。

 

「この店のお客さんは近くの人がほとんどですから。慣れちゃっていますよ」

 

 女性は笑いながら武部沙織の質問に答えた。

 「ユカリン」「秋山先輩」と呼ばれ、ちょっと変わった軍隊敬語を使うこの女性。

 

 

『秋山優花里』

 20歳。元大洗女子学園戦車道チーム『初代あんこうチーム』で、砲弾を砲身に込める役割である『装填手』だった女性である。

 くせ毛のショートカットの女性で、時々軍隊敬語を使う。

 とにかく、大の戦車マニアである。

 蓄積した戦車の知識で対戦チームの車両の長所・短所をすぐに見つけることができた。

 今は実家の理髪店を手伝いながら、陸上自衛隊に入るための勉強をしていた。

 

 

 武部沙織は、秋山優花里の顔を見て、早口でお願いをした。

 

「ユカリン! ちょっと相談があるんだけど……上がってもいいかな?」

「ええ、どうぞ上がってください。私の部屋は知っていますよね」

「2階だったよね。……それじゃ、失礼します!」

 

 そう言うと、武部沙織は、サッサと靴を脱いで部屋にお邪魔した。

 そして、振り返ると、入口で立ったままの澤梓と遠藤祐子に声をかけた。

 

「梓ちゃんも、祐子ちゃんも、一緒に上がってきて!」

 

 澤梓と遠藤祐子は、それぞれ恐縮しながら靴を脱いだ。

 

「秋山先輩、失礼します!」

「すみません。失礼します……」

「どうぞ、どうぞ。今、お茶を持ってきますから、部屋でゆっくりしていてください」

 

 2Fの階段を上った3人。

 階段を上ったすぐの右手にある部屋が、秋山優花里の部屋である。

 部屋の引き戸を開いて、秋山優花里の部屋を開けた。

 

「相変わらずだなぁ。ユカリンの部屋」

 

 武部沙織は、笑いと呆れた様子の混じった声を上げた。

 武部沙織の後ろから、部屋に入った澤梓と遠藤祐子は、その圧倒的な部屋の状態に驚き、その場で立ちすくんだ。

 女の子らしい装飾は一切ないのだ。

 ぬいぐるみの代わりに、戦車の模型・各種の弾頭。

 アイドルポスターの代わりに、戦車映画のポスター・有名指揮官の肖像。

 澤梓も遠藤祐子も只々、唖然として立ち尽くしている。

 

「梓ちゃんも祐子ちゃんも驚いたでしょう! 私も、ここに最初に来た時『なに、コレ! ありえなーい!』って思ったもんね」

 

 武部沙織をみて、澤梓は感心したように話した。

 

「……驚きました。さすが『初代あんこうチーム』のメンバーです。『女神の参謀』と呼んでいた人の部屋だけのことはあります」

「『女神の参謀』?」

 

 武部沙織は、澤梓に聞き返した。

 

「はい、さっき言っていた私達の中で呼んでいたあだ名で『秋山先輩』のあだ名です」

「どうして『参謀』なの?」

「秋山先輩は、西住隊長が困った時に、なんでも先回りして準備しているでしょ。それに作戦会議の時、相手チームの戦車の弱点をいろいろ説明してくれていたからです」

 

 武部沙織は、澤梓の答えに納得し、思い出したように相槌を打った。

 

「そういえば、ユカリンのバックにはいろんなものが入っていたし、本当によく戦車のこと知っていたもんね」

「そういう準備万端で戦車マニアなところを、私達は『参謀』って呼んでたんです」

 

 そんな話をしていると、秋山優花里がお盆に人数分の湯呑と急須を持って入ってきた。

 

「はい、皆さんお待たせしました。このお茶は陸上自衛隊で飲んでいるお茶なんですよ!」

 

 部屋の中央にある、卓上机の上にお盆を乗せると、立ったままの3人を見ながら、座るよう促した。

 

「ちょっと狭いですが、どうぞ、好きなところに、……って、皆さんどうしたんですか?」

「なるほど『戦車マニア』ねェ……」

 

 そういって、秋山優花里の傍に武部沙織は腰を下ろした。

 

「あっ……武部先輩、悪い意味ではないですよ!」

「わかってる、わかってるわよ」

 

 武部沙織は、必死にフォローする澤梓に笑いながら答えた。

 

「武部殿? 澤殿? 一体何の話です?」

 

 

 適当に空いている場所を見つけて、澤梓、遠藤祐子も座った。

 秋山優花里は全員分のお茶を注ぎ、各人の前にお茶を薦めた。

 そして初めに口を開いたのは、秋山優花里だった。

 

「今日は皆さんそろって、一体どうしたのですか?」

「ユカリン。今日はユカリンにちょっと協力してもらおうと思ってきたのよ」

 

 武部沙織は少し座り直すと、遠藤祐子の方に手を伸ばして紹介するポーズを取った。

 

「ユカリン、相談の前に、その後輩ちゃんなんだけど……」

「知っていますよ。遠藤祐子殿でしょ?」

 

 あまりに意外な返答に、武部沙織と澤梓は目を丸くした。

 うつむいていた遠藤祐子も、びっくりして顔を上げた。

 

「えっ……。ユカリン、なんで彼女を知っているの?」

「今の戦車道チームの3代目隊長さん! ……でしょ?」

「いや……だから、なんでユカリンは知っているの?」

「いえ。直接彼女を知っている訳ではないんですが……。私は、母校の練習試合や交流試合は全部見ていますから……」

 

 遠藤祐子は、それを聞いて恥ずかしさで、体が一気に熱くなった。

 

(「初代あんこうチーム」のメンバーの人に、あの負け続けた試合を全て見られていたなんて……)

 

 武部沙織は、急に口調が明るくなって少し早口になった。

 

「ユカリン、知っているなら話が早いわ! 祐子ちゃんは、今の戦車道チームをどうしても強くしたいんだって」

「そうだったんですか」

「それで祐子ちゃんは、その事を梓ちゃんに相談したわけ!」

「はい……」

「それでもって梓ちゃんは、私のところに来て『ミポリンにお願いできないか』を相談に来たのよ!」

 

 秋山優花里は、いきなり出てきたミポリンの名前に驚いた。

 

「にっ……西住殿に、ですか? 西住殿は熊本ですよ! それに、今は西住流の副師範で日本全国飛び回っています。それに世界大会日本代表の練習も……」

 

 秋山優花里から出される否定的な言葉の数々にも、武部沙織は全然気にしていない。

 

「うん。それは全部知ってるよ。……でも、いい方法を思いついたんだ!」

「いい方法? それってなんです?」

「それには、ユカリン達の協力が必要なのよ!」

「……『ユカリン達の協力?』」

 

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