ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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第3章 十六夜の魔法つかいと観星町の月
Interrude 2 「新しいましろの第一歩」


 観星町での一件が片付き、もうすぐ春の連休が迫ってきた月末のある日、ましろはいつも囲んでいる食卓にて、ソラからとある話を切り出されていた。

「私を、スカイランドに?」

「はい!やっとましろさんをお迎えする準備が整ったんです。ずっと黙ったままって言うのも悪いですから」

 スカイランドのことを話すのはましろの記憶がある程度戻ってから。ソラ達はそう決めていたのだが、先日の観星町の一件で、ましろが内側で抱えていた不信感を失くす為にも、予定を大幅に前倒ししてスカイランドに招待することにしたのだ。

「嬉しい……。私もソラちゃんの故郷に行けるんだね!」

「もちろんです!いっぱい案内したい場所がありますから、楽しみにしててください!」

 やっとスカイランドへ行けると知り、ましろは笑顔を見せる。かなり久しぶりにましろの笑顔を見たような気がして、見ていたソラ達も顔がほころぶ。

「あっ、そうだ。せっかくお出かけするならお化粧やってみない?ましろちゃん、ずっとすっぴんだったから」

 ましろのスカイランド行きを聞いていたみらいが唐突に口を開いた。

 いきなり化粧の話を持ち出され、リコを除いた全員が戸惑ったが、みらいはそんなことを気にせずにましろに立ち上がるように促す。

「偉い人に会うかもしれないし、一番かわいいましろちゃんを見てもらおうよ!私教えるから!」

「えっ、うん……。そうだよね、やってみる」

 少し強引ながらも、ましろももう一度化粧に挑戦することに同意し、みらいに背中を押されて自分の部屋に帰っていった。

「さて、ましろさんをスカイランドに連れていくなら、これを渡しておいた方がいいわね」

 みらいが扉を閉じたのを確認すると、タイミングを計っていたかのようにリコも立ち上がり、何かの液体が入った注射器をソラ達に差し出した。

「もしかして、これがましろさんの魔法を止める薬ですか?」

「ええ。この前は飲み薬だったけど、今回は注射できるタイプを用意したの。また黒いプリキュアに変身しても、首元にこれを刺せば変身を解除させられるわ。ただ身体にも負荷をかけちゃうから、タイミングは慎重にね」

 観星町の時に想定していたのは、ましろが魔法を制御できずに暴走させてしまうケースだった。

 だがもう一人のましろの存在が明らかになり、自分の意志で敵対する危険性が出てきた今、ましろの意思を介さずに使える必要が出てきたのだ。

 今この場にいる面々が個人で使える技はスカイパンチ、ウィングアタック、バタフライプレスの3つ。どの技も黒いプリズムに対して有効かもしれないが、身体能力が向上しない今のプリズムに使うには威力が高すぎる。

 連携技のタイタニックレインボーアタックなら傷つけずに元に戻せるかもしれないが、用心しておくに越したことは無い。

「ありがとうございます。でもこれは必要ありません」

 万一の保険として差し出された注射器を、ソラは迷わずにリコに返却した。

「ましろさんが不安定になるのは、私が傍にいてあげられないから。この前暴れ出したのだって、私以外を信じられなくなったのが原因って聞きました。ですから、スカイランドにいる間は私が傍に付いていてあげようと思うんです」

 最初にましろが闇に堕ちたのは、ソラがましろを置いて離れようとしたから。

 次にあげは達に襲い掛かったのは、あげは達への不信感とソラがいない寂しさから。

 今ではソラがいなくても日常生活を送れる程度には回復しているが、それでもまだまだ不安定なましろには自分がいないといけない。ソラはそう思って、スカイランドにいる間はましろの傍に居ようと決めていた。

