ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
ましろの家のとある昼下がり、エルはトンネルを通ってましろの家へやってきていた。
「ツバサ―!遊びに来たよー!」
元気よく挨拶して入ってきたものの、返事が返ってくる様子はない。どうやら誰もいない時間に来てしまったようだ。
(せっかく新しい服を着て来たのに……)
ずっとツバサ達に抱えられてばかりだったが、身体が大きくなってようやく一緒に歩けるようになったのだ。
スカイランド王室お抱えの仕立て屋に動きやすい服を仕立ててもらい、そのお披露目にやってきたのだが、誰もいないのでは仕方ない。
(でもまあ、ツバサはすぐ帰ってくるよね)
他に行く当てもないので、ツバサの部屋を見て回りながら帰りを待つことにした。あちらこちらに並べられたグライダーの模型。どこかで買ったであろう発泡スチロールのものから、ツバサが作ったであろうモノが並べられている。
壊さないように慎重に手に取り、羽や細かい部品の様子を見ていく。
(そういえば、こうやって紙飛行機を作ってもらったことあったっけ)
余っていたコピー用紙を折って飛行機を飛ばす。まだこの体の動かし方に慣れていないのもあり、不格好な紙飛行機はでたらめな軌道を描いてはすぐに床に落ちた。
手元に置いてあったグライダーを手に取り、同じように飛ばしてみるも、やはり上手く飛んでいかない。
ツバサみたいにきれいな軌道を描いて飛ばしてみたい。そう思いながらツバサの帰りを待っていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ツバサ、おかえ―――」
「……ただいま」
エルが玄関まで急いで向かうと、制服に身を包んだましろが立っていた。
ましろもエルが来ているとは思わず、お互いにかける言葉が見当たらないまま、2人が立ち尽くしているだけの時間が過ぎていく。
「えっと、エルちゃん、だよね?いらっしゃい、今お茶出すよ」
ましろは逃げるようにエルとすれ違うとキッチンでお茶の準備を始めた。どこかよそよそしい態度に、エルも何か声をかけたかったが、見知らぬ他人同然となってしまった自分に何が言えるのだろうかと考えてしまう。
本当はソラやツバサのようにましろの世話をするためにこちらに残りたかった。しかしスカイランドのプリンセスという立場がそれを難しくしていた。国民の希望たる自分が長い事国を空けることはできない。今日だって、詰まっている予定を何とか開けてきたのだ。
程なくしてお茶とお菓子を持ったましろが戻ってきたが、それでも会話が弾むことは無かった。自分と向かいに座ったましろも俯いていて、優しく迎えてくれたあの少女はもういないのだと改めて実感させられる。
「その、ましろ、私のことは思い出せた?ソラと一緒にこの家に来て、それからずっと一緒に暮らしてたんだよ?」
ましろは無言で首を振った。帰ってきたのは、ごめんなさい。の一言。何か思い出せていれば、それをきっかけに話を広げられたのだが、エルは何も言えずに口ごもってしまう。
もしこの場にあげはやソラがいてくれたら、と思う。だが今日こちらに来る時も、警護任務に就いているソラとすれ違ったし、あげはもこの時間は家にいないのも知っている。
「ねえエルちゃん」
重い空気の中、沈黙を破ったのはましろが放った一言だった。
「スカイランドって、どこにあるの?今日はそこから来たんだよね?」
ましろが出してきたその質問に対し、エルは何も答えられない。スカイランドに帰る時、ソラ達からましろには一旦スカイランドの事は伏せておいて、時期が来たら自分たちから伝えると聞いていた。
今ここで教えてしまうのは簡単だが、そうしてしまうとソラ達との約束を破ってしまうような気がして、エルは本当のことを言えなかった。
「ソラから、聞いてない?ここからちょっと遠いところにあって―――」
「嘘」
ソラが出身を誤魔化す時に使っていた言い方で誤魔化そうとしたのだが、ましろがそれを遮った。
声の調子も先ほどの不安定さはなく、むしろこちらを威圧するかのような低い声である。
「魔法が使えないソラちゃんが毎日通えるんだよ?ここから空港まで結構あるし、毎日通うなんてとても無理。本当はどこにあるの?」
前髪の隙間から覗く琥珀色の瞳がエルを睨みつける。エルもましろの納得のいく答えを出そうと必死に考えを巡らせるが、まだ未熟な頭では答えが思いつかない。
「やっぱりエルちゃんも言えないんだ。言えないんだったら、案内してもらおうかな。少し荒っぽくなっちゃうけど」
