ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes   作:パイシー

3 / 35
Ch.1-3「青いダイヤの秘密!リコ先生の願いを乗せた希望のダイヤ!」

 きっかけは生徒の不安を解消したい。そんな思いだった。

 クシィの研究書に残されていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 絶望や不安といった負の感情を材料に、エメラルドに匹敵する強大な力を生み出せるところまではたどり着いた。

 クシィはリンクルストーンを手に入れられず、机上の空論でしかなかった。

 だがリコの手元にはダイヤのリンクルストーンの片割れがある。

 魔法学校に来る生徒たちが抱えている不安を吸い上げられれば、一歩踏み出せない生徒の背中を押してあげたり、辛い思いをしている生徒を助けられると考えた。

 クシィの理論を分析し、生徒が抱えてる不安を吸うだけでは完成まで数百年かかる計算になるところまでは分かった。

 使うのは後にも先にも自分だけ、危険と分かればすぐに処分しよう。そう思い、リコはみらいだけに事情を話してリンクルストーンの製造に踏み切った。

 ダイヤを模して製造された魔法の力も持たない無垢のリンクルストーン。生徒たちの希望を支えられるようにと希望の(ホープ)ダイヤと名付け、リコは生徒たちの悩みを向き合うことにした。

 最初のうちは予想通り、ただの不安を解消してくれるパワーストーンとして機能していた。

 リンクルステッキで使っても何も起こらず、闇の魔法の有効活用の第一例になるかもしれない。とリコとみらいは思っていた。

 異変の兆候は、ほんの些細なものだった。

 リコの周りで生徒の不注意による事故が目に見えて増えたのだ。

 話を聞いてみると、そうなるとは思わなかった、怖いとは思わなかった、とまるでその感情が抜け落ちたかのように不注意な生徒が増えた。

 またある時は周囲に誰もいないにも関わらず、何の前触れもなくホープダイヤに不安や恐怖が溜まり始めた。

 リコが不思議に思っている間にも、青く澄んでいたはずのホープダイヤは、深海のように昏い光を放つダイヤへと変貌していった。

 確かに、リコの試算は正しかった。

 唯一の誤算は、ホープダイヤがリコの思いや願いまでも吸収していたこと。

 クシィがリンクルストーンを持たなかったからこそ気付けなかった、たった一つの落とし穴。

 リコの『生徒たちの不安を吸い上げ、生徒を応援したい』という願いまでも吸ったホープダイヤは、無差別に負の感情を吸い上げる魔石へと変貌していた。

 なんとかしてホープダイヤを元に戻す手立てはないか探した。だが、リンクルストーンを手にした事例が自分たちしかいない以上、どれだけ調べても答えは出てこない。

 リコは当初決めていた通り、みらいと協力してホープダイヤを処分しようとナシマホウ界を訪れた。

 今回の事を知っているのは自分とみらいだけ。魔法学校で教鞭を執っている人間が、闇の魔法に手を出したとなれば大事だ。秘密裏に事を進める為にナシマホウ界に行ったことすら悟られてはいけない。

 仕事終えた後こっそりナシマホウ界に移動し、翌朝みらいの所を訪れようと準備を進めた。

 そうして偶然ソラシド市上空を飛んでいた時だった。

 木箱に入れて厳重に封をしていたホープダイヤが突如として箱の外に転移し、何かに引っ張られるように飛び去ったのだ。

 飛び去った方向をくまなく探し、慣れないバスを乗り継いで、やっとの思いで見つけたホープダイヤ。

 だがそれは既に見知らぬ少女が見つけてしまい、その昏い光に魅了されるかのように手を伸ばしていた。

「それに触ってはダメ!」

 リコの声は届かず、彼女はそれを手にしまった。普通であれば拒絶するはずの闇の力を受け入れ、彼女は変質してしまった。

 そして生まれてしまった闇のプリキュア。

 彼女の身柄を拘束しようとしたが、闇の魔法を使えるようになった彼女はどこかへと消え去った。

 その晩、慌ててみらいに連絡をした。夜も更けていたというのに、二つ返事で翌日来てくれることになった。

 彼女を保護して、彼女と融合してしまったホープダイヤを回収・破棄する。リコはそう決めて動き出した。

 みらいにも内緒で用意していた一本のナイフ。闇の魔法が使える人間に突き刺せば、体内で闇の魔法が暴発してそのまま死に至る魔道具。

 長い魔法界の歴史でもこの短剣が使われたのはたったの1度だけ。リコは2度目が来ないように祈りながら、彼女を追った。

 

