ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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Ch.2-3「きらヤバ!空から来た魔法使い!」

 その日は、勉強の合間に星を見ようと思っていた。

 日も傾いてきた頃、丘の上で望遠鏡を組み立てて、各種部品の調子を合わせる。

(暗くなる前に組み立てを終わらせないと……)

 望遠鏡の軸を合わせて、方位磁石で向きを合わせる。ペンライトは持ってきているが、頼らないで設置を終わらせられれば御の字である。

 慣れた手つきで設定を進めて、後は星が出るのを待つだけだ。

「遠いなぁ、宇宙」

 いつかはあの空の向こうに行きたい。そう思って勉強を続けているが、今の自分にはとても遠すぎる世界だった。

 一番星を探して空を見上げていると、視界の端から小さな黒い点のようなものが不規則に動いているのが目に入った。

 鳥や飛行機とも違うその『点』は滅茶苦茶な軌道で空を飛び回り、大きな弧を描いてこちらに向けてまっすぐ向かってくる。

 

「どいて!どいて!どいてぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 黒い点は声を発しながら自分に当たらないように軌道を変え、何とか自分に直撃するコースから外れ、自身の目の前の地面に激突した。

 墜落の衝撃で土煙が上がり、思わず目を瞑る。

「いたた……。まだリコ先生みたいに上手く飛べないな……」

 土煙の向こうから聞こえてきたのは自分と同じぐらいの少女の声で、同時に服についた汚れを払っているような音も聞こえる。

 徐々に視界が晴れてくると、声しか分からなかった少女の姿が見えてくる。

 落ちてきた少女は周囲を見渡し、自分と目が合って一瞬両者の動きが止まる。

「ご、ごめんなさい!」

 目の前の少女はそのままどこかに行こうとしたようだが、彼女が着ていた服が自分の興味を強く引き、思わず肩を掴んで引き留めた。

「キラやば~!フライングヒューマノイド!?本物!?それ、ララの服だよね!じゃああなたもサマーンの人?ワープでも10年かかるって聞いてたけど、技術革新ってすごいね!もうサマーンだと宇宙船無しでも飛べるんだ!あっ、私星奈ひかる!あなたは?」

「ふらいんぐ……?私は普通の中学生、だけど……。ってララちゃんを知ってるの?」

「知ってるも何も大親友だよ!同じ学校に通ってたこともあるし、一緒に宇宙に行ったこともあるよ!」

 サマーンの服に身を包んだ少女は、ポケットから一本のペンを取り出し、ひかるに差し出した。

「私は虹ヶ丘ましろ。ララちゃんがね、ララちゃんを知ってる人に会ったら、これを見せてって言ったの。ひかるちゃんは、これ分かる?」

 ひかるはましろが差し出したペンを見て、何かが起こっていることを察したようで、興奮気味だった表情が少し大人しくなる。

「うん、ふたご座のプリンセススターカラーペンだよね。私も似たようなのを持ってるよ」

 ポケットの中を探り、おうし座やうお座のペンをましろに見せる。平和になった今となっては何の力も持たない思い出の品だが、一生の宝物である。

「ララに何かあったんだよね?良かったらウチに来て話してくれないかな?今日は家に誰もいないから、宇宙人関係の話をしても大丈夫だよ!」

「う、うん……。じゃ、お邪魔させてもらおう、かな……」

「その前に望遠鏡片づけちゃうね!ちょっと待ってて」

 ひかるは慣れた手つきで望遠鏡を分解し、元のケースにしまっていく。ましろは何か手伝いを申し出ようとも思ったが、その決心をしたところで片づけが終わってしまった。

「お待たせ!ウチはこっちだよ!」

 ひかるに連れられ、ましろはひかるの家へと向かう。ましろの胸中は、見知らぬ土地に1人でやってきてしまった不安と、運よく味方になってくれそうな人物と出会えた安堵とが入り混じっていた。

 

 

 ひかるの家はましろが想像していたよりずっと小さいものだった。大きな望遠鏡の箱を持っているので、天文台のような家を想像していたのだが、ソラシド市の街中で見かけるような普通の一軒家である。

