ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
遠藤祐子には確信があった。
(黒森峰の隊長は決して危ない橋は渡らない。絶対勝てる状況ができてからでないと勝負をしないはず)
遠藤祐子は、さっきまで交戦してみて、黒森峰の隊長の性格をそう分析していた。
(必ず仲間を呼ぶはず! そして、私達が逃げられないようにしたいはず! だったら……)
遠藤祐子は、あの『女神達からの贈られた技』を未完成ながらも実行しようと考えていた。
だが、発動するための2つの条件。
1つ目の『目標戦車以外の敵戦車が周りにいない事』
これはクリアーしている。
2つ目の『目標戦車が停車している事』
これが難問なのである。
よほどのことがない限り、敵戦車が相手戦車の目の前で停車する事態はありえないのである。
しかし、それを行わせるために遠藤祐子は、わざと川を背に先に停車させたのであった。
黒森峰の隊長の性格を冷静に分析して、自分達が逃げられない状況にわざとして、相手に油断を作り上げたのである。
遠藤祐子の考えた状況に、見事『黒森峰』の隊長ははまってくれて戦車を停車させてしまった。
この状況をテレビで観戦していた5人の女神達と澤梓は一斉に呟いた。
「来た……」
「揃っちゃった……」
「揃いましたね……」
「はい、先輩揃いました」
「ついに来ましたわ」
「……いける」
5人と澤梓以外の一緒に見ていた観戦者達は、何の事を言っているのかわからなかった。
しかし、あの『技』を知っている者達は、次の瞬間、皆が心の中で一斉に叫んだ。
『行くのよ! みんな!』
遠藤撃祐子は車長席から『3代目あんこうチーム』全員に向かって言った。
「みんな! 今からフラッグ車に対して『ストライク・オブ・ゴッデス』を仕掛けるよ!」
「おい、ちょっと待てよ、祐子! 私達はまだ一度も成功したことがないんだぞ!」
「そうだよ、祐子ちゃん! 残りの砲弾は2発だけだよ! 失敗したらそこで終わっちゃうよ」
担当シートから振り向いて大森翔子と浦田恵が反論し、メンバー全員から「反対」の視線が、遠藤祐子にむけられた。
しかし、遠藤祐子はメンバー全員に、いや自分に言い聞かせるように説得を始めた。
「みんな、よく聞いてほしいの……。確かにまだ私達は『ストライク・オブ・ゴッデス』を一度も成功させたことはないわ。でも、今先輩達が教えてくれた条件が揃っているの。フラッグ車は確実に私達を仕留めるために仲間の戦車が到着するのを待っているの……。この状況は、もしかしたら先輩達が作ってくれたのかもしれない……」
そこまで話すと、遠藤祐子は車内の各担当シートに座って話を聞いているメンバー1人1人の顔を順に見て話を続けた。
まず、大森翔子の顔を見て言った。
「翔子ちゃん! 翔子ちゃんが、もうちょっと大胆に操縦して……」
次に、北川亜希子の目を見つめて言った。
「亜希子ちゃん! 亜希子ちゃんが、もうちょっと正確に状況報告を行って……」
その次に、浦田恵の顔を見て話を続ける。
「恵ちゃん! 恵ちゃんが、もうちょっと早く装填をして……」
そして、浦田かなえの目を見て言った。
「かなえちゃん! かなえちゃんが、もうちょっと落ち着いて照準を合わせて……」
最後に自分の胸に手を置き、自分に向かって遠藤祐子は言った。
「そして私……。私がもうちょっと勇気をもって決断する……」
遠藤祐子は、再度メンバー全員の顔を見渡しながら、力強い言葉で断言した。
「皆の『もうちょっと』が集まれば、きっとできるはずよ! 皆の力を合わせて先輩達を超えよう!」
この遠藤祐子の勇気を奮い立たせてくれる熱い言葉に、メンバー全員が頷き、決意を秘めた表情に変わった。
「よっしゃぁぁぁ! いっちょ、かましてやろうじゃないか!」
大森翔子が叫ぶと、北川亜希子も答えた。
「そうね! 先輩達を超えるのは今しかないよね!」
「そうだよね! 今使わないと先輩達の思いが無駄になっちゃうよね!」
浦田恵の言葉に、姉のかなえも答えた。
「よーし! 一発勝負よ。見てなさい! 驚かせてあげるから!」
「みんな……。ありがとう……」
遠藤祐子は、勝負をかけたこの瞬間に少し涙が出てきた。
そして、右手で涙を拭うと、メンバー全員にむかって命令を下した。
「亜希子ちゃん! 大洗女子学園全車輌に連絡をお願い!」
「了解!」
北川亜希子は、無線を取ると『カメ』『あひる』『ありくい』の各チームに連絡した。
「こちら『あんこう』より、大洗女子学園全車輌へ連絡! 今から『あんこう』は『敵フラッグ車』に対して『ストライク・オブ・ゴッデス』を仕掛けます! ……まだ、一度も成功させていないけど、必ず決めてみせるからから! 皆! 『黒森峰』の残りの車輌がそれ以上近づかないようにして! お願い!」
この通信に対して、各チームから即座に返事が返ってきた。
「こちら『カメチーム』了解です! 皆さん、気を付けて!」
「こちら『あひるチーム』了解です! 落ち着いてね!」
「こちら『ありくいチーム』了解しました! 先輩! 後をお願いします!」
「全車輌、連絡完了しました!」
北川亜希子がヘッドホンをはずし、振り返りながら遠藤祐子に報告した。
準備が整った!
