ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
索敵の途中で味方のピンチを知った『あひるさん』『カメさん』『かばさん』の3チームは、それぞれが乗る戦車で一目散に『森』を目指して爆走している。
逸る気持ちを抑えながら、それぞれの車長は『3代目あんこうチーム』へ連絡を取った。
「こちら『あひるチーム』! 『森』まで、あと700mです。間もなく到着します!」
「同じく『カメチーム』! 『森』まで、あと1,200mです!」
「『かばチーム』は、あと1,300mです! 『森』には『左側入口』から突っ込みます!」
「こちら『あんこう』了解! 皆、来てくれてありがとう! 黒森峰は『森』の中に8輌、北側草原に5輌、南側『入口』付近に3輌です!」
『了解です!』
『森』を中心にして出たり入ったりしながら『大洗女子学園』と『黒森峰女学園』は交戦していく。
しかし、徐々に各チームから撃破報告と撃破された報告が届いてくる。
「こちら『うまチーム』! パンサーF型、1輌撃破しましたが、私達もやられました!」
「『きりん』チーム! 『ヤークト』撃破! でも、私達も行動不能です! すみません!」
『3代目大洗女子学園戦車道チーム』の各チームは、死力を尽くして最後は相打ち覚悟で撃破をしにいっている。
北川亜希子は、報告を受けるとすぐに安否を気遣い、そして、遠藤祐子に報告する。
しかし、参加車輌が少ない『大洗女子学園』にとって、相打ちでは結果的に負けが決まってしまうのである。
『大洗女子学園』は死力を尽くしながらも、苦しい戦いを続けていた。
この決勝戦の様子は、全国にリアルタイムで放送されている。
『3代目大洗女子学園戦車道チーム』を鍛え上げた、女神達『初代あんこうチーム』の5人と『2代目隊長』は各々の場所でこの戦いの様子をテレビで見ていた。
『女神』こと、西住みほは、熊本の実家で、姉のまほ、母のしほと共に客間で見ていた。
「我が黒森峰の作戦は、戦力差のがある時の基本とは言え、随分私の頃と違うな」
「お姉ちゃん、でも、これは戦車道の試合では一番安全な作戦だよ」
テレビに映し出される画面を見ながらの西住まほの感想に、姉の方を見ながら西住みほが答えた。
「いや、そういう意味じゃなく『西住流』とはだいぶかけ離れているという意味だ」
「そうね。黒森峰はどうしても連覇したいだろうね。確実に勝ちに来ているもん」
『西住流』を体現していた姉と戦った妹は、決勝戦の黒森峰の戦術をそう分析した。
すると、母親である西住しほが、西住みほの方を見ながら訊ねてきた。
「みほ、どうなの? あなたの教えた後輩達はこのあとどう戦うと思うの?」
この問いかけに西住みほは、母と姉の方に体を向き直して、背筋を伸ばして答えた。
「お母さん。私は『大洗女子学園戦車道とは何か』を伝えただけで教えたつもりはありません。今、戦っている後輩達は自分達の力で成長した後輩達なんです。彼女達はきっと『自分達の戦車道とは何か』を見つけて戦ってきたのだと思います。だから、きっと『彼女達自身の戦車道』で、最後まであきらめずに戦い続けると思うんです」
「……そう。みほも随分変わったわ。何か一つ殻を破ったような気がするわ」
「お母様、私もそう感じています」
「ありがとうございます。お母さん、お姉ちゃん……。私も友達や後輩の皆に教えてもらったんです」
西住みほはニッコリと微笑んだ。
その様子を見た『西住流師範』西住しほは、2人の娘に対して優しく言った。
「そう……。両校とも頑張って、いい試合になるといいわね」
『はいっ』
みほとまほは、母に対して一緒に返事をすると、再びテレビのモニターを見た。
『女神のお告げ』こと、武部沙織は『女神の参謀』の秋山優花里と澤梓と一緒に、武部沙織のバイト先の『洋食の店 オムレツ』でマスターと共に見ていた。
戦車道の大ファンであるマスターは、カウンターに乗せた携帯用小型テレビの画面を立って見ながら、心配そうな声で武部沙織に聞いた。
「沙織ちゃん……、あの2輌の戦車の娘達は大丈夫なのか?」
「うん、怪我していたら、すぐに救護車が来るから大丈夫だと思うよ」
