ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
羽衣ララの1日は、ロケットの様子を見るところから始まる。
ましろをダークネストに祭り上げようとした教団との戦闘や、不完全なワープ航法を使用した影響で大破していたロケットだが、星空連合の援助のお陰で元の姿に戻りつつある。
また飛べるようになれば星空連合の支部と地球を往復する日々が待っているが、ロケットが直るまではまたひかるの近くで暮らせるのはララにとっては嬉しい誤算だった。
コンソールを操作しながら残っている修理箇所を洗い出していると、突然何かがぶつかった鈍い音がしたのと同時にロケット全体が小さく揺れる。
「オヨッ!?何が起こったルン!?」
『小型の飛翔体が衝突した模様です。確認します』
聞きなれたAIの音声が事態の確認を始めたが、ロケットにぶつかった物の正体の解析を始めたが、それよりも先に扉の向こうから声が聞こえてきた。
「あなたね……。飛ばしてとは言ったけど、ブレーキが間に合わないぐらい飛ばしてどうするのよ……」
「この前は上手くいったんだけどなぁ……。いたた……」
扉の向こうから聞こえてきたのは、非常に聞きなれた声だった。
程なくして扉が開けられると、ユニとましろが入ってくる。先ほど思いっきり頭をぶつけたのか、ましろは頭を押さえている。
「ララちゃん、久しぶり……。ロケットにぶつかっちゃったけど、大丈夫……?」
「あんまり良くないけど、人がぶつかった程度で壊れたりはしないはず、ルン……」
ましろを始めとして、魔法使いが箒に乗って空を飛べるのは知っている。
サマーンのホバーボードと同じ原理だと解釈しているが、未だにどういう原理で飛んでいるか分からない。
少し古い型のロケットとはいえ、サマーンのロケットがホバーボードとの衝突事故で故障したとは聞いたことがないので、一旦は安全だと思うことにした。
「今日は前頼んでた件で来たの。ましろ、ちょっと席を外してくれるかしら」
「うん、じゃあ私、ひかるちゃんの所にいるから!」
ましろはロケットから出ていって扉が閉じられると、ララはユニの要件を察してコンソールを操作し始めた。
「あの薬の解析は終わってるわよね?」
ララに物資の調達を頼んだのも事実だが、ユニがララの所までやってきた本分はそちらだった。
リコから貰った魔法を無効化する薬。もし星空連合の技術で量産化できれば、普段使っている拳銃の弾に込めて使えると思ったのだ。
「成分の解析は終わってるルン。でもこれを地球上の植物から採れない成分ばかりで、作ろうとしたらとんでもなくお金がかかるルン」
「伊達に異世界産の薬じゃないって訳ね……。やっぱり土壌が違うと育つ植物も変わるのね」
ララから返却された注射器を手に取り懐にしまう。
リコから渡された注射器は1回分。これを増やす事ができないと分かった以上、使うとなれば失敗はできない。
「それとこれ、頼まれてた荷物ルン。急ごしらえだからちょっと規格が違ったりするかもしれないけど、そこは許してほしいルン」
ララは足元にあった段ボールを持ち上げてユニの前に差し出す。
「構わないわ。無茶を承知で頼んだんだもの。間に合っただけ十分よ」
ユニは箱の封を開け、中に入っていたものを取り出して何が届いたのかを確認する。
中から出てきたのは、ゴルフボール大の小さな爆弾や、ユニが持っている拳銃用の弾。
麻酔弾や信号弾、ゴム弾の数や規格がちゃんと頼んだものになっているかを確認していく。
「こういうゴテゴテした閃光弾は好みじゃないんだけど、この際贅沢は言えないわよね。弾はちゃんと合ったものが届いてるみたいだし」
「チャフなんて何に使うルン?スカイランドはあんまり機械化が進んでないって聞いてるルン」
荷物の中に1個だけ入っている色の違う爆弾。爆発すると中の金属片が飛び散り、電波をかく乱する爆弾だ。
