ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
みらいとリコが出会ったのは1年前、突拍子もないリコの発言に最初に反応を示したのはソラだった。
「1年前、ってどういうことですか!?だって、リコさん達は私たちと同じぐらいの時に出会ったって……!」
「無くなってるのよ。私たち魔法界の人間がこっちで作ったものも、思い出も。この世界で私たちの戦いをハッキリ覚えてるのはみらいだけ」
料理研究家だった母親の立場は知らない誰かがになっていたことになっていた。
考古学者の父がこちらの世界で発表した論文も、発表自体が無くなっていたり、別の人間が発表したことになっていた。
みらいと撮ったはずの写真も一緒にいたはずの自分やことはの姿は消えて、不自然なスペースの空いた写真に変わり果てていた。
どれだけ調べてもリコの正体にたどり着けない理由、それは世界から魔法界に関する思い出が殆ど消えてしまっていたからだった。
「5年……いえもうすぐ6年前になるわね。私たち3人は魔法界とこの世界の融合を食い止めた。離れ離れになるのを承知の上で、世界を救うことを選んだのよ」
「異世界同士の融合、ですか。信じがたい話ですが……」
まどかもいきなり世界の融合という話を持ち出されて困惑しているが、リコの表情からそれが嘘だとは思えなかったようで、怪訝な顔をするだけで否定はしない。
「信じろって方が無理があると思うわ。証明できないもの。ローラさんに会わなかったら、私も上手く説明する自信が無かったし」
昨晩、ローラ達からは人魚の世界についてさらに詳しく聞くことができた。
かつて破壊の魔女と呼ばれていた強大な存在の話や、あとまわしの魔女となったその存在と和解して空に還るするまでの話。
お陰でこちらの世界の人魚がどのような種族なのかおおよその輪郭は掴めたし、ソラ達に話す準備にも役立った。
「世界の融合を食い止めたけど、完全には元には戻らなかったわ。無理やり1つにしようとしたものを、力づくで引き裂いたようなものだもの。綺麗に分かれる方がおかしいわ。今の魔法界とナシマホウ界は、お互いを足して2で割ったような世界になの」
「それで、ローラさん達が魔法界とこちらの世界が融合していた時の名残だとおっしゃるのですか?」
聞き返したまどかに対し、リコは黙って頷いた。
「私はそう考えているわ。私もローラさんも人魚や魔法の知識はあって、微妙な違いはあっても根本的な部分は同じ。お互いの世界にほぼ同じものが存在してるってことは、元々1つのものだったって考えるのが妥当だわ」
デウスマストが襲来する以前のナシマホウ界に人魚は存在していなかった。元々の歴史では、幼少期のローラはまなつと出会うどころか、存在すらしていなかったのだ。
だが2つの世界の融合と分離が強引に行われた結果、ローラという存在が生まれ、まなつと出会い、昨日リコ達の目の前に現れた。
正直突拍子も無さ過ぎる話で、信じてもらえるかは分からなかった。実際問題、隣で聞いていたソラも話において行かれている。
リコの話を聞いたまどかは少し考えて、今聞いた話が嘘かどうかを検討し始めた。そして少ししてから口を開く。
「分かりました。あまりにも壮大な話ですが、一旦はあなたの話を信じましょう。てっきりあなたは悪意を持った宇宙人かとも疑っていたのですが、そうでもないようですしね。脅かすようなことを言って申し訳ございませんでした」
まどかは強引にリコ達が隠していた事情を聞き出したことを詫びて、まどかはましろ達が楽しんでいる方へ向かおうとする。
未だまどかをよく思っていないソラがそれを見逃すはずもなく、歩き出そうとしていたまどかを呼び止めた。
「どこに行くんですか?まさか、ましろさんに何かするつもりなんじゃ……」