 自分がブレーキ役になるから、薬でましろを制御する必要はない。そうリコに返答した。

「じゃあこれは私が貰うわね」

 リコもソラの答えを受け入れ、返却された注射器に手を伸ばそうとしたが、今度はユニが横からかすめ取るように注射器を手に取った。

「あなた達の事を信頼してないわけじゃないけど、保険はあった方がいいでしょ?いざって時が来ないとも限らないわけだし」

 ユニは注射器を見渡し、見た目やおおよその使い方を確認すると注射器を胸元にしまった。

「ということは、ユニさんもスカイランドについてくるんですか?」

「当たり前でしょ。仕事だもの」

 ツバサの問いかけに対しユニは迷わずに答えた。

 普段から単独行動を好む彼女は、必然的にソラ達との集団行動を強制されるスカイランドへの同行も断るかと思っていた。だがそれはましろの監視という仕事を蔑ろにしてまで貫く姿勢でもなかったようで、ツバサ達は意表を突かれる形となった。

 そうしてスカイランドでましろをどう守るかについての話を進めていると、ましろと一緒に化粧の練習をしていたはずのみらいが顔を覗かせており、目が合ったあげはに向かって手招きをした。

「ごめん、みらいちゃん呼んでるから行ってくるね」

 ソファに腰掛けていたあげはは立ち上がり、ソラ達に断りを入れてましろの部屋の前へ移動する。

 今のましろは化粧はしなくなったが、持っていた化粧品はそのまま残している。どれも市販品なのでみらいに使い方が分からないということも無いはずだが、呼ばれた以上は確かめなければならない。

「どうしたの?」

「ちょっとここの家の住所入れてもらっていいかな?ましろちゃんもイマイチ覚えてないみたいだから」

 ましろの部屋前まで来ると、みらいはあげはにスマホの画面を見せてきた。画面上部にはプリティホリックロゴが表示されていて、通販で何かを買おうとしていたところのようだ。

「いいけど、何買ったの?」

「この前出た化粧水。ちょうど切らしてたみたいだから、私からプレゼントしようと思って」

 みらいは少し画面を上にスクロールして、購入した商品の画像を見せた。

 画像のサイズこそ小さいものの、その特徴的な瓶の形や、商品名からそれが人気商品だと分かった。

「あっ、これすごい人気でやつじゃん!私がバイトしてるとこでも入荷待ちだし、届いたら私もちょっと使わせてもらおうかな」

「全然見かけなかったんだけど、遠くのお店に在庫があるんだって。届いたらみんなで試してみようよ!」

 みらいからスマホを受け取り、慣れた手つきで住所を入力する。

「あて名はましろんでいいよね?」

「うん。ついでにラッピングサービスも頼んじゃおっか」

 チェックボックスにチェックを入れて、注文ボタンを押す。無事に注文はできたようで、少しして注文完了のメールが届いた通知が届く。

 ちょうど最後の1つだったようで、再表示された商品ページには品切れの表示がされている。

「よかったぁ。最後の1個だったみたい。これでプレゼントできなかったらがっかりされちゃうところだったよ」

 嬉しそうにするみらいが見せたメールにも、しっかりと注文完了の文字が並んでいる。先ほどは分からなかったが、在庫が残っていた店舗がどこにあったのかが分かった。

(あおぞら市、か……。随分と遠いところのお店に在庫残ってたんだなぁ)

 ましろと一緒に化粧ができるかもしれないという喜びと、遠くからやってくる荷物への期待感とが入り混じり、あげはの胸は高鳴った。

 

 

