ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
ソラは暗闇の中、ひたすら遠くの光を目指して走り続けていた。
周囲には鏡が浮かんでいる。そのいくつかはもう割れしまい、ソラとの思い出だけが鏡に映し出されている。
大事なソラとの思い出でさえ、1つ、また1つとひび割れて、消えかかっているのが分かる。
ましろと過ごしたこの1年の思い出。残っている思い出でさえ、あげはやツバサ、エルの顔は黒のクレヨンで塗りつぶしたように覆い隠されており、その輪郭でさえ曖昧なものになりつつある。時折聞こえてくる仲間の声も、ノイズ交じりで何を言っているかが分からない。
(このままだと、ましろさんの記憶が……。急がなくては)
遠くの方に見えていた光は徐々に大きくなり、後少しでましろのいるところに届くと信じて走る。
恐らくこの空間には、もっとたくさんの思い出があったのだろう。あげはやツバサとだけではない。生まれてからの家族との思い出、学校で一緒だった友達との思い出。
大事だったはずの思い出を捨て去ってまでソラに執着するましろの心を救えるのは、これが最後のチャンス。ましろがソラの事さえ忘れてしまえば、もうソラの言葉が届くことは無いだろう。
「探しましたよ。ましろさん」
ソラが光の下にたどり着くと、円形のステージの中央でましろが立ち尽くしていた。
黒いプリズムの衣装を身にまとい、ましろは虚ろな表情でこちらを見ており、現実世界でソラ達に襲い掛かってきた姿とは対照的である。
「ソラちゃん……?」
「一緒に行きましょう。あげはさんやツバサ君が待ってます」
こちらに気付いたましろに近づき、優しく手を差し伸べる。この空間から連れ出せるか分からないが、ましろの心をこのまま放っておくことはできない。
「あげは、ツバサ……?大事な人だったはずなのに、もう誰だか分かんないや……。全部忘れちゃった。今の私に残ってるのはソラちゃんとの思い出だけ」
ましろは自分の愚かしさを笑うように口元を歪めると、優しくソラの手を取って、自分の首に当てる。
「きっとその内、ソラちゃんの事も分からなくなって、私が誰だったのかも分からなくなる。でもそうなる前にソラちゃんに会えてよかった……。まだ私が私でいられる間に、全部終わらせて?」
暴走する自分を止めてほしい。それがましろの本心だった。ましろはソラにこのまま終わらせるようにと迫るが、ソラは添えられた手に力を込めず、逆にましろの手を取って抱きしめる。
「いいえ、ここを出ましょう。まだましろさんがましろさんでいられる間に」
優しく手を引いてソラが外へ連れ出そうとしたが、ましろはソラの手を振りほどき、大きく後ろに下がる。
「もう無理だよ。みんなに酷い事もしたし、関係ない人だって襲っちゃった。私はもう、ソラちゃんとは一緒にはいられない」
俯いていてましろの表情は見えない。だが、絞り出すように手のひらにプリズムショットを作り、ソラがこれ以上自分に歩み寄らせないように威嚇する。
「もう引き返せないところまで来ちゃった。私はもうヒーローガールになれない。私はソラちゃんの敵。お願いだから、私を倒してよ!」
ましろは必死にソラの敵を演じようとするが、もうその顔に狂気は感じない。追い詰められて、最後に残った、キュアスカイの最後の敵になるという願いに必死にすがっているような複雑な表情をしている。
「今でも分かるの。色んな人の不安な気持ちや、怖いって思う気持ちが私に流れ込んでくるの。もう私は、私を制御できない……!」
だがソラはミラージュペンを取らない。ゆっくりとましろに歩み寄る。
「こっちに来ないで!お願いだから、私を倒してよ……。ソラちゃんは
震える手でプリズムショットを放つが、狙いの定まらない軌道を取り、ソラの肩をかすめる。
あと少し軌道がズレていたら致命傷になっていたにも関わらず、ソラは動じない。ましろの思いを聞いて、ゆっくりと口を開く。
「だったら、私はヒーローなんて辞めます」
ソラは腰に下げていたミラージュペンを捨てる。それを見たましろは動揺し、更に光弾を放つがソラの肩に一発当たっただけで、それ以外はすべて見当違いの方向へ飛んでいく。
焼けつくような痛みが肩から伝わってくるが、ソラは動じない。もう答えは決まっている。後は、ましろの心に届けるだけだ。
「もし1年前の私だったら、仕方のない犠牲って自分に言い聞かせて、ましろさんを倒していましたと思います」
やがてましろの目と鼻の先にまで近づき、ソラはましろの体を優しく抱きしめる。
ここから先は、1年間悪と戦い、世界を守ったキュアスカイではなく、虹ヶ丘ましろとかけがえのない時間を過ごしたソラ・ハレワタールとして彼女に告げなければならない。