「どうもいたしません。せっかくひかるが楽しんでいるのです。水を差すようなことはしたくありません」
迷いのない笑顔でそう答え、まどかは歩き出そうとするが、何かを思い出したようで再度こちらを向き直る。
「あ、そうでした。ましろさんを私に譲っていただけるならいつでもお受けします。ましろさんを支援する準備はいつでも整っていますから」
リコの正体が異世界人と分かり、正体が掴めなかった理由も知ったが、まどかは先ほどの提案を撤回しなかった。
狙われた何も知らないましろを守りたいという同じ目的を抱えていながら、その手段はどこかリコ達とは違うアプローチをしているように見えた。
「なんなんですか、あの人……」
あまりにもまどかの考えが読めず、ソラは去っていくまどかを眺めながら不服を漏らす。
釈然としない結末だったが、ソラがまどかに襲い掛かるようなことも無く、ましろを奪う口実を作らずに済んだ。この場においては最善の選択だったと言えるだろう。
「よく堪えたわね。まどかさんが私を疑うのも無理もないわ。実際、もう一人のましろさんはひかるさんに襲い掛かってて、その近くに得体の知れない人間がいるんだもの。誰だって怪しむわ」
まどかも悪意で動いているわけではなかったのは見て取れたので、説明しながらソラをなだめる。
ホープダイヤやもう一人のましろの存在にはたどり着いていないが、まどかは真相に近い所にまで来ている。
できるだけ平静を装っているが、正直リコは心臓を掴まれたような思いだった。
(もし全部を知られてたら厄介なことになってたわ。話して分かってくれたからよかったけれど……)
あれからパーティーの中心へ戻っていったまどかは、何事もなかったかのようにツバサ達に話している。ましろやみらいも近くにいるが、まどかが何かを起こそうという様子はない。
また油断した隙を突かれないようにまどかの様子をうかがいながら、ましろのいるテーブルに戻ろうとした瞬間だった。
いきなり船が大きく揺れ、船に乗っていた全員が近くの手すりに掴まったりその場にしゃがんで揺れをやり過ごす。
船の揺れはすぐに収まったので転覆はしなかったが、予想だにしない事態に遭遇した周囲の面々が揺れの正体を確かめようと周囲の海面を見渡す。
「ましろさん!」
揺れが収まってリコとソラが真っ先に気にしたのはましろの安全だった。
アレは明らかに何かがぶつかった揺れだった。また宇宙人がましろを狙って襲撃に来たのかもしれない。そう思いましろの姿を探すが、ひかると一緒だったましろは無事だった。
ましろは近くにいたひかると手を繋いでおり、リコとソラは2人の下へと駆け寄る。
「こっちは大丈夫!それより、今のって……」
ひかるもこの事態については何も知らないようで、逆説的にこれがまどかが仕組んだことではないと証明される。あの発言の直後にこんな騒動を起こす理由もない。
「また宇宙人が襲ってきたのかもしれないわ!ましろさんを安全な所に」
「うん!」
昨日まどかが用意していたパンフレットによれば、ゲストが休みながら外の景色を楽しめる船室がこのクルーザーには設けられている。空や海から丸見えである甲板にましろを残しておくよりかは遥かに安全だ。
ましろの手を引いて甲板の中央に避難させようとした時、船体が再び揺れた。先ほどと比べて揺れの規模は小さいが断続的に続いており、何かが船体を叩いているように揺れている。
「なになになになに!めっちゃ揺れてるよ!なんなのこれ!?」
「海の中から『何か』出てくるわ!でもこんな時に一体何が……」
ローラが海に飛び込んで襲撃者の正体を確かめようとしたが、それよりも先に襲撃者が上がってくる方が早かった。
船の脇から水かきの付いた手のようなものが現れ、船の手すりを握りつぶしてその巨体をその場にいた全員の前にさらす。
「ましろさん後ろ!」
ソラの声でましろが後ろを振り返ると、船にぶつかってきた襲撃者が先にましろを捉えていた。