 

 倒せ。

 戦え。

 殺せ。

 壊せ。

 そんな声が、ソラの脳内に響く。悪を倒せ、悪と戦え。と。

「違う……」

 家の中にいると、この声に呑まれてしまいそうで、逃げるように外をさまよう。必死に否定しようとしても、窓ガラスに映るもう一人の自分はあざ笑うかのようにこちらに語り掛けてくる。

 何も違わないですよ、と。アンダーグ帝国の刺客相手に拳を握り、相手を否定し、悪を排除してきた。それと一緒。変わらずに拳を握り、ましろを倒せばいい。彼女だってそれを望んでいるのだから、と。

「違う違う違う!」

 それでも尚否定しようと、もう一人の自分を殴りつけようとする。それでも、鏡の中のソラの笑みは崩れず、ソラにささやく。

 ほら、そうやって自分の気に入らないものは攻撃する。そうやって自分の正義を貫き通してきたじゃないですか。と。

 悪者を排除し、皆を守る正義のヒーローを目指すのだから、悪者になったましろも排除する。ソラはそんな現実を受け入れたくなくて、怯えるように窓ガラスを叩き割ろうとする。

「待って!」

 唐突に誰かに止められて、ソラの拳が止まる。

「いきなり人の家の窓割っちゃダメだって。一旦落ち着こう、ね?」

 窓をたたき割ろうとしたソラを引き留めたのは、大学生ぐらいの女性だった。彼女の首元にダイヤをあしらったようなネックレスが下がってるのが見えて、ソラの目の色が変わる。

(コイツがましろさんを……!)

 ましろが手を伸ばしたダイヤとほぼ同じものを持っていた彼女が、ましろにあの力を植え付けて変異させたのだと決めつけ、ソラは彼女の服の胸元を掴む。

 だが女性の驚いたような表情を見て、すぐに頭が冷静を取り戻す。彼女に敵意は無いとこれまで培った経験が告げている。

 何もしていない相手を一方的に敵と決めつけて、殴りかかろうとした。ソラはその事実が受け入れられず、慌てて女性から手を放し、勢いを殺しきれずに尻餅をつく。

「ご、ごめんなさい!違うんです!私、あなたを襲うつもりはなくて、友達がおかしくなったのはあなたのせいだと思い込んで……!」

 必死に謝罪をして、自分の中にいるもう一人の自分を抑えつける。あのまま殴り飛ばしていたら、きっと自分はあの声に吞まれて、ましろのように豹変していた。

 自分が悪だと決めたのだから、そのまま倒せばいい。と告げるもう一人の自分。

 ソラの脳裏に相手の動揺した顔が脳裏が焼き付き、必死に振り払おうとするも、不思議そうに見つめる相手の顔が脳裏に焼き付いた顔と重なってしまう。

 いきなり相手に襲い掛かった自分が信じられず、脳裏に焼き付いた顔から逃げるようにソラは立ち上がって走りだそうとするが、腕を掴まれた。

 女性はいきなり襲い掛かられて驚いたようだったが、そんなことは微塵も気にしていないようだ。

「一旦落ち着いて、私は全然大丈夫だから。あ、そうそう!ちょうどいいもの持ってるんだ。一緒に食べる?」

 女性はバッグから紙袋を取り出し、笑顔で中身をソラに差し出した。

「……メロンパン?」

 

 

「イチゴ味……」

「美味しいでしょ?私の思い出の味なんだぁ」

 朝日奈みらい、と名乗った彼女は先ほど殴りかかったことなど気にしてないようだった。責められると思っていたソラの心も、少しだけ軽くなる。

「……昨日の昼間、戦ってたプリキュア、あなただよね?」

 ソラは突拍子もない事を言われてむせる。まさかいきなり昨日の出来事を話題に出してくるとは思わなかったのだ。

「見てたんですか……?」

「全部じゃないよ。私が駆け付けた時にはあなた達しかいなかったし」

 先ほどの事を含めて、みらいにどこまで事情を打ち明けるべきか迷っていたが、相手が事情を知っているならば話は違う。ソラは素直に事情を打ち明けることにした。

「私、ヒーローになりたくて、これまでプリキュアとして戦ってきました。でも、一緒に戦ってきた友達が、いきなり襲い掛かってきて、他の仲間も全部倒しちゃったんです」

 隣に座っている彼女は何も言わず、ソラの話に耳を傾けている。

「私は戦いたくないって言ったら、じゃあ私が大切にしてるものを全部壊すって言いだして、見たこともない怪物を暴れさせたんです。ヒーローを目指すなら、懲らしめなきゃいけないのは分かるんですが、でも友達を攻撃なんてできなくて……」