ましろは腰に手を回し、ミラージュペンを取り出す。エルもミラージュペンに手を伸ばし身を守ろうとするが、ましろの影から飛び出した誰かがましろの腕を掴んで止めた。
「待ちなさい。こんな狭い所で変身して、自分の家を吹き飛ばす気?」
「離してよユニちゃん。あげはちゃんやツバサ君は教えてくれないままだし、こうなったらスカイランドの人に連れて行ってもらうしかないよ」
「そうやって後先考えず行動するのはやめなさい。この前みたいに怒られても知らないわよ?」
これ以上反論してもユニは腕を放してくれないと悟ったましろは、渋々ミラージュペンをしまった。
それと同時にましろの様子も一変し、先ほどの敵意をむき出しにした攻撃的な様子から、あっという間に最初会った時のような伏し目がちな様子に戻った。
何が起こったのか分からず、エルが唖然としていると玄関の扉が開いた。
「おっ、エルちゃんいらっしゃい!ごめんねー。少年なら今日はグライダーのお試しに出かけてるよ」
あげはが帰ってきたことで一触即発状態の空気は完全になくなり、ましろも重荷が降りたようにため息をついた。
「あげは
それだけ言い残してましろは部屋に戻っていった。
「ましろ、どうしちゃったの?それにさっきの子、影の中から出てきたけど……」
「さっきの子はユニちゃん。最近ウチで暮らすようになったんだよ。最近はああやってましろんの影の中に入れてもらってるみたい」
あげははましろが座っていた椅子に座り、ましろの状況について考えながら話し出した。
「今のましろんの事は……エルちゃんにはちょっと難しいかも。たまにトゲトゲした感じになるって言ったらわかりやすいかな?」
「トゲトゲ……?」
先ほど向けられた敵意は、明らかにエルの知っているましろのそれとは違っていた。あのままユニが止めていなかったら、確実にましろに襲われていただろう。
「私もトゲトゲしたましろんの事はまだよく分からなくて、中々スカイランドの事も話せてないんだよね。この前あったことなんだけど……」
それからあげはは、ましろが起こしたとある騒動について語り始めた。
「ましろちゃんが人を襲ってる?」
観星町から帰ってきて少しした頃、あげはとみらいはソラシド市にあるファーストフードのお店でそんな話をしていた。
「まだ確定、って訳じゃないけど、この前実習先の保育園に遊びに行ったら、そんな話を聞いたんだよね」
ポテトを口にしながら、あげはが聞いた噂を口にする。
「なんかね、夕方になると黄色い目をした魔女がやってきて、黒い腕で悪い子をどっかに連れてっちゃうんだって。保育園の子たちもみんな不安に思ってるみたいで……」
「黄色い目に、黒い腕……」
確かにその特徴はましろと一致する。しかも最初みらいとリコがましろと遭遇した時も、黒い腕を無数に伸ばし、無関係の人間を襲っている最中だった。
「最近ましろんの帰りが遅いことがあって、まさかとは思うけど、悪い事してるなら止めてあげたくてさ」
「でもユニちゃんが見張ってるんだよね?流石に危ない事してたら止めるんじゃないかな」
「だよねー。そこが引っかかってて、ましろんにも帰りが遅い理由聞けてなくてさー」
他人行儀になってしまったましろに対して、不確かな疑念だけで詰め寄るわけにはいかなかった。下手をすれば、ただいたずらに関係を悪化させただけで終わってしまうかもしれない。
「リコさんは2、3日はソラシド市を離れるって言ってたし、頼れるのはみらいちゃんだけなんだよねー」
「私も心当たりがないわけじゃないけど、これって答えはないかなぁ。聞けないなら、こっそりましろちゃんの後をつけて見に行っちゃった方が早いんじゃない?」
「あっ、そういえば、ましろんにGPSのタグ持たせたままだったっけ。もう学校終わってる時間だと思うけど……」
あげはがスマホのアプリを開いてましろの現在地を確認すると、ましろの通う中学校から少し離れた公園の方へと向かっていた。
アプリの位置情報を元に公園までやってきて、ましろの姿を探すが中々見つからない。
「この辺にいるんだよね?」
「そのはずなんだけど、これもそんなにいいものじゃないから、微妙にズレがあるかも」
周囲を見渡してみるが、ましろらしき少女の姿は見えない。
何かに巻き込まれているのでは、と心配しているとみらいが遠くの方を指さした。
「ねえ、あれましろちゃん、だよね?」
みらいが指した方には黒いキュアプリズムらしき少女が立っていた。だがその両腕は華奢体格には見合わないほど巨大化しており、その巨大な手で一人の男を締め上げていた。
拘束されている男も最初こそは抵抗していたが、その抵抗する力も徐々に弱くなり、やがてぐったりと動かなくなるとプリズムは影の中に投げ入れた。
