ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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宜しくお願いします。

 

 五十鈴邸に入った3人、新三郎と秋山優花里と遠藤祐子。

 

 様々な木々が、本宅の玄関までの道を飾るように、左右に生い茂っている。

 新三郎は、二人の前をゆっくりと歩いている。

 秋山優花里と遠藤祐子の歩く歩調に合わせ気を遣いながらである。

 そして新三郎は、嬉しそうに2人に話しかけた。

 

「秋山様からお電話をもらったあとのお嬢様……。あっ、また間違えちまった。どうもまだ慣れてなくて……。若先生は大層な喜びようで、今日もいつもより早くお目覚めになられました」

 

 秋山優花里は、そんな新三郎の話に微笑みながら、言葉を返した。

 

「新三郎殿は、五十鈴殿を最近まで以前みたいに『お嬢様』と呼んでいたんですね」

「はい。でも、やはりケジメはつけませんといけないですから。早く私もこの呼び方に慣れないといけませんね」

 

 やがて、3人の正面に格子戸の大きな玄関が現れた。

 新三郎は「少しお待ちください」と言うと、その玄関の引き戸を開けた。

 『ガラガラガラ』とレールの上を引き戸が移動してゆく。

 「どうぞ」という感じに手を広げると、新三郎は一歩下がった。 

 そして、玄関の上り口で、和服姿の女性は2人を待っていた。

 

「お二人共、ようこそお越しくださいましたわ」

「……五十鈴殿、本当に久しぶりですね!」

「秋山さんも、お元気そうでなによりですわ!」

 

 そう言うと女性は、ニッコリと微笑んだ。

 

「そして、そちらの方が遠藤さんですの?」

「はいっ! 遠藤祐子といいます。五十鈴先輩、はじめまして」

 

 遠藤祐子の顔を見た五十鈴華は、微笑みながらゆっくりと会釈をした。

 

「はい。遠藤さん、はじめまして。五十鈴華です」

 

 和服姿がとても良く似合う、優雅な物腰のこの女性。

 

 

『五十鈴華』

 20歳。元大洗女子学園戦車道チーム『初代あんこうチーム』で、主砲を発射する担当の『砲手』だった女性ある。

 見た目通りの生粋のお嬢様だが、並外れた集中力と揺るがない鉄の意思の持ち主。

 自分の華道に壁を感じた彼女は、それを乗り越えるべく戦車道の砲手になった。

 今は戦車道はきっぱりと止め、華道の流派のひとつ「五十鈴流」の若き指導者となり、日々、多くのお弟子さんに生け花の指導をしていた。

 

 

 遠藤祐子は、緊張で顔が少し紅潮していた。

 五十鈴華から出される、何かしらオーラみたいなものに圧倒されていた。

 武部先輩や秋山先輩とは全く違うタイプの彼女に、遠藤祐子はおおいに戸惑っていた。

 五十鈴華は、遠藤祐子の、そんな様子に気がつかない。

 

「さあ、お二人共、お上がりください。新三郎! お二人を客間の方へご案内してちょうだい!」

「はい。若先生、かしこまりました」

 

 新三郎は、先に玄関を上がると、2人に中に入るよう促した。

 

「それじゃあ、失礼してお邪魔します!」

「……おじゃまします」

 

 秋山優花里と遠藤祐子は、それぞれ挨拶をして玄関を上がった。

 再び新三郎に案内されて、五十鈴邸の廊下を歩く2人。

 堂々たる室内や廊下の様子に、遠藤祐子は恐れおののいていた。

 

「こちらでございます、どうぞ」

 

 新三郎に案内されて、2人は五十鈴家の客間に通された。

 客間に入った秋山優花里は、その見覚えのある部屋に懐かしさを感じ、新三郎に話しかけた。

 

「この部屋は……、思い出しますね。初めて五十鈴殿の家に来た時に案内された部屋です」

「そうでしたね。そのあと、奥様とお嬢様が大喧嘩されたんでしたね」

 

 新三郎は、その時の事を思い出して、それを懐かしむように答えた。

 

「あの時の、喧嘩の原因を作ってしまったのが……私でした」

「いえ、逆にあれでよかったんだと、あの後、私は思ったんですよ」

 

 秋山優花里は『えっ』という表情になり、新三郎の顔を見直した。

 

