ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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Ch.2-4「あなたはだぁれ?機械仕掛けの邪悪な教団!」

「気持ち悪いルン……」

 ソラシド市から観星町は遠く、慣れない高速道路を使わなければならなかった。

 順当にいけば、早朝に出発し昼前に到着する予定だったのだが、その道中、ララが不調を訴えた。

 顔色もすっかり青ざめており、逆流してくるものを戻さないように口元を抑えて必死にこらえている。

「自動車がこんなに揺れる乗り物だとは知らなかったルン。なんで地球人はこんなのに乗って平気ルン……」

「じゃあちょっと休憩しよっか。私も運転疲れてきたし」

 丁度サービスエリアの看板が見えてきたところでウィンカーを出し、車をサービスエリアへ進める。

 運よく空いているところへ車を止めると、ユニに介抱されながらララはトイレの中へと消えていく。

「じゃあララルンが落ち着く魔で休憩。私はフードコートで休んでるけど、少年達はどうする?」

「私、ちょっと売店見てみたいかも!こういう所って来たことないし!」

「じゃあ僕もことはさんと一緒に売店を回ってます。ましろさんにお土産を買って行ってあげたいですし」

 未知の世界に目を輝かせ、売店に駆り出していくことはを追いかけて、ツバサも車を後にする。

 売店の中へ足を踏み入れると、様々なお菓子が目に入る。見たことも無いようなものから、見慣れている商品のご当地限定の味まで、幅広い商品が並んでいる。

「すごい!本当にいっぱいお菓子が売ってる!みらいとリコにもどれかお土産で買っていこうかなぁ」

「外にもお店があるみたいですし、そっちを見てみてもいいかもしれませんね」

 テレビの特集などで様々なグルメが食べられることだけは知っていたが、実際に足を運んでみるとそれ以外にも様々なものが売られていた。

(おにぎりまで売ってる……。まるでコンビニみたいだな)

 ことはを視界に入れつつ、その豊富な品ぞろえに感心する。駐車場に大型のトラックが何台も止まっていたが、ここまで何でも買えるとなると、休憩所にしたがるのも納得である。

「おかかのおにぎり、買ってくれないかしら。こっちのお金持ってないの」

 棚に並べられたおにぎりを眺めていると、ララと一緒にいたはずのユニが話しかけてきた。相変わらずユニの考えは読めないが、ソラシド市を出発してからは昨晩のようなこちらを挑発するような態度は息をひそめている。

「ララさんは大丈夫なんですか?」

「一旦わね。あげはに預けて来たわ」

 ユニが指さした方に目を向けると、遠くのフードコートのテーブルにあげはとララが向かい合って座っているのが目に入った。少なくとも、先ほどのように吐き気に襲われているということは無さそうだ。

「お腹が空いてると酔いやすいとか言うでしょ?ちょっと食べ物を口に入れておきたいの。ララはシャケね」

「おかかってユニさんの分ですか……。まあ、いいですけど」

 大した金額でもないので、2つ分のおにぎりを会計してそのうち1つをユニへ手渡す。ララにおにぎりを渡す前に、ことはの姿を探すと、丁度お土産コーナーで買うものを真剣に吟味していた。

「それじゃことはさん、ちょっとあげはさん達のところへ行ってきますね。フードコートの方にいるので、そっちで合流しましょう」

「分かった!私もお土産決めたら行くね!」

 ことはと一声かけてフードコートへ向かう。

 ユニもツバサと話をしたかったようで、後をついてきて隣に並ぶ。

「ねえ、ましろってどういう子なの?化けてた時はなんとなくで演じてたから知らないのよね」

 おにぎりの包装を解きながらユニが尋ねた。ここに来てやっと、ユニの目的が自分にそれを聞くことだと分かった。

「あげはさんに聞けばいいじゃないですか。僕よりずっと詳しいですし」

「あげはなら昨日一緒いたじゃない。あなたと殆ど話もしたことなかったし、あなたから見たましろの印象を聞きたいの」

 それを言われて、ツバサは返せる言葉が無かった。確かに昨日は偽のましろを怪しんで近づかなかった。ユニはましろについてはツバサの方が客観的な評価ができると判断したのかもしれない。

「そうですね……。一言で言えば優しい女の子、だと思います。相手の気持ちをしっかり考えられて、その上で正しい判断ができる人だと思います。記憶を失くしてからは殆ど喋ってくれませんけど、そこは変わってないはずです」

 こっそりプニバードの姿でましろを見守っていることもあったが、根は記憶を失くす前と変わらない。ただ、興味の対象が絵本作りからスケッチに変わっただけで、ツバサが知っている虹ヶ丘ましろのままだった。