 ソラの悩みを聞いたみらいは、何か答えを持っているようだったが、言うのをはばかられるような内容だったようで、少し考え込んだ後、やっと口を開いた。

 

「……そんなに苦しいんだったら、ヒーローなんてやめちゃった方がいいんじゃないかな」

 

 返ってきた言葉にソラは打ちのめされたような気分になった。今まで積み上げてきたものを否定され、泣き崩れそうになる。

 だがみらいはだって、と続ける。

「プリキュアは正義のために戦うロボットじゃないもん。友達が悪い人になったら、悩んだり苦しんだりして当たり前。逆に平気で戦えるような強いだけのヒーローだったら、私は嫌だな」

 強いだけのヒーロー。みらいの言葉にソラは考える。自分がなりたいヒーローはなんだったのか。自分の考えるヒーローは、正義の味方とは違う所にあるのではないかと。

「じゃあ、みらいさんの考えるヒーロー、ってなんですか?」

「私?私の考えるヒーローは……そうだなぁ。自分と考えが違ったり、性格が真逆でも、手をつなごうって手を伸ばせる人、かな。自分と違う所を素敵って、受け止められる人」

「手を伸ばす、ですか。でもましろさんは、その友達は、私の手を掴まなかったんです。もう一緒にいられないって、逃げて行ったんです」

 バタフライの起死回生の一撃で、正気に戻せたはずのましろ。だが彼女は、正気に戻ってもなおソラ達の敵であろうとしていた。

 もうましろの手は掴めない。もう敵として倒すしかない。そう結論づけようとした時、みらいはソラの手を握った。

「だったら、また伸ばせばいいんじゃない?いきなり殴りかかられたのはビックリしたけど、でも私はこうしてあなたと手を繋いでる。1回ダメだったからって、諦める必要はないよ」

 みらいはソラに殴りかかられた事は心から気にしてないようで、ソラに笑顔を見せる。

 何を信じていいか分からず、これからどうすれば良いか分からなくなっていたソラにとって、その手の温もりは不安を照らすわずかな光のように思えた。

「みらいさんは、強いんですね」

「強くなんてないよ。ただ、色んな人と繋がって、色んな考え方とか知りたい。ただそれだけ」

 ヒーローは諦めない。かつて自分にかけた、ヒーローでいるための呪い(おまじない)

 ましろとの思い出が詰まったヒーローの心得を記した手帳。自分の信じたヒーローではましろは救えないと分かった今、その手帳に記した言葉の一つ一つが自分の首を絞めているような窮屈ささえ感じる。

「私、どうすればいいんでしょうか。みらいさんの言うヒーローも良いと思いますけど、それは今まで体を鍛えてきて、難しい勉強もしてきた自分を裏切るみたいで……」

「私も何が正しいかなんて分かんない。だから色んな国の文化を勉強したり、あちこちに行ったりして、実際に見て、聞いて、一生懸命に答えを探してる最中、かな」

 彼女が見ている世界は、ソラよりもずっと広い。だからこそ、一方的な正義の危うさを知っているのかもしれない。そう思わせるほど、彼女の発言は自然だった。

「でも自分が正しいって思ってたものが実は見方によっては間違ってたり、その逆もあったりして、その違いを調べてくと『ワクワクもんだぁ!』って楽しくなってきたんだよね。だから、私はずっと答えを探すんだと思う」

「ワクワクもん……?」

 一つの夢を追いかけて、まっすぐに走ってきたソラとは違う考え方。

 色んな人と手を繋いで、世界を広げるヒーロー。悪と戦い、みんなを守る正義の味方とは違う考え方。

 まだソラはどうするか迷っていた。だがみらいの言う通り、もう一度、ましろの手を取ろうと手を伸ばす。ましろの本心が聞きたい。その思いを胸に、もう一度ソラは立ち上がる。

「……みつけた」

 木々の影が黒く染まり、中からましろが姿を現した。2つの琥珀色の瞳はソラではなくみらいを見つめている。

「その人、ソラちゃんの新しいお友達?昨日の2人はやっつけちゃったし、次は何を壊そうか迷ってたけど、その人にしようかな」

 ましろはスケッチブックを取り出すと、ページを1枚やぶり、宙へ放り投げた。

「おいで!アンダーグエナジー!」

 影から飛び出した腕がスケッチと近くにあった木々を巻き込んで握りつぶす。昨日と同じ、怪物を生み出す工程。だが、2つものを巻き込んだからか、形となった怪物の様子が違った。