「お邪魔、します……」

 の中は静まり返っていて、誰かが返事をする様子はない。ましろが家に帰る時には常に誰かしらがいる為、静まり返った家というのが新鮮に感じる。

「いらっしゃい!あ、シャワー浴びる?さっき落ちた時にあちこち汚れちゃったかもしれないし」

 ましろは黙って頷き、ひかるに浴室まで通される。

「替えの着替えとか持ってくるからシャワーを浴びて待っててね!」

 ひかるは手を振ってましろと一度別れる。偶然が重なり一人で夜を過ごすことが少し寂しかったが、思わぬ来訪者のお陰で教も楽しい夜を過ごせると思うと、思わず胸が躍る。

 ましろに似合いそうな服を用意し、お腹を空かせてるかもしれないと冷蔵庫の中身もチェックする。1人分の夕食の用意はしていってくれたが、2人分の用意はない。

「半分こして、後はカップ麵とかで何とかなるかな」

 天体観測時の夜食としてカップ麵をはじめとするインスタント食品の準備はそれなりにある。正直人に出せるほどの料理もできない為、今回はそれで妥協することにした。

「ましろちゃん!着替えとバスタオル、ここに置いとくね!」

「うん!ありがとう!」

 ましろのシャワーが終わるのを待つ間、ましろが着ていたララの服を洗濯しようと洗濯機に入れてスイッチを入れる。

(本当、何があったんだろう……)

 ララの服を着ていたましろ。ふたご座のペンを持っていたが、流石にララから奪ったとは考えにくい。地球に来た時は真っ先に観星町を訪れるはずなのだが、ひかるはララから何も聞いていない。

 自分の知らないところで何かが起こっている。それだけは確かだが、ひかるがその先を想像するにはあまりにも情報が不足していた。

(ララに限って、悪いことをしに来たってことは無いと思うけど……)

 様々な考えを巡らせていると、ひかるが用意した部屋着に身を包んだましろが出てきた。服のサイズが合っているかは分からなかったので、比較的ゆったりめな部屋着を選んだのだが、サイズは大体あっているようだ。

「お待たせ、えっと、服、ありがとう」

「サイズもバッチりみたいだね!お腹空いてる?カップ麵になっちゃうけど、すぐ準備するよ?」

「いいの?実はお昼から何も食べてなくて……」

「じゃあ待ってて!すぐ準備するから!」

 ひかるは準備していたカップ麵にお湯を注ぎ、元々用意されていた食事を2人分に分ける。

 準備した食事をテーブルに並べて、箸をつける。慣れない環境にいるせいかもしれないが、ましろは静まり返った家の中が気になるようだった。

「ひかるちゃんって、いつもこうなの?」

「今日は偶然こうなの。お母さんもおじいちゃんたちもみんな色々予定が重なっちゃって私ひとり。お父さんは年一回だけうちに帰ってくるよ」

「そうなんだ。私の家は色んな人が住んでるから、こういう静かな所でご飯食べるのって慣れてなくて……」

 それからましろと会話を交えながら箸を進める。

 ましろが普段暮らしている家の事や、普段通っている学校の話。

 何気ない会話を進めてお互いの理解を深めていくが、どうしてましろがララを知っているのか、なぜララにペンを持たされてここに来たのか、そういった話に中々持って行けず、何とも言えないもどかしさを感じる。

「あのさ、ましろちゃんは、ララとどこで知り合ったの?」

 このままましろと話を続けてもよかったが、ひかるは思い切って話題を変え、本題に踏み込むことにした。

 ましろもいずれ聞かれると分かっていたようで、突然話題が切り替わったことに違和感を感じているように見えない。

「今日、学校だったんだけど、その帰りにソラちゃん……に化けた誰かに眠らされて、気が付いたらララちゃんのいるところにいたの」

「その化けた姿って、ねこの耳とか尻尾とか生えてた?」

 ひかるのさらなる問いに対して、ましろは黙って頷いた。

「本当に生えてるみたい、って言ったら、本物だもの。って言われて捕まっちゃった。私が知ってるのはそれだけ」

「うーん。そのましろちゃんをさらったのも私の友達だと思うけど、何でそんなことするんだろう?訳もなく悪いことする子じゃないんだけど……」

「私もララちゃんに聞こうと思ってたんだけど、その前にロボットに襲われて、何とか逃げてきて、後はひかるちゃんが知ってる通り。私、まだ上手く空を飛べなくて……」

 2人はどうしてましろが狙われたのかを考えるが、ましろが知る範囲の情報では答えは見つからない。

 もやもやした空気の中、ただただ食事の音だけがする。ララとユニがましろをさらい、かつそれとは別にましろを狙う勢力が存在する。とにかく明日、ましろを家へ送り届けてそのことについて考えようかと思ってたが、ふとあることに気が付いたひかるの箸が止まった。

