ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
ここは、九州の玄関口「博多駅」である。
九州新幹線の鹿児島行きホームに向かって、1人の女性が走っている。
右手に重そうなトランクを引きずり、息を切らしながら走っている。
女性は左手につけた女性用の軍用腕時計をチラリと見ると、さらに焦り始めた。
そして、女性は独り言を呟き始めた。
「遅れちゃうよぉ、どうしよう、どうしよう……。もうどうして、いつもこうなっちゃうのかなあ? お姉ちゃん、もう着いているのかな? 着いているよね。またお姉ちゃんに怒られちゃうよ……」
ホームに続く階段を上がり、指定席の番号がある号車まで女性は走った。
やっと目指す号車が見えると、入り口のドアに仁王立ちで立つ女性を見つけた。
どうやら、走ってきた女性の身内のようである。
女性は駆けてくる女性にむかって、いきなり怒鳴った。
「みほ! またか……。10分前行動は戦車道の基本だぞ!」
駆けてきた女性は、怒鳴った女性の前に直立不動で立つと、頭を下げた。
「ごめんなさい。お姉ちゃん……。乗っていたタクシーが渋滞に巻き込まれちゃって」
「いつも『一手先を読みなさい』と、お母様から言われているだろう」
少し呆れたような声で身内と思われる女性は、彼女に言った。
「タクシーの運転手に『裏道を使っていいから』と言わなかったのか?」
「……いえ、言いませんでした」
直立不動で立つ女性は、少しうなだれた様子で答えた。
「……全くお前は。とにかく電車に乗るぞ! 説教はそれからだ!」
「……はい、お姉ちゃん」
新幹線の乗車口で、姉に叱られているこの女性
『西住みほ』
20歳。元大洗女子学園戦車道チーム『初代あんこうチーム』で、戦車を指揮する『車長』を担当し『戦車道チーム』の総指揮官である『初代隊長』も同時に務めあげた女性である。
高校時代よりも少し髪が伸び、肩を少し超えるくらいの栗毛色の綺麗の髪である。
戦車道を全く知らないメンバーを率いて『快挙』と言われる戦車道全国大会、初出場初優勝を達成し、母校の廃校の危機を救い、翌年の2連覇も成し遂げた。
高校戦車道の歴史に残る稀代の名隊長である。
今は戦車道の家元『西住流』の副師範であり、姉のまほが師範代理を務めている。
また、戦車道日本代表の最年少代表でもある。
しかし、今、彼女もまた西住流のプレッシャーから、自分の戦車道を見失いつつあった。
熊本に向かう新幹線の車中の中。
切符が指定する番号の席に、姉のまほと並んで座った。
西住みほは、背を丸めて小さく座っている。
そんな彼女を見た姉のまほは、大きくため息をつきながら話しかけた。
「まったく……。みほはいつまでそんな風にしているつもりなんだ? お母様の期待にどうして答えようとしない。お母様だけではない。私だってみほには期待しているんだぞ」
優しい言い方だが怒りがこもった言葉に、西住みほは今度は頭を下げてうなだれた。
「……ごめんなさい。お姉ちゃん」
西住まほは、妹のそんな様子に、もう責める気が失せてしまった。
「……最近、お前の口からは『すみません』『ごめんなさい』しか出てこないな」
「……ごめんなさい……」
電車は、一路、西住家の実家のある熊本を目指していた。
窓の外は、雨雲で覆われている。今にも降り出してきそうだ。
西住まほは、それ以上、何も言わなかった。
西住みほは、黙ってうつむいていた。
・・・・2日前・・・・
○○病院を後にした6人は、大洗の街の中心部にあるファミリーレストランにいた。
武部沙織が、簡単にみんなのオーダーを取りまとめて、オーダーをかけた。
そして一息がつける状態になると、冷泉麻子が武部沙織の顔を見て質問をした。
「……沙織。さっき言っていた『ミポリン奪還作戦』とは、いったい何の事だ?」
「うん。それにはね、まず、みんなに見てもらいたいものがあるの!」
そう言うと武部沙織は、秋山優花里の顔を見て言った。
「ユカリン。あの本持ってきてくれた?」
「もちろんです。……ちょっと待ってください」