至近距離で爆発させればダメージは与えられるが、その本分は遠隔操縦されているドローンなどを無力化することにある。
近代的な兵器が存在しないスカイランドに持ち込んだところで、ただ邪魔なだけである。
「これは今後の為よ。まだ教団はましろを諦めた訳じゃないんでしょ?」
ユニは小さくしてあるトランクの中に届いたものを詰めながら答えた。
ノットレイダーの残党組織の一つである『教団』。未だにましろを狙った首謀者は逮捕されていない。いくら星空界では惑星間の行き来が盛んとはいえ、1人の悪党を探すには広すぎる。
「星空連合に睨まれて大々的に動けないだけみたいルン。前回襲ってきた宇宙人もどこにいるか分かってないルン」
「まあそうよね。簡単に捕まったら楽だったのだけれど」
教団関係者で逮捕者は確かに出ているが、いずれも末端の者ばかりで、どこを拠点に活動しているのかが分からない。
ノットレイダーが拠点にしていた小惑星も今やもぬけの殻で、どれだけ探しても見つからなかった。
「そうだ、ユニ、スカイランドに行くなら土とか植物を採ってきてほしいルン」
ユニが荷物をしまっていると、ララは空のカプセルを取り出してユニに渡す。
サマーンの文字で『スカイランド』と書かれたカプセルを受け取り、ララの目的を察する。
「それって惑星調査員としての仕事よね?朝顔の観察日記とかじゃダメなの?」
「地球の動植物はある程度調査済みルン……。異世界がどういう所なのか知る為にも頼みたいルン」
いくらサマーンで地球の動植物が珍しいとはいえ、どこでも手に入るような植物の観察は仕事に向いていないようだった。
どの道大した手間でもないので、ユニはララからカプセルを受け取り、ついでに懐に入れる。
未来から来たというプリキュアは知っているものの、流石に次元を越えてきたプリキュアとは出会ったことがない。
異世界に行くのは初めての経験なのだから、準備は抜かりなく進めなければならないのだ。
ソラシド市に残ったソラは、明日のスカイランド行きに向けて買い物に出かけていた。
とはいっても、今回の滞在はたったの数日。しかも国賓としての待遇が約束されているため、こちらが用意するものはない。強いて言えば向こうで使う消耗品や、夜食べたりするお菓子を買ったりする程度だ。
せっかく行くのだから楽しい思い出にしようと考えていると、ついつい買いすぎてしまって気が付いたら両手で抱えるほどの量になっていた。
そこから必死に悩みぬいて減らしたが、それでも両手が塞がるぐらいの量になってしまった。
ましろと一緒に何を持っていくのか考えるのも、また楽し思い出になるかもしれないと思って帰り道を歩いていた。
通いなれた坂を登ってましろの家にたどり着く。塞がった両手を器用に使って扉を開ける。
「ただいま戻、り……」
扉を開けて中に入ろうとすると、ソラは目の前の光景を信じられず思わず硬直してしまった。
「おかえり、ソラ。これ、どう?」
ソラの帰りを待っていたのか、玄関ではエルが仁王立ちをして待っていた。
何故か星型のサングラスを身に付けており、しかも誇らしげにソラに見せつけている。
昨日からこの家に泊まっているので、この場にいるのはおかしいことではないのだが、こんな奇抜な物を付けている意味が分からなかった。
「えっと、それ、どうしたんですか?」
少し考えて、出てきた言葉がそれだった。
いくらエルがこちら来るときは活発な格好をするようになったとはいえ、サングラスの自己主張が激しすぎて明らかに悪目立ちしている。
なんとかして外させた方が彼女の名誉のためだろう。
「ユニが貸してくれたの。『これを付ければましろにも大ウケニャン』って」
エルの口からユニの名前が出てきてソラは頭を抱えた。
いつの間にかこの家に増えていた新しい住人。ソラはユニがここに住むようになった経緯は大まかな流れしか聞かされていない。
一応彼女もプリキュアなのだが、言葉遣いは決して良いとは言えないし、素行も決して褒められたものではない。