「ちょっと待って。じゃあ、あの空を飛んでたのはサマーン星の新技術、とかじゃなくてましろちゃんの力なの!?」

「う、うん。そうだよ。なんで使えるのかは覚えてないけど、魔法がちょっとだけ……」

「じゃあさじゃあさ、空を飛ぶ以外にもできるの!?動物とお話できたりとか!」

 ましろが不思議な能力を持っていると知り、目を輝かせるひかる。初めて会った時にましろが使っていた空を飛ぶ能力。それはララとは無関係だった。

 相当興味がそそられたのか、今はこの状況を考えるより、ましろの能力について聞く方を優先しているようだ。

「それはまだ教わってないけど……。でもそれ以外だったら色々できるから、後で見せてあげるね」

 いきなり話が変わって戸惑ったものの、特に断る理由も無いのでましろはひかるに魔法を見せることにした。

 

 

 食事と後片付けを終えた2人は、ひかるの部屋で魔法を見せることにした。ましろは本棚の上から吊るした懐中電灯の位置を細かく調整して影がひかると被らないようにする。

「ましろちゃんの魔法って、光を使うの?」

「ううん。影が無いと使えないの。だからこの時間はこうしないと使えなくて……」

 ましろが影に向かって手をかざすと、影から真っ黒な腕が伸びてきて、ひかるに挨拶をするかのように手を振った。

「すごい!魔法ってそういう感じなんだ!3本も手が出せたら便利だよね!」

「絵を描く時に手伝ってもらったりとかしてるよ。こういうこともできるし……」

 以前リコに見せたように、じゃんけんをして見せるましろ。前回は負けたが、今回は何となく出したグーで勝利に終わる。

「じゃんけんもできるんだ!いいなぁ。私、自分とじゃんけんなんてできないし。私にもできるかな?」

「リコ先生は私にしか使えないって言ってたような……。普通の人は魔法が使えないみたいだし」

「そっかぁ。残念」

 自分も不思議な力が使えるのかと一瞬期待したが、その期待も淡く消えてひかるは落ち込む。

 ましろも魔法を解除して、吊るしていた懐中電灯を取ろうとしたその時、バランスを崩して派手にのけぞって転ぶ。

「ましろちゃん!?」

 ひかるが慌てて支えに行こうとするが、それよりもましろが倒れるのが早く、そのまま頭の位置にあった机の角に頭をぶつけるかと思われた。

 思わずひかるは目を摘むったが、いつまでもましろが頭をぶつけたような音は聞こえてこない。

 ましろが頭を打っていたら大変と思いつつ、恐る恐る目を開けると―――

 

 ましろの姿はどこにもなかった。

 

「え……?」

 先ほどまで目の前にいたはずなのに、ましろの姿がどこにもない。ただ、ましろが立っていた位置にましろの影だけがポツンとあるだけだ。

「ましろちゃん?」

 ましろがいた場所に呼びかける返事がない。どこかに隠れているのかと思い、部屋のあちこちを探すが見当たらない。

「まさかテレポートまでできるの!?」

「流石に、ワープまでは……できない、みたい」

 ましろの影からましろの声が聞こえ、肩で息をしながら影から這い出てきた。影から出てきて油断した隙に、ましろはまた影の中に沈んでしまいそうになるが、慌ててひかるがましろの腕を掴み、無事に引き上げられた。

「私のこれ、中に入るなんて知らなかった……」

 もう一度自分の影に触れて、中に入れることを確認する。自分は影を練り上げる魔法だと思っていたが、実態は違う現象だったのだと思い知らされる。

「ましろちゃんの魔法って本当に色々できるんだね!見せてくれてありがとう!じゃあ次は私の番!」

 ひかるは本棚から一冊のノートを取り出して、ましろに差し出す。中のページをめくると、様々な星座が描かれている。

「これって、ひかるちゃんが考えた星座?」

「そーだよ!昔からこういうのを考えるのが好きで、色んな星座を考えてたんだよね!」

 聞いたことも無いような星座を見ていると、とあるページで指が止まる。

「これ、ユニコーン、だよね?フワ座……?」

「あぁ、それはね。私の大事な友達。今はララ達のいる遠い宇宙で暮らしてる」

 ましろが手を止めたのはフワ、という聞きなれない名前の星座のページだった。

「今でもたまに会いに来るけど、本当にたまに。前は毎日会ってたから、会えない時間がすごい長く感じるんだよね」

 窓の外の夜空を見上げ、この星に来ているかもしれない親友の姿に思いをはせる。

「だから、私は自分の力で宇宙に行きたい。大好きな友達にいつでも会いに行けるようになりたいんだ」

 それが、無我夢中で好きなものを追い続けたひかるがたどり着いた夢だった。そんなひかるに対して、ましろは憧れの眼差しを向ける。

「いいなぁ。私には、そういう夢、全然ないから」

「ましろちゃんはやりたいこととかないの?」

 ひかるの問いかけにましろは黙って頷いた。

「私、3か月くらい前からの記憶が無いの。記憶を失くす前は絵本をいっぱい作って、賞もとったらしいけど、今の私もそうした方が良いのかな」

 不安そうにするましろの手をひかるは取り、不安を晴らすように笑った。

「じゃあさ!明日、一緒にこの街を回ろうよ!今のましろちゃんが好きなこと、探そう!」

 ひかるの言葉で、少しだけましろの不安は晴れたようで、不安そうで定まらなかった目線もひかるに定まる。

 明日早く行動をするため、その日は早くに眠ることになった。

 

