ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

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epilogue「一つになって、分かれて、それから」

 くじら座のヤラネーダの襲撃があった翌日、卒業したあすかも含めたトロピカる部の面々がまなつの家に集まっていた。

 あすかが卒業してからというものの、こうして5人が集まるのはプリティホリックのカフェスペースか、まなつの家というのが恒例になりつつあった。

「星座のヤラネーダ……。それでさんごがこの本を持ってたのか」

 今回の顛末を聞いていたあすかはテーブルの上に置かれた星座図鑑をパラパラとめくる。内容はイラストが多めで、天文学の本というより、子供向けの入門書と言った内容だ。

「まあ水だってヤラネーダにできたんだし、お化けがヤラネーダになるってのもあり得ない話じゃないけど、まさか本当に戦うことになるとは思わなかったわ」

 こうして無事に帰ってこれたものの、ローラは浮かない表情をしていた。

 突拍子もないまなつの発案のお陰でましろは無事に助けられたが、今回の件は不明なまま終わった点が多い。

 何故ヤラネーダは迷わずましろを狙ったのか。

 ヤラネーダはましろをさらった後、どこへ行こうとしていたのか。

「チョンギーレ達の所には行ってきたんだよね?何か知ってた?」

「なにも知らないって返されたわ。言われてみればもう愚者の棺を開ける必要もないし、プリキュアを狙う理由が無いのよね」

 チョンギーレ達と和解した今でも、時折ヤラネーダの目撃情報がローラ達の下に届くことはある。

 大体は過去にチョンギーレ達が失くしたものや、癇癪を起こしたエルダが持ち出したものがヤラネーダ化し、海底の岩や生物に憑りついた姿で現れる。

 故に今回のように存在しない生物の姿で現れたのは、背後に誰かの意思が介在していたのではないかと疑ってしまう。

 しかしただ怠惰に過ごしているだけのチョンギーレ達にましろを狙う理由はない。そもそも海中で息ができないましろをさらった所で、よほど特殊な設備がない限りはただ溺れさせてしまうだけだろう。

 グランオーシャンでも過去に遭遇例などがないか調べたが、流石に幽霊に関する情報は殆どなく、何もわからない。としか言えない状況だった。

「にしても星座ってこんなにあるのか……。はえ座にかみのけ座、それに……テーブルさん座?いや誰だよテーブルさんって」

 星座図鑑の目次を見ながらあすかが呟いた。星占いで出てくる12星座こそ知っているものの、日本からは見えない南半球の星座や、プラネタリウムなどでも取り上げられない星座も星座図鑑には載っている。

「テーブルさん、じゃなくてテーブル(さん)。アフリカにある山の星座みたい」

「山の星座なんてあるのか……。まさかとは思うが、ここに載ってる全部の星座だけヤラネーダがいたりするのか?」

「勘弁してよ。1体だけでも大変だったのに、そんなに襲われたんじゃ溜まったもんじゃないわ」

 星座のヤラネーダがまたましろを追ってきた場合、海中で戦えるプリキュアは限られる為、対処はかなり難しい。星座図鑑に乗っている星座は88種類。それだけのヤラネーダを10人に満たないプリキュアで対処すると考えると、ローラは頭が痛くなった。

 あすかやみのりが星座のヤラネーダについてあれこれ想像を膨らませていると、台所で昼食の支度をしていたまなつとさんごがお盆を持ってやってきた。

「はーいお待たせ―!名付けて、おてんとサマースペシャル!」

 目玉焼きの乗った焼きそばが並べられる。今日はまなつの家に集まったのも、まなつが料理を披露したいと言い出したのがきっかけだ。

「これがまなつの料理……。意外と普通だな」

「本当はもっとトロピカった感じにしたかったんだけど、これに落ち着いたんだよねー」

 市販の焼きそばに目玉焼きを乗せただけというシンプルな料理に、あすかが驚いていると、まなつが苦笑いしながら答えた。

 そろそろトロピカる部にも正式に新入部員が入り、また違う形になっていくのかもしれないが、こうして腹を割って話せるのはこの5人しかいない。まなつ達が中学を卒業したとしても、この5人は一緒にいる。そんな風に思えるのだ。

(そういえば、人魚の星座って無かったわね……。いっそのこと作ってみようかしら、じょうおう座とか)

 焼きそばを口に運びながらそんなことを考える。

 人魚のヤラネーダと戦わなくていいのは救いなのだが、やはり人魚の星座が無いというのが気に入らない。

 せっかく作るのなら、キュアラメールという偉大な人魚がいたという事実が残るように、盛大なものにしようと思った。

 

 

