ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

9 / 33
訓練が始まります

 

 いよいよ日曜日の朝になった。

 見上げると、白い雲がゆっくりと流れている、清々しいほどの青空である。

 学園艦をわたる潮風も、まるで匂いたつようである。

 

 大洗女子学園戦車道チーム『3代目あんこうチーム』の車長であり、戦車道チーム隊長でもある遠藤祐子は、昨晩から期待と不安、興奮であまりよく眠れなかった。

 今日、いよいよ伝説の先輩達が自分たちの訓練指導に来てくれるのである。

 ベッドの枕元に置いている目覚まし時計で時間を確認した遠藤祐子は、身を起こしベッドから下りた。

 

「……いよいよ今日から始まるんだ。とにかく、まずは先輩達に自分達のありのままを見てもらわなくちゃね」

 

 越境入学をしている遠藤祐子は、一人暮らしである。

 窓のカーテンを開けて眩しい陽の光に目を細めつつ、大きく背伸びをした。

 

(さて、ご飯を作ろう)

 

 遠藤祐子は興奮している自分を落ち着かせるためにも、時間は早いが朝食を作り出した。

 簡単ではあるが栄養バランスもいい美味しそうな朝食をあっという間に作った。

 部屋に置いている卓上テーブルに朝食を運んだ彼女が今まさに食べようと腰をおろそうとした時、玄関のチャイムが鳴った。

 

(誰だろう? こんなに朝早く……)

 

 不審に思い玄関まで行ったが返事をせずにいると、ドアの外から聞き覚えのある声がした。

 

「おーい。祐子! 起きているかぁ?」

 

 大森翔子である。

 ニッコリ笑いながら玄関のドアを遠藤祐子は開けると、大森翔子に質問をした。

 

「……翔子ちゃん。どうしたの? こんな朝早くに」

 

 大森翔子は右手でベリーショートにしている髪を掻きむしり、照れながら答えた。

 

「へへっ。あまりに早く目が覚めちゃったから、祐子と一緒に学校行こうと思って誘いに来たんだ」

「翔子ちゃんもなんだ。実は私も早く目が覚めちゃったの!」

 

 2人はお互いに笑いあった。

 遠藤祐子は体を半身にし、大森翔子を中に迎え入れるようにして言った。

 

「翔子ちゃん、今ご飯を食べてるから、部屋に上がって待ってて」

「サンキュー! お邪魔しまーす」

 

 部屋に上がった大森翔子に、遠藤祐子はお茶を準備して差し出した

 大森翔子はベッドの縁に腰掛けると、お茶を飲みながら、遠藤祐子が食事を終えるのを待った。

 

「祐子、昨日は何時に寝たんだ?」

「うん、それがね、ベッドに入ったのは10時ぐらいだったんだけど……。結局眠れなくて、気付いたら夜中の1時回っちゃった」

「アハハ、私と一緒だ」

 

 大声で笑う大森翔子だった。そして、今度は別の話を始めた。

 

「祐子……、冷泉先輩も来るんだろ?」

「うん、来てくれるって言ったから来ると思うよ」

「私さ、去年、黒森峰との決勝戦で負けちゃった時、桂利奈先輩が泣きながら言っていた言葉を覚えているんだ」

「えっ、先輩なんて言ってたの?」

「桂利奈先輩はな…… 『冷泉先輩みたいに……冷泉先輩ぐらいに上手に戦車が動かせたら絶対負けなかったのに』って、泣きながら言っていたんだよ」

 

 大森翔子は、その時の事を思い出しながら話をした。

 

「私、桂利奈先輩を尊敬していたんだ……。小さな体なのに、試合の時は火の玉みたいで……、どんな時だって、真っ先に敵戦車群に突っ込んで相手戦車を翻弄する桂利奈先輩をな。でも……その桂利奈先輩が尊敬する先輩だろ? 一体どんな先輩なんだろうな?」

 

 大森翔子は、まだ会った事のない冷泉麻子に対して、非常に興味があるようだ。

 そんな話をして朝食を食べ終えた遠藤祐子は、後片付けをして制服に着替えた。

 

 学校へ行く準備が出来た2人は、揃って部屋を出て、学校までの通学路を歩き出した。

 並んで歩く遠藤祐子と大森翔子。

 歩きながら遠藤祐子は、独り言のように、ポツリと言葉を発した。

 

「いよいよなんだね……」

 