「でも、あんな『特攻作戦』は隊長さんの命令なのか?」
『レオポンチーム』『うさぎチーム』が実行した、超重戦車『マウス』撃破までの様子を見たマスターは、少し怒った感じで聞いてきた、
武部沙織は、カウンター椅子の自分の隣に座っている秋山優花里に顔を向けて聞いた。
「……ユカリンはどう思う?」
しかし、秋山優花里は首を左右に振りながら、マスターの意見を否定した。
「いえ、多分、命令していないと思います。あの『レオポンさん』と『うさぎさん』が自分の意志でやったんだと思います」
「はい、秋山先輩の言う通りだと思います。祐子ちゃんの考えじゃないと思います」
秋山優花里の隣に座っている澤梓も同様に相槌を打った。
「私もそう思う。あの祐子ちゃんが、そんな友達を危険にさらすような作戦選ぶはずがないと思うな」
武部沙織の考えの根拠を説明するように、秋山優花里がマスターに説明した。
「はい。もし命令されてしたとしたら、あのスピードで突撃すると、特に『レオポンさん』は怖くて、怪我しないよう衝突直前でスピードを落としたと思います。ですが、『レオポンさん』チームには全く迷いがなかったように見えました。同じように『うさぎさん』も咄嗟にやったように感じました。だから、きっと彼女達自身が決めて実行したんだと思います」
「沙織ちゃん、秋山さん。自分達が怪我するかもしれないことを覚悟してやったと言うのかい?」
マスターの質問はもっともだったが、2人は頷いたのである。
「はい。多分、それが彼女達『3代目戦車道チーム』の『戦車道』なんでしょうね」
「そうだね。ユカリンの言う通りだね」
「はい、秋山先輩の言う通りだと思います」
澤梓もテレビの画面に映る後輩達の戦車を見ながら同意した。
「そうか……それが『彼女達の戦車道』なのか……」
マスターは、3人の意見に納得したように呟いた。
『女神の砲弾』こと、五十鈴華は、母の百合、新三郎と共に、五十鈴家の居間でテレビを見ていた。
2人の先生の後ろでドキドキした様子でこの試合の模様を見ていた新三郎は、意を決して五十鈴華に訊ねた。
「若先生……。この試合いったいどうなるんでしょうか? 遠藤様達は苦戦しているように見えるんですが……」
「そうですね。確かに苦戦しているようです。まだフラッグ車の位置がわからないようです」
五十鈴華は、きちんとした正座の姿勢でテレビの画面を見ながら答えた。
「華さん。あなたから見て、後輩の皆さんはどう見えますか?」
五十鈴百合も、娘が教えた後輩達が心配だった。
母親の質問に、五十鈴華は体を母親の方に向けて、座り直してから真っ直ぐな目で答えた。
「はい、お母様。私は、遠藤隊長をはじめ、今戦っている後輩の皆さんは、全く迷いというものがないように見えます。後輩の方々と『大洗女子学園』でお会いし、お話を交わして、私が感じた事は、全員が大輪の花を咲かせることのできる力をそれぞれ持っていると感じました。今は小さい花ですが、ひとりひとりがそれを持ち寄り、それが素晴らしい作品に変わる可能性を感じたのです」
「そうですか……。それでは大丈夫ですね。小さな花も生けるものの技量で素晴らしい作品になりますからね」
五十鈴華の言葉に安心したように、五十鈴百合はお花の先生らしい答え方をした。
「はい、きっと遠藤隊長が中心となって素晴らしい作品を作り上げるものと思います」
3人は再びテレビの画面に目をやると、映っている決戦の様子を静かに見守った。
『女神の翼』こと、冷泉麻子はお婆と一緒に自宅の食堂にあるテレビを見ていた。
さっきから、お婆の怒りが収まらず、大声を上げ続けている。
「わたしゃ、この黒森峰の大将が嫌いだよ! こそこそ逃げ回ってばかりで……、女なら、ちゃんと正々堂々勝負しろっていうんだよ。まったく!」
「お婆……、あんまり大声を上げないで欲しい……。まだ自宅療養中の身なんだから。それに、大将じゃなくて隊長だ」
冷泉麻子の懇願もあまり効果がない。
さらに、冷泉麻子の間違いの指摘が怒りを増幅させる結果になった。
「どっちも一緒のようなもんだよ! それより麻子! お前はどうなんだい! 相手の戦い方を見てなんとも思わないのかい?」
「……これも作戦なんだ。『戦車道』では当たり前のことだ」