≪ヨクバァァァァルゥッ!≫

「へえ、キョーボーグみたいなのを作ろうとするとこうなるんだ。昨日のよりエナジーの消費も少なくて済むし、今度からこれにしようかな」

 ましろから生まれた亀のような怪物は、みらいに狙いを定めて背中から生えた樹木を杭のように打ち込み、みらいの体を押しつぶそうとする。

 だがそれよりも早く、キュアスカイへと姿を変えたソラがみらいを身体を抱えて跳びあがる。

「流石はスカイ。お友達を見捨てるわけないもんね。もっといっぱい増やせばもっと戦ってくれるかな」

 ましろはスカイミラージュを使い、黒いプリズムへと姿を変える。

「ふわり閉ざす優しい暗闇、キュアプリズム!」

 スケッチブックからページを選ぶのも面倒になったのか、ついにはスケッチブックをそのものを放り投げる。

「みらいさんは逃げてください。ここは私が押さえます」

「うん!私、助けを呼んでくるから!」

 安全な所で降ろされたみらいはソラを信じて走り出す。

 背後では、次々とヨクバールが生まれている声が聞こえる。みらいは急いでスマホを取り出して、リコに繋ぐ。

「もしもしリコ!?大当たりだよ。私が見た子がソラちゃんだった!」

『こっちもあの子の名前と家の場所を突き止めたわ。これから行こうとしてたところ』

「ましろちゃん、だよね?今ソラちゃんのところに出てきて、ヨクバールをいっぱい作ってるの!」

『ヨクバールまで作れるの……?分かったわ、すぐにそっちに行く』

 みらいはリコが箒に乗って移動してくると思い、同じく箒に乗って空を舞う。

 スカイに任せたところでは、自分たちも戦ったことがないほどのヨクバールの群れがうごめいているのが見える。

 あまり時間はない。みらいは遠くの方に見えた親友の姿めがけて、空を駆け抜けた。




リンクルストーン・ホープダイヤ
  リコがクシィの研究を元に生み出した無垢のリンクルストーン。
  『生徒の不安を解消し、将来に希望を持ってほしい』という思いの下、生徒が抱えている不安を吸収し、気分を落ち着かせたり、生徒に自信を持たせるために使われていた。
  だがリコの思いや願いも吸収しており、いつの日か『この世すべての不安や恐怖を吸いつくすことで、希望に溢れた世界にする』という願いを叶え続ける魔石へと変貌。
  無差別に周囲の生物が抱えている負の感情を吸い上げ、リコの予想よりも何倍も速く黒く染まり、エメラルドに匹敵する闇のリンクルストーンへ変わってしまった。
  本来は極秘裏に処分されるはずだったが、ソラとの別れを悲しむましろの心と引き合ってしまい融合し、今回の事件を引きお起こすことになる。

キュアプリズム(ネガII)

 ホープダイヤの力をより一層受け入れた結果、瞳の色が琥珀色に変化した漆黒のキュアプリズム。
 闇の魔法を使いこなせるようになった為ヨクバールの生成も可能になった。
 ただし本人に闇の魔法の知識がない為、アンダーグエナジーを使って生み出してると思い込んでいる。 
 かつての仲間との記憶は既に無く、キュアスカイをヒーローにしたいという最後に残った希望に縋り続ける。
 
 願い:キュアスカイを英雄(ヒーロー)にする
  消えつつあるましろの心が最後に縋った希望
  キュアスカイがヒーローになるための敵役、自分の理想通りに戦ってくれるキュアスカイを作り出す。
  もはや彼女にとって、生まれたヒーローがソラ・ハレワタールである必要はない
  
 願い:ソラちゃんと一緒にいたい
  影の中に潜伏し、ソラ・ハレワタールの近くまで移動する能力
  彼女が影と認識している場所が出入口になり、潜伏中は外部から干渉ができない。
  当然潜伏する時間が長ければその分記憶の摩耗も早くなり、最終的には誰と一緒に居たかったのかさえ分からなくなる。
  
 願い:おなかがすいた
  影から無数の手を伸ばし、手当たり次第に周囲の人間から生命エネルギーを吸い上げる。
  襲われた人間は衰弱し、早急に救助しなければ死亡する。
  奪った生命エネルギーを使って範囲を広げることができ、一週間もあればソラシド市周辺まで範囲を広げることができる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。