ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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Ch.1-2「蝕まれる心、ヒーローガールズの異変」

 雨が、止んだ。

 目の前には、さっきまで虹ヶ丘ましろだったモノが倒れている。

 そして手に残る、人を殴った感触。

 忘れようとしても忘れられないその感触を振り張ろうと、親友だったモノから逃げるようにソラは走り出す。

 当たり前の結果だ。見上げるほどの怪物(ランボーグ)を軽々と殴り飛ばす程の力を人間に向けたのだ。

 昔からヒーローになりたいと訓練を続けてきたソラの拳に、1年前まで普通の女の子として過ごしてきたましろの身体が耐えられるわけがない。

 街の人々はソラを見て笑顔で褒めたたえる。ありがとう、おめでとう。と。

 街頭のサイネージでは『新しいヒーローの誕生!』と大々的に自分の顔と名前が報道されている。

 これまで会ったこともないような政治家から、勲章を授けたいと申し出もされた。

 まるで虹ヶ丘ましろという人間など最初から存在しなかったかのように、人々がソラを英雄(ヒーロー)と讃える。

(違う、違う……!)

 自分がなりたいのはこんなヒーローではない。ソラは目の前の光景から逃げるように走り出す。

「何が『違う』んですか?」

 必死に逃げるソラの前に、かつて振り切ったはずの漆黒のキュアスカイが現れる。深紅に輝く瞳でこちらを見つめ、まるで今の自分をあざ笑うかのような表情でこちらを見ている。

「いいじゃないですか。私が正義です。悪を倒す正義のヒーローなんですから。私たちの話を聞いてくれない人はみんな悪です」

 生まれてからずっと聞いてきた声で、黒いキュアスカイはソラに近づき、耳元で囁く。

「これで、私たちの夢に一歩近づけましたね」

「違う!」

 もう一人の自分のささやきを振り払うように叫ぶと、ソラは自分がベッドの上で目を覚ました。もう既に日は沈み、部屋の中は暗い。冷や汗をかいていたのか、全身がびっしょり濡れている。

(着替えなきゃ……)

 汗を流し、新しい服に袖を通す。他の仲間たちの様子が気になり、普段食卓を囲っているホールへ向かう。

 ソラが顔を出すと、既にツバサとあげは、そしてエルの3人が座っていた。当然だがましろの姿はない。

(あれが夢だったら、良かったのに……)

 昼間の光景は悪い夢であってほしかった。怪物を生み出す力を身に付け、何のためらいもなく味方を攻撃したましろ。一時的に正気に戻しても、彼女の気持ちが変わらなければ同じことの繰り返しだ。

 いずれましろはスカイランドを攻撃するためにここに来る。何も知らず、スカイランド王宮からも信頼されているましろが攻め入れば、抵抗する間もなく滅ぼされるだろう。

「目が覚めたんですね。ヨヨさんがハーブティーを淹れてくれました。リラックス効果のある茶葉だそうです」

 ソラに気付いたツバサがハーブティーをティーカップに注いで出してくれた。

「ましろさんの事、ヨヨさんには隠しておきたかったんですけど、見抜かれちゃいました。解決策を探すと言って、それっきり出てきてません」

「そうですか……。当然、ですよね。私も次ましろさんに襲われたら、戦えるか分かりません」

 それ以上の会話は無く、無機質な時計の音だけが響く。

 ソラの脳裏にあの悪夢の光景がフラッシュバックする。ましろを犠牲に、世界の平和を守ったあの悪夢。

 出されたハープティーを一気に飲み干し、ソラは立ち上がる。このままじっとしていても意味がないと思い、黙って外へ行こうとする。

「待って、どこに行くの?」

「もう一度、ましろさんに会ってきます。きっと目立つところにいれば向こうからやってきます」

 エルに止められ、ソラは苛立ちを抑えて答える。そのまま出て行こうとするが、あげはに腕を掴まれて制止される。

「ちょっと待って。プリキュアの技でもましろんは元に戻らなかったのに、また行ったって同じことを繰り返すだけだって!」

「だったら、またましろさんを倒せばいいだけでしょう!今度こそ倒して、それで―――」

 そこまで言って、ソラは我に返った。今自分が無意識に発した言葉に驚いていると、窓ガラスに映りこんだ自分の姿が目に入る。ここに来て初めて、ソラは自分の瞳がわずかに真紅の光を発しているのに気が付いた。

