ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
「『ユカリン達』ですか……」
秋山優花里は、2度そうつぶやくと腕を組んで考え込んだ。
武部沙織と澤梓、遠藤祐子の3人は、秋山優花里の様子を伺っている。
しばらく考え込んだあと、武部沙織にむかって、秋山優花里は話しかけた。
「でも武部殿……、今の彼女達はすぐ返事ができる立場じゃないですよ」
その答えを待っていたかの如く、武部沙織は話を続けたのである。
「うん。それも知っているから、ユカリンに相談しにきたのよ!」
「……どう攻めましょうか……」
「そうだね……。失敗はできないしね」
2人とも考え中だったため、しばらく間が空いた。
「やっぱり直談判しかないでしょうか?」
「うん、それしかないと思う」
武部沙織と秋山優花里の中で、何か話がどんどん決まっていっているようである。
しかし、澤梓と遠藤祐子には全く話が見えずにいた。
ただ黙って先輩2人が思案している様子を見ているだけであった。
再び考えてこんでいた秋山優花里は、武部沙織にむかってまた話を始めた。
見ている澤梓と遠藤祐子からすると、全く関係のない話を始めたかのように見えたのである。
「武部殿、学園艦の大洗への次の寄港予定日は、いつでしたっけ?」
「今週の土曜に入港予定だよ」
「よく知っていますね!」
「バイト先の買い出しのため、学園艦の寄港スケジュールは全部暗記しているの」
武部沙織は、胸を張って答えた。
それを聞いた秋山優花里は、感心した様子で言った。
「さすが武部殿です。じゃあ、その時に実行しますか?」
「うん。そうよね! やっぱりこういう事は直接じゃないとね!」
何か、先輩2人の中で話がまとまったようである。
澤梓と遠藤祐子は、ただポカンとして、二人の会話を聞いていた。
全く話が見えずにいた。
先輩達の会話が終わったようなので、澤梓は秋山優花里に思い切って聞いてみた。
「あのう、秋山先輩……」
「澤殿、どうかしましたか?」
「えっと……すみません。話がよくわからないんですが……」
この質問は、逆に秋山優花里を驚かせたようなのである。
「あれ? 武部殿が言っていた『いい方法』についての話ですけど……。武部殿。もしかして澤殿達には説明していないんですか?」
秋山優花里は、そう言うと武部沙織の方を見た。
「うん。話していないよ!」
武部沙織の痛快な返事に、今度は秋山優花里は笑いながら、澤梓の質問に答えた。
「そうですか! そういう事なら澤殿達には分からないはずですよ」
「秋山先輩は分かるんですか?」
「だって……、武部殿は言っていたじゃないですか!」
秋山優花里は左手の指を順に折り、数を数えながら話を続けた。
「『遠藤殿が今の戦車道チームを強くしたい』『澤殿からは西住殿にアドバイスを受けさせたい』『武部殿はユカリン達に協力してもらいたい』って……」
澤梓は、まだチンプンカンプンであった。
「あのう……それだけですけど……」
すると秋山優花里は、澤梓と遠藤祐子の方に体を向け直し、驚くべき事を言い出した。
「つまり……、武部殿は『初代あんこうチーム』を復活させたいんですよ!」
秋山優花里の言葉に、武部沙織は腕組みをしたまま「その通り」という風に大きく頷いた。
澤梓と遠藤祐子は驚きの表情のまま、秋山優花里を見つめた。
すると秋山優花里は「どうしてそうなるのか」を澤梓と遠藤祐子にわかりやすく説明を始めたのである。
「澤殿は覚えていると思いますが、我々が初優勝した時の2回戦はアンツィオ高校戦でしたよね」
「はい、そうでした」
「2回戦を戦うにあたって、戦車道の皆さんはどうされましたか?」
この秋山優花里の質問に、澤梓は一生懸命記憶をたどった。
「……あれは確か、……。そうです。西住隊長に、自分達がいろいろ不安に思っている事を質問しました!」
「はいっ! そうでしたよね。でも、皆さんからのあまりの質問の多さに、西住殿は困ってしまわれた。そこで私達『あんこうチーム』がした事は……」
「先輩達、皆さんで分担して質問に答えてくれました!」
「その通りです!」
秋山優花里と武部沙織は、ニッコリと笑った。