「そう。あなたが言うならよっぽどの猫かぶりじゃない限りはそうなのね。これで裏表の激しい子だったら困ってたところだったわ」

「猫かぶり、ってあなたがそれを言うんですか……」

 ツバサに指摘されたユニは得意げに笑う。恐らくこちらがユニ本来の性格なのであろうが、自分やあげはまで騙せるほどの演技力は相当なものなのは知っている。

「それだけ聞きたかったの。ちょっと先行ってるわね」

 ユニは自分より歩を早めて、あげは達のところへ向かった。

 このままあげは達のところへ向かおうとしたが、そこでツバサはあることに気が付いた。

(このままララさんにおにぎりを渡せば、仲良くなれるきっかけになるんじゃ……?)

 ツバサの手に握られたシャケのおにぎりを見て、ユニが提案したことを隠して渡せば、ツバサとララとで話ができるきっかけになる。

 宇宙人ということでララとの間に壁を作っていたのは事実だが、まるで手玉に取られているようで、ツバサは良い気がしなかった。

 

 

 一方、ましろはひかるに連れられて、観星町を回っていた。

 ソラシド市の街並みとは全く異なる石畳にやレンガ造りの建物が並んだ光景に、ましろは自分が知らない外国へ迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。

「次はここ!ここのドーナツも美味しいんだよ!ちょっと待ってて!」

 ひかるが足を止めたのはドーナツ屋だった。独特な形のドーナツがショーケースに並べられ、ひかるがオススメのものを選んでいる。

(最初は不安だったけど、この町も結構いい所だなぁ。このままーーー)

 ましろがひかるを待っていると、突如自分を何かの影が覆い、思考が遮られた。

 反射的にその場から離れ、自身を掴もうとしていた2つの手から逃れる。

「流石に気付くか。これ以上の消耗は避けたかったのだがな」

 ましろを捕らえようとしていたのは、サーカステントに牛の骸骨のようなものが乗った化け物だった。腕に当たる部分は見当たらず、サーカステントのような胴体の周りに2つの手が浮遊している。

 頭蓋骨の目に当たる部分からは黒いガスのようなものが漏れ出ており、警戒しているましろに目線を向けている。

 得体の知れない怪物の出現に周囲にいた人々は騒然となって逃げだし、異常事態を察知したひかるがましろと怪物の間に割って入る。

「宇宙人……?ましろちゃんを狙ってララを襲ったって言うのは、あなた!?」

「然り。私はおうし座星系人のヴィニー。虹ヶ丘ましろを保護する為にやってきた。大人しく引き渡すというのであれば、私は何もしない。このまま大人しく宇宙へ帰るつもりだ」

 低い声で優しくあいさつしたヴィニーはひかるにましろを差し出すように迫るが、ひかるはそれには応じずにを睨みつける。

「嫌だよ。ララは私にましろちゃんを送ってくれたんだもん。あなたには渡せない」

「そうか。残念だ」

 浮遊していた手がヴィニーの胴体に手を伸ばし、布で包まれた胴体を露わにする。

 だが本来そこにあって然るべきのはずの胴体が無く、代わりに顔面に「N」と書かれた軍団が飛び出してくる。

「ノットレイ!?」

「中身は機械だ。ノットレイダーが解散した今、消えた労働力に代わる新商品だ」

 ひかるはノットレイの群れを見て、ましろの手を引いて走り出す。ノットレイ達の数は見たところ十数人だが、ましろを守りながら自分ひとりで戦い続けるのは難しい。

 ノットレイ達に囲まれる前にましろをヴィニーの視界から離し、路地裏をデタラメに進んで追手との距離を離す。

 そして追手が自分たちを見失い、あちこちを探し回っているのを確認すると、ひかるはましろを近くの建物の影へ隠す。

「ましろちゃんは影の中に隠れて、逃げられそうだったらどっか逃げて。後は私が何とかするから」

「そんな、危ないよ!」

「大丈夫!私、こういうことには慣れてるから」

 ひかるはインク壺のようなペンダントを取り出し、ましろが持っていたものとは違うペンを取り出す。

「スターカラーペンダント、カラーチャージ!」

 ペンをインク壺に挿し、ひかるの姿が、ペンで描いた通りに変わっていく。

「プリキュア……?」

宇宙(そら)に輝くきらきら星、キュアスター、だよ!じゃあ、行ってくるね!」

 ましろに手を振って、スターは笑顔で飛び出していく。

 プリキュアへの変身能力を失い、ただの少女にすぎないましろには、ただそれを黙って見送ることしかできなかった。

 

 