 あおぞら市のあおぞら中学校。その屋上には派手に彩られた粗末な小屋が建っている。

 元々倉庫として使われていた建物を借りているトロピカる部の活動はこれと言って決まっていない。

 正確には学校内の困りごとを解決するのが活動内容なのだが、そう毎日何かが起こるはずもなく、何もない日というものは存在する。

「みのりん先輩、なにやってるのー?」

「ボトルシップ。部室に飾ったらおしゃれだと思って持ってきたの」

 夏海まなつが部室を訪れると、先輩の一ノ瀬みのりが集中して何かの作業をしていた。。

 まなつもボトルシップは知っているが、ボトルをよそに普通に船の模型を組み立てているようにしか見えないその作業風景に首を傾げた。

「でもさー、ボトルシップってボトルの中に入ってるよね?後で魔法とかでシュバッ!と入れるとか?」

「これは1回外で組み立てて、分解した後に中でもう1回組み立てる。まだこれは第一段階。一番神経使うのは最後だから、そこに入ったらちょっと静かにしてて」

 映画やドラマのオシャレなインテリアとして見ていたボトルシップだが、その制作過程までは知らなかった。

 みのりの説明に感心しながら船の模型が組み立てられていく様を見ていると、部室のドアが開けられ、少しやつれた様子のさんごが入ってきた。

「さんご、ローラ大丈夫だった?」

「うん、すごい助かったよ。ローラキレイだから、やっぱりメイクの練習には持ってこいだったよ」

 いつも一緒にいるローラが不在だった理由、それはさんごのところでメイクの練習台になっていたからだった。成績の危ういまなつや、受験生故に多忙なみのりに代わり、さんごの夢を応援する為に練習台を買って出たのだ。

「まだ寝てるみたい。疲れちゃったんだね」

「ローラってすごいよねー。女王様になるって言って色々頑張ってるし。昨夜も遅くまで勉強してたよ」

「今度の中間試験、学年トップになっちゃったりしてね。はいこれ。アクアポッド」

 さんごがカバンを探ってアクアポッドを取り出したが、カバンから出てきたのはおしゃれなロゴが書かれた小瓶だった。

「あっ、これプリティホリックの新商品だよね!やっぱりさんごもゲットしてたんだー!」

 まなつは人気商品を欠かさずチェックしているさんごを褒めたが、対照的にそれを見たさんごの顔はみるみる青ざめていく。

「違うの……。これ、お取り寄せサービスでさっきお客さんに送ったやつ……」

 さんごはぎこちない動きでまなつの肩を掴み、震える声で言った。

 

「どうしよう……ローラを宅配便で送っちゃった……」

 

 それを聞いた瞬間、まなつの絶叫が部室に響き渡った。

「どうしよどうしよどうしよ!?ローラ絶対怒ってるよ!」

「さんご、どこに送ったかとかって分かる?」

「う、うん。変わった名前だったから憶えてる。確か、ソラシド市の虹ヶ丘さんって人の所」

「ソラシド市って、ちょっと前にネットニュースになってた……。確かここからだと飛行機で行く距離だけど、今から部活の遠征ってことにしても飛行機代なんてすぐ出ないだろうし、それに先生になんて説明をしたら……」

 みのりは作業の手を止めてローラを迎えに行く算段を立てているが、いかんせん場所が場所なだけにすぐに答えは出ない。

 しかも数万人が住んでいる土地勘のない町で、『虹ヶ丘』という家を探すのは極めて困難を極める。店舗で管理されている伝票の控えを見つからずに持ち出すということも難しい。

 八方塞がりな事態かと思われた中、まなつには何か思い当たる節があるようだった。

「にじがおか、にじがおか……。どっかで聞いたことあるような……」

「本当!じゃあ、家の場所とか分かる!?」

「名前を聞いたことがあるような気がするだけ……。多分会ったら何か思い出すかも」

 まなつは虹ヶ丘の名前を知っているようだったが、肝心の家の場所までは分からなかった。

 結局振り出しに戻ったかと思われたが、みのりが日本地図とにらめっこをして、ソラシド市のおおよその位置を指さす。

「船でも時間がかかりすぎるから、プリキュアに変身して全力で泳いでいけば明日には着くかも。後は地道に聞き込みして場所を割り出すしかない」

「分かった!じゃあ行ってくるね!」

「私も行くよ!」

「じゃあ私は桜川先生に話を合わせとく。いきなりみんないなくなったらちょっとした騒ぎになっちゃうし」

「オーライ!じゃあ後はよろしく!」

 みのりに後を託し、まなつはローラを迎えに行くために部室を飛び出した。

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