秋山優花里は自分がいつも背負っているリュックの中から、1冊の本を取り出した。
「じゃん。この本です!」
秋山優花里が取り出した本は『戦車道マガジン』だった。
表紙には、西住みほの姉である、西住まほが写っている。
秋山優花里は、ペラペラとページを捲りながら、みんなに話し始めた。
「この本には戦車道日本代表のメンバー紹介が載っているんですが……。ここです! この西住殿を見てください!」
そこには日本代表選手たちの顔写真が、免許証写真程度の大きさで並んでいた。
そして年齢的に一番若い西住みほの写真が、一番最後の位置にあった。
「……これが、今のみほさんなんですか?」
「……まるで別人だ」
2年ぶりに見た親友の顔が写真だけだがあまりに変わっているのを見て、五十鈴華と冷泉麻子は唖然といった表情で感想を言った。
秋山優花里は、さも愛しそうに西住みほの写真を右手でなぞりながら、寂しそうに言った。
「……はい。他の日本代表メンバーは笑っているんですが、西住殿だけが笑っていません」
「しかも、なんだか雰囲気も違う感じがしない?」
武部沙織の意見である。
澤梓は真っ先に同意した。
「はい。私が知っている西住隊長の感じじゃないです!」
みんなも同じなのであろう、澤梓の言葉に一様に頷いた。
それを確認した武部沙織は、力強く断言した。
「ここに写っているミポリンはね。ミポリンじゃないのよ! 西住流の重荷を背負った『西住みほ』なのよ!」
武部沙織は、西住みほとの思い出を回想するように語りだした。
「私ね、……卒業するちょっと前に、ミポリンに聞いたことがあるんだ……。『ミポリンは、将来何になりたいの?』『西住流を継ぐ気なの?』って」
武部沙織を除く5人は、じっと話を聞いている。
「そうしたらね、ミポリンはこういったの。『沙織さん。私ね、本当は幼稚園の先生になりたいんです』って。でも、ミポリンはこうも言ったの。『でも、西住流の家元の娘だから……西住流を守らなきゃいけないから……』って。ミポリンは、少し寂しそうに、そう言っていたのよ」
武部沙織の内明け話に、西住みほが持っていた辛い葛藤を、その場にいた皆が理解した。
やはり五十鈴華が一番良く理解できるようだ。
「……その気持ち、なんとなく分かる気がします。私も小さい頃から『家元の娘だから家を継がなければいけない』って教えられてきましたから。……自分の将来は生まれた時から決められているんです」
武部沙織は、みんなの顔を見渡して、自分の思いを伝えた。
「……だから、みんなの力でミポリンの笑顔を取り戻したいの! 『西住みほ』じゃない、ただの『ミポリン』をみんなでの力で!」
秋山優花里も力強く、武部沙織の言葉に続いた。
「そうです。私たちに戦車道を教えてくれていたあの頃の西住殿は、明るくいつも笑顔で私たちを引っ張ってくれていました!」
「……そうだったな」
冷泉麻子は、あの頃の笑顔に満ちた西住みほを思い出していた。
武部沙織は、あらためて、皆の顔を見渡して、話しを続けた。
「私たちとまたおしゃべりすること。祐子ちゃん達、後輩に戦車道を教えることで、あの頃のミポリンに戻るんじゃないかって思うんだ」
「沙織さん、分かりましたわ。だから『ミポリン奪還作戦』なんですね」
「そういうこと!」
6人は「ミポリン奪還作戦」の本当の意味を全員理解した。
理解した上で、秋山優花里に、冷泉麻子は作戦内容を聞いた。
「……具体的にはどうするんだ?」
「まず、みんなで……」
熊本駅に降り立った西住姉妹は、タクシーに乗って自分の家に向かった。
「西住家」は熊本市内から、少し東に寄った山側にある。
流石に、日本で一番の戦車道の流派の家である。
広大な敷地の中に訓練場と射撃練習場をも持ち、自然を生かした様々な訓練ができるようになっている。
その敷地内の一番市内よりの所に、西住邸はある。
平屋建ての一軒家で、純日本家屋の家である。
西住みほと姉のまほは自宅に着くと、まず母親である西住しほに戦車道日本代表合宿の成果を報告していた。
それが終わると、それぞれがやっと自分の部屋に戻ってきた。
