ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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私達の親友です。

 

 翌日の朝の訓練が終わってのことである。

 

 遠藤祐子は、今、大洗女子学園の中庭に立っていた。

 大洗女子学園の中庭には1輌の戦車が『記念車輌』として、とても大きく丈夫で、透明なアクリルボックス中に入れられて大切に保存されていた。

 砲塔側面に描かれたピンク色の「あんこう」マーク。

 下の方には記念プレートがあり、この戦車の功績と性能が書かれていた。

 そして、一番最後の部分に可愛い女性文字で『言葉』が彫られていた。

 

『この戦車は、私たちの永遠の親友です』

 

「大洗女子学園戦車道『あんこうチーム』西住みほ、武部沙織、秋山優花里、五十鈴華、冷泉麻子」

 

 遠藤祐子は、そのプレートと目の前に眠る1輌の戦車にむかって呟いた。

 

「……もうすぐ先輩達に会えるよ……。絶対に許可をもらわなくっちゃ!」

 

 

 その日の昼休み時間である。

 遠藤祐子は食事を済ませると、生徒会役員室のドアの前にいた。

 大きく深呼吸をして意を決したかのように、そのドアをノックした。

 

『コンコン、コンコン』

「どうぞ」

 

 中から返事が聞こえた。

 遠藤祐子は「失礼します」と言ってドアを開けて、中に入った。

 役員室の正面に大きな机があり、大洗女子学園生徒会長が座っていた。

 遠藤祐子は机を挟んで生徒会長の前に立った。

 

「失礼します、生徒会長。普通科2年A組、遠藤祐子です」

「はい、……これは遠藤隊長。どうされました?」

 

 生徒会長は立ち上がって、遠藤祐子に来訪の目的を聞いた。

 遠藤祐子は、生徒会長に一礼してから話し始めた。

 

「お忙しいところすみません。お願いがあってきました」

「……伺いましょう。そちらへお座りください」

 

 役員室の一角に応接セットが配置されている。

 生徒会長はそこへ遠藤祐子を座らせると、自分はその前に対峙するように座った。

 遠藤祐子は、生徒会長の目を見つめながら来訪の目的を話しだした。

 

「会長、私達3代目にあたる戦車道チームは、交流試合も含めて未だ勝利を手にしていません」

「……はい、それは知っています」

「それで私は戦車道チームの技術向上のため『初代隊長チーム』の先輩方に訓練のご指導をお願いいたしました」

 

生徒会長は、話が核心に近づいてきたことを感じて座り直した。

 

「はい、……それで?」

「幸いにも先輩方は私の申し出を快く承諾していただきました。……そこで、生徒会長にお願いがあります」

「はい、なんでしょうか?」

「中庭で保管されている『Ⅳ号中戦車D型』の使用許可を頂きたいのです!」

「えっ、……あの戦車を、ですか?」

 

 

 

『Ⅳ号中戦車D型』

 元大洗女子学園戦車道チーム『初代あんこうチーム』の愛機であり『初代隊長車』である。

 元々は短砲身を装備していたのだが、改造され長砲身搭載のF2型に似た形状になった。

 戦車道が復活した時、売れ残り戦車倉庫の中で廃棄車両寸前だったところを修理されて西住みほ達「初代あんこうチーム」の愛機となった。

 他の学校の保有する戦車と比べてスペック的には少々落ちるものの、「初代あんこうチーム」が乗り込んだこの戦車は対戦した全ての高校から『鬼神』と呼ばれるほど恐れられたのである。

 初優勝した時は、前年度MVP「西住まほ」の乗る『ティガーⅠ』相手に一歩も引かずに勝利を掴み取り、翌年の決勝戦では、前年と同じ黒森峰女学園の「ティガー」3輌に囲まれたが、3対1の不利をものともせず殲滅させた。

 現在は、西住みほたちが卒業したときに新しく購入された『ティガーⅠ』に隊長車の座を譲り『記念車輌』として、この大洗女子学園の中庭で眠り続けている。

 

 

 

 生徒会長は遠藤祐子の申し出を聞くなり、残念そうに頭を左右に振った。

 

「……その相談なら、私の一存では許可ができません」

 