「でも、お前達の時はそうじゃなかったじゃないか……敵の大将、自ら勝負をしに来てたじゃないか!」
お婆の指摘に下を向いた冷泉麻子であったが、そのあとは、お婆の目を見つめながら答えたのである。
「それは、そうだったけど……。でも、お婆大丈夫だと思う。私が知っている後輩達は、こんな作戦で勝負をあきらめるような後輩達じゃないから……。きっと、大丈夫だ」
孫の真剣な目を見たお婆は、少し落ち着きを取り戻して、優しい言い方で答えた。
「……そうかい。そうなのかい。わかったよ。お前がそう言うのなら大丈夫なんだろう」
「うん、大丈夫だ」
冷泉麻子とお婆は、お互いにニッコリと微笑むと、またテレビの方を見た。
『森』の中、周辺で大乱戦を続ける『大洗女子学園』と『黒森峰女学園』。
『ティガーⅠ』の中の『3代目あんこうチーム』は各チームと連絡を取り合いながら、戦い続けている。
しかし、第2の懸念された材料が、いよいよ現実になってきたのである。
「祐子ちゃん、残りの徹甲弾の本数が少なくなってきたよ。残り15発だよ!」
浦田恵が、徹甲弾を装填しながら報告してきた。
戦車数が少ないと、全体の砲弾の数はどうしても少なくなる。
黒森峰女学園高校は、戦車道の名門中の名門高校である。
もしかしたら、黒森峰にはそういう作戦も含まれていたのかもしれない。
「わかったわ! 亜希子ちゃん! 他のチームに残りの砲弾数を確認しておくように伝えて!」
「了解!」
今は『森』の木々の間をぬうように、駆け回る両校の戦車達。
時にはすれ違いながら、時には追いかけっこになりながら、交戦を続けている。
「畜生! フラッグ車は、いったい何処にいるんだよ!」
大森翔子が、巧みに操縦しながら大声で叫んだ!
すると、徹甲弾を持ったまま半身の態勢で装填し続けている浦田恵が、遠藤祐子に向かって話しかけてきた。
彼女は、装填を続けながら考え続けていたのだ。
「……祐子ちゃん、私……ううん、なんでもない」
「なあに? 恵ちゃん、どうしたの?」
「……間違っていたらごめんね……あのね、私も『カメさん』からの報告を聞いて考えていたの。『もし、私ならどこに隠れるか』って。私、昔からかくれんぼ大好きだったから……。それでね、『今、一番安全な場所ってどこだろう』って」
「恵ちゃん! 恵ちゃんはどこだと思うの?」
北川亜希子が振り向いて、大声で浦田恵に聞いてきた。
北川亜希子も何か考えがあるようである。
「うん、あのね『川岸に履袋の痕がない』って報告だったでしょ。だったら、もう単純に考えたら渡っていないってことだよね」
「うん、私もそう思うよ」
遠藤祐子は、浦田恵の考えに同意した。
「だったら『どこに隠れているか』ってことより『今はどこにいるか』を考えたら、絶対にいる場所が、私、わかった気がするの」
「どこなの?」
「私達が、今、通ってきた所……」
「えっ……、それって……今、私達の前じゃなくて後ろにいるってこと?」
遠藤祐子は思わず大声になった。
浦田恵は、少しうつむいて話を続ける。
「うん、方法はわからないけど、多分、私達はフラッグ車を追い越してしまったと思うの」
それを聞いた北川亜希子は、自分の考えと一緒だったのか大声で、浦田恵の話を補足した。
「祐子ちゃん! 私も恵ちゃんと同じ意見なの。履帯痕がついていない以上、絶対私達の渡った場所とその上流の方からは、……渡・って・い・な・い・は・ず……、だったら……」
『あっ!……そうか、下流だ!』
メンバー全員が同時に声を上げて、今、やっと黒森峰のフラッグ車の作戦に気付いた。
「どうする? 祐子!」
大森翔子の問いかけに、遠藤祐子は即座に決断をした。
「うん、これって、もしかしたら賭けになるよね。でも、私は今の皆の意見が一致した事を信じる! 確認しに行こう! 亜希子ちゃん、全車両に『フラッグ車確認の為「あんこうチーム」単独で戦線離脱する事』を連絡して!」
「了解!」
北川亜希子は無線を通じ、敵フラッグ車の現在居る、推定位置がわかったこと、単独で確認に行くことを告げ、全車輌から『了解、気を付けて』と返信をもらった。
遠藤祐子は『3代目あんこうチーム』全員に命令した。
