ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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後は任せたからね

 

 『北部バイパス』に入った、大洗女子学園の戦車群。

 全車両が縦一列でジグザグに蛇行しながら、全速力で脱出口へ向かっていく。

 

 逃がすまいと黒森峰の戦車群が砲撃しながら、追いかけて来ている。

 逃げる大洗女子学園チームの周りに次々に砲弾が着弾していく。

 その砲撃してくる黒森峰の戦車群の中へ次々と砲弾が撃ち込まれていく。

 

「発射!」

 

《ドッガーン!》

 

「装填完了!」

「照準合わせ……完了!」

「発射!」

 

《ドッガーン!》

 

 やはり『ポルシェ・ティガー』は『マウス』との衝突で動けなくなってしまった。

 しかし『白旗』さえ上がらなければ、試合に参加できる! 

 攻撃ができるのである!

 『ポルシェ・ティガー』は砲塔と砲身だけを動かしながら、逃げてくる仲間達の戦車群を助けるため、連射につぐ連射で黒森峰の戦車群を牽制し続けているのである。

 

「車長! 見えてきました! 先頭は「あんこうチーム」です! 全部で8輌……」

 

 通信手の報告に『レオポンチーム』の車長が、驚いて聞き返した。

 

「あれ……1輌足んないぞ! どこのチームだ?」

「あっ……『ハッキュン』がいない! 車長! 『あひるさん』です」

「『あひるさん』から撃破された報告はないから大丈夫だろうけど……、どこだ?」

 

 

 砲撃を続ける『ポルシェ・ティガー』のキューポラから身を乗り出し、車長は双眼鏡で『あひるチーム』の『八九式中戦車』を探した。

 そして、車長は黒森峰戦車群の最後尾の後ろに着いて走ってくる小さな戦車を見つけたのである。

 

「いた! 『ハッキュン』だ! 黒森峰の後ろから戦車を攻撃しながら追いかけてくるぞ!」

 

 『八九式中戦車』に乗る『あひるチーム』は少しでも仲間を攻撃する砲門数を減らそうと、その小さな火力ながら主砲を撃ちまくり、黒森峰の後方から走りながら敵戦車を牽制していたのである。

 市街地に残った索敵隊の『あひるチーム』は「ふらふら作戦」中も本当に黒森峰のフラッグ車がいないのか、単独で索敵し続けていた為、黒森峰の後方についていたのである。

 つまり、おいてけぼりのような状態であった。

 しかし『あひるチーム』のメンバー達の表情は明るい!

 

「みんな、そろそろ私達も行くよ!」

 

 『あひるチーム』の車長がメンバー全員に告げた。

 

「はい! 『ハッキュン』の限界に挑戦ですね!」

「そうよ! 今から『八九式中戦車』は黒森峰の戦車群に突入! 全車輌を追い抜いて前に出たあと、敵戦車を挑発しながら逃げるよ!」

『了解です!』

 

 前にも述べたが『八九式中戦車甲型』は全国大会出場戦車中、最も弱い戦車である。

 他校の選手からは『なんだ、八九式か……』とせせら笑われてしまうほどの戦車である。

 しかし、仲間達から「ハッキュン」と呼ばれている大洗女子学園の『八九式』が他校、いや大洗女子学園の仲間達にも胸を張って誇れるものがある。

 それは、駆動力系を限界まで改造されて生み出された『スピード』である。

 大洗女子の『鬼ごっこ』訓練では鬼役なることがほとんどこの戦車である。

 そして『八九式』は、今まで誰もやったことのない、左右に逃げ場のない道で18両の敵重戦車群へ単独で突入、突破を試みるつもりなのである。

 

「こちら『あひるチーム』より『あんこうチーム』へ連絡! すみませんが、現在の『あんこうチーム』以下、全車両の『マウス』までの距離を教えてください!」

「こちら『あんこう』! 現在『マウス』まで500mです! 『あひるさん』は今、どこですか?」

「こちら『あひるチーム』! 現在『あひるチーム』は黒森峰の後方70mの位置につけています。今から黒森峰を突破してきます!」

「えっ……大丈夫ですか?」

「逆に今のタイミングがいいと思います。坂を上っている間、どうしてもスピードが落ちます! 黒森峰の照準を狂わせる為! 黒森峰を混乱させる為に『あひるチーム』は今から敵戦車群へ突入します!」

「……分かりました。『あひるさん』気をつけてください!」

「了解です!」

 

 さあ、遠藤隊長の許可もとれた!