西住みほの部屋は、姉のまほと隣同士の部屋である。
部屋に入った西住みほはトランクスーツを部屋の隅に置くと、中も開けずに、そのままベッドに転がった。
まだ部屋着に着替えもしていない。
「……今日はなんだか疲れちゃったなあ。早く寝よう」
そう呟いて体を起こした時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「みほ御嬢様。いらっしゃいますか?」
家の中のことをお願いしている、家政婦が呼んでいるのだ。
西住みほは、急いで立ち上がると、部屋の外に向かって返事をした。
「はいっ、いますけど」
「合宿に行かれている間に、みほお嬢様宛にお手紙が届いておりますのでお届けに来ました」
「手紙……ですか?」
意外な届け物である。
西住みほは、部屋のドアを開けて、家政婦から手紙を受け取った。
全部で5通の手紙である。
送り主の名前を確認した西住みほは、とたんに顔がパアッと笑顔になった。
手紙の送り主は、武部沙織、秋山優花里、五十鈴華、冷泉麻子が各1通ずつ。
澤梓と遠藤祐子が連名で1通であった。
西住みほは、受け取った手紙の束を胸に抱きしめながら、部屋の中でジャンプをした。
「みんなからだぁ……。みんなからの手紙だぁ。みんな元気なのかな。……会いたいなぁ」
西住みほは預かった手紙を、大事に1通ずつ、順に封を開けていった。
最初に開けたのは、武部沙織からの手紙である。
「沙織さん、喫茶店でアルバイトしてるんだぁ。昔から料理上手だったもんね」
続いて秋山優花里の手紙を開けた。
「優花里さん、筋トレを相変わらず続けているのね。陸上自衛隊入れるといいね」
次に開けたのは、五十鈴華の手紙である。
「華さん、家元として頑張っているんだぁ。あいかわらず綺麗なんだろうなぁ」
その次は冷泉麻子の手紙だった。
「麻子さん、お婆ちゃん入院したんだ。でも手術受けてくれてよかったね」
1通1通に書いてある内容は、彼女達自身の近況の報告と、西住みほへの元気でいるのかという手紙なのだが、西住みほにとっては、何よりの心の癒しになった。
西住みほは、親友達との楽しかった日々を思い出しながら、最後に澤梓と遠藤祐子の手紙を読み始めた。
読み進めた西住みほの顔が、段々と真剣な表情に変わっていった。
「……わかったよ。お姉ちゃんに相談してみるから、ちょっと待っててね」
西住みほは手紙にむかってそう言うと、手紙を持ったまま意を決したような表情で部屋を出て、隣にある西住まほの部屋へ向かった。
・・・・・2日前・・・・・
「……みんなで西住殿へ手紙を書きたいと思います」
秋山優花里は冷泉麻子の質問にこう答えた。
「……なぜ、手紙なんだ?」
さらに続く冷泉麻子の質問に今度は武部沙織が答えた。
「手紙って不思議でしょ。例えちょっとしたことでも手紙をもらうと、貰った方は嬉しいんだよね」
すると、五十鈴華が納得したように話した。
「確かに、他愛もないことでも手紙でもらうと印象に残りますわね」
「本当は西住殿の実家に行って遠藤殿の願いを伝えなければならないんですが……。熊本はやっぱり無理ですから、……どうするか、どうしたらいいかを考えた結果、手紙で思いを伝えようと思うんです」
秋山優花里の説明に、武部沙織が補足した。
「ほら、ラブレターと一緒だよ。書く方も貰う方も真剣になるでしょ!」
「おい……そんな大事なことをラブレターと一緒するのもどうかと思うぞ」
冷泉麻子は納得しながらもボソリと呟いた。
しかし、五十鈴華がそこをフォローした。
「でも、確かに思いを込めた文面は人の心を揺さぶりますよね」
「そうでしょ! だから手紙でみんなの思いを伝えるのよ!」
武部沙織は二ッコリと笑って、みんなに同意を求めた。
そうしてみんなの意見はまとまり、西住みほへの思いを懸命に綴った手紙を『女神の四天王』が、澤梓と遠藤祐子は、自分達の戦車道への思いを綴った手紙を書き上げ、大洗の街から西住みほ宛に投函したのだった。
西住みほは、西住まほの部屋をノックして、ドアの外から声をかけた。
「……お姉ちゃん。まだ、起きてる?」
「みほか。……入れ」