「嘘でしょ……」
衝撃的な光景に動けなくなるが、隣に立っていたみらいがあげはの手を取って先へ進む。
「早く行こう!また別の人を襲う前に止めないと!」
「う、うん!」
ミラージュペンを手に取ってプリズムの下へ急ぐ。理由は分からないが、人を襲っているこの状況は見過ごせない。
「おいお前!何やってるんだよ!?」
あげは達が駆け出すより少し早く近づく人影があり、プリズムに駆け寄っていた。さっきの光景を目撃していたらしく、戸惑いの表情を見せている。
「あげはちゃん、あの人危ないよ!」
「ううん、大丈夫!あの人、戦える方の人だから!」
プリズムの口元が動き、近づいてきた人物に何かを言ったようだが、今度はそれに対して信じられない、と言ったような表情を見せた。
「俺だよ俺!バッタモンダー!」
その人物は変装を解き、バッタモンダーとしての正体を現す。当然記憶が不完全なプリズムにとっては初対面の人物で、どうするか迷った影の方に話しかけた。
「ねえユニちゃん、こういう時どうしたらいいのかな?」
プリズムが問いかけると、影の中からユニが上半身だけ出てきて、バッタモンダーを観て状況を察すると何やら漫画を取り出してページをめくり始めた。
「ちょっと待ってなさいよ……あったわ。目撃者はとりあえず気絶させてるわね。カメラとかで撮られてたら壊したりしてるみたい。目撃者は残さないのが基本みたいよ」
「わかった。じゃああなたを倒せばいいんだね」
それを聞いたプリズムは何のためらいも無く巨大な腕を振り下ろした。
少し大振りで振り下ろされた拳は地面に穴を開け、気絶させるどころか叩き潰されそうになったバッタモンダーがおののく。
「あっぶねえ!いきなりなにすんだよ!」
「だって、目撃者は残しちゃいけないらしいから。ヒーロー、ってそういうものなんだよね?」
「そんなヒーロー聞いたことねえよ!」
バッタモンダーに反論されてもプリズムが止まることは無く、バッタモンダーを排除しようと拳を振るう。だが見た目通りの重量があるのかプリズムの拳はせいぜいバッタモンダーをかすめるだけだった。
「ねえ、やっぱりこれ使いづらいよ。斧とかヨクバールで戦った方がいいと思うんだけど」
「我慢しなさい。この本のヒーローだって、ワイヤーとかは使うけど、そんな物騒なものは持ちだしてないんだから」
あげは達はたった一つだけ見落としている点があった。
確かに危ない事をすれば、ユニは必ずましろを止めただろう。
だがそれはユニが危ないと認識して場合に限る。つまり、ユニがそう
「おいおいおいおいおい!俺が分かんねえのかよ!お前どうしちまったんだよ!」
「どうもしないよ。私はヒーローらしくしてるだけ」
戸惑うバッタモンダーが足を止めた隙に、プリズムの黒い拳が襲う。
「ちょっとタイムタイム!プリズム、何やってるの!?」
直撃するかと思われた拳はバタフライによって防がれる。プリズムはバッタモンダーを仕留められず、不服そうに拳を戻した。
「早く逃げて!」
「お、おう!後で事情教えろよな!俺、明日この辺でバイトしてるから!」
走り去っていくバッタモンダーをプリズムは追おうとするが、バタフライが牽制をかける。身体能力が向上しない弱点はそのままのようで、バタフライを出し抜いて追いかけようとはしてないようだ。
「邪魔なんだけど」
「いやいやいや人を襲っちゃダメだよ!プリキュアってそういうんじゃないから!」
バタフライが道を譲らないのを見て、プリズムの腕は元のか細い腕に戻り、黒い拳を構成していた泥が足元に落ちる。
そのままなぎ倒した木へ腕を伸ばし、落ちていた空き缶のゴミと木でヨクバールを作ろうとしたのだが、影から出てきたユニが丸めた本でプリズムの頭を軽く叩いた。
「そこまでよ。それ以上やるなら私もあげはの味方をするけど、それでもいいの?」
流石にユニを敵に回して勝てると思い込むほど無謀ではなかったようで、プリズムは腕を下ろして変身を解除する。
ユニも影の中に手を伸ばし、先ほど襲っていた男を取り出して肩で担ぎあげる。
「今日の収穫はコイツだけね。本当はもうちょっと捕まえとくつもりだったけど」
そのままユニはどこかへ向けて歩き出し、ましろもそれについていく。バタフライに止められたことが相当悔しかったのか、少し頬を膨らませている。
「ちょっと2人とも!どこに行くの!?」
あげはに呼び止められ、ユニは振り返る。
「どこ、って交番。コイツ、スピード違反とかで昨日警察に追われてたのよ」
近くの交番の裏で男を寝かせた後、ユニ達はあげはとみらいに連行されるようにファミレスのボックス席に座っていた。
「で、なんでお目付け役のユニちゃんも一緒になって人を襲ってたの?」
