ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
ユニはただ1人、パーティーには参加せずにましろの影の中に潜んでいた。影の中は光が届くにくく薄暗いが、外の気温の影響を受けないので意外と快適だ。
(そういえば、この前これの続編出てたわね……)
なんとなくで買った小説本を読みながら時間を潰す。別にまどか達と距離を置きたいわけではないが、いざという時は自分が最後の砦なのだ。できるだけましろの近くにいたい。
でもましろは自分のことを心配しているようで、時折料理などを渡したり、外に出てくるよう勧めてくる。
(流石に最後くらいは顔出した方がいいわよね。折角まどかが手配してくれたんだし)
そんな事を考えながら、一度昼寝でもしようかと本を閉じた時だった。
突如、強い力がユニの身体を外へ放り出さんと引っ張り、慌てて寝そべっていた地面に指を食いこませる。
「何よいきなり!」
リコやみらいはましろの影の中には干渉できない。この異常事態は確実に何者かの襲撃があったサインである。
ましろと引き離されるわけにはいくまいとこらえるも、抵抗虚しくユニの体は影の外に投げ出されてしまった。
すぐに襲撃者とましろの姿を探し、何が起こったのかと辺り一面を見まわすが、その異様な光景に言葉を失った。
「どこよここ……」
空は幾何学模様に覆われ、周囲には見たこともないような建物が並んでいる。
しかも並んでいる建物は石造りであったり木造であったりと素材もバラバラで、まるで古今東西の『街』というイメージを無差別にツギハギにして作ったような無秩序な光景が広がっている。
「まどかの余興、にしては大掛かりすぎね。どこかの異空間にでも飛ばされたのかしら」
今までましろの影の中に潜んでいた以上、近くにましろもいるはずだ。
ユニが周囲を見渡すと、ましろはすぐに見つかった。
「……」
結論から言えば、ましろはユニの背後に
黒く濁った瞳のキュアプリズムがそこにはおり、一切の生気を感じさせない表情をしている。
「……よんでる」
抑揚のない声でそう呟くと、ユニに背を向けて何かに導かれるかのように飛んでいく。
ボロボロのリボンがゆらゆらと揺れる様はまるで風に流される風船のようである。
「ちょっとどこに行くのよ!」
とても正気とは思えないプリズムを連れ戻す為、ユニは慌てて手を伸ばす。簡単にプリズムに届いたその手がプリズムの手を取ることは無く空を切り、プリズムはどんどん遠ざかっていく。
それから何度も追いかけて手を伸ばすが、ユニの手がプリズムの手を掴むことは無く、プリズムとの距離は開く一方である。
まるで亡霊のような姿になり果てたプリズムを見て、ユニはため息を吐く。
「まったく、世話が焼けるわね!」
遠ざかるプリズムを止めるべく、ユニは自身のスターカラーペンを取り出す。
心を持たない機械相手では分が悪いが、プリズムを正気に戻す今ならこれほどに有効に作用する力はない。
キュアコスモへと姿を変えたユニは、レインボーパフュームを携えて、プリズムの飛行ルートを予測して追い越す。
既にプリズムの身体は地面から離れ、数メートルの高さに届こうとしている。建物の上に登って跳べば、一瞬だけプリズムの正面に立てるはずだ。
石造りの建物に登り、そこから跳んでプリズムの正面に届く。そのままレインボーパフュームを構え、プリズムの目を覚まさせる為に引き金を引く。
「コスモ・シャイニング!」
直後、レインボーパフュームから放たれた光の流れがプリズムの身体を包み、光の中からましろの身体が現れる。
コスモはそのまま着地し、宙に投げ出されたましろの身体を受け止める。
一体何がましろに憑りついていたのかと思って上を見上げると、先ほどまでのプリズムのような生気のない半透明の人間が宙に浮いている。
「悪いけどスケジュールが詰まってるの。他を当たりなさい」
聞こえているはずはないが、目の前の亡霊にそう告げて出口を探す。
解放したましろは意識が無いが少し呼吸が荒く、早くこの異空間から脱出した方が良さそうだ。
(追ってこない……。所詮はその辺をウロウロしてるだけのお化けって訳ね)
ちょろいニャン、などと考えていると視界に映るあちこちの建物から亡霊の群れが次々と姿を現した。