見える部分だけでも数メートルはゆうに超える巨体に、犬とも竜ともとれる奇妙な頭。
化け物。そうとしか表現しようのない異形がましろの姿を捉えていた。
《ヤラネェダァ……》
気怠そうに呟いた怪物は迷わずましろが立っていた部分に食らいつき、ましろが立っていた周囲の甲板ごと彼女の身体を呑み込んだ。
船の一部が食いちぎられた衝撃で大きく揺れたが、怪物はそれ以上は何もせずに海の中へと戻っていく。
「ヤラネーダ!?えーっと、あれは犬……?ラクダ……?」
「なんだっていいわ!早くましろを取り返すわよ!」
「うん、行こう!」
ヤラネーダが去った後、真っ先に動いたのはローラ達だった。怪物に呑み込まれたましろを救うべく、プリキュアへと姿を変えて海の中へ飛び込んでいく。
「リコ、私たちも!サファイアなら海の中でも戦えるよね?」
「えぇ。サファイアは元々海の中にあったものだし、人魚の力を使うスタイルだから行けるはず。でもモフルンやはーちゃんはここでお留守番。私たちもあまり遠くまではいけないから、変身が持たなくなった時はーちゃん達に引き上げてもらっていいかしら」
「いいよ!任せて!」
「私も参ります」
ミラクルとマジカルへと姿を変えた2人が海の中へ飛び込もうとすると、ペンダントを首に巻きながらまどかが同行を申し出た。
先ほどの事があったからかソラは何か裏があるのではと身構えているが、凛としたまどかの瞳からはそのような邪な感情が見えない。今の彼女は完全に善意で動いているようだ。
「私たちは宇宙空間での戦闘を想定したプリキュアです。近い環境の水中でも問題なく活動できます」
「まどかさん私も!」
さらわれたましろの救出にひかるも同行を求めたが、まどかはそれ断った。
「いえ、ひかるは残ってください。ヤラネーダに呑み込まれた衝撃でましろさんが怪我をしているかもしれません。横になれるベッドや、応急手当の準備をお願いします」
「分かった!ましろちゃんをお願い!」
まどかに同行を断られてもひかるは嫌な顔をせずに了承し、同じく海中では戦えないソラ達を連れて応急手当の準備に取り掛かる。
奪われたましろを奪還する為、キュアセレーネへと姿を変えたまどかをはじめとして3人は海へ飛び込んだ。
海中に入ると少し遠くの方でヤラネーダとサマー達がヤラネーダの巨体を押さえているのが目に入った。わずかな時間だというのに、もう1キロ離れているかどうかの距離まで移動してしまっている。
「よし、水の中でも息ができるよ!」
「時間がないわ。このままヤラネーダのところまで一気に行くわよ!」
「はい!」
船の上では頭と巨大な手しか見えていなかったが、海中に入ったことでヤラネーダの全身がようやく見えた。
一番目を引いたのはその巨体。10メートルをゆうに超えるほどの大きさで、少し離れているここからでも相当大きいと思える程だ。
先ほどは見えなかったが、ヤラネーダの胴から先はただ巨大な尾ひれのみで異様な頭部とは対照的にシンプルな外見である。
「このっ、ましろを、返して!」
逃げるヤラネーダをサマーが尾びれ部分を掴んで豪快に投げ飛ばし、ヤラネーダの巨体が船の方へ飛んでいく。
そのまま船に叩きつけられるかと思われたが、コーラルがバリアを張ってヤラネーダを別の方向に弾き飛ばした。
「気を付けて、こんなおっきなのがぶつかったら船がひっくり返っちゃうよ!」
「そうだった!でも動きを止めたよ!ラメール!」
「オーライ!マーメイドアクアポッド、サーチ!」
ラメールがアクアポッドをかざし、動きが止まったヤラネーダをスキャンする。
アクアポッドの画面に表示された解析結果を見て、自信に溢れたラメールの表情が次第に曇っていく。
「虹色……?何よこれ。コイツ、全身がやる気パワーでできてるわ……。こんな量のやる気パワー、一体どこから……?」
「やった!このままやる気パワーに戻しちゃえば全部解決だね!」