「ちがっ、私は、ましろさんを……」

 その先の言葉が出てこず、あげはの心配そうな顔が化け物を見ている顔に見えて、慌てて自身の腕を掴んでいたあげはを振りほどく。その拍子にポケットに入れていたスカイトーンが落ちた。

「なに、これ……」

 常に持ち歩いているスカイトーン。澄み切ったスカイブルーをしていたはずのそれは、黒く変色し始め、自分の中が何かに塗りつぶされているような感覚に陥る。

「違う、私は、私は、ましろさんを、倒す……じゃなくて、私は……!」

 ソラは必死になって否定したもう一人の自分と同じになりかけているという事実を目の当たりにし、必死になって否定しようとしても、ましろを倒す。以外の考えが出てこない。他にもあるはずなのに、ごく当たり前の発想であるはずなのに、まるで黒い何かに塗りつぶされたかのように出てこない。

 必死に『ソレ』を思い出そうとしても出てこず、ソラの呼吸は荒くなり、目の焦点が合わなくなる。

「落ち着いて」

 あげは怯えるソラをゆっくり抱きしめる。荒くなっていたソラの呼吸も、少しずつ穏やかになっていく。

「こういう時はまず落ち着かないと。はい、深呼吸」

 落ちたスカイトーンを拾い上げて、何度も深呼吸して落ち着いたソラに返す。一時は漆黒に染まりかけていたスカイトーンも、ソラが落ち着きを取り出すのに合わせて、元の色へと戻っていく。

「今日はもう休もう?ましろんは今は大人しくしてるみたいだから、もうちょっとだけ考える時間はあるって」

「……はい」

 スカイトーンに起きた異変。一時的とはいえましろと戦う以外の発想が奪われていたように見えたソラ。

 ソラの身に良くないことが起こっている。それだけは確かだったが、逆にそれしかわからない。

 ソラは部屋に戻り、残されたあげは、ツバサ、エルの3人は何かできないかと必死に頭を巡らせる。

 まず思いついた方法は再度浄化して、ましろの再変身を阻止すること。

 スカイミラージュか漆黒のスカイトーンさえ取り上げられれば可能だが、昼間はすぐに再変身してしまった為、かなり難しいだろう。

「ねえ、ツバサ君」

 時計の音だけが響く空間で、あげはが口を開いた。

「このまま、エルちゃんを連れてどっかに逃げちゃわない?ましろんの事は私とソラちゃんがなんとかするから。どっか遠くに―――」

「嫌ですよ!ましろさんを見捨てて自分だけ助かるなんて!プリンセスだって納得しません」

「そうよ!私もましろの為に最後まで戦うわ!」

「だよね。言ってみただけ」

 あげはイタズラっぽく舌を出した。あげはらしくもない冗談だったが、張りつめた糸のようだった場の空気がほんのわずかに緩んだ気がした。

「でも、ありがとうございます。空を飛べる僕の方が逃げられる確率が高いですもんね」

 今のましろに自分たちは障害としか映らない。完全に覚醒したマジェスティの能力は高いものの、それを使いこなすにはエルはまだ幼すぎる。

 そう考えればあげはの判断は正しいかもしれない。だがそれでエルとツバサだけ助かっても、きっと良い結末にはならない。だからこそエルも自分だけ安全な場所にいることを拒否した。

「それじゃ、万一の時は少年はエルちゃんをお願いね。絶対にましろんを連れ戻そう!」

「はい!勿論です!」

 ツバサは役目を任命されて、誇らしげに笑う。

 あげはツバサと目を合わさずに自分の部屋へ戻る。ツバサ達の視界から外れると、あげはは上着のポケットに手を入れて、苦笑いした。

(さて、私はいつまで持つかな……)

 窓に映りこむ、何も言わず、無表情でこちらを見ているだけの、もう一人の自分。まだ異変の起こっていないツバサやエルだけでも守ると心に誓う。例えそれが、ソラやましろと戦うことになったとしても。