まるでましろを求めるかのように虚ろな足取りで亡霊たちは迫ってくる。当然コスモはそんなものに捕まる訳はないが、抱えているましろがまた奪われては意味が無い。逃げ道を決めても、そこからまた亡霊たちが姿を現して、徐々に逃げ道を奪われていく。
四方八方から現れる亡霊たちの隙間を縫って屋根の上に登るが、一面に広がっているのはツギハギのような滅茶苦茶な街並みだけで出口のような亀裂は見えない。
「一体どこなのよ、ここ!」
すぐには脱出できないと悟り、意識が戻らないましろを安静にさせる為にも安全な物陰を探す。
亡霊たちも無秩序に沸いているわけではないようで、一面を埋め尽くさんとやってくる亡霊たちの中にぽっかりと穴が開いたように物静かな建物が見つかった。
屋根伝いに街の中を進み、見つけた建物の中に潜り込むとましろを寝かせて簡単に様子を見ようと首に手を当てる。
「……まだ脈はある。意識は無いけど、とりあえずは元気そうね」
ましろを保護して後はここから逃げるだけなのだが、そのましろの意識が戻る様子はなく、定期的に何かにうめき声が漏れている。
何か病にでもかかったのかと思い、コスモが額に手を当てても熱はない。ましろが苦しんでいる原因を探していると、首やわき腹などに殴られたかのようなアザが浮かんでいるのが見つかった。
「誰かと戦ったってわけ?あのお化けにそんな攻撃ができるとは思えないけど……」
何が起こっているのかは分からないが、今は脱出経路の確保が最優先である。コスモがどうやって逃げるかを考えていると、再びましろがうめき声を上げて、ましろの靴下に血がにじんだ。
すぐに靴や靴下を脱がせると、ましろの足に何か鋭利なもので貫かれたような穴が開いていて、そこから血が流れている。
「さっき憑りつかれた影響かしら……。早い所リコに診せないとマズい事になりそうね」
持っていた応急手当キットで止血をしながら、周囲の状況を伺う。
今身を潜めているこの建物は偶然亡霊たちが住処にしていなかっただけで、どこかでユニの気配を感じ取ったのか続々と押し寄せてくるのが見える。
裏口から外に出て、再び屋根の上に登る。追っ手はましろに憑りつくという性質以外は普通の人間と変わらない。屋根の上の方が屋根の上よりずっと安全だ。
「ましろちゃーん!いるー?」
ふと聞きなれた声が頭上から声が聞こえて、コスモが頭上を見上げる。
「あれって……」
コスモが頭上を見上げると、ミラクルとマジカルが上下逆さまの状態で立っていて、ましろを探しているようだった。
自分とミラクル達とでは数キロは離れている。ここから声を上げても、普通の人間である彼女たちが聞き取れるとも思えないし、気付いてもらうまで逃げ続けられるとは思えない。
ましろを一度寝かせて、懐から拳銃を取り出す。エネルギーカートリッジを使った光線銃が主流の星空界でも珍しい、実弾を発射するタイプの拳銃。発砲音で追手を集めてしまうかもしれないが、今はこれに頼るしかない。
信号弾を中に込めて、ミラクル達に届くと祈って打ち出す。発射された信号弾はちょうどミラクル達の頭上でさく裂し、その閃光と音がミラクル達に届いた。
「いた!あそこよ!」
自分たちを見つけたマジカル達がこちらに飛んで向かってくる。だが追手もましろに逃げられると察しているのか、ありとあらゆる方向から迫ってくる。
まるでゾンビの海のように見えた追手を逃げながら、ミラクル達がこっちに向かってくるのを待つ。
最早地面がどこかも分からない程に追手の数は増えており、ここからワイヤーを伸ばしてどこかへ跳ぼうにも、ましろを抱えたままでは追手のど真ん中に飛び込むも同然だ。
「お待たせ!逃げるよ!」
あと少しで追いつかれるかと思われた時、ミラクル達がわずかに間に合い、マジカルにましろを預け、コスモはミラクルに抱えられる形でその場を離脱する。
流石に追ってもそれで諦めたかと思ったのだが、何体かはまるでましろに吸い寄せられるかのように浮き上がってこちらに迫ってくる。
「なんなのよアレ!?お化け!?」
「私に聞かないでよ!」
「あと少しで私たちが入ってきた入口よ!早く外に!」
マジカルがソラを指さすと、空間に亀裂が入っていて、そこから光が漏れている。
そこに入れば外に出られるようだが、亀裂は徐々に小さくなっていて、あと少しもすればミラクル達が通れなくなりそうだった。