 まただ。

 また、私は何も返せなかった。

 ひかるちゃんも私に優しくしてくれたけど、結局私からひかるちゃんには何も返せなかった。

 本当に私には何もない。プリキュアになってひかるちゃんのお手伝いができるわけじゃないし、魔法だってリコ先生と比べたら全然上手く使えない。

 ひかるちゃんは私に逃げて言ったけど、元々関係なかったひかるちゃんを放って、私だけ逃げるなんて嫌だ。

 私にしか使えない特別な魔法。あの牛のお化けも私の力が目当てで来ているとしたら、使い方次第ではひかるちゃんの助けになれるかもしれない。

 リコ先生が言ってた、魔法を使う上で一番大事なのは強くイメージすることだって。ひかるちゃんがやってたみたいに、理想の私を作ったら、私も戦えるのかな。

「キュアップ・ラパパ……」

 私が魔法を使う合言葉を唱えると、私の影が魔法陣のようになって私の足元に作り替えられる。

 後は、その先を唱えるだけ。

 今まで試したことも無かったけど、きっと上手くいく。

 

「私を、プリキュアにして」

 

 足元の魔法陣から闇があふれ出して、私の体を包む。

 空っぽだった私の中に力が満ちてくる。とっても懐かしい感じ。もしかして、これが私の力の本当の使い方なのかな。

 でも良かった、これで私も戦える。

 そう安心した私は、その感覚に全部を任せて、目を閉じた。

 

 

 ましろを守る為に戦っていたスターは思わぬ形で苦戦を強いられていた。

 ヴィニーが放ってきた機械のノットレイ達。かつて戦った生きたノットレイ達と違い、完全に破壊しなければその動きを止めることはない。群れからはぐれた個体から一体ずつ倒せてはいるが、それよりも取り囲まれて集中攻撃を受けないように立ち回るのが精いっぱいだ。

(せめてまどさかんだけでもいてくれたらな……)

 留学や家の事情で今はこの町を離れている仲間たちの事を考える。

 ましろが逃げるだけの時間を稼がなければならないが、ましろ一人だけ逃げてもいつかは捕まってしまうかもしれない。確実に向こうの戦力は削っているが、じわじわと追い詰められている感覚がスターを焦らせる。

 その焦りがほんの一瞬の隙を生み、死角から脳天を殴られて地面を転がされる。

 衝撃で意識を失いかけるも、絶対にましろを守るという覚悟で何とか意識を保ち、フラフラになりながら立ち上がる。

(弱気になっちゃだめだよね。きっとララやユニもこっちに向かってる。それまでは耐えなくちゃ……)

 必死に自分を奮い立たせ、ノットレイ達に立ち向かおうとする。

 そんな時だった。ノットレイ達の群れの一体が、突如伸びてきた黒い腕のようなものに握りつぶされ、その場に残骸が転がった。

 一瞬何が起こったのか分からず、ひかるが戸惑っていると、次から次へと黒い腕がノットレイ達に襲い掛かる。

 無差別に襲い掛かってくる黒い腕をかわしつつ、その主を探すが、そんな能力を振るう怪物の姿などは見当たらない。

 自分たちに襲い掛かってくる驚異の正体を探ろうとしているのはノットレイ達も同じなようで、突如として現れた黒い腕に状況が次々とかき乱されていく。

 そんな最中、場を支配するように硬い足音が響き渡り、周囲の視線が足音の方へ集まる。

「え……?」

 足音の主は、この場にいるはずのない少女だった。

 琥珀色の瞳を輝かせ、黒いドレスに身を包んだ少女がゆっくりと歩いてくる。彼女の周りには黒く淀んだ泥の塊のようなものが浮いており、そこから黒い腕が伸びて周囲のノットレイに憑りついては破壊していく。

「ましろ、ちゃん……?」

「……」

 本来であれば、ましろが助けに来てくれたことを喜ぶべきだったのかもしれない。だが目の前のましろは明らかに様子がおかしく、先ほどまで一緒にいた彼女と同一人物だとは思えない。

 加えて、ましろの振るう力を見ていると妙な胸騒ぎがスターを襲い、ましろの助けを喜べる状態ではなかった。

「目覚めたか」

 ノットレイ達をけしかけたヴィニーが現れ、力を振るうましろを見据える。目の前の脅威を排除する為に、ましろの腕がヴィニーを襲うが、空洞となっている胴体をすり抜けるだけだった。