もう何も迷いがなくなったメンバー全員の顔が引き締まった!
『3代目あんこうチーム』全員の力を合わせる瞬間が来たのである!
「状況報告!」
遠藤祐子の指示に、まず北川亜希子が答える!
「敵フラッグ車、前方400mの地点で停車中! 周りに敵戦車群見当たりません!」
「初弾装填完了! 発射準備完了!」
浦田恵の報告に続き、浦田かなえが報告する!
「砲塔砲身異常なし! 照準合わせ完了!」
最後に大森翔子が、大声で報告する!
「履帯及び駆動系異常なし! 発進準備完了!」
全員の報告を聞いた遠藤祐子は、キューポラから身を乗り出して、ついに発動命令を下した。
「いくよ、みんな!」
そう言うと、その言葉が合図だったのか、各担当席から5人が一斉に声を合わせて叫んだ!
『ストライク! オブ! ゴッデス!』
「パンツァー……」
『フォー!』
遠藤祐子の「戦車前進」の指示に、5人全員の掛け声が重なり『ティガーⅠ』が急加速で走り始めた!
今、5人の気持ちが1つになって『3代目あんこうチーム』が乗った隊長車『ティガーⅠ』が、爆音を響かせ、土煙を巻き上げ、火の玉となって敵フラッグ車に向かって突進していく。
細かく敵の砲塔の動きを大森翔子に伝える『北川亜希子』。
どんどん速度を上げながら左右にフェイントをかけ、敵の照準をはずす『大森翔子』。
最後の徹甲砲弾を両手に持って、いつでも装填ができる体勢で待っている『浦田恵』。
照準器を睨みながら、深く深呼吸して、集中力を上げていく『浦田かなえ』。
そして、キューポラから身を乗り出して、全てのタイミングを図る『遠藤祐子』。
どんどん近づいてくる『黒森峰』フラッグ車!
「撃てぇぇぇ!」
《ドッガーン》
遠藤祐子の最初の号令と共に88mm徹甲弾が主砲から発射された!
「右ぃぃぃ!」
号令の直後、すぐ次の指示を出す遠藤祐子に、ほぼ同時に『ティガーⅠ』が反応した。
《ドッガーン》
進路変更した『ティガーⅠ』に対して『黒森峰』フラッグ車から徹甲弾が発射されたが、右に移動した『ティガーⅠ』の左側部をギリギリかすめて外れた!
遠藤祐子は、じっと敵フラッグ車の砲塔の動きを見つめた!
そして『ティガーⅠ』を追いかけ、砲塔が回り始めたその瞬間……・
「左ぃぃぃ!」
遠藤祐子の次の指示が出された!
『ティガーⅠ』は、車体を大きく傾けながら、一気に左に進行方向を変えた!
『黒森峰』フラッグ車の砲塔が左右に振れる。
『黒森峰』フラッグ車は『ティガーⅠ』を一瞬見失った。
砲塔の前を横切る『ティガーⅠ』に対して、やっと気づいた『黒森峰』フラッグ車の砲塔が追いかけてきた。
「次弾装填完了! 発射準備よし!」
信じられないくらいの装填速度で、浦田恵が報告してきた!