 遠藤祐子は不思議そうに聞き返した。

 

「どうしてでしょうか?」

 

 それに対して、生徒会長は、静かに話を続けた。

 

「あの戦車は、理事長の宝物なのです」

「理事長の……宝物ですか?」

「4年前、我が校は廃校寸前になったことはご存じですよね。そのことは理事長も知っておられました。『どうしたら生徒達の動揺を抑えることができるのか』その事をずっと考えられていたそうです。……その時、当時の生徒会長だった角谷杏さんが、理事長に『戦車道を復活させて全国大会で優勝することで、廃校の決定を取り消すように担当者と交渉した』ことを報告したそうです。理事長はその報告を受けて、西住みほさん達に希望を託したのです」

 

 生徒会長は、淡々と遠藤祐子に説明している。

 

「結果はご存知のように彼女達は見事に優勝し、翌年の連覇も達成されました。……おかげで助成金も入るようになり、学園艦の運営も楽になりました」

 

 そこまで話し終えた生徒会長は、遠藤祐子にむかって理解してもらうような口調に変わった。

 

「つまり理事長にとって、西住みほさん達とあの戦車は『恩人』なのです。その功績をずっと称えるために、あの場所で大切に保管されているのです」

「……そうだったんですか」

「お分かりいただけましたか? 戦車道の指導なら、今持っている車輌で十分だと思いますよ。……では、私はこれから生徒会運営会議がありますので失礼します」

 

 そう言って生徒会長は席を立った。

 遠藤祐子もそれ以上の説得ができずに、生徒会室を後にした。

 

 

 その日の放課後。

 

 遠藤祐子は、ボーっとした表情で、大食堂のテーブルに座っていた。

 

(先輩達がせっかく揃って来てくれるのに……どうしよう、どうしよう)

 

 生徒会室を出た時から、その事だけが頭の中を駆け回っている。

 すると、前方から手を上げながら、大森翔子が声をかけてきた。

 

「おい、祐子! 何ボーっとしているんだよ? もうすぐ訓練開始の時間だぞ!」

「……あっ、翔子ちゃん」

 

 声をかけられてハッとした表情になった遠藤祐子は、大森翔子にやっと気付いた。

 そして、今度は大森翔子に相談を持ちかけた。

 

「翔子ちゃん! 相談があるんだけど……」

「なんだよ。祐子、いきなり……」

「今度の日曜日にね、前に言っていた先輩達が戦車道を教えに来てくれるんだけど」

 

 それを聞いた大森翔子は「そんなことはわかっているよ」と言った感じで話した。

 

「先輩達って、澤隊長達だろ?」

「えっ? ……違うよ」

 

 2人の会話に一瞬間が開いた。

 大森翔子は、この遠藤祐子の否定に驚いた様子で問い返した。

 

「えっ? 違うってなんだよ。……祐子、戦車道の先輩って澤隊長達しかいないじゃん」

 

 ここで初めて遠藤祐子は自分以外は誰も知らない事に気づいた。

 そして笑いながら言い直した。

 

「ごめん、ごめん、みんな知らないんだったよね……。違う、違う。澤隊長達もそうだけど、ほら、翔子ちゃん……、戦車道には澤隊長達の上に、もう一つ先輩達がいるでしょ!」

 

 そう言われて一瞬ポカンとなった大森翔子だったが、だんだん興奮してきた様子になった。

 

「それって……、祐子、もしかして西住先輩達のことなのか?」

「そうだよ。昨日『初代あんこうチーム』の先輩達が揃って指導に来てくれることが決まったんだ」

 

 笑顔で大森翔子の問いに答えた遠藤祐子だったが、その事実がいかに相手の驚きになったのかが分からなかった。

 

「おっ……おい、なんだよ。祐子! 一体何がどうなっているんだよ! 西住先輩は日本代表選手だぞ!」

「……しょ、翔子ちゃん、ちょっと落ち着いて!」

「お前、よく落ち着いていられるな。こりゃ大ニュースだぞ。戦車道のみんなは、『先輩達って澤隊長たちのことだろう』って、勘違いしているぞ!」

 

 遠藤祐子は、興奮する大森翔子とは対照的に、うつむいて静かに話を続けた。

 