ミラクル達は最高速度で亀裂に迫り、わずかに一人が通れるぐらいのところで亀裂に手が届く。
「やった!これで外に出られる!」
ミラクル達はそのまま亀裂に飛び込み、やがて通り抜けた亀裂が一人も通れない程に小さくなっていく。
恐るべき執念を持った相手だったが、流石にあの亀裂は越えられなかったようで、ミラクル達はそのまま穴の向こう側へと逃れることに成功した。
「おてんとサマー、ストライク!」
サマーが放った火球がヤラネーダの右腕に直撃し、その勢いで右腕が千切れて飛んでいく。
ダメージを与えられたとサマーが安堵した矢先、先ほど吹き飛んだ右腕が再生し、動きが止まったサマーを叩き潰さんと振り下ろされる。
「やっぱりこのタイプは5人揃わないとダメみたい……どうしよう」
「何とかあおぞら市に連れて帰れないかな?あすか先輩とみのりん先輩がいればなんとかなるよ!」
5人揃っていないなら、全員揃うあおぞら市へ誘導できないかと提案したサマーの案を、ラメールが否定する。
「そもそもマリンビートダイナミックが効くかも分からないわ。こんなデカいのを陸に上げたらそれこそ被害が出るだけよ」
ヤラネーダの足止めをしている最中、何とかしてヤラネーダを浄化できないかといろいろと試してみたが、やはり生物タイプと同様にどの技も効果が薄い。
一時的にダメージを与えることはできても、すぐに傷は再生してしまうのでこちらの体力が削られていくだけだ。
現状は足止めさえできれば十分だが、ましろを助けてからの算段が無い。今の自分たちにできるのは時間稼ぎだけだ。
それでもラメールが何かできないかと考えていると、突如ヤラネーダの口がこじ開けられ、中からましろを抱えたマジカル達が出てきた。
「お待たせ!ましろちゃんは一応無事だよ!」
ましろを抱えたマジカルはそのまま海面から空中に飛び出し、ミラクルと彼女に抱えられたコスモがラメール達の近くに降りた。
「よし!これで思いっきり戦える!」
「待ちなさい。あの化け物、絶対何かおかしいわ。一旦引いて建て直すわよ」
サマーはましろを助け出せた今が好機と飛び出そうとしたが、コスモがそれを止める。
ましろを体内から引きずり出された影響か、ヤラネーダの動きから先ほどまでの獰猛さが無くなり、歯を見せて威嚇をしながらこちらの様子を伺っている。
「よく分からないけど、ましろちゃんの身体、もうボロボロなの。あのヤラネーダに何か原因があるんじゃないかと思うんだけど……」
ヤラネーダの体内から出る最中にも、ましろの異変が収まることは無かった。マジカルが何も言わずに飛び去ったのも、もう既にましろは虫の息で、一刻を争う状況だったのだ。
「ここに出てくる途中も、右腕に火傷したような傷が突然浮かび上がったわ。何か心当たりはないかしら?」
ミラクルのあいまいな説明では分からなかったが、コスモが火傷のような跡とを言ったことで、ラメールはとある可能性にたどり着く。
「まさか、ヤラネーダに与えたダメージがリンクしてるの……?」
「じゃあ、あのヤラネーダを倒すってことは……」
「ましろさんごと倒すってことになりますね。ヤラネーダを浄化しきれなくても、ましろさんがダメージに耐えられなければ……」
そこまで言いかけてセレーネは言い淀む。ヤラネーダの足止めに終始し、セレーネの矢で急所を狙うようなことをしていなかったのが幸いだった。
もし頭や胸を狙い撃ちしていたら、ましろは命を落としていたかもしれないのだ。
「ヤラネーダも大人しくなったみたいだし、一旦船まで戻るよ!ましろちゃんを助け出せたんだし、最低限の目的は達成したんだし」
ミラクルの提案で、不本意ながら一同はその場から撤退した。
ヤラネーダの敵意は消えることは無かったが、いくらか消耗したのか追ってくるような事も無かった。
ミラクル達が船の近くまでやってくると、ウィングやことはに引き上げられる形でローラ達は甲板に上がった。
既にましろは船室で寝かされており、ひかる達が準備をしたお陰ですぐに手当はされていたが、あまりにも痛々しい姿で帰ってきたましろを前に、素直に帰還を喜べる状況ではない。
ソラやひかるが心配そうな表情でましろを見守っているが、意識が戻る気配はない。