 すると大森翔子は、遠藤祐子の方を見て話しかけた。

 

「祐子、あのさ、冷泉先輩もそうだけど、祐子は会っているんだろ? 他の先輩達に……」

「うん。西住先輩以外はね」

 

 大森翔子は、そこまで話すと少し先に進んで振り返って遠藤祐子に聞いた。

 

「実際どんな先輩達なんだ? ……もしかして怖い人達なのか?」

 

 確かに遠藤祐子以外は名前でしか先輩達を知らない。

 少し立ち止まって考えた遠藤祐子は、質問にこう答えた。

 

「うーん……。澤隊長の話や実際先輩達に会ってみて、私はね『怖い』もそうだけど『凄い』って感じた……かな」

「なんだよ、それ。『怖い』と『凄い』は全然違うぞ?」

 

 大森翔子の抗議に、すぐさま遠藤祐子は今言った言葉を訂正した。

 

「ごめん、翔子ちゃん間違った。『凄すぎて怖い』って言ったほうがいいのかな」

 

 大森翔子は、少し呆れ小さなため息をついた。

 

「おい、祐子。……そっちの言い方の方が、余計に怖いぞ」

「でもね、翔子ちゃん、みんな、とっても優しい先輩達だよ!」

 

 ちょっとビビリ気味の大森翔子に対して、笑いながら遠藤祐子は話したのである。

 

 『初代あんこうチーム』が来る予定の10時にはまだ2時間も前なのだが、2人は学校に着いた。

 戦車倉庫の中にある更衣室で2人が着替えをしていると、続々と戦車道のメンバー達が集まってきた。

 

「一体どうしたんだ、みんな」

「ほんと、どうしたのかな?」

 

 遠藤祐子と大森翔子が不思議に思いながら着替えていると、更衣室のドアが勢いよく開いて、浦田かなえ、恵、北川亜希子の3人が現れた。

 

「わっ! ほんとにもう来てるよ、恵。……祐子、翔子、おっはよー!」

「おはようございます。2人とも早いですね!」

「かなえちゃん、恵ちゃん、私達だって人のこと言えないよ」

 

 遠藤祐子は、こんなに早くやってきたみんなに驚いて、浦田かなえに聞いた。

 

「かなえちゃん、みんな! 一体どうしたの? こんなに早く」

「おい、祐子! それは、こっちのセリフだよ」

 

 笑いながら、浦田かなえは言葉を返した。

 同じように笑いながら浦田恵が、遠藤祐子の質問に答えた。

 

「……実はね、戦車道のみんなが『西住先輩達がやって来るギリギリまで訓練したい』って言っていたから、私達も付き合うことにしたのよ」

 

 それを聞いた大森翔子は、口をとんがらせて抗議した。

 

「私達には全然連絡なかったぞ!」

「祐子ちゃんと翔子ちゃんは『連絡しなくても絶対来る』って、2人に言ったのよ。……ねっ。恵ちゃん、かなえちゃん、言った通りでしょ」

 

 流石影のまとめ役の北川亜希子である。

 

 着替えが終わった遠藤祐子と大森翔子は、3人が着替え終わるのを、更衣室の中のベンチに座って待っていた。

 着替えをしながら、浦田かなえが、みんなに聞くように質問をした。

 

「でも『初代あんこうチーム』の先輩達って、どんな人達なのかな?」

 

 さっき大森翔子が遠藤祐子に対してした質問である。

 大森翔子は浦田かなえにこう答えた。

 

「かなえ、……祐子の話によれば『凄すぎて怖い』らしいぞ」

「なにそれ……。祐子ちゃん、それじゃよくわかんないよ」

「うーん、でも、みんなも会ってみれば分かるんじゃないかな?」

「『凄すぎて怖い』か……」

 

 大森翔子や他の3人も、まるで謎かけのような言葉に、首を傾げるばかりだった。

 そんな話をしている間にも、戦車道のメンバーが続々と集まってくる。

 そして、みんな着替えを済ませて、戦車倉庫前に集合した。

 整列している各チームの前に立ち、遠藤祐子が訓練前のブリーフィングを始めようとした時に、物陰から澤梓が現れたのである。

 

「……よし、全員揃っているわね」

「澤隊長! どうしたんですか」

「最近の訓練の様子を祐子ちゃんから聞いていたから、今日はみんな早めに来るんじゃないかって思ったのよ」

 

 澤梓は笑って遠藤祐子の問いに答えた

 

