ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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Ch.3-6「心を重ねて、キラリ光る超新星!」

 ヤラネーダとリンクしてしまったましろを、ひかると融合させて救出する。そんな前代未聞の方法を試すことにためらいはあったが、他に方法が浮かばず、イチかバチかの可能性に賭けることになった。

 ヨクバールの要領で融合させる以上、まずはましろの意識が戻らなければ話が先へ進まない。

 ましろが意識を取り戻すまでの間、リコはましろの傍について、痛み止めや気付け薬を使って少しでも辛さを和らげようとしていた。

「今回、ましろが狙われたことと、記憶がない事、関係あるんでしょ?」

 先ほどまで船室にはパーティーに参加していた一同が揃っていたが、今は殆どが甲板の方へ出払ってしまっている。部屋に残っているのはみらいとリコ、ソラとひかる、ローラの5人だけだ。

 人数が少なくなったのを好機と見たのか、ローラは今回の襲撃の原因がましろにあるのではないかとリコに尋ねた。

「……ローラさんの言う通りよ。ましろさんがこんな状態になったのは、私のせい」

 ましろの意識が戻っていない今なら聞かれる心配もない。リコの立場を守ろうとフォローしようとしたみらいを制し、リコは自分の口から真相を話すことにした。

「私の実験が失敗したせいでましろさんの記憶は消えてしまったし、世界中から狙われる身になってしまった。本当だったら、ソラさん達に恨まれたって文句は言えないわ」

 ローラが紙芝居にして語った話がどの程度本当かは分からない。それでも時折見せる反応から、決してローラはましろを都合のいい仲間として見ていないのだと察しはついた。

 もうソラ達とは和解できているが、今この場でローラに糾弾されたって何も言い返せない。

「そうだったの。ましろはこの事を知らないのよね?」

 しかし意外にもローラは冷静で、続けて質問を投げかけた。リコはその問いに対し何も言わず、黙って頷く。

「正直、あなたを許せない気持ちはあるわ。でもそんな思いつめたような顔で言われたんじゃ、何も言えないわよ。ましろも前向きに頑張ってるみたいだし」

 ローラはそれだけ言うとリコとは目を合わさずに船室を後にした。口調こそ冷静だったが、そう簡単にリコを許せる訳もなく、一度気持ちの整理を付けたいようにも見えた。

 残されたリコ達がましろを見守っていると、先ほどの会話の音で起こしてしまったのか、ましろの目がゆっくりと開いた。まだ意識が戻ったばかりで今の状況も理解できておらず、荒い呼吸しながら周囲を見渡す。

「ましろさん!」

 すぐさまソラが駆け寄り、ましろの手を取る。

 状況を理解しようとしている中、ソラと手を繋いだことでましろの辛そうな表情も少しだけ和らいだ。

「ソラ、ちゃん……。ごめんね、迷惑ばっかりかけちゃって」

 ましろは弱々しく笑う。自分の状況をある程度は理解できているようで、ソラに心配をかけまいと必死に繕った表情である。

「そんなことありません!いつだって私はましろさんの味方ですから。迷惑だとかそんなこと、思ったこともありません!」

「うん、ありがとう……」

 ソラと話が出来たことがましろを安心させたのか、表情が少し柔らかくなる。

 しかしそれでは根本的な解決とはならなかったようで、一瞬目を見開いたかと思えば、胸元を押さえて一気に呼吸が荒くなる。

「やっぱり、私がましろさんと融合します!もし戻れなくなっても―――」

「ダメよ」

 ましろの異変を察知し、ソラは迷わず自分がましろを受け入れる器になると提案したが、リコは即座に却下した。

「これは絶対に失敗できない事だから、少しでも確率が高い方に賭けるしかない。ましろさんを助けたい気持ちは分かるけど、トゥインクルイマジネーションが無いソラさんにはこの役目は任せられないわ」