「そう、ヤラネーダを攻撃すると、ましろさんの身体にもダメージが入るのね……。何とかそのリンクを切断できればいいんだけど……」
リコは震える手を必死に抑えて、ましろにしてあげられることを考えるが、何も思い浮かばない。
もしあのヤラネーダを簡単に浄化できるなら、いくらでも打つ手はある。
だがまなつ達の話も総合すると、アレの浄化には大掛かりな技が必要な上に、肝心のメンバーが全員揃っていない。
「どうすればいいのよ……」
八方塞がりともいえる状況の中、不意に弱音が出てしまった。
今の自分にできるのは問題の先送りだけ。どれだけましろに薬や道具を使っても、ま痛みを和らげてあげられるのがせいぜいだ。
ましろを助けようと必死に知恵を絞るが、そもそもどうやって繋がっているかが解明できない以上、何も思い浮かばない。
「そうだ!ボトルシップだ!」
何も対抗策は無く、絶望的かと思われた状況の中、まなつが大きな声を上げた。
「ボトルシップ、って一体何を言い出すのよ……」
いきなり突拍子もないことを言いだしたまなつを見て、ローラが呆れたようにため息をついた。
「いや、みのりん先輩が部室で作ってたの見ててさ、ボトルシップみたいにましろを何かの入れ物に入れられればヤラネーダからのダメージから守れるんじゃないかって思ったんだけど」
まなつの考えた発想は確かに正しい。ヤラネーダの干渉を受けない場所さえ用意できれば、どれだけヤラネーダからダメージが送られてきてもそれがましろの身体に届くことは無い。
しかし問題はその具体的な手段だ。そんな都合のいい空間を簡単に用意できるわけがない。
「簡単に言うけど、そんな都合のいい器なんてあるわけないわ。残念だけどその案は―――」
「あるよ」
ローラがまなつの提案した案を却下しようとしたが、ひかるがそれを遮った。
「私がその器になるよ。ヨクバールの要領で私とましろちゃんが一つになれば、ヤラネーダとのリンクを切れるかもしれない」
以前観星町で戦闘になったヨクバール。2つの素材を1つに混ぜ合わせて生み出す怪物。
ひかるが以前相対したヨクバールは、全く異なる性質の物を融合させて1つの怪物を生み出した。それと同じで、ひかるとましろを混ぜ合わせれば、ヤラネーダと繋がってしまったましろを助けられるのではないかと考えた。
「……許可できないわ」
少し考えた後、リコはひかるの提案を却下した。
「その方法を使えばリンクを切れるかもしれない。でもその方法はあなたとましろさんとの境界が限界まで薄くなる。何が起こるか分からない。最悪、2人とも消える可能性だってあるもの」
以前の戦いで、ドクロクシーの眷属たちが1つになったスーパーヨクバールを見ているので、生物同士でのヨクバールの精製は不可能ではないと知っている。
だが、人間を素材にしたヨクバールを見たことがない。何が起こるか分からない賭けに、ひかるを乗せる訳にはいかない。
「大丈夫!私たちにはトゥインクルイマジネーションがあるから!」
いきなり耳慣れない単語が飛び出し、リコは眉をひそめた。それを見かねたユニが付け足す。
「私たちはアイデンティティをトゥインクルイマジネーションっていう力に変換して宿しておけるの。お陰で宇宙が闇に呑まれても平気だったわけだし、ましろと合体しても平気、って言いたいのよ」
ユニに説明されて、ようやく周囲にいた全員がひかるがやろうとしていることを理解した。
リコはそれでもひかるとましろを1つにする案を却下したかったが、ひかるの様子を見るにここで反対しても自分が見ていないところで事を進めてしまうかもしれない。他に手立てがない以上、ひかるとましろを融合させるしかない。
「……仕方ないわ。イチかバチかの賭けになるけど、やってみましょう」
前代未聞のプリキュア同士を素材にしたヨクバールの生成。ましろを救える可能性に賭け、リコはその判断に踏み切った。
ファントムプリズム
くじら座のヤラネーダの体内に潜んでいた亡霊に乗っ取られた状態のキュアプリズム
完全に体の主導権は奪われており、虚ろな表情のまま何かに導かれるようにどこかへ向かう。
実体がないため触れることもできず戦闘能力も持たないが、放置すれば声の主にましろを奪われる為、早急に助けなければならないことに変わりはない。
外部から歪められた存在である為か、通常の浄化技で簡単に変身が解除できる。