「改めて問おう。その力、我らの為に振るってはくれないか?」

 ヴィニーは手を差し出し、ましろに来るように迫る。だが、ましろはそれをためらいもなく跳ねのけた。

「嫌だよ。ソラちゃんとお別れしたくないもん」

 まるで羽虫を叩き落とすかのように黒い腕を差し向けるが、頭を構成している牛の頭蓋骨を紙一重で掴むことができない。

「そうか。これでも外部から来た者として、相応のマナーは守るつもりであったのだがな」

 ヴィニーは続々とノットレイ達をましろへ向けて送り込む。

 ましろが振るえる腕でも放たれた数は捌ききれないようで、周囲に浮いていた泥の塊を1つに合わせ、巨大な『孔』を生成する。周囲のすべてを吞み込もうとするその『孔』は近づくノットレイだけではなく、周囲に落ちていた石レンガや小枝までも呑み込んでいく。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿に、スターの中の記憶の中のとある人物と重なる。

「この力、まさか……!」

 ましろの作った『孔』が閉じ、残ったノットレイ達を黒い腕で薙ぎ払う。

 今まで気付かなかった、あるいは確信を得るまで信じたくなかった事実。

 ましろがブラックホールを生成したことで、必然的に黒い腕の材料にも説明がついてしまう。

「貴様の思った通りだ。この少女こそ、ダークネストの後継者。我らの教団を支える聖女だ」

 規模こそ小さいが、ましろの能力はかつて戦ったへびつかい座のスタープリンセスのものと同じものだった。

 それでもスターはましろを守ろうと、ヴィニーとましろの間に割って入る。

「ましろちゃんがダークネストの後継者なんて嘘だよ!ましろちゃんはましろちゃん。ただの絵が好きな女の子だよ!」

「信じないのは勝手だ。だが事実、星空連合はノットレイダーの再興を恐れて、虹ヶ丘ましろの処分を決定した。概ね、あのサマーンの少女が担当しているのであろう」

「ララはそんなことしない。私がララだったら、ましろちゃんを助けようと必死で頑張るはずだよ」

「どうだかな。同じ仲間に顔向けできないからこそ、会いに来ないのではないだろうか」

「違うよ。ララは絶対にましろちゃんを助けたいから、私にましろちゃんを託してくれたんだ!」

 スターはヴィニーを止める為に殴りかかる。先ほどのましろの攻撃をかわしたのを見て、相手の弱点は分かっている。狙うのは、空洞の胴体に載っている牛の頭蓋骨である。

「スター……!」

 大きく拳を振りかぶり、拳の先にエネルギーを集める。出し惜しみはしない。こちらが消耗しきる前に相手を撃退するのだ。

 そして集めたエネルギーでヴィニーの頭部を殴りぬけようとした時だった。

 

「どいて」

 

 いきなり後ろから強い力で引っ張られ、宙に放り投げられる。スターは何が起こったのか理解できずに地面にたたきつけられ、少し遅れて、自分がましろが操る黒い腕に放り投げられたのだと気づく。

「邪魔しないでよ。やっと終わりにできるのに」

 直後、ヴィニーの足元から黒いトゲのようなものが突き出し、空洞の胴体を貫いて頭を跳ね飛ばす。

 いつの間にかましろの周囲に漂っていた泥の塊が減っており、ヴィニーの死角からトゲを差し向けていた。

 だがヴィニーの胴体はただの道具だったのか、頭だけが宙に浮いて胴体を構成していた部分が重い音を立てて崩れ落ちた。ヴィニーはそれを気に留めずに、頭部だけの状態でこちらをまっすぐ見据えている。

「良いだろう。私と、あのサマーンの少女、好きな方を信じるといい。私は湖の向こうの廃教会で待っている」

 そう言い残したヴィニーがどこかに飛び去って行ったのと同時に、まだ残っていたノットレイ達もどこかに転送されていった。

 もう脅威は去ったが、スターは変身を解かずに自分にさえ危害を加えたましろに目を向ける。

 ましろは元の状態に戻らず、変わらず琥珀色の瞳のままである。

「あなた、本当にましろちゃん?」

 どれだけ考えても、さっきまでのましろと目の前のましろが結びつかない。

 少なくともスターが知っているましろは、こんな冷たい瞳でこちらを見るような人物ではない。まるで誰かに乗っ取られているかのようだ。

「そうだよ。私も虹ヶ丘ましろ」

 違うと言ってほしい。そんなスターの願いとは裏腹に、ましろはスターの問いかけを肯定した。

 スターの事も敵とみなしているのか、展開していた泥の塊を呼び戻して力の具合を見ている。

「闇の力に呑まれかけた前の私が、元に戻る時に出た余り物。それが『私』」

 冷たい琥珀色の瞳を持つ少女は、その印象に違わぬ冷徹な声で自らの正体を告げた。

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