 そう言われてソラは返す言葉が無い。事実、自分は一度アンダーグエナジーに呑まれかけているのだ。ヨクバールの素材となれば、完全に取り込まれて消えてしまうかもしれない。

 この命に替えてでもましろを守りたいが、それではましろを傷つけてしまうだけだと分かっている。今の自分には何もできないのだという無力感を紛らわすために無意識に拳を握ってしまう。

 そんなソラを見かねてか、ひかるがソラの手を取って笑いかけた。

「それにさ、ましろちゃんはソラちゃんと一つになるより、一緒に戦う方が喜んでくれると思うんだよね。だから、ここで待ってて」

 この救出作戦自体、ひかるが提案したものだが、トゥインクルイマジネーションがあるからと言って成功する保証はどこにもないのだ。最悪自分も消えるかもしれないのに、彼女はそれでも笑っていたのだ。

 ソラもひかるの気持ちを汲んで、一呼吸を置いて気持ちを整えてひかるに後を託す。

「分かりました……。ひかるさん、ましろんさんを、お願いします」

「任せて!絶対に助けてくるから!」

 ソラが覚悟を決めたのを見届けたリコは、苦しむましろの耳元で優しくささやく。

「ましろさん、無理をさせてごめんなさい。今からあなたを治すわ。ヨクバールを作る要領で、あなたとひかるさんを1つにできるかしら?」

 それを聞いたましろは黙って頷き、ゆっくりと起き上がってひかると手を繋ぐ。

 不安定な今の状況では立つのもやっとで、ひかるに支えられてやっと向き合えた。

「じゃあ、始めるね……」

 ましろとひかるの足元に魔法陣が広がり、そこから現れた闇が2人を包む。

 やがて2人を包む闇は繭のようになって沈黙した。後は成功するのを祈るばかりである。

「ヤラネーダが来たよ!」

 船室に駆け込んできたまなつがヤラネーダ襲来を告げ、空気が張りつめたものへと一変する。

 ましろを守る為にソラが立ち上がると、リコに呼び止められた。

「分かってると思うけど、ましろさんとヤラネーダのリンクが切れるまではダメージは最小限度に押さえて。ましろさんが命を落とせば、ひかるさんも消えることになるわ」

「分かってます。相手を傷つけずに攻撃を止める方法には、多少心得がありますから」

 リコの言葉にソラは迷わず答えて船室を飛び出す。ひかるがましろを助けてくれると信じ、今自分にできることをやろうと決めた。

 

 

「みらい、サファイアを手に入れた時のこと、覚えてるかしら」

 ソラを見送り、みらいとリコだけが残された船室にて、リコがつぶやいた。

「確か、人魚の里に行った時にサファイアが飛んできたんだよね?貝の中から。でもなんで急にそんなこと聞くの?」

「リンクルストーンは、持ち主を選ぶって言われてるのよ。ダイヤやサファイアが私とみらいを選んだように、ホープダイヤもましろさんを選んだ。だからあの日、ホープダイヤはましろさんの近くへ飛んでいったんじゃないかって、ずっと思ってたの」

 名は体を現す、という言葉がある。虹ヶ丘ましろ、という名前が固有の色を持たず、どんな色にも染まる純白の存在、と定義するのなら、闇の魔法を扱う才能も十分にあるのではないか。リコはずっとそう考えていた。

 事実、ホープダイヤと引き合ったましろは、その不安定になっていた心に付け込まれて簡単に悪意に染まってしまった。

「じゃあましろちゃんは、どっちかって言うと私たちに近い魔法使いのプリキュアになっちゃったってこと?」

「かもしれないわね。ソラさんに影響されてヒーローガールになったように、ホープダイヤに溜められた悪意に呑まれて、闇の魔法使いになってしまった。今までは分からなかっただけで、元々闇の魔法使いとしての才能もあったのかもしれない」

