ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
Interrude3「旅立ちを前に」
ましろの家の2階。ツバサ達の声が届かないようにと通された部屋にて、リコは手元のメモを見ながら目の前の機械を操作していた。
目の前に置かれたのは、1枚のタブレット。
電源ボタンに搭載された指紋センサーに自分の指を当ててロックを解除して、教えられた通りにアプリを起動させる。
(魔法界の水晶みたいなもの、って言ってたわよね。こっちの技術も進歩してるのね……)
リコもこちらの世界で暮らしていた頃があるとは言っても、もう5,6年も前の話だ。
当時は離れた相手と機械越しに話す必要なんて無かったし、自分の周りでも使ってたという話は聞かなかった。
知らない間にナシマホウ界も変わっているのだと感心していると、いきなりララの顔が画面いっぱいに表示され、思わず声を上げてしまった。
『リコ!久しぶりルン!』
「ええ、久しぶり。ちゃんと繋がってるかしら?」
『大丈夫ルン!リコの声も顔もしっかり届いてるルン』
自分と違ってララは通信に慣れているようで、以前会った時と変わらぬ様子だ。
「良かったわ。まだこういう機械を使って話すのには慣れてなかったし」
『何かあっても私が案内するから大丈夫ルン!』
リコが慣れてないと苦笑いをすると、対照的にララは胸を張った。
「ありがとう、助かるわ。それで、ひかるさんの体調は大丈夫だったかしら?」
今回リコとララがこうして話している理由はそれだった。
偶然とはいえ、ヤラネーダと感覚を共有してしまったましろを助けるために行った奇策。ヨクバールの要領でましろとひかるを融合させたのだ。
結論から言えば全てはうまく行ったのだが、リコは事件の爪痕が残っていないか不安だった。
みらいにそのことを相談したら、ララとリモートで話せばいいと提案されて今回のこの通話に繋がったのだ。
ララは早速手元のタブレットを操作しながら、ひかるのメディカルチェックの結果を見ながら説明を始める。
『メディカルチェックの結果は問題なかったルン。簡単なカウンセリングもしたけど、性格が変わったりも無かったルン』
何か後遺症があったら大変だったが、ララが検査した範囲では問題は見つからなかったようでリコは胸をなでおろす。
しかしララの話はそれだけでは終わらず、ただ、と続ける。
『ひかる、前から星座のイラストを描いて近所の天文台に飾ったりしてたけど、最近の絵は……なんだかひかるらしくないルン。ひかるに言っても気づいてないみたいで、そこがちょっと気になってるルン』
ララの口調は煮えきらないものだったが、ひかるの絵が変わったと聞いてましろの姿が脳裏をよぎった、
2人とも絵を描くのが趣味ではあるが、その方向性は全く違う。
ひかるは星座のような小さなイラストを好むのに対し、ましろは風景を描くのを好む。
描くものが変われば描き方も変わってくる。ララがここで絵の描き方の話を持ち出したということは、絵柄の変化が本人の成長とは違うところにあると踏んでいるのだろう。
「機械じゃ測れない部分で影響が出てるかもしれないって事ね?」
リコが尋ねると、ララは頷いた。
絵というのはその本人の写しのようなものである。
その絵柄が外から見てはっきりと変わったということは、外的要因で変わってしまったとかが得るのが妥当だ。
2️人で融合した際、互いの境界が極限まで薄くなった関係で、無意識レベルで影響が及んでいてもおかしくないのだ。
『ましろはどうルン?キラやば~って言ったりとか、天体観測したがったりとかしてないルン?』
「私が見る限りでは無いわ。元々ハッキリとものを言わない子だから、見えないところで変化があるのかもしれないけど」
それに影響を受けたのが表の方とは限らない。滅多に出てこないもう一人のましろの方がひかるの影響を受けている可能性だって捨てきれないのだ。