 時を同じくしてましろの家の庭にて、リコとみらいは箒に乗って空を飛んでいるましろを見ていた。

 スカイランドがどのような場所か分からないが、『スカイ』ランドというだけに空を飛べた方が便利だと思い、箒の飛び方を教えることにしたのだ。

 練習したと言っていただけあって、ましろは最初こそ上手に飛んでいた。そこでリコがその場で回ってみるように指示を出すと、いきなり軌道が怪しくなり、最終的には滅茶苦茶な軌道を描いて箒から振り落とされてしまった。

 すぐ近くで見ていたユニがましろを受け止めた為、地面に叩きつけられることは無かったものの、まだまだ安定して飛べるようになるには程遠い。

「何が『上達したんだ!』よ。結局落ちてるじゃない……」

「落ちてないよ!降りるのに失敗しただけだから!」

 空を飛ぶ方法には少し自信があったのか、珍しく自己主張したましろにユニはため息しか出なかった。

 着地にこそ失敗したものの、ましろは箒に乗って空を飛ぶ感覚を少し掴んでいるように見えた。

 しかしリコはそれよりも気になったことがあったようで、みらいに向かって口を開いた。

「ねえみらい」

 その一言でそわそわしていた隣のみらいの目が泳ぎ出し、心なしか冷や汗をかいているようにも見える。

「私、ましろさんに箒の乗り方を教えたはずないんだけど、何か知らないかしら。あの箒、みらいのよね?」

 みらいとリコの箒は元はお揃いなのだが、5年もの歳月が経っているのもあって、見比べてみると結構違う。

 まずリコの箒はデザインこそ同じなものの、魔法学校の教師に就職した際に支給された箒に乗り換えている為、みらいのと比べて真新しい。

 対照的にみらいの箒は中学時代のままの為、それなりに年季が入っている。加えてみらい本人の癖のせいで若干反り上がっている。

 ましろは自身が見たことないものを魔法で作ることができない。飛び立つ前にましろが乗った箒が少し歪んでいたのに違和感を感じたのだが、少し考えてやっとそれがみらいの箒をコピーしたものだからと分かった。

「あはは……。ごめん私がこっそり教えちゃった。リコをビックリさせたいから、内緒にしてってお願いされてて……」

 乾いた笑いを浮かべつつ、弁明するみらい。これでみらいも知らず、完全に見様見真似の我流で飛び方を体得していたのなら矯正するのが大変だっただろう。

「そういうことなら別にいいわ。むしろ、みらいの飛び方はよく知ってるし、直すのも簡単だわ」

 みらいの飛び方の癖はよく知っている。もしましろがそれを無理に再現しようとしているのなら、それを直せばいいだけの話だ。

 リコは足元の鞄から小さいトランクを取り出し、魔法で元のサイズに戻す。

「それどうしたの?」

「ましろさんにプレゼント。これから必要だと思って」

 リコはみらいにトランクの中身を見せて、みらいもリコの決意を知った。

 本当にましろが空を飛べるようになっていたのなら、渡すのを先送りにしようかとも思っていた。

「肩に力が入りすぎてるわ。少しリラックスして、まっすぐ進むことを意識するともっと安定するはず。それとこれ、プレゼント」

 リコが持っていたトランクをましろに渡し、ましろが魔法でトランクを開けると、中には小さくした箒と巻貝のようなものが入っていた。

「これは……?」

「旅行セットよ。ましろさんの箒とヤドネムリン……こっちで言う寝袋みたいなものよ。これがあればスカイランドに行って困ることは無いと思うわ」

 トランクからヤドネムリンを取り出し、試しに中に入ってみる。

 とてもましろの身体が入りそうにないサイズだったが、全身がすっぽりと収まったことにユニも驚きの声を上げた。

 中の寝心地も気に入ったらしく、出てきたましろも心なしか嬉しそうだ。

「ありがとうリコ先生!大切に使うね!」

 続いて箒に跨り、リコに教わった通りに一度深呼吸をしてから体の力を抜いて空を飛ぶ。

 ましろが描く軌道は旋回時にすこし大きく回りすぎていたりと不安こそ残るものの、先ほどのように振り落とされることなく無事に着地することができた。

 初めて着地できたことが嬉しかったようで、ましろは再び飛び上がって空を飛ぶ練習を始めた。

「ねえリコ、やっぱり……」

 ましろが飛び上がったタイミングを見計らって、みらいがリコに問いかけた。

 移動手段として使う箒、そしてどこでも寝られるヤドネムリンのセット。その2つの道具が必要となる場所は一つしかない。

「ええ。そうよ。スカイランドから帰ったら、魔法界の話をするつもり。その上で、ましろさんの選択を訊くわ」

 ましろに魔法界行きの話をする。それがリコの出した結論だった。

 今のましろは出会った頃から少しずつ成長している。自分から箒に乗る練習をしていたり、新しい箒をすぐに試したりと魔法に対して嫌なイメージを持っている様子もない。

 今なら、ましろは自分の意思で魔法界に行くかを決められる。そう信じて、リコは魔法界行きの話をましろにすることに決めたのだった。

 