 ましろがホープダイヤと融合してしまったあの晩、もし何事もなくみらいと合流できていれば、翌朝2人でホープダイヤを浄化した後に破棄する予定だった。

 しかしリコの予想を外れ、ホープダイヤはましろの手に渡り、こうして闇の魔法つかいとして覚醒させてしまった。 

「ましろさんは可能性よ。クシィさんが思い描いた、世界を脅かす災いと戦える存在になれるかもしれない。校長先生もそれを期待してる。ましろさんを利用しているみたいで、あまりいい気分ではないのだけど」

 ましろがいた部分の闇に亀裂が入り、中から光が漏れてくる。

「これって……!」

「ええ、出てくるわ!」

 やがて繭が破られ、中から一人の少女が姿を表す。ひかるとましろが融合して生まれた少女は、ゆっくりと目を開いた。

「ひかるさん……?」

 中から出てきた少女はひかると同じ姿をしていた。しかし目元などにはましろの面影が見られ、2人の少女が一人になったのだとわかる。

「うん。でもましろちゃんも助けられたよ。2人とも、って言っていいのか分からないけど、どっちのましろちゃんも無事。今は疲れて寝ちゃってるから出てこれないけど」

 ひかるは胸に手を当てて、中で眠っているましろの様子を確認する。ましろの意識はないものの、魔法だけは扱えるようで、影から簡単に杖を作って軽く振るって見せる。

「成功ね。気分はどうかしら?」

「うん、平気。すごい澄み切った気分。これならヤラネーダとと戦っても大丈夫だと思う!じゃあ、行ってくるね、リコ()()!」

 ましろと一つになれたひかるは船室を飛び出し、無事を全員に知らせるために走り出した。

 

 

 ましろを奪うべく再び襲ってきたヤラネーダはましろを見つけられないのか、まるで駄々をこねるかのように船を叩いたり揺らしたりしていた。

(ダメージを与えられなくても……!)

 キュアスカイは襲い来るヤラネーダの手を受け止めて、その力を受け流す。

 スカイの華奢な体では、当然ヤラネーダの一撃は受け止めきれない。だがここで攻撃を加えれば、その分ましろを苦しめることになる。

 そこでスカイが取った行動は攻撃を受け流すことだった。ヤラネーダの体にもダメージを与えず、自分の身に渡るダメージも最小限に抑えられる。

 唯一欠点があるとすれば、スカイ達の体力の限界だ。戦える人間は全員ヤラネーダの対処にあたっているが、スカイのように上手に攻撃をいなせる者は少ない。

 バタフライのバリアで攻撃を受け止めたり、敢えて避けられるようにセレーネが矢を放ったりしてヤラネーダを牽制しているが、いつまで持つかもわからない。

(今はまだ船は無事ですが、少しでも逃せば……)

 ましろを守ることが最優先だが、この船が壊されても負けである。ヤラネーダへのダメージを最小限度に抑えつつ、船も守る。経験を積んできたスカイでも、かなり困難を極める戦いだった。

 ここからどう時間を稼ぎ続けるかを考えていると甲板の上を誰かが走ってくる音が聞こえた。

「こんな時に、一体誰が!?」

 スタッフは既に避難させているので、甲板に出てくるとすればリコかみらい、もしくはひかるとましろに限られる。

 大振りで振るわれたヤラネーダの巨大な腕を受け流し、足音がした方へと目線を向ける。

 スカイが背後を警戒した事で、背後からやってくる誰かの足音に気付いた他のメンバーもスカイが向けた方に目線が向く。

 全員の視界が集まる先には、ずっと待っていた少女の姿があった。

「みんなお待たせ!さあ、ヒーローの出番だよ!」

 腰に下げているミラージュペンとクリアブラックのスカイトーンを手に携え、ひかるはスカイミラージュを構えてヤラネーダに立ち向かう。

「ひろがるチェンジ、()()()!」

 ひかるの体は桜色と黒の2色のキュアスターへ姿を変わり、ウィンクをした右目に金色の光が宿る。

「空にひろがるキラキラ星!キュアスター、ミラージュスタイル!」

 スターの右腕に泥が集まり、巨大な拳となって飛び上がった勢いのまま殴りつける。

 ヤラネーダの頭部が殴り飛ばされ、大きくのけぞる。ヤラネーダに攻撃を加えたスターは全く苦しむ様子はなく、もうヤラネーダのダメージがましろに行くことは無いのだと分かる。