西住まほは机に座って、報告書の類の書類を見ていた。
書類を見ながら、声だけで西住みほに対応していた。
「どうしたんだ。こんな時間に……。何か用なのか?」
「うん、お姉ちゃんに相談したいことがあるの」
ここで初めて西住まほは、妹の方を見た。
西住みほは黙って持ってきた澤梓と遠藤祐子の手紙を、西住まほに手渡した。
手紙を受け取って文面を読んだ西住まほは、西住みほを見直して質問した。
「……それで、みほはどうしたいんだ?」
西住みほは立ったまま、姉の質問に少しうつむきながら答えた。
「お姉ちゃん。……私ね、ずっと重荷だったの。尊敬するお母さんやお姉ちゃんの代わりをすることが……。私は『西住流』戦車道というのが……、私「西住みほ」の『西住流』がまたわからくなっちゃったの……」
西住まほは、黙って妹の告白を聞いている。
西住みほは、少し間を置いて、話を続けた。
「お母さんやお姉ちゃんみたいに才能があるわけじゃないし」
「……才能? 才能ならみほの方が上だと私は思っている。みほは、今までの『西住流』戦車道の枠を超えている、と私は感じているんだが……」
西住まほは、妹に対する自分の本音を初めて彼女に言ったのである。
しかし、西住みほにはそれが重圧だったのだ。
才能はあるかもしれない。
しかし、性格は基本的に争いや競争事を嫌う。
西住みほは、そんな女性なのである。
西住みほは姉のまほの顔を直視し、直立不動の体勢になり、上司に意見具申をするように言った。
「……お姉ちゃん。私ね、みんなにもう一度会ってきたいの。それでもう一度、自分の戦車道を見直してきたいんです! ……お姉ちゃん。いえ『西住師範代理』にお願いします。私にもう一度、戦車道を見つめ直す為の機会を持つ許可をください! お願いします!」
そこまで話した西住みほは、45度のお辞儀を西住まほに対して行なった。
西住まほは、目の前で懇願する妹を見て、あの大洗女子学園が初優勝した時に、自分に妹が言った『お姉ちゃん、私ね、自分の戦車道見つけたよ』という笑顔を思い出していた。
(そうか……。わかった。妹に今必要なものは、母や私のアドバイスではない)
「みほ……『西住流』戦車道に『逃げる』の文字はない。逃げずに真正面から自分を見つめ直すのだな?」
そう問い返すと、西住みほはあらためて力強く西住まほに対して言ったのである。
「はいっ! 西住師範代理に誓います。『西住流』の名にかけて」
その言葉を聞いた西住まほは、体をまた机の方に向けると、書類に目を通しながら言った。
「……わかった。好きにしていい。お母様には私から伝えておく」
「お姉ちゃん……ありがとうございます!」
「ただし、みほ、日々の業務、訓練の合間をぬってだぞ。わかっているな」
「はいっ!」」
一礼をして姉の部屋を出た、西住みほは、自分の部屋で急いでメールを打った。
武部沙織は、バイト先の喫茶店から帰る途中で……。
秋山優花里は、日課のジョギングの途中で……。
五十鈴華は、執務部屋で次の授業の準備をしている時に……。
冷泉麻子は、部屋で受験勉強をしている途中で……。
澤梓は遠藤祐子と一緒に戦車道の訓練の打ち合わせをしている時に……。
一斉に携帯電話がメールを受信した。
「今度の日曜日、10時に大洗女子学園で会いましょう。 西住みほ」
「やった。やったぁ! ミポリンが来る。ミポリンに会えるよ!」
「やりましたね。西住殿、待っています!」
「みほさん……。わかりました。日曜日ですね」
「……了解、隊長」
西住みほからのメールを受け取った『初代あんこうチーム』のメンバーは、それぞれメールにむかって呟いたのである。
そして西住みほを、今一番必要としているこの二人は……
「来る……。本当に来てくれるよ。祐子ちゃん、西住隊長が……」
「澤隊長! これで私達の戦車道チームが生まれ変われるんですね」
「うん、うん、そうね。……これで先輩達の『親友』を目覚めさせることができるわね!」
「はい! 明日、早速お願いしてきます!」
これで『初代あんこうチーム』の最後のメンバーが目覚めることになったのである。