これでましろが悪の道に誘おうものなら追い出そうかとも思ったのだが、しっかりましろの監視役としての仕事はしているし、家にも多少はお金を入れている為に邪険にもできない。
プリキュアはヒーローであるべきであると考えるソラからすると、対極の立場にいるユニは非常に悩ましい存在だった。
「そうですね……。いきなりそれでましろさんをお迎えしたらビックリしちゃうと思います。ソレはスカイランドに行くまでとっておきましょうか」
今のソラに返せる精一杯の一言がそれだった。流石に似合ってないから外せとは言えない。
「そうなの?じゃあいつもあげはやツバサがやってるみたいに、おかえり!って言うだけ?」
「はい。今のましろさんにとって、エルちゃんはよく知らない人ですから、まずはそこからにしましょう」
ソラに促されてサングラスを外す。これでエルがこれから帰ってくる人間に次々と困惑させるという事態は避けられた。
「それで、ましろさんはまだ戻ってないんですか?」
「ミホシチョウ、に行くって言ってたよ。必要な荷物を受け取りに行くんだって」
観星町の名前を聞いて、少しだけソラの中の不安が晴れる。
ましろが慕っているひかるが近くにいるのなら、何かがあっても対処できるだろう。
「そういえば、スカイランド側の準備はどうなんですか?」
「お父様たちもすごい楽しみにしてた!明日の夜はダンスホールを使って歓迎パーティーをやるんだって!」
「それは……ましろさんはちょっと恥ずかしがりそうですね」
好奇心の強いひかるの影響もあってか、ましろの性格は記憶喪失直後と比べてかなり明るいものになってきている。
まだまだ人見知りの気はあるものの、それでも口数は圧倒的に増えたし、たまにだが笑うようにもなった。
1つ懸念があるとすれば、未だソラの前に姿を現していない黒いプリズムの存在である。
以前襲ってきた黒いプリズムとは別の存在のようだが、あげはやエルに敵意を向けた彼女の存在が今回の不安の対象だった。
(王様やシャララ隊長に襲い掛からないといいんだけど……)
数少ない不安要素であるもう一人のましろも、スカイランドへ行く事を望んでいた。
だからダンスパーティーの最中で表に出てきて暴れ出すことは無いだろうとソラは思った。
その晩は久しぶりに5人揃っての夕食となった。
ユニやみらい達も同じテーブルを囲んでいるとはいえ、今この場にいる面々で食事をするのは初めてのことだ。
「エルちゃん、お箸で大丈夫?スプーンとかもあるけど……」
「ううん。大丈夫!いっぱい練習したから!」
慣れない箸の扱いを心配するましろをよそに、エルは出されたコロッケをつまみ上げて口へ運ぶ。
明らかに日本人ではないエルが箸を使えたのを見て、ましろは小さく拍手した。
「エルちゃんすごい練習してましたもんね!」
「お城だとこんな風にみんなでご飯を食べられないし、みんなと同じものを食べたいから頑張って練習したの!」
ソラはエルが練習していたところを見ていたようで、エルの成長を喜んだ。
箸を使えたことを褒められ、エルも嬉しそうに笑う。
「そういえば明日ってどうするの?ましろんを連れて王都を回る感じ?」
「はい!明日はお城の周りを回るつもりです!スカイランドの人たちも色々と準備してくれてますよ!」
あげはとソラがスカイランドでの行き先を話している中、エルは何か悩んでいるようなましろが気になった。
「ましろ、どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないの!ちょっと考え事……」
「大丈夫だよ!お父様もみんなましろが来るって聞いて喜んでたから!」
スカイランドという未知の場所に行くことに不安を感じていると思い、エルはましろに笑いかける。
「そういえば、ツバサもスカイランドで生まれたんだよね?私、ツバサのお母さん達にも会ってみたい!」