 ポケットの中のスカイトーンを握りしめて、あげはは暗い廊下を一人進んだ。

 

 

 ましろは気が付くと、緑が生い茂る森の中にいた。

「えっと、私、何してたんだっけ……」

 昼間にスカイと戦ったことはぼんやりとだけ覚えている。具体的な出来事は思い出せないが、戦って、無事に負けられたことだけは覚えている。

「あと、誰かいたような気がしたけど、誰だったっけ。まあ大事な人だったら思い出すよね」

 ついさっきまでの出来事だったはずなのに、ノイズがかかったように思い出せない。スカイの他に、後2人ぐらい誰かと戦ったような気がするが、どんな顔だったかさえも思い出せない。

「そんなことよりお腹空いたなぁ……。これ、食べてもいいのかな」

 青々とした木々には色とりどりの果実が下がっており、試しに一つもぎ取って口に運ぶ。

「あ、甘い!他のはどんな味かな!」

 いつの間にか足元に転がっていた人形を足でどけながら、周りの果実を次々に手を伸ばす。

 甘い、苦い、酸っぱい。同じ甘い果実でも、微妙に甘さが違う。ましろは自分の好きな味を探して様々な果実に手を伸ばす。

 見渡す限り木々が生い茂る森には、まだまだ果実が実っている。

 ましろはもっと美味しい果実があると信じ、また一つ、口にしていない果実に手を伸ばす。

「……見つけたわ」

 背後から人の声がして、ましろは手を止めて振り返った。

 

 

「……見つけたわ」

 目の前にいるのは、虚ろな表情でこちらを見ているひとりの少女。だがその影はビルの影と一体化し、まるで樹木が枝を伸ばすように手のようなものを伸ばして周囲の人々を捕まえている。

「ま、ほう、つかい……?」

 目の前の少女は拙い言葉を紡ぐ。琥珀色の光を放つ瞳でこちらを見つめ、人間がいることに戸惑っているようだった。

「リコ、あの子が……」

「ええ。あのリンクルストーンを拾った子で間違いないわ。まだ心が残ってる内に保護しないと」

 彼女たちの足元には、スーツを着た仕事帰りであろう人々が倒れており、影に捕まっている人達も、解放されると同時にその場に倒れ込む。

「良かった、まだ生きてるよ」

 みらいが倒れている一人の首筋に手を当てて脈拍を確認したり、周りの人間も息があるか確認する。

「みらいはその人達をお願い。私はあの子をなんとかする。弱点はもう分かったわ」

「分かった。すぐに戻るからリコも無茶しないでね」

 リコは杖を構えて少女に近づく。彼女から延びる影に触れてはいけない。触れれば最後、自分も生気を吸われて動けなくなるだろう。

「ねえ、私たちについてきてくれないかしら?あなたもこれ以上人を襲いたくないでしょう?」

「ひと……?」

 彼女は小首を傾げたような仕草を取る。こちらの声は聞こえているようだが、まるで周りの状況に気付いていない。

「大人しくしてくれれば私も何もしない。しばらくは帰ってこれないと思うけど、絶対に治してみせるわ」

 リコが魔法を唱えようとした矢先、リコの言葉に反応したのか彼女の影から黒い腕が飛び出した。 

「キュアップ・ラパパ、杖よ、光りなさい!」

 だがリコは彼女が何かしらの攻撃をしてくる可能性を知っていて、杖から強烈な光を放つ。ビルの影と一体化していた少女の影が、リコの発した光によって形が変わり、影の手も消える。影の範囲が狭まり、陰に囚われていた人達も解放される。

「やっぱり。あなたの魔法は杖を使わない代わりに影がいるのね」

 もう既に辺りは薄暗く、元々彼女たちを照らしている光はわずかに漏れているビルの光や、街灯の光のみ。体から延びる影が広ければ広いほど多くの魔法を使えるが、逆に魔法を出せる『出口』を狭めれば一度に出せる力は弱くなる。