「今、西住殿は忙しく時間がありません。でも遠藤殿の願いを知ったら、どんな状況であっても来てくれるはずです。その時に私達『初代あんこうチーム』のメンバーが揃っていたら充分に指導訓練ができるはずです!」
秋山優花里の丁寧な説明に、澤梓と遠藤祐子は納得した様子で大きく頷いた。
澤梓と遠藤祐子は『初代あんこうチーム』のメンバーの凄さに、あらためて驚いたのである。
(たったあれだけの会話の中から、相手が言わんとしている事がわかるなんて……。……そういえば)
澤梓は、思い出していた。
(西住隊長は試合中、ほとんど車長席から顔を外に出していたっけ……今わかったわ。『初代あんこうチーム』のメンバーには、あれこれ指示を出す必要がなかったんだ……。わずかな指示でみんな理解してくれていたからなんだ)
武部沙織と秋山優花里の打ち合わせは、その間にどんどん進んでいっている。
遠藤祐子は、澤梓の手を軽く叩き合図を送って小さな声で話しかけた。
「……澤隊長。『初代あんこうチーム』のメンバーって物凄い方達なんですね」
「うん。……あらためて驚かされたわ」
「上手くいくんでしょうか? さっき、秋山先輩が気になること言いましたよね?」
「やっぱり祐子ちゃんも気付いた? 『彼女達はすぐに返事ができる立場でない』って言ったわよね」
武部沙織と秋山優花里の打ち合わせが終わったようである。
「それじゃあ、ユカリンは華の方お願いね。私は麻子のところに行くから」
「了解です!」
そう言うと、待っている澤梓と遠藤祐子の方に、武部沙織は体を向けて話しだした。
「梓ちゃん祐子ちゃん、お待たせ! 作戦会議終わったよ! きっとうまくいくからね」
「澤殿も遠藤殿も安心してくださいね」
先輩2人の力強い言葉に、遠藤祐子は、深々と頭を下げた。
「先輩方。本当に申し訳ありません。……私の力が足りないばかりに、ご迷惑をかけてしまって……」
武部沙織は少し照れたように、秋山優花里は笑いながら、遠藤祐子に話した。
「いいって、いいって。気にすることないから!」
「武部殿の言う通りですよ、気にすること無いです。それに2人にも協力してもらいますから!」
澤梓と遠藤祐子は、同時に返事をした。
「私達に出来ることは、なんでもします!」
「私も同じです!」
その返事があまりに勢いがあったため、逆に先輩2人はびっくりしたが、すぐに笑いながら、それを鎮めた。
「いやいや、そんなに力こめなくていいから……。梓ちゃん達2人には今度の土曜日、私たちに付き合ってもらいたいのよ」
「はい、全然構いません」
「今度の土曜日に学園艦が大洗に入港するから、二手に別れて『華の家』と『麻子の家』に行くことにしたの。それに梓ちゃんと祐子ちゃん、一緒についてきて欲しいのよ」
武部沙織の提案に、澤梓は聞き返した。
「……五十鈴先輩と、冷泉先輩のところに、ですか?」
この質問には、秋山優花里が答えた。
「そうなんです。五十鈴殿は澤殿も知っている通り、華道の『五十鈴流』を継承されました。冷泉殿は、おばあさんの面倒を見ながら弁護士になる為に猛勉強中の身なんです」
武部沙織も、話を引き継ぐように答えた。
「そういう2人に、電話で『お願いね』って訳にもいかないからね。この事はちゃんと2人に会ってお願いすべきだと思うんだ」
「私達だけでなく、相談してきた貴方達も一緒に行く事が相手への礼儀というものです」
秋山優花里が最後に話を締めくくった。
「はい、先輩方、どうかよろしくお願いします」
澤梓と遠藤祐子は、同時に感謝の言葉を告げた。
武部沙織と秋山優花里は、それに対して笑顔で答えた。
「ところで武部殿? 土曜日のバイトは大丈夫なんですか?」
秋山優花里は、武部沙織の顔を見て、質問をした。
「うん。大丈夫よ! バイト先のマスターは、戦車道の大ファンなのよ。私が戦車道やっていたこと言ったらね、最初は『バイトは要らない』って言っていたのに、履歴書なしで雇ってくれたからね。事情を話したらきっと大丈夫だよ!」
「そうなんですか」
秋山優花里は笑いながらそう答えた。
澤梓と遠藤祐子は、秋山理髪店の前で武部沙織、秋山優花里の2人と別れた。
帰り道、歩きながら遠藤祐子は澤梓がとても嬉しそうにしているのに気付いた。