 『あひるチーム』のメンバーの顔が引き締まっていく。

 

「みんな! 相当『ハッキュン』を動かすから目を回さないでね!」

 

 緊張の中にも笑いながら『あひるチーム』操縦手がみんなに注意を促した。

 

「いつでもいいわよ! どんと来なさいっていう感じよ!」

 

 『あひるチーム』砲手が笑顔で返事をすると、それが合図だったかのように『あひるチーム』車長が命令を下した。

 

「『八九式』突入開始! 『あひるチーム』パンツァー・フォー!」

『了解!』

「『八九式』突入します!」

 

 『八九式中戦車』の操縦を預かる操縦手が、一気にアクセルを踏み込んだ。

 エンジンが『グワーン!』と唸りを上げた。

 そして『ハッキュン』は猛スピードで黒森峰の後方車輌に取り付いた。

 

「1時の方向! 突入スペース確認!」

「了解! 右!」

 

 車長の報告に操縦手が答え操縦桿を動かした。

 「グイ!」っと進路を変えた『八九式』はそのままスピードを保ちながら、スペースにむかって突っ込んでいく。

 そしてついに『八九式』が最後尾の2輌の戦車、左に『ヤークトティガー』右に『エレファント』の間に車体を割り込ませた。

 

「前方3輌! 次は11時の方向! 『左のパンサー』と『中のパンサー』の間に行くよ!」

「了解! 左!」

 

 割り込まれた『ヤークトティガー』と『エレファント』が車間を狭めようと接近してきた。

 しかし、その次の瞬間には『八九式』はすり抜けて『ヤークトティガー』の正面に出てきた。

 目の前に横切るように現れた『八九式』に驚いた『ヤークトティガー』は思わずブレーキを踏んだ。

 『ヤークトティガー』のスピードが落ちて、一台だけ隊列から遅れていった。

 

「よし! 次!」

 

 操縦手が再び操縦桿を動かす!

 『八九式』は、今度は道路の一番左側を走る『パンターF型』と中央を走る『パンターF型』の間にむかっていった。

 

 

「すごいわ! 『ハッキュン』が次々に黒森峰を抜いてくるよ!」

 

 双眼鏡で『あひるチーム』の様子を見ていた『M3リー』の『うさぎチーム』車長が叫んだ。

 

「でもこれじゃ、援護射撃ができないです!」

「大丈夫! これで追い抜かれた黒森峰の車輌だけを私達は狙えばいいから! よし、道を開けるよ!」

 

 『M3リー』が『マウス』と衝突した場所から道を開けるため、移動しようとした。

 しかし『ガコガコ』という音がして『のそのそ』としか動けない!

 

「車長! 駆動系異常発生! 動きが……『M3』の動きが悪いです!」

 

 操縦手から泣き叫ぶような報告が上がってきた!

 

「なんですって! もうすぐ皆が来ちゃうわよ!」

「前方! 『あんこうチーム』目視確認! 距離300m!」

 

 車長が驚いて聞き返した直後に、通信手から叫ぶように報告が入ってきた。

 『うさぎチーム』の車長は操縦手に向かって、大声で指示を出した!

 

「『M3リー』全速前進! 動き続けられる所まで移動させて!」

「了解! 全速前進!」

 

 『M3リー』はゆっくりと、だが必死にその傷ついた車体を動かして前進する。

 目の前に仲間の戦車達が見えてきた。

 

「もう少し! もう少し動いて! お願い!」

「頑張って『M3』!」

 

 『うさぎチーム』全員が祈った!

 

 

「前方300m、脱出口目視確認! ああっ……『うさぎさん』が……」

 

 先頭で走る『あんこうチーム』の北川亜希子が叫んだ!

 

 『マウス』と激突した『M3リー』の前方が、ベッコリとへこんでいる。

 そして、その車体を懸命に動かして、戦車がすり抜けられるだけのスペースを開けようと必死でもがいているのが見えたからだ!