「あの頃、お嬢様が戦車道をやっていることを奥様にいつまでも隠せるもんじゃないです。……そりゃあ、お嬢様は大事な『五十鈴流』華道の跡取りでしたから奥様がご心配になられても当然といえば当然でしょう」

 

 新三郎は、秋山優花里の方を見ながら「問題はない」といった口調で話を続けた。

 

「でも、奥様はいってらっしゃいました。『戦車道をはじめてから、華さんは変わってきた』と……。……おっと、話が長くなっちゃいましたね。どうぞ、ごゆっくりしてください。今、お茶をお持ちします」

 

 新三郎は立派な座布団を2人に勧めてから部屋を出て行った。

 

 

 座布団に座った遠藤祐子は、秋山優花里の方を向いて小さな声で話しかけた。

 

「秋山先輩、五十鈴先輩ってなんだか凄いです」

 

 秋山優花里もそう感じたらしい。

 

「そうですね、なんだか『家元』の貫禄ってものが身についてきた感じです」

「昔から、あんな感じだったんですか?」

「うーん、……確かに『お嬢様』オーラは全開だった気はしますが……。『貫禄』……いや、『威圧感』みたいな、今の感じは全然なかったですね」

「……威圧感……ですか?」

「うーん、それも率直な私の感想なんですけどね」

 

 しばらく待っていると、部屋に入ってきた方の襖が開いた。

 そして、1人の女性が入ってきた。

 五十鈴華の母親である、五十鈴百合である。

 

「ようこそ、お二人ともいらっしゃいました」

「五十鈴先生、ご無沙汰しています」

 

 秋山優花里は、お辞儀をしながら挨拶をした。

 慌てた感じで、遠藤祐子もすぐにお辞儀をした。

 

「こんにちは、はじめまして。『遠藤祐子』です」

「遠藤さんですか? はじめまして『華』の母です」

 

 そう言って五十鈴百合は、2人の前に座布団を敷いて座った。

 その直後にまた襖が開いて、今度は五十鈴華が現れた。

 

「お母様、こちらにいらっしゃったんですか?」

「久しぶりに『華さん』のお友達がいらっしゃったので、先に挨拶しておこうと思いましてね」

「もう……そんなことしなくても、ちゃんと呼びに参りましたのに」

 

 五十鈴華は軽く咎めるような口調で母親を責めながら、自分も座布団を敷きそれに座った。

 

 遠藤祐子は、とにかく縮こまっていた。

 自分の経験したことのない世界に迷い込んでしまった感である。

 秋山優花里は、楽しそうに百合と華と談笑している。

 そこへ、新三郎がお茶と茶菓子を持って入ってきた。

 持ち込まれたお茶と茶菓子を、五十鈴華は2人の前に差し出した。

 

「さあ、ご遠慮なさらずお食べください。遠藤さんもどうぞ」

「はい、ありがとうございます。いただきます!」

「ウフフ……」

 

 遠藤祐子は、緊張をほぐすために、乾いた喉をお茶で潤した。

 少し座が温まってきた感じになったこの時に、秋山優花里は、意を決して話し始めた。

 

「……ところで、今日は五十鈴殿に相談が合って来たのです」

 

 

 さすがに大切な話が始まると感じたのであろう、五十鈴百合は腰を浮かせた。

 

「……それでは、私はこれで」

「いえ『五十鈴先生』にも是非聞いて欲しいんです。よかったら一緒にお願いします」

 

 秋山優花里は、実はじっと相談を打ち明けるチャンスを探していた。

 いくら昔の仲間といえども、『五十鈴流』を継ぐために、戦車道をきっぱり引退した五十鈴華をどうやって説得できるか、ずっと考えていたのである。

 

「まず、改めて『遠藤祐子殿』を紹介します。彼女は、大洗女子学園戦車道チーム、3代目隊長の責を背負っています。……これは、前隊長の澤梓殿から聞いたんですが……。彼女の戦車道は高校に入ってからで、高校に来てやっと本格的に戦車に乗り始めたそうです。彼女が卒業した中学には戦車道がなく独力で勉強していたそうなんです」

 

 五十鈴華と五十鈴百合は、黙って秋山優花里の話を聞いている。

 少し呼吸を整えて、再び、秋山優花里は話し始めた。

 