「こんな量のやる気パワーを受け止めたらアクアポッドが壊れるわよ!仮に受け止められたとしても、一体どこに返せばいいか分からないし……」
アクアポッドに表示されたやる気パワーの量は、愚者の棺の起動が可能なレベルの量である。そんな量のやる気パワーを集められれば、世界規模の異変になっているはずだが、そんなニュースはない。
しかも本来人を襲うことがないはずのヤラネーダは人を襲った。ましてや、人を呑み込んだままやる気パワーの強奪に興味を示さずに逃げるなんて初めての事だ。
見た目、目的、性質、目の前で相対しているヤラネーダは何もかもが不明の怪物だった。
「こんな生き物、深海でも見たことがないわ。一体何が起こってるの……?」
とにかくましろを吐き出させようと代わる代わる攻撃を続けていると、追いかけて来たセレーネ達が合流する。
「あれは、くじら、でしょうか?」
近くでヤラネーダの全身を見たセレーネが呟いた。
目の前の化け物をクジラと表現したセレーネに、ラメールが攻撃を中断して詰め寄る。
「はぁ?!クジラぁ?あなたクジラ見たこと無いんじゃないの!?」
「いえ、くじらはくじらでも、星座の方のくじらです。くじら座に描かれている化け鯨と非常に姿が似ています。元は誤訳が原因だそうですが」
「何をどう間違えたらアレがクジラになるのよ……」
目の前のヤラネーダがくじらと言われても釈然としない様子だったが、攻撃の手が緩んだことでくじら座のヤラネーダが敵意を向けて襲ってくる。
その巨大な手を振り回すだけの単純な攻撃だが、一か所に固まっていたラメール達を薙ぎ払うのには十分すぎる大きさだ。お陰でましろを助ける算段を立てようにも、否が応でも回避に専念させられる。
「とにかく、中にいるましろちゃんを助けて来ればいいんだよね?」
攻撃を避けたミラクルが近くにいたラメールに尋ねる。まもなく次の攻撃が来ようとしているが、コーラルやサマーが攻撃をそらして作戦を立てる時間を作る。
「分かってると思うけど、ただ助けるだけじゃダメ。ましろが溺れる前に船まで運ばないといけないのよ。私たちは空を飛べないし、ましろを抱えて船を登るのも一苦労だわ」
今の状況で最善策を練っているが、ラメールにはいい考えが思い浮かばない。そこでマジカルはラメールにとある提案をした。
「私達ならこのまま空を飛べるわ。恐らくユニさんも一緒でしょうから、2人で空から船まで連れていく。中に飛び込むから、隙を作ってくれないかしら」
「オーライ!じゃあ2人をヤラネーダの中に送るから、後はよろしく!」
マジカル達ならましろを安全に救出できると分かり、サマーが先陣を切って飛び出す。
コーラルやラメールもサマーに続き、ラメールがヤラネーダを蹴り飛ばしてこちらに向かってくる勢いを殺す。
「私も微力ながらお手伝いをさせていただきます」
残ったセレーネもペンで弓を描き、ヤラネーダの尾びれに狙いを付ける。
「セレーネ・アロー!」
一条の光は見事にヤラネーダの尾びれを貫き、その巨体を海底の岩盤に縫いつけた。その衝撃でヤラネーダは海底にたたきつけられて、動きが止まる。
サマーはそれを見逃さず、ヤラネーダの頭に取り付いて上あごを押さえる。
「ラメール!手伝って!」
「任せなさい!」
すかさずラメールが下あごをかかと落としで無理矢理開けさせ、自分の身体をつっかえ棒のようにしてヤラネーダの口を開けさせる。
「今よ!絶対に助けなさいよね!」
「うん!ありがとう!」
ミラクルとマジカルは開いた口の中へ飛び込み、それと同時にラメールとサマーが離れてヤラネーダの口が閉じる。
セレーネの矢も引きちぎられ、ヤラネーダがその巨体を振るいサマー達を跳ねのける。
「頼んだわよ……」
あの2人ならきっとましろを助けられる。そう信じてラメールは未だ健在であるヤラネーダに立ち向かった。