「ヒーローガール―――」

 甲板に着地したスターは拳をヤラネーダへ突き出し、こちらを睨みつけているヤラネーダへ狙いをつける。

「スター・ナックルッ!」

 スターの右腕を覆っていた黒い拳はロケットのごとく射出され、ヤラネーダの頭部の一部が吹き飛ばす。

 サマーの一撃では再生していたヤラネーダだったが、スターの一撃では再生せずにヤラネーダは欠けた頭部のまま船上を見つめている、

「よし。これでましろんも助けられたわけだし、全力で戦える!」

 バタフライが意気込んで立ち向かおうとすると、ヤラネーダの頭部から血液のような黒い液体がこぼれ落ち、黒いシミが幽霊のような形と取ってこちらへ向かってくる。

「ね、ねえあれって……おば、おば……」

「おばけ、だよね……。なんでヤラネーダからおばけが……」

 いきなり苦手なものが目の前に現れてたじろいでいるサマーとは対象的に、ヤラネーダから幽霊が姿を表したことで目の前の敵の正体がわかったようだった。

「なるほど、やっと分かったわ。コイツ、未練タラタラのお化けで出来たヤラネーダだったのね。生きていたい、死にたくないって思いの結晶。生きる気満々だからこそ、全身がやる気パワーでできてるのよ!」

 本来存在しないはずの、神話に語られる生物のヤラネーダ。その正体は海に漂っていた幽霊たちを素材としたヤラネーダの突然変異種だった。

 生存本能というやる気に突き動かされているヤラネーダを前にしても、スターは怯まない。拳を握りしめ、スカイの隣に立つ。

「でもましろちゃんは渡さない。だって、スカイランドに行くって決めたんだから。そっちには行けないの。行くよ!スカイ!」

「はい!」

 スカイとスターがその渦中へ飛び込み、向かってくる幽霊たちをなぎ倒す。

 相手は半分透けているが、スカイ達の攻撃は簡単に当たり、倒した傍から光に包まれて消えていく。

 頭の一部が欠けたヤラネーダもまだ健在で、ましろを取り込んで欠けた部分を補うかのように船体にしがみついてスターに襲い掛かる。

「化けくじらを退治したペルセウスは、特別な武器を持っていたの。メデューサの退治にも使われた、特別な武器」

 スターを掴もうと腕を伸ばすが、再び黒い拳を作り、更には鋭利な鎌のように変形させる。

「不死の怪物も倒せる、金剛の鎌(ハルペー)だよ!」

 そのままスターは大鎌を振るい、振り下ろされそうになった右腕を切断する。

 片腕が切り落とされたヤラネーダは大きくバランスを崩したものの、身体の体積を小さくして余った部分で欠けたていた部分を補う。

 続くスカイが切り落とされた断片を殴り飛ばして消滅させ、確実にヤラネーダの身体を削いでいく。

「さっきよりも小さくなったよ!この力なら再生させずに倒せるかも。時間はかかっちゃうけど……」

「ちょっと待って!じゃあこれを使おうよ!」

 甲板の上に着地したスターにサマーが駆け寄り、小さなドレッサーを取り出した。

「このトロピカルハートドレッサーでスターの力を増幅させれば一気に浄化できるかも!」

「でもスター達は私たちと違うよ?シャンティアに行った時も、私達5人でなんとかしたし……」

「5人で使える技が無いなら作ればいいのよ」

 サマーはスターの使う魔法を利用することを提案したが、当然異なる系譜に属するスター達が自分たち同じ技を使えるかはわからない。そこで、ラメールは新しい技を作ることを提案した。 