 突然現れた2代目隊長を前に、現戦車道チームの全員が直立不動になった。

 そして澤梓はその場にいる全員を見渡して言った。

 

「今日はみんなに一言『激励』っていうか『活』を入れにきたのよ」

 

 そう言った直後、澤梓はビシッとした命令口調で訓示を始めた。

 

「みんな、よく聞いて!……今日、西住先輩以下『初代あんこうチーム』の先輩方全員が揃って訓練指導に来てくださいます! 特に西住先輩は、世界大会日本代表の訓練の間をぬって指導に来てくださいます! 他の先輩方も忙しい時間を割いて、母校のチームの為に来てくださいます! みなさん! ここにいる戦車道チームの全員に伝えます! 訓練中は絶対に気を抜いてはいけません! 『少しの時間も』です! いいっ。みんなわかった?」

 

 直立不動の体勢で澤梓の訓示を聞いていた戦車道のメンバーは、大きな声で一斉に『ハイッ!』と返事をした。

 チーム全員の決意を確認した澤梓は、満足そうな顔で微笑むと、自分の隣に待機している遠藤祐子にむかって、指示を出した。

 

「遠藤隊長は9時45分になったら正門前に来て。先輩を出迎えるから」

「ハイッ! 了解しました」

「他のメンバーは10時になったら訓練場のブリーフィング広場に集まって! 先輩達が来たら紹介します」

「ハイッ! 了解しました」

「……それじゃ、遠藤隊長。あとはよろしくね」

「はい。それでは全員戦車に乗り込んでください。訓練を始めます」

「ハイッ!」

 

 キビキビとした動きと緊張感の中、戦車に乗り込んだ戦車道チームは、順に戦車倉庫を出発し、訓練場へと向かっていった。

 

 全員出てしまったあと、1人になった澤梓は戦車倉庫に入った。

 そこで1輌、空に向かって75mm長砲身をかざす『鬼神』と呼ばれた戦車を見つけたのである。

 何度も仲間がピンチの時に現れて助けてくれた我らの『初代隊長車』である。

 澤梓は、親友が現れるのを待っている『Ⅳ号中戦車D型』にむかって呟いた。

 

「『Ⅳ号中戦車』……。間に合ったんだね。……待っていてね。もうすぐ先輩達が来るよ……」

 

 

 ここは大洗の街、学園艦との連絡船がでる波止場待合室の中である。

 五十鈴華と冷泉麻子は連絡船が来るのを待っていた。

 

 五十鈴華は、自分の隣に座る冷泉麻子に残念そうに話しかけた。

 

「……みほさん。残念ですね」

「……飛行機が遅れているんじゃどうしようもない」

「そうですね。こればっかりはどうしようもないですものね」

 

 すると冷泉麻子は、ヒョイと顔を五十鈴華の方に向けて、彼女に相談を持ちかけた。

 

「華。私から相談がある……。私は隊長が来るまでに、少し戦車に乗って操縦感覚を取り戻しておきたいと思っているんだが……」

「私もですわ。ずいぶん戦車道から離れていますから……」

「向こうに着いたら沙織や優花里達に相談してみようと思うんだが、どうだろうか?」

「そうですわね、そうしましょう」

 

 海風はまだ冷たいが、穏やかな大洗の街の海である。

 温かい飲み物を自動販売機で買った2人は、待合室のベンチでゆっくりと飲んだ。

 やがて連絡船が到着すると、2人はそれに乗り込んだ。

 大洗の街と学園艦への人間や小さな荷物の移動の時は、通常は連絡船が使われている。

 連絡船は定時的に運行されているので、西住みほが来れなくなることはない。

 連絡船のデッキの上で、五十鈴華と冷泉麻子は、やがて見えてきた学園艦を見て懐かしそうに呟いた。

 

「2年ぶりですね」

「ああ、2年ぶりだ」

 

 連絡船が学園艦に到着したあと、甲板までのタラップを2人はカバンを持って登っていった。

 学園艦の甲板に出ると、そこで武部沙織と秋山優花里が待っていた。

 武部沙織は、やってきた2人を見つけると大声で手を振りながら彼女達を呼んだ。

 

「麻子! 華! おはよう! こっちだよ」

 

 冷泉麻子は少し呆れた顔で、武部沙織の行動を非難した。

 

「おい、沙織! 大声で人の名前を呼ぶもんじゃない」

 