たまに星座の本を読んだりしているのは知っているが、それも観星町から帰ってきてからなので今回の融合は関係ない。
『でもましろと一つになれるって分かったのは大きな収穫ルン。何回も変身するわけにはいかないけど、1つになってれば不意を突かれて連れてかれることも無くなるルン!』
確かにトゥインクルイマジネーションを宿したプリキュアと融合できるとわかったのは大きい。
それまでましろが変身できたのは、ヨクバールを操れる黒いキュアプリズムだけだったのだ。
身体能力が一切向上しない、謎の多い形態。
分かっているのは、変身と同時に人格がもう一人の方に切り替わってしまう事。
観星町の騒動であげは達に牙を向いたのと、その後ヒーロー活動と言い張って一般人を襲っていたのは分かっている。
もう一人のましろの具体的な目的は不明だが、ソラに対して執着しているのは確かである。
「……そうよね。相手が数で攻めてくるなら、ましろさんを引き離そうとするわよね。普通は」
一瞬曇りかけた表情を取り繕う。暗い方向にばかり考えても仕方がない。
今はひかるにも影響を及ぼしてしまったことより、ましろが自分の身を守る手段を手に入れたことを喜ぶべきだ。
「それじゃ、また何かあったら連絡するわ」
『あっ、ユニに伝えといてほしいルン!星空連合に頼んでた荷物が届いたから、観星町まで来て欲しいルン』
「分かったわ。伝えておくわね」
ララとの通話を終えて、椅子にもたれかかってこれからの事を考える。不意に机の上に目を向けると、タブレットの脇に置かれた写真に目が入った。
偶然ソラの部屋を使わせてもらったので、当然この写真も空にとって思い出の写真だ。
スカイランドで撮影されたと思しき写真には、記憶を失くす前のましろを含めた5人が映っている。
(できれば、ましろさんにとって楽しい思い出になってほしいわね)
そんなことを考えながら立ち上がって部屋を後にした。
部屋を後にして階段の近くまでやってくると、下の喧噪が聞こえてきた。
「く、苦しいモフ……」
「見てツバサ!このクマさん喋るの!」
「エルちゃんちょっと待って!首!首締まってるから!」
「そこじゃなくて脇の下を持ってあげて!モフルン苦しそうだから!」
下の階のリビングにて、モフルンを持ったエルが嬉しそうにツバサに見せていた。
ちょうど持ちやすかったのか、エルはモフルンの首の辺りを握りしめており、それをみらいやことはが持つ場所を変えるようにエルを追いかけている。
リコも危ないと思ってすぐにエルの所へ向かうが、みらいやことはが先にエルに追いついた。
エルはモフルンが苦しそうにしているのに気付いていなかったようで、キョトンとした顔でモフルンを持つ場所を変える。
「モフルン大丈夫?」
「危ないところだったモフ……」
間一髪のところで助かり、うなだれるモフルン。
一連の流れを見せられたツバサの顔もひきつった笑みを浮かべていて、エルも自分がよくないことをしていたのだと知って落ち込む。
ましろと一緒にスカイランドに行きたいからと泊まりに来たとのことだが、思い返せばちゃんと顔を合わせたのは今回が初めてだ。
ソラの話によればスカイランドの王女だそうだが、なまじ本物のプリンセスとは交流があっただけにどうしても比べてしまう。
彼女はどうも幼すぎる。実は5歳にも満たない幼児と言われた方がしっくりくるレベルだ。
(強く優しく美しく、だったかしら。そういえば、こっちで暮らすようになってから会ってなかったわね……)
これまで、帰ってきたましろが偽物と入れ替わってたり人魚が配達されたりと、様々なハプニングに見舞われてすっかり忘れていた。
スカイランドから帰ってくればようやくひと段落できるので、会いに行っても良いかもしれない。
そんな風に考えていると、ツバサがこちらに気が付いてやってくる。
「そうだ。リコさん宛にこれが届いてましたよ」
ツバサはリコに1つの茶封筒を差し出した。
裏面を見て差出人を確認すると、『薬師寺さあや』と書かれている。