 それに影の輪郭がハッキリした今なら、少女が繰り出す攻撃の軌道を読むのも簡単だ。

「お待たせ!あの人達を離れたところに移してきたよ」

 リコとは違う杖を持ったみらいが戻ってくる。後はこの状況を作り出した彼女を捕まえるだけだ。

「あの子、さっきから様子変じゃない?なんていうか、寝ぼけてるみたい」

「本当に寝ぼけてるのかも。きっと今自分が何してるのかも分かってない。でも動かないなら好都合よ」

 リコとみらいで挟み込む。リコが一歩踏み込むと、少女も流石に捕まえられると分かったのか、リコから離れてみらいの方へ走り出す。

「動かないで!」

 咄嗟に出たみらいの一言で、少女の足が止まった。かなり驚いたのか、先ほどまでの寝ぼけた表情とは打って変わって戸惑っている様な顔をしている。

「ここ、どこ……?」

「大丈夫、あなたを傷つけたりしないから。お願いだから、私たちについてきて」

 彼女は何故自分がここにいるのかさえ理解していないようで、目の前のみらいの言葉さえも呑み込めていないようだった。

「まずは落ち着いて。あなた、自分で力を制御できてないのよ。このままだとあなたがあなたでなくなるわ」

「でも大丈夫。私たちソレを治せる人に心当たりがあるの。だから、一緒に行こう?」

 みらいとリコは少女を刺激しすぎないように、ゆっくりと距離を縮める。だが彼女は胸元を押さえて、自分に宿った力に何かを願う。

「嫌、です。これは私とソラちゃんを繋いでくれる力。最後に残った、私の希望だから……!」

 直後、彼女の足元の影が少女の体を包み込み、その体が影の中に消える。

「待って!」

 リコが捕まえようと手を伸ばしたが、間に合わずに彼女はどこかへと消えてしまった。

「かなり頑固な子だったね。大人しくついてきてくれそうにないよ……」

「もう無理矢理連れて行くしかないわ。あの子が闇の魔法を制御していられるのは長くて3日。それを過ぎたら、もう……」

 そこまで言いかけて、リコは言い淀む。助からない以上、彼女の命を奪うしかない。自身の教え子に近い年齢の彼女を助けたいと思う一方で、みらいのいる世界を守りたい。

 どこへ行ったかも分からない彼女を3日以内に探し出すのは困難だと考えていた時、みらいが1つのアイディアを口にする。

「ソラちゃん、って言ってたよね。その子の話なら聞いてくれるんじゃないかな」

 彼女が逃げる直前に言っていた名前が引っかかっていた。彼女が探している少女。彼女が闇の魔法に縋り続ける理由がそこにあるならば、打開策もきっと彼女が持っているはずだ。

「もしかして、心当たりがあるの?」

「うん。この町に来た時、あの子と一緒にいるプリキュアを見たの。多分その子がソラちゃんだと思う。箒に乗ってたから、顔は良く見えなかったけど」

 リコからの連絡を受けたみらいがソラシド市に着いた時に見た青い髪の少女。みらいが着いた時には彼女が戦闘を終えた後で、あの少女に何か話しかけていたが、結局は逃し、その場に泣き崩れていたように見えた。

 彼女が『ソラ』でなかったとしても、何かしらの情報を握っているはずだとみらいは考えた。リコもみらいを信じ、みらいが見かけた少女に賭けることにした。

「わかったわ。明日はその子を探しましょ。絶対に助けるわよ」

「うん!」

 リコとみらいは、闇に吞まれようとしている少女を助けるために行動を開始した。

 

 




キュアスカイ(ネガ)

 ソラの心に現れた漆黒のキュアスカイ。
 自身が絶対正義と信じて疑わず、誰であろうと容赦なく正義の鉄槌を下す処刑人。
 ヒーローとしての信条や誇りもなく、助けられない命はためらわずに切り捨てる。
 彼女の前では一切の弁明も改心も意味をなさない。彼女が悪と判断したならば、それがすべてである。

 願い:最強の英雄(ヒーロー)になりたい
  彼女が悪と思ったものを一撃で破壊する能力。
  筋力、持久力をはじめとした各運動能力が飛躍的に向上する。
  強化されたその拳は文字通り必殺の一撃。
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