 「うふふ」と笑いつつ五十鈴華は武部沙織と秋山優花里に挨拶をした。

 

「おはようございます。沙織さん、優花里さん」

「冷泉殿、五十鈴殿、おはようございます」

「沙織、優花里、みんなおはよう」

 

 学園艦での再会は、この前会った時よりもなんだかワクワクさせられる。

 みんな高校時代の仲良し5人組に戻っていく。

 

「沙織さん達には、みほさんから連絡はきましたか?」

「あっ、はいっ! 五十鈴殿、連絡はきました。飛行機が遅れるそうですね」

「あ-ぁ。早く会えると思ったのになぁ」

 

 武部沙織は両手を頭の後ろで組んで、つまらなさそうに言った。

 

「沙織……必ず会えるんだからいいじゃないか」

「だって麻子! ミポリンとおしゃべりする時間が減るじゃん!」

 

 フーっと大きなため息をついた冷泉麻子は、武部沙織を見て言った。

 

「……やれやれだな」

 

 2人の会話を笑顔で見ていた五十鈴華は、連絡船待合所で相談した事を2人に持ちかけた。

 

「ところで、沙織さんと優花里さんにご相談があるんですが……」

「なんです? 五十鈴殿」

「さっき麻子さんと話していたんですが、みほさんが来るまで少し戦車に乗って、自分の感覚を戻しておきたいのですが……」

 

 この提案には、武部沙織も賛成した。

 

「そうだね。私も戦車無線は久しぶりだし、感覚を戻しとかなくっちゃ!」

「沙織……今日は残念だが交信する相手はいないぞ」

「違うよ、麻子。先々必要になるかもしれないじゃん」

「武部殿の言う通りです。みなさん、戦車道から離れて時間が経っているんで自分の感覚をそれぞれ戻すことは必要だと思いますよ」

「うん……確かにそうだな」

「……じゃあ、決まりだね!」

 

 4人は揃って懐かしの母校への道を歩き出した。

 みんな、学校までの道のりの間、景色や町並みを懐かしみ思い出話に花を咲かせた。

 やがて大洗女子学園の正門が見えてきた。

 正門前には澤梓と遠藤祐子が待っていた。

 

「あっ…… 澤隊長! 先輩達が来ました」

「あれ? 西住隊長がいない……。どうしたのかな」

 

 大洗女子学園の正門前で直立不動で待っている2人を見つけた武部沙織は、手を挙げた。

 

「梓ちゃん、祐子ちゃん。おはよ-!」

「おはようございます。先輩達、今日は宜しくお願いします」

 

 澤梓と遠藤祐子は、揃って45度のお辞儀をした。

 秋山優花里が、みんなを代表して敬礼をしながら挨拶を返した。

 

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

「……武部先輩、西住隊長は一緒でないんですか?」

 

 少し不安そうに澤梓が訊ねてきた。

 しかし、武部沙織は「心配ないよ」といった口調で返答した。

 

「大丈夫だよ。ミポリンの飛行機が遅れているんだって」

「みほさんは必ず来ますから安心してください」

 

 五十鈴華がニッコリと笑って補足した。

 

「それでね、ミポリンが来るまでの間、私達ね、少し戦車に乗っておきたいんだ」

「……少し自分の感覚を取り戻しておきたい」

「遠藤隊長さん、いかがでしょうか?」

 

 武部沙織と冷泉麻子、五十鈴華が、順にさっき相談したことを遠藤祐子に提案した。

 

「先輩方、もちろん大丈夫です」

「先輩達の『親友』も待っていますよ」

 

 澤梓は、いたずらっ子のような笑みで報告をした。

 

 『初代あんこうチーム』の4人は、澤梓らに案内されて戦車倉庫に入った。

 すると『えっ!』と言う軽い驚きの声と嬉しい歓声が『初代あんこうチーム』の4人から上がったのである。

 

「皆さん! 『Ⅳ号』です。『Ⅳ号中戦車』がいますよ!」

「……信じられない!」

 

 秋山優花里と武部沙織は『Ⅳ号中戦車』に駆け寄り、鋼鉄の体を愛しそうに撫でた。

 

「ずっと飾ってあると聞いていましたのに……」

「……『Ⅳ号』」

 

 五十鈴華と冷泉麻子も2人に少し遅れて懐かしそうに『Ⅳ号中戦車』を見上げた。

 