「彼女は大洗女子学園が初優勝した時に、圧倒的不利の中1輌また1輌と身を犠牲にしてフラッグ車を守っていく『みんなで勝つ』大洗女子学園戦車道に感動し、越境入学してまで、大洗女子学園に来たといっています。彼女は、一生懸命努力し、頑張って、前隊長の澤梓殿から隊長を引き継ぐまでになりました」

 

 遠藤祐子は、真っ直ぐに五十鈴華と五十鈴百合を見つめていた。

 秋山優花里が、必死の思いで説得を続けている。

 

「……しかし、今、彼女は壁にぶつかっています。自分ではどうしようもない壁のようです。……五十鈴殿。私は、彼女の指揮する戦車道チームの試合を全部見ています。何が悪い、どこが悪いというよりも、今の戦車道チームは、『みんなで勝つ』という、私達が西住殿から学んだ『大洗女子学園の戦車道』でない気がしています。遠藤殿達、今の3代目に当たる戦車道チームは進むべき道がわからない。道が消えてしまって先に進めないと言ったほうがいいかもしれないんです」

 

 秋山優花里は、ここで口調を一気に変えた。

 

「五十鈴殿……。いきなりこんなお願いをして、本当に申し訳ないとは思うんですが……。彼女が……いや彼女達、後輩のみんなが自分達の戦車道を見つけるまで、戦車道に戻ってきてくれませんか?」

 

 秋山優花里の渾身の説得である。

 

 五十鈴華は、黙って秋山優花里の話を最後まで聞いていた。

 そして、秋山優花里の話が終わると、座り直して今度は遠藤祐子の方に向いた。

 

「遠藤さん」

「……はい」

「あなたの方からも話が伺いたいです」

 

 遠藤祐子は、じっと五十鈴華の目を見つめ返して話をはじめた。

 

「私は、大洗女子学園の戦車道に憧れて大洗女子学園に入学しました。……中学では戦車道がなく、仲間もいませんでした。……大洗女子学園に入学して、初めて戦車道の仲間ができました。『好きな戦車道をみんなとできる』それだけで私は満足でした。……他のみんなは、中学から戦車道をやっている子達ばかりだったので、ただ、足を引っ張らないようにと思い、必死に頑張りました。……憧れだった澤隊長の背中を、真っ直ぐに追いかけていきました」

 

 そこまで一気に話した遠藤祐子だったが、少しうつむき加減に、顔が下がってきた。

 

「……でも、澤隊長達が卒業してしまった時、私自身がわからなくなってしまったんです」

 

 五十鈴華と五十鈴百合は、さっきと同じように黙って話を聞いている。

 再び、顔を上げて、真っ直ぐに五十鈴華の目を見直した遠藤祐子。

 

「私は、澤隊長の歩いてきた道を、ただなぞっていただけだったんです。目の前にある道は、澤隊長が作ってくれた道だったんです。……私自身が作らなければいけない戦車道の『道』……その道の作り方がわからないんです。五十鈴先輩。本当に勝手を言ってすみません。……お願いです、五十鈴先輩。……私達に『道』の作り方を教えてください。お願いします」

 

 遠藤祐子は言い終わると、座布団から一歩下がり座り直して、頭を畳につけた。

 五十鈴華は少しうつむいて、そして、また秋山優花里と遠藤祐子の方に姿勢を正した。

 

「遠藤さん、顔を上げてください。……秋山さんや遠藤さんのお話はわかりました。しかし、今の私にはすぐにお返事する事ができません」

 

 五十鈴百合は、黙って娘の様子を見ている。

 

「しばらく、考えたいのです……」

 

 そう言うと、襖の後ろで待機しているであろう、新三郎を呼んだ。

 

「『新三郎』は、そこにいますか?」

「……はい。『若先生』御用ですか?」

「お二人をお庭の方へご案内して頂戴」

「かしこまりました。秋山様、遠藤様。どうぞ、こちらへ」

 

 2人が新三郎に案内されて部屋を出て行ったあと、客間には、五十鈴華と五十鈴百合の母娘が残された。

 五十鈴華は、目を閉じて深く考えている。

 五十鈴百合は、そんな娘の様子をみて口を開いた。

 

「華さん……。何をそんなに考えているの? 華さんのお返事は決まっているんでしょ……」

「お母様……」

 

 五十鈴百合は、娘である華に正対すると、少し咎めるような口調になった。

 