 

 翌朝。ソラシド市のましろの家の前であげは達はましろを迎えに行く準備をしていた。

 あげはの車に荷物を積み込んだりしている裏で、リコはことはに小さい布袋を渡していた。

「リコ、これなあに?」

「ましろさん向けの魔法薬よ。1回分しか持ってきてなかったけど、ましろさんの魔法を抑え込めるはず。間違ってもはーちゃんが飲んじゃダメよ?魔法が使えなくなるし、プリキュアに変身できなくなるわ」

「うん、分かった。リコって本当に色々持ってるよね。ちっちゃい病院みたい」

「魔法界から持てるだけの物は持ってきたもの。ましろさんの体を診てあげられるのは私しかいないし」

 今でこそましろの魔法や体質の事は分かってきているが、魔法界からやってきた時は本当に事態の予測がつかなかった。その為、持てる限りの道具や薬を持ち込み、万全の状態でましろに会いに来たのだ。

「それじゃ、はーちゃん、後は頼んだわ」

 リコはことはに後を託し、エンジンのかかったあげはの車から離れる。出発の時が迫り、ララやユニ、ツバサ達が次々と車に乗り込んでいく。

「本当にいいんですか?ましろんもリコさんが迎えに来た方が喜ぶと思うのに……。詰めればあと一人は乗れますよ?」

「ましろさんが先に帰ってきた時、誰もいなかったら不安に思うでしょ?それに、この後みらいが来るから私が残らないと。何かあれば箒で飛んでいくわ」

 あげはは全員で出発できない事を残念がるも、このまま車を止めておくことはできないので、アクセルを踏んで車を走らせる。

 遠ざかっていく車を見送り、車が見えなくなるのを確認すると、一人ましろの家へ戻って溜めていた書類整理に手を付ける。

 ましろに見せてもらった魔法の写真と、その効果、持続時間をまとめて魔法界に提出する決まりになっている。

(影からもう1本手を出して、それを操る魔法、ね……)

 ましろが得意と言っていた魔法は、理論上不可能なものではない。高い集中力を要するが、リコも水を使って腕を作ることはできる。

 ましろの力がそれだけ強大だった、そう片づけてしまうのは簡単だが、リコはずっと引っかかっていた。

 黒い手とじゃんけんしているましろの写真を見つめ、リコはとある仮説を考える。

(もしもこの手が、ましろさんのものではないとしたら……)

 何度かじゃんけんを見せてもらったが、ましろが勝つこともあれば、黒い手が勝つこともある。あいこになったりもすると、ましろ本人が操っているにしてはあまりにも結果にバラつきがあるのだ。

 ましろの魔法の正体が、影を練って手を作る、ではなく、()()()()()()()()()()()だとしたら。

 アレの手がましろの作った手、ではなく、ましろの中に潜んでいる『誰か』の一部が飛び出しているのだとすれば、ましろの安全性というものが一気に揺らぐ。

「……頼んだわよ、はーちゃん」

 今のリコには最悪の予想が当たらないことを祈りながら、みらいが来るのを待つ事しかできなかった。

 




羽衣ララ
 かつてひかる達と共に宇宙を救ったサマーン星人の調査員。
 ある日、星空連合の評議会がプリキュアの処分を決定したと聞きつけ、何かの間違いと思い今回の行動を起こした。
 やむを得ず研究途中の特殊なワープ装置を使って地球を来訪するも、意識不明の重体となり、先に目を覚ましたユニに守られながらロケットの中で眠っていた。
 教団に目を付けられたましろを逃がす為、自身の服を着せ、ふたご座のスターカラーペンを持たせた上でプリキュアとしての自分を知っている人物を探すよう指示してましろを逃がした。

 ノットレイダーとの戦いの終結後、フワの調子が良い時は地球を訪れたりしているが、逆を言えば地球に行けるのはフワ次第になってしまっているため、フワに負担をかけないようにサマーンやノットレイダーで使われていた技術を結集して、地球までのワープ距離を縮める研究を進めている。
 今回のワープ航法もその研究成果によるものだが、一歩間違えればララとユニが融合したり、人格が入れ替わったまま戻らなくなったりする危険性がある等、とても実用化には程遠い代物。
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