今回の件はユニがましろをそそのかして起こしたと思いにらみを利かせるも、対するユニはため息をついて煩わしそうにしている。
相変わらずましろは不機嫌そうなままで、こちらに真意を話す様子はない。
「……ヒーロー活動よ」
ユニはましろに指示して先ほど読んでいた漫画本を取り出させると、あげは達に差し出した。
「ましろがヒーローっぽいことしたいって言うから手伝ってあげてたの。私、地球のヒーローってよく分かんないし、本屋でオススメされたこの本を参考に指示を出してたの」
更にユニは更に写真を何枚か取り出してあげは達に差し出す。その中には先ほど襲った男がバイクで逃げている様や、見知らぬ男がひったくりをしている瞬間などが収められている。
「私が事前にターゲットを決めて、後はましろが変身して捕まえる。治安維持に貢献したんだし、悪く言われる筋合いはないわ」
出された漫画をみらいは手に取りパラパラとめくる。最初こそ興味深そうに読んでいたが、ページが進むにつれて呆れた顔になってくる。
「これ、ヒーローはヒーローでもダークヒーローってジャンルじゃないのかなぁ。多分ソラちゃんとかの言ってるヒーローとは全然違うやつ」
「そうなの?黒いし私が使う手も載ってたしで丁度いいと思ったのだけど、ヒーローにも色々いるのね」
ユニの発言を聞いて、みらいとあげははため息をついた。確かにましろの気持ちは真っ当なものだったが、よりにもよって手段が最悪すぎた。これでは人を襲っていたと勘違いされても無理はない。
「とにかく、この本は没収。ましろんも人襲っちゃダメだよ?ヒーローになりたいならこういう本じゃなくてソラちゃんを見習う事!」
ソラの名前を出されて流石のましろも反発できなかったようで、小さい声で、うん。とだけ答えた。
結局のところ、魔女の噂の真相はヒーローに対して無知な少女2人が起こした、少し強引なヒーロー活動だったのだ。
「それでソラのところに行こうとしてたんだ……」
「多分そう。トゲトゲモードのましろんも悪い子じゃないって分かってるだけに、私も強くは叱れないんだよねー」
あげはは乾いた笑いを浮かべる。エルが想像していた以上にましろは困った状態になっているようだった。
「でも丁度良かった。そろそろ隠しておくのも限界だと思って。近々、ましろんをそっちに連れてくことにしたんだよね。あと少ししたら連休にだし、案内してもらおうと思って」
同じ家に暮らしている以上、スカイランドの事を隠し続けるのは不可能だと判断した。結局それがましろの不信感を買い、自分たちから離れて行ってしまっては元も子もないのだ。
「そうなんだ。分かったよ、お父様達にも話しておくね」
「うん、お願い。ましろんもこれで落ち着いてくれるといいんだけど」
そうしている内に、グライダーの模型を抱えたツバサとことはが帰ってきて、玄関先で模型の羽を取り外して中に入ってくる。
「この前のは上手くいったのに、今日のは飛ばなかったね……」
「これぐらい大きいと左右のバランスが少し難しいのかもしれません。他の材料も試してみたいですし、一度さあやさんにも相談してみましょうか」
「ツバサ!待ってたよ!」
待ちわびたツバサの帰宅にエルが駆け寄り、ツバサもエルが来ていたとは思わず驚いた。
「プリンセス!来てたんですね!」
「それ、グライダーだよね?私にも運ばせて!」
「はい。お願いします!」
ツバサからグライダーのパーツを渡され、抱えるようにして持ちあげて、ことは達と一緒にツバサの部屋へ上がっていく。
ましろとはまだ上手く付き合っていけそうにはないが、あげは達がこの家に住んでいた頃と変わらずに迎えてくれたように、エルもましろとは変わらず、いつも通りに接してみようと思ったのだった。
魔女のウワサ
夕暮れ時になると、黄色い目をした魔女が黒い腕を伸ばして悪人を捕まえにやってくる、という内容でソラシド市に広まり始めていたウワサ。
その実態は、ユニが購入したアメコミに基づいて指示を出し、黒いキュアプリズムが軽犯罪者を捕まえていた、というのが真相。
2人揃って『ヒーロー』に対する理解が皆無な上に、ユニが購入したものがダークヒーローに分類されるものだったため、結果的に人を襲っているようにしか見えないのが噂を助長してしまった。
真相を突き止めたあげはがアメコミを取り上げ、二度としないようにと釘を刺して以降は活動していない。
ただウワサ自体は残ったため、しつけなどに使われることとなった。
尚、ユニの発案で『泥』を自分にまとわせて戦闘するスタイルを習得したため、黒いキュアプリズムの弱点だった接近戦の弱さもある程度解消された。