「うん……あの時はまだ、先輩達が全員揃うのかどうかわからなかったから」

 

 この話し方に、親友である大森翔子は、遠藤祐子の前の椅子に腰掛けて彼女に質問した。

 

「祐子。……お前、何か知っているな?」

「うん、それで、翔子ちゃんに相談っていうのが……」

 

 遠藤祐子は『初代あんこうチーム』が揃って指導に来てくれるまでの出来事を、大森翔子に話した。

 それを聞かされた大森翔子は、大きくため息をついて、彼女を見た。

 

(遠藤祐子、彼女はいつもそうなんだ……。1人で何もかもを背負い込んでしまう……少しでも相談してくれたらいいのに……)

 

 大森翔子はそんなことを考えながら、遠藤祐子に対しちょっと責める口調で話しかけた。

 

「……祐子、お前。また1人でそんなことを」

「ごめんなさい。……それでね、私、中庭の『Ⅳ号中戦車』を使っていいか、昼休みに生徒会長にお願いに行ってきたの」

「それで、生徒会長に断られたんだな?」

「うん、あの戦車は、理事長の宝物なんだって。……でもね、私、どうしても先輩達にはあの戦車に乗って指導してもらいたいの!」

 

 大森翔子は、遠藤祐子の肩に右手をのせて、励ますように言った。

 

「……そんなの話は簡単だろ! 理事長にお願いすればいいじゃん!」

「……でも、私、理事長の事は全然知らないし」

「生徒会長は、理事長の事知っているんだろ?」

「うん、多分知っている……と思う」

「だったら、生徒会長から理事長に連絡してもらえばいいことじゃん!」

 

 男の子っぽい性格の、大森翔子ならではの単純で、かつ合理的な方法である。

 2人がそんな話をしているところへ、浦田恵、かなえ、北川亜希子がやってきた。

 3人は顔を近づけて話している2人を見つけると、浦田かなえが早速声をかけてきた。

 

「あれ? 祐子に翔子。なにやってんの? 内緒話?」

「……かなえちゃん。大事な話かもしれないのに、いきなり会話に首を突っ込むなんて」

「かなえちゃんの知りたがりにも困ったものだわ」

 

 浦田恵と北川亜希子は、それぞれに浦田かなえの行動を批判した。

 しかし、遠藤祐子と大森翔子は、逆に3人に声をかけ直した。

 

「よう、みんな。今から戦車道の訓練にいくのか?」

「そうだよ! 祐子達も来るんでしょ?」

 

 大森翔子の問いに、浦田かなえが答えた。そして同じく2人に問い返してきた。

 遠藤祐子はその問い返しに口ごもりながら返事をした。

 

「うん。そうだけど……。そうだ! 翔子ちゃん、今から5人で生徒会長のところに、もう一度お願いに行ってみない?」

「おぅ! そりゃ名案だ。1人より2人、2人より3人って言うもんな」

 

 冷静な北川亜希子は、遠藤祐子と大森翔子の会話が見えず、2人に聞いた。

 

「なんなの、何の話? なんで生徒会長のところに行くの?」

 

 そこで遠藤祐子は、さっき大森翔子に話した『初代あんこうチーム』が、今度の日曜日に指導訓練の為に集まってくれる事と、『Ⅳ号中戦車』の使用が認められなかった事を3人にも話した。

 やはり、ここでも驚いた彼女達3人だった。

 

「うそ……信じられない。西住先輩達が来るの?」

「それって、ほんとに本当?」

「私、西住先輩に、ずっと憧れていたの……」

 

 浦田かなえ、恵、北川亜希子の順に、遠藤祐子に確認した。

 しかし、大森翔子は逆に3人に落ち着くように促した。

 

「おい! うれしいのはわかるが、今は話が違うぞ!」

「みんな、協力してくれる?」

 

 遠藤祐子は、3人に協力を求めた。

 

「もちろんいいよ。ねえ、恵?」

「うん、私ね、先輩達の乗る『Ⅳ号戦車』に憧れて戦車道始めたんだから……」

「私もオッケーよ!」

 