「スカイ!ちょっと来てくれるかしら?」

 ラメールは話に集中させるために一度離れたスカイをすぐに呼び戻し、同時にスターにドレッサーから取り出した指輪を見せる。

「これを使って浄化しようと思うんだけど、魔法でこれと似たようなものは作れるかしら?」

「分かった!やってみるね!」

 スターが『泥』を加工して指輪を作る。星と翼が1つになったような形になり、流れ星のような装飾が施された指輪がスターの指にはめられる。

「お待たせしました!あのヤラネーダを一気に倒す方法があるんですね?」

「うん!これで行くよ!」

 スカイが合流したことで5人揃い、全員がドレッサーの周りを囲ってスターがドレッサーに指輪をセットする。

「おめかしアップ!」

 スターの掛け声でその場の5人の姿が変わり、ドレッサーの鏡の部分が外れてスターの手に収まる。

 それと同時にサマー、コーラル、ラメールの姿が変わり、スカイとスターの姿も変わる。

「キラやば~!私達の姿も変わった!」

「すっごいトロピカってるでしょ!」

「はい!トロピカってます!」

 スターは鏡を構え、こちらに飛び掛かろうとするヤラネーダに狙いを定める。

「5つの力、大空を導け!」

 鏡から海鳥の姿をした無数のエネルギー体が舞いあがり、5人を包みこむ。

 5人の身体を完全に包み込んだエネルギーは、一羽の巨大なペリカンとなってヤラネーダにまっすぐ向かっていく。

「プリキュア・スカイビート・ダイナミック!」

 既に空中に飛び出していて海中へ逃げられないヤラネーダに逃れるすべはなく、『V』の形をしたリングがその巨体を捉える。

 すれ違うようにして5人は船の上に着地し、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 

ビクトリー!!

 

 

 その掛け声と共にヤラネーダは光に包まれて消滅し、ヤラネーダを構成していた無数の魂たちが天へと昇っていく。

「これで終わり、かな?まさかお化けのヤラネーダが出てくるなんてねー」

 苦手な幽霊とこれ以上戦わなくて済むと安心し、サマーは胸をなでおろした。

 残っていた幽霊たちもこの人数の前では敵でもなく、瞬く間に一掃されて同じく光に包まれて消滅していく。

「まあこれからの事は後で考えるとして、問題は……」

 ラメールがスターの方へ目を向けたのにつられて、一同の目線がスターの下へ集まる。

 そう、これでまだ終わっていないのだ。くじら座のヤラネーダは撃退できたものの、それでましろひかるが融合したままでは意味がないのだ。

 流石のスターも緊張しているようで、変身を解除して呼吸を整える。

「じゃあ、分離するよ」

 ひかるが肩の力を抜くと、ひかるの身体からましろの身体が飛び出し、そのはずみでひかるは尻もちをついた。

 ましろもすぐに意識を取り戻し、少しよろめいて傍にいたソラに支えられる。その呼吸は先ほどまでと違い、穏やかなものに戻っている。

「大丈夫ですか?」

「うん、でも、ちょっと辛いかな。少し、休むね……」

「私もすっごく疲れた……。もう動けないよ……」

 ましろとひかるは無事に元通りに分離でき、今度こそすべてが終わった。

 海の怪物へとなり果てた死者の無念は晴らされ、船は静かに元の航路へと進むのだった。

 

 