空はもうとっくに暗くなっており、星たちが夜空にキラキラと瞬いている。
「澤隊長、うれしそうですね!」
遠藤祐子は、澤梓にむかって話しかけた。
「うん。とってもうれしいわ! ……まさか、こんな風になってしまうなんて思わなかった。祐子ちゃん! これで本当に『砲弾』と『翼』が揃ったら……。凄いわ! 考えただけでワクワクする」
遠藤祐子は、澤梓の言った言葉に質問をした。
「澤隊長『砲弾』と『翼』ってなんの事ですか?」
「『初代あんこうチーム』の後の2人の先輩達のあだ名よ!」
澤梓は2人を思い出すように、また興奮した様子で話を続けた。
「砲手だったのが五十鈴華先輩。『女神の砲弾』って呼んでいたの。とにかく絶対ここは外せないって時の先輩は百発百中だった」
「……。凄い方なんですね」
「そして『女神の翼』って呼んでいたのが、操縦手だった冷泉麻子先輩。本当に、どんなところにも戦車を動かしちゃうのよ。それこそ飛んでいっちゃうみたいにね」
「『初代あんこうチーム』の先輩方は、みなさん『女神の』って付くんですね」
「そうよ。そして、戦車道の仲間を大切に思ってくれて、困っている時は必ず助けてくれる。私達の母校がなくなるのを救ってくれた『女神』が……」
「……『西住隊長』なんですね」
遠藤祐子は、まだ見たことがないあとの3人の先輩達に思いを馳せたのである。
翌日の戦車道の、朝の訓練前ブリーフィングの時間である。
遠藤祐子は、整列している各チームを前にして、訓練前に話をした。
「皆さんにお知らせがあります。私達の為に戦車道の先輩達が指導訓練に来てくれるかもしれません」
この発表に、整列していたチームがざわついた。
戦車道を履修してくれている仲間の一人が質問してきた。
「遠藤隊長! いつ頃、来ていただけるんでしょうか?」
「それは、まだわかりません。今、先輩達の都合を合わせているところです」
遠藤祐子の発言に、戦車道履修者達は大変喜んだ。
そしてそのことは、お昼前には学校中に知れ渡ったのだった。
その日の昼休みのことである。
戦車倉庫で遠藤祐子と大森翔子はお昼ご飯を食べていた。
「しかし、祐子。朝の話は驚いたぞ」
「先輩達が来てくれること?」
「そうさ、いつの間にそんな話になったんだ?」
「うん、ちょっとね……」
遠藤祐子は、大森翔子の質問にはお茶を濁すような返事をした。
(まだ来てくれると決まってもいないのに、少し先走りすぎたかもしれない)
遠藤祐子は、そう思っていたのである。
そこへ、戦車倉庫の入口のドアが開いた。
現れたのは、浦田かなえ、恵の姉妹に北川亜希子だった。
現れた3人は、少し恥ずかしそうにしながら遠藤祐子と大森翔子の前に立った。
「どうしたの? みんな」
遠藤祐子は3人に声をかけた。
大森翔子も3人を見つめている。
「あのね、祐子ちゃん……」
まず北川亜希子が、口を開いた。
「もし、祐子ちゃん達が怒っていなかったら、私達、戦車道を取り直したいんだけど……。いいかな?」
「やっぱり私達、戦車道が好きみたいなんだ」
「ごめんなさい。自分勝手だとはわかっているんだけど、どうしても戦車道に戻りたいの」
浦田かなえと恵が、順に遠藤祐子と大森翔子に謝った。
遠藤祐子は、大森翔子の方を見た。
大森翔子が怒っていないのか確認したのだ。
大森翔子は「お前に任せる」と言った風に、小さく頷いた。
「もちろん、大歓迎よ」
遠藤祐子は、笑顔で3人に話しかけた。
「怒っていないの?」
「なんで、怒っていると思ったの?」
「だって……」
謝った3人は、お互いの顔を見て、頷きあった。
「祐子ちゃん、翔子ちゃん。本当にごめんなさい!」
「いいわよ、謝らなくても……」
「そうだぜ、これでまた『3代目あんこうチーム』の復活だな」
今、再び『3代目あんこうチーム』が、笑顔とともに復活をした。
遠藤祐子は、みんなの笑顔の中で、自分の喜びがあることを感じていた。
そして、夕方の訓練の時には戦車道を辞めてしまったメンバーがまた戻ってきてくれていたのである。
生徒会からは嫌味の一つも言われたが、ちゃんと履修し直しの手続きをして戻ってきてくれたのである。
遠藤祐子は、なにも言わずに喜んで戻ってきてくれる仲間を受け入れたのである。
そして、土曜日の朝になった。