 

 失敗です。

 少なくともましろさんが誰かに利用されているわけではないとは分かったものの、今回は少し強引すぎました。

 今回襲われた船のスタッフの方には口止めをしておきましたが、お父様が今回の事をかぎつけてましろさんにたどり着く一助にならないとは断言できません。

 それに、今後ましろさんと2人きりになれる場面はかなり限られてくるでしょう。私がましろさんに近づけば、確実にソラさんやリコさんは警戒します。

 思い返してみれば、私は焦っていたのでしょう。お父様がましろさんの調査を始めていた中、ひかるの前にましろさんが現れたのですから。

 ひかるを政治の舞台に上げたくない。少なくともキュアスターというプリキュアは存在しないことにしたい。そう思って色々としてきましたが、ひかるとましろさんがが出会ってしまった以上、完全に無関係でいるのも難しくなりました。

『それで、次はましろを私たちの側へ引き入れるのよね?』

 タブレットの向こう側にいる協力者の方が私に尋ねました。残念ながらリモートでの開催になってしまいましたが、協力者の方々との顔合わせも兼ねて、全員が集まる場を作りたかったのです。今回の事の事後報告もしたかったものですから。

「ええ。それも穏便にことを進めます。ましろさんをリコさんの近くには置いておけません」

 盗み聞きをするつもりはなかったのですが、偶然私は居合わせてしまったのです。リコさんのせいでましろさんの記憶は消えてしまったと、リコさん本人の口から説明している所を。

 ましろさんの体調を整える為かもしれませんが、リコさんはましろさんの力を制御する薬をいくつか投与しているのも見えましたし、今回のひかるとの融合だって、ましろさんの意思を介さずに決まったことです。

 それしか方法が無かった、と言われれば私も返す言葉がありませんが、あれではまるでモルモットです。

『でもショックだな……。そんなことをするような子じゃないと思ってたんだけど。やっぱり、学校の先生になってから変わっちゃったのかな』

 もう一人の協力者の方は非常に残念そうな顔をしました。

 確か彼女はリコさんと交流があったそうです。リコさんの話によれば魔法界関係者の事を覚えているのはみらいさんだけだそうですが、世界中を探せば何人か例外的に覚えている方もいらっしゃるのでしょうか。

「本人もこうなるとは思ってもいなかったようですが、このままリコさんの傍にましろさんを置いておくのは危険です。なんとかして私たちの側へ引き込みます」

 ましろさんとご友人の仲を引き裂くようで心苦しいですが、このままリコさん達の側に

 今のましろさんには何の後ろ盾もありません。事実、星空連合に命を狙われた時だって、ララがいなければ全宇宙を敵に回していたかもしれないのですからね。

 加えて、トゥインクルイマジネーションを宿せる私たちがいれば、ましろさんも戦えると分かりました。そういう意味でも、私たちが近くにいる観星町の方が都合がいいかもしれません。

「ここから先は、多少なりとも皆さんの手を汚すことになります。無理強いはできません。もし嫌ならこの話から降りていただいても私は咎めません」

 これからやろうとしているのは、決して褒められたようなことではありません。ましろさんがリコさんを見限って、私たちを信じるように仕向ける。ひかるが知ったら、絶対に止めようとするでしょう。

 それでも、ましろさんを放置しておくのは危険すぎます。今回の件のように、彼女はそこにいるだけで災いを呼び寄せる。であれば、もっとふさわしい場所で管理するのが適切でしょう。

『私はこの話に乗らせてもらうわ。面白そうだもの』

『私は……少し考えさせてほしいかな。できればリコちゃんと戦いたくないし』

 一人は賛成してくれましたが、もう一人はやはり迷っているようでした。

 そして最後、最初から黙って話を聞いているだけの彼女に問いかけます。彼女も協力的な方ですが、意思確認もせずに巻き込んでは申し訳ありませんから。

「それで、あなたはどうするんですか?」

『……あたしはまどかさんについていくよ。色々としてもらったし、それに、放っておけないから』

 賛成2、保留1という返答をいただいてその日の集まりは終わりました。

 ふと窓の外を見上げると、満月の光が空を照らしていました。そういえば以前、こういう日には星が良く見えないとひかるが嘆いていましたね。

 化けくじらを退治したペルセウス(ヒーロー)は、襲われていたアンドロメダ姫を外の世界へ連れ出して、その後は一国の王として暮らしたと言います。

 窓の外へ手を伸ばし、私は思うのです。果たして、私たちもアンドロメダを手にできるのでしょうか、と。

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