「秋山さんと華さんがお話をしているのを横で聞いていて、私は気づいたことがひとつあります。……それは、華さんの秋山さんに対する言葉使いです」

 

 きっぱりと五十鈴百合は言い切った。

 

「私が覚えている限り、華さんは秋山さんのことを『優花里さん』と呼んでいたはずです。華さんは昔のお友達、しかも親友だったお友達をただの知り合いみたいな呼び方をしていました」

 

 五十鈴華は、少しうつむいて母親の話を聞いていた。

 

「秋山さんも途中でそれに気づいていたのでしょう。お友達としてではなく、まるで知らない人にお願いする口調でしたわ」

 

 五十鈴華は、母親の鋭い指摘に、さらにうつむいてしまった。

 

「私は、華さんに『五十鈴流の家元としての自覚を持ちなさい』といつも言ってきましたね。でも、それは『家元の名で人を威圧させる』という意味ではないのです。『家元の自覚』というのは『その人を導いてやれる度量を身につけなさい』という事なのです」

「……お母様」

 

 五十鈴華は、目にうっすらと滲むものがあった。

 いつも一緒に過ごしてきた仲間に、自分がそんな風に変わってしまったと思われてしまったとしたら……

 もう取り返せないかもしれない。

 そう思ったら、悲しくてどうしようもなくなった。

 

 五十鈴百合はうつむいて涙をこらえる娘に優しく諭した。

 

「華さん、いいんですよ。無理をしなくても……。『人を導く度量』というものは、すぐに身につくものではありません。ゆっくりと身につくものなのですから」

 

 そして迷っている五十鈴華の背中をそっと押して上げるように言った。

 

「今、お友達と後輩の方が、あなたの持っている力を貸してほしいと言っているのです。……華さんは、お友達の頼みを、無下に断るような人なのですか?」

 

 その言葉を聞いた五十鈴華は、真っ直ぐに母親の目を見つめると、決心した様子で話した。

 

「お母様、ありがとうございます。私、優花里さんたちのお手伝いがしたいです」

 

 五十鈴百合は、ニッコリと微笑むと、娘の決心に答えた。

 

「華さん。早く秋山さん達に自分の気持ちを伝えてきなさい」

「はい!」

 

 そう言うと五十鈴華は、急いで立ち上がり、客間を飛び出したのである。

 あの無理に作った貫禄ではなく『威圧感』は『気品』に変わっていた。

 

 

 

 玄関から庭の方に回った五十鈴華は、秋山優花里と遠藤祐子の姿を探した。

 そして、庭のベンチに腰掛けている2人を見つけると、大きく手を振って2人を呼んだ。

 

「優花里さん、遠藤さん!」

 

 五十鈴華に呼ばれたことに気づいた秋山優花里と遠藤祐子は、ベンチから立ち上がった。

 

「……あれ、五十鈴殿。なんだか感じが変わりました。昔の五十鈴殿みたいです」

「ごめんなさいね。お待たせしちゃって」

「五十鈴殿、いいんですよ」

 

 遠藤祐子は、五十鈴華の顔を見て、恐る恐る聞いてみた。

 

「……あのう、それで五十鈴先輩……」

「はい。私でよければ、微力ながらお手伝いさせていただきますわ。……どうぞ、宜しくお願いいたしますね」

 

 微笑みながら、五十鈴華が返事を出した。

 

「うわああ、夢みたいです。……五十鈴殿にお願いされました。あれ、……でも、お願いに来たのは私達の方なんですが……」

「いいじゃありませんか! どっちでも」

 

 昔の五十鈴華である。あの五十鈴華が戻ってきた。

 遠藤祐子は、五十鈴華にむかって、深々とお礼をした。

 

「五十鈴先輩、どうか宜しくお願いします!」

「こちらこそ、宜しくお願いいたします!」

「五十鈴殿と遠藤殿、なんだか、さっきから『お願いします』の連続射撃ですね」

「ウフフ……そうですね!」

 

 3人の弾けるような笑顔と笑い声が、五十鈴邸の庭に響いている。

 その笑い声を急に止めたのは、携帯電話の呼び出し音だった。

 

「はい、もしもし秋山ですけど……」

「あっ……ユカリン! 大変、大変なのよ。麻子のお婆ちゃんが大変なのよ!」

 

 

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