学園艦が、ゆっくりと大洗の港に接岸した。
学園艦の中にある始発のバス乗り場に、4人の女性が集まった。
3人は春らしいパステル調の服に、パンツルック姿。
もう1人は、大洗女子学園の制服姿である。
「う~ん! 本当いい天気になったね」
背伸びをしながら、武部沙織は秋山優花里に話しかけた。
「自分は、久々に陸に上がります」
「私、アウトレットで思いっきり買い物したいなぁ!」
「武部殿! 今日は目的が違いますよ」
「ユカリン、わかっているって! ちょっと言ってみただけだから……」
「もう本当にお願いしますよ。この作戦の成否いかんで今後の展開が大きく変わるんですから」
武部沙織は秋山優花里にむかって敬礼をした。
「了解! オッドポール三等軍曹殿!」
「うわあ〜っ。武部殿、それはやめて下さい!」
まるで漫才をしているかのような二人の会話に、澤梓と遠藤祐子は苦笑した。
これから大洗の街までバスで移動をして、それから2手に別れて協力をお願いにそれぞれの目的地に行くのである。
学園艦始発のバスは、4人を乗せて大洗駅前のバス停に着いた。
4人はこのバス停で全員降りた。
そして打ち合わせた通り武部沙織と澤梓、秋山優花里と遠藤祐子の2手に分かれた。
「じゃあ、私は梓ちゃんと一緒に、ここからバスで麻子のところに行くね」
「では、私は遠藤殿と、五十鈴殿の家に向かいます」
「祐子ちゃん。頑張ってお願いしてくるからね」
「澤隊長。私も頑張ります。どうか先輩の皆さん方よろしくお願いします」
遠藤祐子は、3人に向かって深々と頭を下げた。
その姿を3人は微笑みながら見つめた。
武部沙織と澤梓は、到着していたバスに乗り込み、冷泉麻子の家に出発していった。
手を振って見送った秋山優花里と遠藤祐子は、バスが角を曲がり見えなくなってから振るのを止めた。
「さてと遠藤殿。私達も行きますか」
「はい。先輩」
2人は並んで五十鈴華の家がある通りにむかって歩いていたが、しばらくして遠藤祐子が秋山優花里にむかって声をかけた。
「あのう、秋山先輩……」
「どうかしたんですか? 遠藤殿」
「……その『遠藤殿』って呼び方なんですけど……。どうも気になっちゃって……。『遠藤』でも『祐子』でもいいです。呼び捨てしていいですから」
遠藤祐子の提案に、秋山優花里は笑いながらやんわりと拒否した。
「やっぱり変ですよね。でも、私はこの言い方が一番言いやすいんですよ。だから遠藤殿は気にしないで下さい。先輩風を吹かせると『こう呼ばせろ!』って、感じですね」
「分かりました」
「じゃあ、あらためて五十鈴殿の家に向かいましょう」
五十鈴華の実家は、大洗の街で一番大きい屋敷である。
古い大きな通りにそって、五十鈴邸の外壁がずっと続いている。
流石にアポイントなしでは家元になった彼女に失礼だったので、昨日の晩に秋山優花里は遠藤祐子と共に来訪する意思を伝えておいた。
さっきから、ずっと外壁沿いを歩いている2人である。
遠藤祐子は、感心したように秋山優花里に話しかけた。
「五十鈴先輩の家って、すごいですねぇ」
「そうですよねぇ。大洗の街一番に大きい家だそうですよ」
そして、しばらく歩いてから、秋山優花里は前方を指差した。
「あっ、見えてきましたよ、あそこが正門です。……あれっ、誰か正門前に立っていますね」
秋山優花里と遠藤祐子は、同時に人影を見つけた。
正面の門前に、直立不動でハッピを着た男の人が立っていた。
男性は歩いてくる2人に気づくと、うやうやしくお辞儀をした。
「……失礼ですが、秋山様と遠藤様ですか?」
「はいっ。もしかして、新三郎殿ですか?」
新三郎は、秋山優花里が自分の事を覚えていてくれたことを嬉しく思った。
「はい、新三郎です。……お懐かしゅうございます。秋山様……」
再びお辞儀をされて、秋山優花里と遠藤祐子は、同じくお辞儀をした。
「こちらこそ、ご無沙汰してます」
「昨日から、お嬢様……。失礼、若先生がお二人の来訪を楽しみに待っていらっしゃいます。さぁ、どうぞこちらへ……、ご案内いたします」
そう言うと、新三郎は、五十鈴邸の正門をゆっくりと押して開けた。
新三郎に案内されながら、秋山優花里と遠藤祐子は五十鈴邸に入っていった。