「『あんこうチーム』は、これより敵フラッグ車確認の為306地点へ戻ります! パンツァ・フォー!」
『了解!』
「ティガーⅠ」は猛スピードで『森』を出ると、さっきまで進んできた道を逆走していった。
しばらく走っていると、前方に渡ってきた川が見えてきた。
すると、川岸の前に何か黒いものが見えたのである。
北川亜希子はドキドキしながら、その黒いものの正体を懸命に確認している。
「何、あれは……? あっ……前方に『ティガーⅠ』を確認! あっ……、フラッグが立ってる! 祐子ちゃん、フラッグ車よ!」
「やっぱり、いやがった! ついに見つけたぞ! フラッグ車!」
北川亜希子が確認した後、大森翔子は、クルッペから見える黒森峰の校章が入った『ティガーⅠ』を見て叫んだ。
「私も照準器に補足したわ! 見てなさい、勝負をつけてあげるから」
浦田かなえの興奮した声に、落ち着いて浦田恵が注意する。
「かなえちゃん、残りの砲弾は15発だけだからね。忘れないで!」
「恵! わかっているよ。今からの攻撃は、それこそ1発1発が勝負よ!」
浦田かなえと恵の攻撃担当コンビは、再度気合を入れなおした。
「皆! 今から敵フラッグ車との『格闘戦』に入ります。十分に気を付けて、各自冷静にね!」
『了解!』
遠藤祐子の冷静な号令に、メンバー全員の気合がこもった返事が返ってきた。
ついに黒森峰のフラッグ車を捉えた『3代目あんこうチーム』。
しかし、攻撃の為の徹甲弾が少なすぎる。
それでも、このチャンスを逃すまいと攻撃を始めた。
「敵フラッグ! 前方700mに接近! 砲塔移行中」
北川亜希子が落ち着いて報告をする。
「『あんこう』は、右側より回り込みながら、行進間射撃で攻撃します。攻撃準備!」
進路、右へ!」
大森翔子が操縦桿を動かす。
続いて、浦田恵とかなえが続けて報告してくる!
「了解! 徹甲弾装填完了!」
「砲塔回転! 照準合わせ……発射準備完了!」
「撃て!」
こちらの発射と同時に、黒森峰の方からも主砲が発射された!
黒森峰のフラッグ車は発射したと同時に、左に大きく旋回しながら走り始めた。
お互いの砲塔が真横を向き、相手を威嚇する。
まるで『大洗女子学園』と『黒森峰女学園』の互いの隊長車同士による決闘のようである。
《ドッガーン》
《ドッガーン》
直径600mから700mの間で、大きく円を描きながら、お互いが砲撃しあう。
それは、車体をかすったり、装甲で弾き返したり、外れたりしながら続いている。
そして『3代目あんこうチーム』が少しでも近づこうとすると、逆に『黒森峰』は距離を取っていく。
どちらも後ろを取れない、かといって逃げようとしない!
お互いの隊長車同士のプライドがそこにあった。
遠藤祐子は、車内から、この黒森峰のフラッグ車の行動をじっくりと見ていた。
しかし、ついに来てしまった!
「恵! あと砲弾は何発?」
「かなえちゃん! あと2発だけだよ!」
「畜生! ここまで追い詰めたっていうのに……」
浦田かなえ、恵の会話に、大森翔子が悔しそうに叫んだ。
すると、北川亜希子が緊急を要するように報告してきた。
「祐子ちゃん! 『あひるさん』から報告! 黒森峰の残り全車輌がこっちへ向かってきてるって!」
「今、応戦してくれてるチームは?」
遠藤祐子は、即座に確認した。
北川亜希子は続けるように報告した。
「『あひるさん』『ありくいさん』『かめさん』の3チームだよ!」
ここで、遠藤祐子が浦田かなえと大森翔子へ指示を出した。
「かなえちゃん、攻撃中止! 翔子ちゃん『あんこう』は306地点の川を背に停車します! 移動開始!」
「はい! 攻撃中止します」
「おっ……おう、了解! 移動します」
『大洗女子学園』の『ティガーⅠ』は今度は、さらに大きく回り込みながら、川を背後にして『黒森峰』フラッグ車と対峙するように止まった。
遠藤祐子は、サッとキューポラから身を乗り出すと、双眼鏡を覗きこんだ。
『黒森峰』のフラッグ車は、砲塔で威嚇しつつ、停車した『大洗女子学園』の隊長車前方、距離400mのところで停車をした。
「来た! ついに来たわ! 最後のチャンスが……」
遠藤祐子は交戦をしながら、実はこの時を待っていたのだった。