 ましろが目を覚ますと既に日は暮れていて、夕日が船室を照らしている。

「目が覚めたのね」

 ベッドの脇にはローラが立っていて、目を覚ましたましろに絵が描かれた紙の束を差し出した。

「あなたの先生の魔法ってすごいのね。シャボンピクチャーを綺麗に模写してくれたわ」

 受け取って描かれている絵を見ると、自分やローラを含めた少女達やデフォルメされた動物のようなものが映っている。

「これって……」

「私たちが冒険してた時に撮った写真よ。花寺のどか、菓彩あまね、ラビリン、プーカ。無理に思い出せとは言わないけど、こういうことがあったって知っておいて」

 ローラは映っている少女たちの顔を指で示しながら名前を伝える。

 あちこちの風景で撮った写真を眺め、楽しそうにしている自分が映っていた。

「シュプリームの件が片付いてから会ってなかったけど、誰かとは連絡を取ってるの?」

「ううん。前の私のスマホはあげは()()()が持ってる。ひかるちゃんと会うまではソラちゃん達以外に知り合いもいなかったし」

「そう……何か書くものあるかしら?」

 ローラに言われてペンを探すも結局は見つからず、ましろは影の中に手を入れて、魔法で作った黒鉛をローラに差し出した。

 黒鉛を受け取ったろローラは、ましろに渡した写真の1枚の裏に何かの番号を書いてましろに返す。元々文字を書くためのものではない為か少し汚いが読めない程ではない。

「はいこれ。とりあえずまなつの番号を教えとくわ。のどかやあまねに会ったらかけてきなさい。事情を説明したりなんだりしてあげる。私の時みたいに取り乱したら大変でしょう?」

 ローラから渡された番号を見て、ましろの口元も少しだけ綻んだ。

「ありがとう……。ローラちゃんって、なんだかんだ優しいよね。『私』が記憶喪失だって言っちゃっても紙芝居で教えてくれたし」

「別に。あなたがそんなんだと調子狂うから見てられないだけ。またみんなで会った時にギクシャクしたくないし」

 照れ隠しのつもりなのか、ローラは分かりやすく顔をそむけた。夕日に照らされているせいなのか、少しだけ顔も赤い。

「ローラ!もうすぐあおぞら市に着くって!忘れ物とか大丈夫だよねー!」

 部屋の外からまなつの声が聞こえる。ハプニングが続いたものの、ローラ達との別れがもうすぐ迫っていた。

「それじゃ、私は帰るわ。今度遊びに来なさいよね」

「うん。それじゃ、またね」

 ローラが船室から出ていこうとすると、言い忘れていたことを思い出し、その途中で足を止めて振り返った。

「そうだ。後でリコに診てもらいなさい。目、黄色くなってるわよ」

 目の横をトントンと叩いてましろの異変を教えると、ローラは去っていた。対するましろは少しして乾いた笑いをこぼした。

「……バレちゃったな。目、合わせないようにしてたんだけど」

 本来表に出てくるはずのましろは今の自分より消耗が激しく、未だ意識を取り戻していない。

 ひかるが助けに来る瞬間まで耐えていたのは、記憶を持っている自分ではなく、心を受け継いだもう一人の自分だった。

(やっぱり、私じゃダメなのかな。私の心は、ましろちゃんのとは違うし)

 ヤラネーダの体内で目を覚ました時、自分に襲い来る亡霊に変身して立ち向かったが為す術なく体を乗っ取られてしまった。

 魔法で強引にプリズムに再変身できるようになったものの、元のキュアプリズムの強さとは程遠い。

(記憶と心、両方が一つになったら、完全に元に戻れるのかな)

 そうなれば自分たちはどうなるのだろうかと考えるが、答えは出ない。

 完全なキュアプリズムとして再覚醒した時、自分たちは消えるのだろうか。

 元には戻れず、全く別の人間としての人生を歩んでいくのだろうか。

(そういえば、帰ったらいよいよスカイランドに行けるんだよね。楽しみだなぁ……)

 強引に考えを中断してこれからの事に思いを馳せる。ずっと待ち望んでいたスカイランドに行けるのだ。

 ましろはいつか訪れるかもしれない不安より、確実にやってくるスカイランドに訪れる事への期待で胸を膨らませた。

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