 遠藤祐子は、嬉しそうに『Ⅳ号中戦車』を見上げたり触っている『初代あんこうチーム』の4人を見て自分も嬉しくなった。

 

「はい、先輩達が乗る戦車はこれしか考えられませんので、理事長にお願いして、特別に許可をもらいました!」

「遠藤殿! ありがとうございます!」

 

 秋山優花里はそう言うと、戦車の装甲部分を頬ずりしている。

 同じように他の3人も、懐かしそうに『Ⅳ号中戦車』を触ったり見上げたりしている。

 

 

「さあ、みんな。早速着替えて練習にいこうよ」

 

 武部沙織が、みんなに号令をかけた。

 

「自分も……なんだか燃えてきました!」

「私もです。なんだかドキドキします」

「……よし、行こうか」

 

 更衣室に入った4人は、持参したカバンを開けながら笑って話をしだした。

 

「アハハ……やっぱり、みなさん持ってきたんですね」

「……当然持ってきた」

「これがありませんとね」

「戦車に乗るんだもん。当たり前よね」

 

 4人が一斉にカバンから取り出したのは、大洗女子学園の「パンツァー・ジャケット」である。

 背中には、ピンク色の「あんこう」マークがプリントされている。

 数々の激闘をくぐってきた、これも『初代あんこうチーム』の仲間なのである。

 

 着替えを終えた4人が、順に更衣室から出てきた。

 隊長チームの証「あんこう」マークを背に付けた「パンツァージャケット」に身を包んだ4人を見た澤梓は、思わず泣き出しそうになった。

 先輩達が卒業する日の送別会。

 あのジャケットを着た5人をもう見ることはできないと思った澤梓は大泣きしたのであった。

 

 『Ⅳ号中戦車』の各ハッチが開かれ、2年ぶりに『初代あんこうチーム』が各担当する座席シートに収まった。

 みんな、久しぶりにみる戦車内の様子に、感慨深げで見渡している。

 さあ、出発である。

 武部沙織は、みんなに聞いた。

 

「よし! ……じゃあ、訓練場へいこうか?」

「そうしましょう!」

 

 秋山優花里の返答のあと冷泉麻子が彼女達に質問をしてきた。

 

「……隊長への連絡はどうする?」

 

 すると、装填手上のハッチを開き頭を出した秋山優花里は、外にいる澤梓と遠藤祐子に指示を出した。

 

「遠藤殿、申し訳ありませんが、西住殿は必ずここ戦車倉庫に来ますから、ここで待っていてもらえませんか? 西住殿が来たら一緒に訓練場にきてください。澤殿は私達と一緒に訓練場にいってください。後輩さんとの繋ぎ役をお願いします」

 

 秋山優花里の指示に対して澤梓と遠藤祐子は、直立不動で返事をした。

 

『分かりました!!』

 

 そう言うと澤梓は車体を上り、初めて『Ⅳ号中戦車』の車長席に座った。

 遠藤祐子は出発しようとしている『Ⅳ号中戦車』から少し離れた。

 

「……それじゃ、いくぞ」

 

 冷泉麻子は、操縦席に前にあるエンジン始動のイグニッションを入れた。

 

〔ギュイン! ブロン! ドドドドドドッ〕

 

 『Ⅳ号中戦車D型』のエンジンが深く響きわたり、動き出す。

 鋼鉄のボディーが小刻みに振動する。

 これである。

 この感覚と振動である。

 秋山優花里は一気にテンションが上がって叫んだ。

 

「これですよ。これこれ! いやっほ-、やっぱり、最高です!」

「でたぁ! ユカリンの『パンツァー・ハイ』だぁ!」

「ウフフ……」

 

 武部沙織と五十鈴華は秋山優花里の顔を見て笑い、冷泉麻子はクルッペから外を見つつニッコリと笑顔になった。

 

 『初代あんこうチーム』の乗る『Ⅳ号中戦車』の車長席に、初めて乗せてもらった澤梓は 興奮でドキドキしていた。

 目を落とすと、伝説の4人の先輩が、目の前に座っているのだ。

 澤梓は、もう2度と乗ることない、この車長席からの景色を、絶対忘れないようにしようと決めた。

 冷泉麻子は、ギアを前進にいれて、クラッチをつないで、静かにアクセルを踏んだ

 『Ⅳ号中戦車D型』は親友達を乗せて、今ゆっくりと前進しはじめた。

 

 今、大急ぎでむかっているであろう西住みほに会えるのはもうすぐである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。