 

「翔子ちゃん!」

 

 異変に気づいた遠藤祐子は、即座に大森翔子に声をかけた。

 それに対して力強く大森翔子は返事をした。

 

「大丈夫! あと少し『M3』が動いてくれれば、突破できる!」

「全車輌、縦列隊形のまま直進で突破します!」

『了解!』

 

 遠藤祐子の命令で『あんこうチーム』はジグザグ走行を止めて、直進を始めた。

 それに続くように、大洗女子学園の戦車8両が一斉に直進し始めた。

 目の前を、必死で進路を開けようとする『M3リー』が横切る。

 そして……

 

 

 間一髪ではあったが『M3リー』の横をギリギリで仲間の戦車達が通過、脱出していった。

 

「やったよ! みんな! 脱出に成功だよ!」

「よく頑張ってくれたわ! 『M3リー』」

 

 『うさぎチーム』全員がハイタッチして喜んだ。

 

「さあっ……もうひと踏ん張りするわよ! 残るは『アヒルチーム』の援護よ!」

『了解です!』

 

 その頃『あひるチーム』が乗る『八九式中戦車甲型』は、すでに黒森峰の先頭にでて挑発を繰り返しながら逃げていた。

 そのひ弱な主砲を発射して『もし火力があったら、あなたたちはもう白旗上げているわよ』と言うように、何度も実際は致命傷になるような攻撃を仕掛けているのである。

 最初は『八九式』を無視していた黒森峰側だったが、流石に何度も砲塔に攻撃を受け続けていると頭にくるようである。

 今は一撃で倒そうと、各車輌が必死に『八九式』に照準を合わせようと砲塔と砲身を動かしている。

 しかし、時には車両の間に身を隠しながら、時には急停車しながら、変幻自在に動き続ける『ハッキュン』の前にまだ撃破できずにいた。

 

「他のチームは、今どのあたりを進んでいるの?」

「『あんこうチーム』が先頭で、もうすぐ坂を上がり切ります!」

「よし! 私達も続くよ! 『八九式』全速前進!」

『了解!』

 

 再び、グンとスピードをあげる『八九式中戦車』

 そして、黒森峰の車輌を引き離しにかかった。

 

「一番狙われやすいからね! 皆、気を引き締めていくよ!」

「ハイっ!」

 

 再びメンバー全員に車長から激が飛び、それに答えるメンバー達であった。

 『レオポンチーム』『ウサギチーム』が懸命に、最後の仲間を救うべく援護射撃を続けている。

 

 

「まもなく坂の頂上に到着します!」

「他のみんなは? 大丈夫?」

 

 北川亜希子の報告を受けて、遠藤祐子はキューポラから身を乗り出して、上ってきた坂の下を見た。

 順に『ぞうさん』『きりんさん』の『ティガーⅡ』コンビ。『犬さん』『猫さん』『うまさん』の『M4シャーマン』トリオ。そして、『かばさん』の『Ⅲ突』と『ありくいさん』の『三式』の計7両が無事について来ている。

そして、今まさに坂道に入ろうとしている『あひるさん』の『八九式』を見つけた。

 そして、黒森峰の方を見ると、戦車群の先頭に『エレファント』と『ヤークトティガー』が出てきていた。

 『八九式』への攻撃を諦めたのか、全車両のスピードが極端に落ちている。そして……

 

《ドッガーン、ドッガーン、ドッガーン!》

 

 一斉に黒森峰の全車輌が、動けない『ポルシェ・ティガー』と『M3中戦車リー』に向けて砲撃を始めたのである。

 

「うそ……!」

 

 あまりの火力の差である。

 『ポルシェ・ティガー』は装甲が厚い分、まだ大丈夫かもしれない……。

 しかし『M3リー』は……。

 遠藤祐子の目の前で『M3リー』が、ヤークトティガーの主砲をまともに食らってしまった。

 ものすごい爆発音のあと『M3リー』がゴロンとひっくり返ってしまった。

 

「ああっ……。『うさぎさん』が……」

 

 そう遠藤祐子が呟いた直後に『うさぎチーム』車長から報告が入った。

 

「こちら『うさぎチーム』! やられてしまいました! すみません!」

「『うさぎさん』! みんな大丈夫ですか? 怪我してませんか?」

 

 すぐさま、北川亜希子がメンバーの無事を確認した。

 

「大丈夫です! みんな怪我していません! 天地がひっくり返っちゃっていますけど……」

 

 その報告を聞いた『あんこうチーム』全員が胸をなでおろした。

 

「祐子! 行こう! 『レオポンさん』と『うさぎさん』が作ってくれた大切な時間だよ。無駄にできないよ!」

 

 浦田かなえが、砲手席から振り向いて、身を乗り出している遠藤祐子に言った。

 