以前この家に遊びに来た時に「調べられる範囲でできることが無いか調べてみるね」と言っていたのだが、こんなに早く届くとは思ってもいなかった。
「ましろさんの症状について、さあやさんなりに調べてまとめてくれたみたいです。読めない部分はタブレットの読み上げ機能を使うと良いって言ってましたよ」
封筒を開けると、クリップで留められたコピー用紙の束が入っていた。
取り出して中を確認すると、記憶喪失や多重人格に関する説明や実際の症例が載っている。
ナシマホウ界の文字を読むのに慣れていないリコの手伝いをしようと、みらいも隣に立ってリコの様子をうかがう。
「どう、読めそう?」
「ええ。流石はさあやさんね。専門用語を極力使わないようにしてるし、使ったらちゃんと注釈で説明を入れてくれてるわ」
まだしっかりと読み込んでいないが、冒頭を斜め読みしただけでも内容が分かりやすく要約してあると分かる。
知らない単語が羅列されている専門の医学書は当然リコには読めないし、魔法界の書物では心の病に関する情報は少ない。
その為こうして分かりやすくまとめてあれば、ましろのこれからの事について考える材料になる。
「ちょっと借りるわね」
概要だけでも把握しておこうとリコが目を動かしていると、いきなり横から引っ張られて書類を取り上げられた。
「へえ、地球の医療ってここまで進んでるのね」
リコから書類を取り上げたのはユニで、リコが読むよりも早く書類に目を通していく。
「あなた、いつ帰ってきたのよ……」
「ついさっき。ましろももうすぐ帰ってくるわ」
このわずかな間に目を通し終えたのか、ユニは持っていた書類をリコに返す。
「でもまあ、結論自体は同じね」
「どういう事よ」
「薬とかであの子を完治させるのは不可能、って事」
ユニは淡々とした口調で告げた。
ましろの記憶を直し、2つに分かれてしまった人格を元に戻す。
その為にリコは手を尽くしているが、それではましろは元には戻らないと告げた。
「結局は心の病気だもの。一時的に元に戻すことはできても、根本的な治療にはならないわ」
「でもましろちゃんは頑張ってるんだよね?」
「まあ、ね。あの調子で戻ればいいんだけど」
ソラ達の話では、記憶を失う以前とそれ以後とではましろはまるで別人のようだと言う。
曰く、ひかると話している時がもっとも前のましろに近いらしい。
(まさかとは思うけど、私たちがましろさんの重荷になっている、って訳じゃないわよね……)
一瞬、まどかに言われた言葉が脳裏をよぎった。
ましろを自分たちに譲ってほしい。可能な範囲で将来は保証する。と。
あの時はまどかの真意が見えなかったので警戒したが、自分たちがましろにストレスを与えているのなら、まどかのいる観星町に移した方がいいのではないかと思う。
「ねえユニさん、もしも、ましろさんがソラシド市を出て、ひかるさんの所へ行くって言ったら、どうする?」
ふと思った疑問をユニに投げかける。
自分たちがましろの負担になっているなら距離を置くべきだが、彼女は違う。
ユニはましろの監視役として近くにいるのだ。離れて暮らすことはできない。
「決まってるでしょ。私もついて行くわ。ひかるやララもいることだし」
当たり前の答えを返される。
少しでもユニは反対してくれるかもしれないと期待したが、冷静に考えればユニには反対する理由が無い。
「でもまだましろにどうするか聞いてないんでしょ?ならあの子がどっちに行くかは分からないじゃない」
ユニがそう付け加えた。
リコが出したのはあくまで仮定の話。自分たちはまだましろを見守ることしかできない。
「そうよね。変なこと聞いてごめんなさい。それと、ララさんから伝言。頼んでた荷物が届いたそうよ」
「もう届いたのね。ありがとう、明日にでもましろと行ってくるわ」
ずっと計画だけが進行していたスカイランドへの小旅行がいよいよ目前に迫り、各自の準備が進んでいる。
今回の事が、ましろにとって大きなプラスになってほしいとリコは祈っていた。