 浦田かなえ、恵の姉妹と北川亜希子は、ほぼ同時に返事をした。

 

 こうして『3代目あんこうチーム』の5人は揃って、再び生徒会役員室にやってきた。

 生徒会役員室で5人は生徒会長に、いかに西住みほ達が今の自分たちに必要なのか、Ⅳ号戦車が必要なのかを一生懸命に説明した。

 5人の話を順に聞いた生徒会長は、目を閉じて思案していたが決心したように口を開いた。

 

「……みなさんの話は分かりました。今から理事長に連絡してみます」

 

 そう言って立ち上がると、チラリと壁掛け時計を見て今の時間を確認すると、会長デスクの上にある電話のフックを外してプッシュ番号を押した。

 5人は理事長と話をしている生徒会長の会話を、かたずを飲んで聞いていた。

 

「……そういうわけなので、理事長、中庭の『Ⅳ号中戦車』を使用させてはもらえないでしょうか? ……はい……はい、わかりました。彼女たちにそう伝えます」

 

 生徒会長は、静かに受話器を戻した。

 そして、5人の方をむくと、笑顔で電話の内容の報告をした。

 

「理事長から許可がでました。『Ⅳ号中戦車D型』を使っていいそうです!」

 

 5人はその場に飛び上がらんばかりに喜んだ。

 

「……会長、本当ですか?」

「よっしゃぁ!」

「やったぁ!」

「よかったです」

「よかったぁ!」

 

 遠藤祐子、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子は、それぞれ手を握り合い喜んでいる。

 それを見ながら笑っている生徒会長だったが、あらためて真剣な口調で5人に言った。

 

「理事長から伝言があります……。『先輩たちの偉業を傷つけないように、必ず、今まで以上の努力をするように』とのことです」

 

 『3代目あんこうチーム』の5人は一斉に立ち上がると、直立不動の姿勢でみんな同時に「はいっ!」と返事をした。

 

 生徒会役員室を出た5人は、その足で『Ⅳ号中戦車』の眠る中庭へやってきた。

 

「急がなきゃ……。訓練指導に間に合わなくなっちゃう」

「ほんと、時間ないぞ!」

 

 遠藤祐子と大森翔子は、自分に言い聞かせるように言った。

 しかし、北川亜希子は、別の提案をした。

 

「でも、みんなの訓練もしておかなきゃ……、西住先輩達がっかりさせられないよ」

「祐子には訓練の指導を続けてもらおうよ」

「そうね、それがいいわ。『Ⅳ号』の方は私達にまかせてね。祐子ちゃん!」

 

 北川亜希子の提案に、浦田かなえと恵は遠藤祐子の方に向かって言った。

 

「わかった。みんなお願いするね!」

 

 中庭で眠り続ける『Ⅳ号中戦車D型』を前に「3代目あんこうチーム』の5人は、お互いの結束を固めたのである。

 そのあと遠藤祐子は、戦車道チームの訓練前の全体ブリーフィングの時、西住みほ達5人の先輩達が自分達の指導訓練に来てくれることを報告した。

 戦車道チーム全員が狂喜乱舞したことはいうまでもないが、同時に「恥をかかないように」と、その日からの訓練に対する態度が変わった。

 大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の4人は自動車部の協力のもと、いよいよ『Ⅳ号中戦車』のレストアに取り掛かった。

 そして、突貫作業の末、前日の土曜日までに『Ⅳ号中戦車』のレストアを終了させたのである。

 

 戦車倉庫の中で、レストアが完了した『Ⅳ号中戦車』を前にして『3代目あんこうチーム』の5人は、それぞれに思いを話し合った。

 

「いよいよ、明日だね! みんな、本当にありがとう……」

「気にするな! 結構楽しかったぜ!」

「先輩達、喜んでくれるといいなぁ」

「絶対喜んでくれると思うよ!」

「なんだか『Ⅳ号』も嬉しそうに見えなくない?」

 

 戦車倉庫の中でピカピカに磨かれ、そして、あんこうマークも新しく塗り替えられた『Ⅳ号中戦車D型』。

 

 いろいろな出来事があったが、ついに明日、伝説の『初代あんこうチーム』が、再び全員揃うことになる……。

 

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