(時間……。私達、仲間の為に、危険を覚悟で作ってくれた大切な時間……)

 

 心の中で浦田かなえの言葉を繰り返した遠藤祐子は、今度は進行方向に体を向けて凛と全車輌へ命令した。

 

「今からチームは川を渡り、作戦予定地点の801から806地点の『森』を目指します! 川を渡る予定地点の306地点まで移動開始!」

『了解!』

 

 追いかけてきていた『八九式』もチームに追いついてきて、合計9輌の大洗女子学園の戦車群が市街地をあとにしていった。

 

 

 仲間の車輌が市街地につながる坂道を無事に上り終えて、双眼鏡から消えたことを確認した『レオポンチーム』の車長は、ホッと胸をなでおろした。

 

「みんな……、無事に他の全チームが脱出できたよ……」

 

 にっこりと笑う車長に、他のメンバーも微笑みを返してきた。

 

「よかった……。本当によかったね。」

「うん! 私達は『鈍足ティガー』の花道、作ってあげられたかな?」

 

 黒森峰は、今度は『ポルシェ・ティガー』に集中砲火を浴びせていた。

 しかし『ポルシェ・ティガー』には反撃する為の砲弾が、もう一発も残っていなかったのである。

 頑丈な、その鋼鉄の車体の為、まだ白旗が上がらないのである。

 そして……

 

『バシュ!』

 

 やっと「白旗」が上がった。

 18門の主砲の集中砲火を浴びた『ポルシェ・ティガー』は履帯が吹き飛び、砲塔はべコベコになって、車体は大きく左に傾いていた。

 しかし『鈍足ティガー』と呼ばれた『ポルシェ・ティガー』は、なんだか満足そうにその場に座り込んでいるように見えたのである。

 

「最後の報告になっちゃうね……。でも元気よく伝えるからね!」

『ハイっ!』

「こちら『レオポンチーム』! 今、撃破されました! みんな、あとは頼んだからね!」

「……こちら『あんこう』……了解です。……『レオポンさん』『うさぎさん』本当にありがとう……」

 

 北川亜希子は、震える声で『レオポンチーム』『うさぎチーム』に感謝の言葉を告げた。

 大洗女子学園チームメンバー全員も、『レオポンチーム』と『うさぎさんチーム』の献身的行動に感謝したのであった。

 

 

 

 時間が少し遡る……

 

 坂を上り始めた『あんこうチーム』に連絡が入った。

 

「こちら『カメチーム』から『あんこうチーム』へ連絡!」

「こちら『あんこう』! 『カメさん』どうぞ!」

 

 『カメさんチーム』の車長からの連絡である。

 

「今から『カメ』は索敵の為、石橋の北側入口に向かいたいと思います」

「石橋の北側ですか?」

「はい! これはまだ推測ですが、今までの事を見てみると、黒森峰のフラッグ車は石橋の北側から市街地を脱出したとしか考えられません。あそこは周辺が深い森になっています。地面も不整地です。昨晩降った雨が乾いていなければ、履帯の痕が残っているはずです。その確認と、もし履帯痕が残っていたら追跡させてください」

 

 索敵隊の任務を全うすべく、『カメさんチーム』の車長の願いである。

 

「お願いです! 時間がありません。早く見つけなければ遠くへ逃げられてしまいます!」

 

 遠藤祐子は、北川亜希子からの報告を受けて、一瞬考えたが、命令を下した。

 

「分かりました! 『カメさんチーム』は『石橋の北側入口』に向かって、黒森峰のフラッグ車の索敵行動に入ってください!」

「こちら『カメチーム』! 命令了解しました! 直ちに移動します!」

「十分に気をつけてください!」

「お気遣いありがとうございます! それでは行ってきます! 『カメチーム』パンツァー・フォー!」

 

 『38tヘッツァー改造型』は、進路を『石橋の北側入口』のある方向に向けると猛スピードで走り始めたのである。

 

 

 『石橋の北側入口』に近づいてきた『カメさんチーム』の『38t』

 『カメさんチーム』車長は、メンバーの皆に注意するように促した。

 

「皆! あたりは暗いからね。見落とさないように十分注意してね!」

『了解です!』

 

 全員の気合が入った返事である。

 キューポラから顔を出した車長は、道沿いをくまなく見ていた。

 すると隣のハッチからも、装填手が顔を出してきた。

 

「車長! 一人より二人ですよ!」

「サンキュー! じゃあ、前と右側をお願いね!」

「了解です!」

 

 4つの目が、いや、操縦手のクルッペから前方を見る合計6つの目があたりの様子、道路の様子を注意深く観察していた。

 しばらく進んでいると、北側入口に向かう道と、北上する為の道の三叉路が近づいてきた。

 そこに、待望のものを車長が見つけた!