「あぁ、はい。そうですね……。多分今回も来ると思います……はい」
ツバサの両親に会えるとはしゃぐことはに、少し気まずそうに目をそらすツバサ。
ことはは両親との仲が悪いのかと首を傾げたが、そう考えてもツバサが乾いた笑いを浮かべている理由が分からなかった。
「リコ、まさかとは思うけど、あれを持ってくつもり?」
それぞれが会話を交えながら箸を進めている中、ユニが箸でリコの背後にあったトランクを指さした。
旅行用に大きな荷物を持っていく事は不自然ではないのだが、問題はその量である。トランク自体非常に大きく、どちらかというと車に積み込んで運ぶような大きさである。
「もちろんよ。大丈夫。魔法で小さくなるトランクだから、普通の鞄ぐらいの大きさにはなるわ」
リコの発言を聞いていたモフルンも信じられないと言った様子で、軽く持ち上げようとしても小さい体ではびくともしない。
まるで引っ越しでもするかのような大荷物に困惑しつつ、ユニは残っていた自分の分を完食してトランクを開ける。
中には着替えも当然入っているのだが、それ以上に何に使うか分からない道具や薬が目についた。
「別にこんなに持ってかなくてもいいじゃない……。ましろだっていざとなれば箒に乗って逃げられるのに」
こんな大荷物でましろと一緒にスカイランドへ行きたい理由は分かる。
くじら座のヤラネーダに襲われた時、結局リコはましろに何もしてあげられなかった。
それどころか部外者のひかるに危ない橋を渡らせてしまったのだ。
ましろの先生として心配する気持ちは分かるし、できるだけ守ってあげたいというのも分かる。しかしこれでは逆にましろが委縮してしまうだろう。
「というか、あなただって色んな道具を取り出すじゃない。それと一緒よ」
「私のは仕事道具っていうか日用品。体一つで移動できた方が色々と便利だし」
ナイフや拳銃と言った護身用の道具を持ち歩いてる自分も、道具を持ちすぎと言われれば反論はできない。
リコと違いは、それらが全部ましろ一人を守るための道具ではないということぐらいだ。
殆どが怪盗時代に使っていた道具や、ララと仕事をするようになってから買った道具ばかりである。
やはりこの家はましろに過保護すぎるのではないか、そう思ったユニは小さくため息を漏らした。
翌朝、ましろの家の前に8人が集まっていた。これからスカイランド行きのトンネルを開こうとソラがミラーパッドを持って一同の前に立っている。
「それじゃ、トンネルを開きますね!」
ましろが記憶を失くしてから、こうして目立つところでトンネルを開くのは初めてだ。
これまでは目立たないように、物置や家の裏といったましろの目が届かない場所でやっていただけに、思わずソラの胸も高鳴る。
ソラが慣れた手つきでミラーパッドを操作し、一同の前にトンネルへつながるゲートが開いた。
「この向こうがスカイランドです!」
ソラに導かれて、ましろはゲートに近づく。今までずっと探していたスカイランドへの入口。それがいよいよ目の前に現れたのだ。
「いよいよ、だね……」
全員に見送られるようにましろはゲートの向こうへ足を踏み入れる。続いてソラがゲートに入り、あげはに先導される形で残りの面々もゲートを通った。
「いいなぁ。ねえリコ、魔法界でもこういうの作れないの?」
「もう少し距離が近づいたらできるかもしれないわ。ただその頃には私たちはおばあちゃんね……」
魔法界とナシマホウ界はかつて1つになりかけたものの、リニアに乗って大体1日はかかる距離にまで離れてしまっている。
スカイランドとは違い、すぐに行き来できる仕組みは難しいと知り、みらいは分かりやすく肩を落とした。
トンネルの距離もそれほど長くはなく、少し歩くと出口が見えてきた。
始めていく世界に対する好奇心や、ようやくましろと同じ景色が見られる思いが、ましろ達の足取りを軽くさせる。
そしてトンネルの出口をくぐり、一同を出迎えたのは―――
一面、瓦礫の山に変わり果てた町の姿だった。