「戦車ドリフトォォォ!」
「いっけぇぇぇぇ! 『あんこうぉぉぉ』!」
遠藤祐子の号令に、大森翔子は叫びながら、今までにやったことがない速度で『戦車ドリフト』に突入した!
『ティガーⅠ』の履帯が悲鳴を上げる!
土煙が、まるで嵐を連想させるかのように猛然と湧き上がる!
しかし、メンバー全員の気持ちが乗り移ったかのように『ティガーⅠ』の履帯は切れない!
砲塔を向け、回り込みながら『黒森峰』フラッグ車の後方エンジンルームにめがけて、一気に滑り込んでいく!
追いかけてくる敵の砲塔は、全く照準を合わせることができない。
「照準! エンジンルーム!」
「了解!」
浦田かなえは復唱すると、小刻みに砲身を動かして、冷静にエンジンルームを守る装甲に照準を合わせた。
『ティガーⅠ』は一気に敵フラッグ車の後方に取りつき停車した、次の瞬間……
「撃てぇぇぇぇ!」
《ドッガーン》
大音響と共に、エンジンルームに向けて最後の徹甲弾が発射された!
発射された直後、遠藤祐子の最後の指示が飛んだ!
「防御ぉぉぉ!」
「はいっっ!」
浦田かなえは、落ち着いて返事をすると、自分達に向かってくる敵戦車の砲身に向けて砲塔を動かし、自戦車の砲身の角度を上げてブロックさせた。
観客席から見ている観衆はもちろん、多分全国でこの中継を見ているすべての者が息を呑んだ。
もくもくと黒い煙が立ち上った。
そして、黒い煙が晴れてきて、皆の目に映ったものは……
黒森峰のフラッグ車の砲塔からあがっている『白い旗』であった。
『黒森峰フラッグ車! 行動不能! ……よって、大洗女子学園の勝利!』
結果を伝える場内アナウンスが流れると、観客席から『ウウォー』という地響きにも似た歓声が沸きあがった!
『初代あんこうチーム』のメンバーと澤梓は、テレビの前で声を上げた。
「やった、やったわね。祐子ちゃん!」
「やったー! 亜希子ちゃん! よくやったよ!」
「よくやりましたね、浦田殿!」
「素晴らしいわ かなえさん!」
「…… 大森! 見事だったぞ」
しかし『3代目あんこうチーム』は、茫然となっていた。
まだ、目の前に上がっている『白旗』が信じられないような表情だった。
「できた……。できたんだ……『ストライク・オブ・ゴッデス』が……」
遠藤祐子は初めてできた『ストライク・オブ・ゴッデス』に無我の境地だった。
すると、各ハッチからメンバーが顔を出してきた。
「亜希子……。『白旗』立ってるよな……」
「うん、立ってるよ」
大森翔子の確認に、北川亜希子は答えた。
「間違いないよね。目の錯覚じゃないよね」
「うん、間違いないよ。立ってるよ『白旗』」
浦田恵の質問に、浦田かなえが答えた。
そして、メンバーは車長の遠藤祐子の方を見た。
「うん! みんな、やったね! 私達、勝ったよ!」
遠藤祐子の笑顔と言葉が終わるや否や、全員が両手を空に突き上げ、大声で叫んだ!