 

「あれは……、停車!」

 

 『38t』を停車させて降車した車長は、その見つけたものの傍に近づいた。

 

「……間違いない! これは履帯痕だね……」

 

 同じく降りてきた装填手もその意見に同意した。

 

「はい! しかも、まだ新しい感じですね……」

「最初からこのあたりに居たんだろうけど、多分『マウス』が撃破されて、慌てて移動したんだろうね」

「はい! 私もそう思います」

「よし! じゃあ、この痕を慎重に追いかけよう!」

「了解です!」

 

 再び『38t』に乗り込んだ車長と装填手である。

 そして『あんこうチーム』へ「履帯痕発見、追跡開始」の無線を飛ばしたのである。

 

 

 その頃、大洗女子学園の戦車群は東西に流れる川を渡るための306地点へ到着しようとしていた。

 そこへ『カメさんチーム』からの連絡を受けて、遠藤祐子は考えこんでいた。

 

(このまま川を渡るべきか、進路を変えて『カメさん』の方向へ行くか……)

 

 二者択一なのだが、今後の試合の流れを決めてしまうような気がしていた。

 

(どうしよう……。どうすればいいんだろう……)

 

 

「祐子ちゃん……。決める勇気が大切よ」

 

 浦田恵が装填手席から振り向いて励ましてきた。

 

「私、優柔不断だから物事を決めるのに時間がかかっちゃうの。だから、祐子ちゃんみたいに、さっと物事を決められる人ってすごく尊敬するの。ここまで来たのは、その祐子ちゃんの決断力よ。自信持って……祐子ちゃん」

 

 その浦田恵の言葉に『あんこうチーム』全員がその場で頷いた。

 遠藤祐子は思い出した……

 西住みほからの隊長、車長としての心構えとは何か……

 

(『戦車に乗る仲間を大切に思う気持ちと間違いのない行動を選ぶ決断力』。それが車長の心構え……)

 そして、意を決したかの如く命令を下した。

 

「今から部隊を特別編成します。『あんこう』『ぞうさん』『きりんさん』『犬さん』『猫さん』『うまさん』『ありくいさん』の7輌は、このまま川を渡り目的地点まで移動します。『かばさん』『あひるさん』の2輌は、一緒に川を渡ったあと川岸を東に移動! 『カメさん』と合流して敵フラッグ車の追跡に入ってもらいます」

 

「なんだ、その作戦行動は……」

 

 大森翔子が驚いて、遠藤祐子に聞いてきた。他のメンバーも同様に振り向いた。

 

「黒森峰のフラッグ車は、必ず川を渡っているはずです。なぜなら『石橋の北側入口』から北上すると、試合エリア範囲を超えてしまいます。ただ、川を渡る途中で、絶対に川の中を下流に移動してから対岸に渡っているはずです」

「斜めに横切っているって言うの?」

「うん、履帯痕がついてしまっていることは気がついているはずだから、絶対消したいと思ってるはず! 今から渡る川は水深が浅いし、流れもそんなに早くない。ただ、川幅が50m近くあるだけ。十分に川の中を移動できるはずなの。でも、川岸は砂浜だから、どこから上陸しても履帯痕は残るはず。どれくらい移動しているかは分からないけど、渡りはじめた所とは違う、意外な場所から川を渡ったと思うの」

「そうか、だから、反対岸から川の上流に向かうんだな」

「そう! そして、もし見つかっても3台なら迂闊に攻めないと思うし、もし攻撃されても『あひるさん』は足が速いし、『かばさん』と『カメさん』は車高が低いから逃げやすいと思うの」

「なるほど……」

 

 皆が口を揃えて、遠藤祐子の考えに納得した。

 

「亜希子ちゃん! 全車輌へ作戦行動の指示を伝えて!」

「了解!」

 

 北川亜希子は、この長い作戦要項と理由をうまくまとめて、誰もがわかりやすく全車輌へ連絡した。

 各チームの車長から『了解!』『分かりました!』と返事が返ってきた。

そして、306地点へ移動を開始した。

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