『やったー! 勝ったぁぁぁ!』
閉会式が始まった。
今、昨年黒森峰に渡った優勝旗が、1年ぶりに大洗女子学園の元に戻ってきた。
一列に並び、表彰台に上がった『3代目大洗女子学園戦車道チーム』。
大会委員長から祝辞が述べられている。
祝辞が終わると、実況アナウンサーが遠藤祐子に優勝インタビューをしてきた。
「遠藤隊長さん。本年度の全国大会優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「いやぁ、すごい試合でした。実況していた私も手に汗を握りましたよ。素晴らしい試合でした」
「ありがとうございます」
そこまでは形式的なインタビューだったのだが、突然アナウンサーは別なことを聞いてきた。
「それで質問があるんですが、いいでしょうか?」
「はい」
「黒森峰のフラッグ車を撃破した、あれ『技』って言うんでしょうか? あの『技』は狙っていたんですか?」
その質問自体が信じられないような感じでアナウンサーは訊ねたのである。
「はい、狙っていました」
その答えを聞いたアナウンサーは、少し興奮した口調に変わった。
「それじゃ、偶然じゃなかったわけですね?」
「はい、偶然じゃありません」
そこまで確認したアナウンサーは、今度は驚きと興奮に満ちた表情で質問してきたのである。
「解説の方が言っていたんですけど『もし偶然じゃなく意識してやったのなら、多分戦車道の歴史の中で初めて披露されたものだ』と言ってらっしゃいました。あの『技』は自分達で考えられたんですか?」
「いいえ、違います」
間が開いた……。
そして、聞き間違えたのかと思ったアナウンサーは再度遠藤祐子に聞き返した。
「えっ……違うんですか?」
「はい、教えてもらったんです」
遠藤祐子のこの答えは、アナウンサーにとって全く予期していなかった。
「教えてもらったって……。世界で初めての『技』なんでしょう? あなた達が最初じゃないんですか?」
その質問に対して、にこやかに微笑みながら遠藤祐子は答えた。
「いえ、私達が最初じゃありません……あの『技』は『ストライク・オブ・ゴッデス』というんですが、名前の通り、私達の『女神様』達から教えてもらいました」
アナウンサーは、首を傾げて全く分からないといった感じに再度、遠藤祐子に訊ねたのである。
「『女神様』達って……いったい誰なんです?」
「すみません、マイク貸していただけますか?」
「は……はい、どうぞ」
マイクを受け取った遠藤祐子は、一度『3代目あんこうチーム』メンバーを見た。
メンバー全員が笑顔で頷いている。
そして、戦車道チーム全員の顔を見渡すと、今度はチーム全員が頷いた。
それを確認した遠藤祐子は、まるで自分達の正面にその人物達がいるかの如く呼びかけたのである。
「澤梓先輩!」
「えっ、何……」
テレビから呼びかけられた澤梓は、驚いてカウンターの椅子から腰が浮いた。
遠藤祐子はマイクを大森翔子に渡すと、今度は大森翔子が呼びかけた。
「冷泉麻子先輩!」
「……なっ……」
次に呼びかけられた冷泉麻子は、驚いて座っていた椅子から落ちそうになった。
大森翔子から浦田恵がマイクを受け取ると、同じように呼びかけた。
「秋山優花里先輩!」
「……うおっ」
次に名前を呼びかけられ、びっくりした秋山優花里は、思わず椅子から立ち上がった。
次に、浦田恵は、姉のかなえにマイクを渡すと、浦田かなえが呼びかけた。
「五十鈴華先輩!」
「……えっ」
五十鈴華は、テレビを凝視すると、思わず手で口を押え小さな声を上げた。
最後に、北川亜希子がマイクを受け取ると、きれいな声で名前を呼びかけた。
「武部沙織先輩!」
「やった!」
1人1人呼びかけられている事を見ていた武部沙織は、わくわくしながら順番を待っていて、名前を呼ばれた瞬間、その場でガッツポーズをしたのである。
そして、再び遠藤祐子がマイクを受け取ると、今度は、戦車道チーム全員が声を揃えて呼びかけた
「西住みほ先輩!」
「えっ……えっ……みんな、どうしたの?」
西住みほは、驚きのあまり正座していた位置から、思わず立ち上がってしまった。
『先輩方、本当にありがとうございましたぁぁぁ! 私達、優勝できましたぁぁぁ!』
『3代目大洗女子学園戦車道チーム』全員がその場で声を揃えて言うと、深々とお辞儀をしたのである。
呼びかけられた『初代あんこうチーム』の5人と『2代目隊長』は、各々がいる場所で一緒に見ていた者にひやかされて、照れながらもテレビ画面に映る立派に成長した後輩達に拍手をしたのであった。
後に、この『ストライク・オブ・ゴッデス』は、正式に戦車道日本代表の技となり、他国の代表たちを震え上がらせることとなった。
しかし、この『ストライク・オブ・ゴッデス』を最初に編み出した5人の女性達。
彼女達が揃って一緒の戦車に乗ることは、もう2度とないのである……。
彼女達は、自分の道をそれぞれまっすぐに歩きはじめている……。
西住みほ、武部沙織、五十鈴華、秋山優花里、冷泉麻子。
彼女達『5人の女神』は、本当に『伝説』となった……。
『五人の女神と魔神戦車』へ続く……