「あの頃の私はロボットみたいな女の子でした。ヒーローらしい事をしてるだけで、本当に大事なことを何一つ分かっていなかった……。でもましろさんが教えてくれたんです。ましろさんがくれた思い出が、私を人間にしてくれた……!」
幼い頃から体を鍛え、難しい本だって読めるように勉強してきた。他人なんて気にしなくていい。自分の信じる正しさを貫いて、あの日憧れたヒーローになるんだと努力を積み重ねてきた。
だが出会ってしまった。自分の夢を応援したいと、手を差し伸べた心優しい少女に。ある意味では、それがソラ・ハレワタールという少女が生まれた瞬間だったのかもしれない。
「もし私の夢がましろさんを傷つけるなら、そんな夢なんていりません!例え世界の全部がましろさんの敵になったとしても、私はましろさんの味方でいたいんです」
正義の味方ではなく、ましろの味方になる。それがソラの出した答えだった。ソラはかつて見た背中に追いつこうとして強くなりたかったのではない。泣いている誰かに手を差し伸べられるような、そんな強い誰かになりたかったと気づけたのだ。
「どうして……。だってソラちゃんを置いてスカイランドに帰ろうとしたのに!」
ましろは知っていた。ソラは毎日トレーニングを欠かさず、不慣れなこちらの世界での勉強についていくために、必死に努力をしていたことを。
強くて正しいヒーローであるために、ソラが普段どれだけ努力していたかも知っていた。だからこそ、それを捨てるような発言をしたことが信じられなかった。
「私、ましろさんの描くお話が大好きなんです。こんな優しい世界があっていいんだって、あったかい気持ちになるんです。その為に絵の勉強をしたり、お話を作る勉強をしていたのも知っています」
ましろと過ごした優しい日々が脳裏をよぎり、ソラの目頭が熱くなる。夜遅くまで絵本のストーリーを考えていたり、思った絵が描けなくて、スケッチブックを眺めながら思い悩んでいたのも知っていた。
「スカイランドに帰ろうって思ったのも、ましろさんに負けないぐらい立派な人になろうって、ましろさんの隣を一緒に歩けるように頑張ろうって、そう思ったから……!」
ソラの気持ちを聞いて、やっとましろもソラの体に腕を回す。もう彼女からは敵意を感じない。ソラの気持ちを受け取り、ましろの気持ちにも変化が現れ始める。
「なんで……。それじゃ私、最初から間違ってたの……?ソラちゃんだけが活躍しても、ソラちゃんはヒーローになれないってこと……?」
とうとう押し込めていた感情があふれだし、ましろの頬を熱いものが伝う。
「私も頑張らないと、ダメ、だったんだ……。そんなことも分からなかったなんて、本当、バカだな、私……」
「構いませんよ。ましろさんが頑張りたいって思うなら、私が隣で支えてあげますから」
どれだけ間違っても、ソラが傍にいてくれる。たった一人しか味方がいなかったとしても、ましろが一歩踏み出すには十分すぎる希望だった。
「うん。もう少しだけ、頑張ってみる。ソラちゃんだけがヒーローになるんじゃなくて、私もいないとダメなんだもんね」
ましろの体が光となって消え、ソラの手元に集まる。壊れゆくましろの心の最後の一片。ましろの中に芽生えた希望を示すかのように差し込んだ光を受けて、虹色に輝く純白のスカイトーンがソラの手の中にあった。
「行きますよ、ましろさん」
アメジストが再び光り、ソラの頭上にここに入ってきたのと同じ扉が現れる。
ソラはもう一度ミラージュペンを拾い上げ、一直線に扉へ向かう。
「スカイミラージュ!トーン、コネクト!
姿は見えなくても、ましろの心が傍にいてくれる気がして、2人の心にもう迷いはない。
「きらめきホップ!」
親友との別れを受け入れられず、悲嘆にくれる少女の姿はもうない。自分の夢を応援してくれると信じ、ともに広がる世界へ飛び立とうと決めたから。
「さわやかステップ!」
二人の少女の面影が重なり、ソラの姿が変わる。虹色の光に包まれながら、キュアスカイでもキュアプリズムでもない、2人の少女がたどり着いた結論へと。
「はればれ、ジャンプッ!」
主を失い崩れ行く世界を背に、二色の瞳を輝かせた少女は、扉の向こうに広がる世界へと飛び立たった。
スカイを送り出してから、現実世界では1時間が経過していた。2人の魔法つかいは、怪物とプリズムを同時に相手しながら時間を稼ぐように戦っていた。
硬い敵はルビーの炎で砕き、空中の敵はサファイアの光で貫き、襲い来るプリズムはトパーズの技で翻弄してかわす。
「えっと……何体倒したっけ……」
「数えてるわけないでしょ。第一、作りすぎなのよ!」
向かってくる敵を倒し、ダイヤの光で照らして浄化する。
戦い始めた頃と比べて、確実に敵の数は減っている。だが、それでも2人で浄化しきれる数には限界がある。隠してはいるが、確実に2人の体力は限界が近づいてきていた。
怪物を浄化した虚を突かれ、プリズムの攻撃が迫る。スタイルの交換が間に合わず、少し無理のある姿勢で、ガードする。
しかし衝撃までは殺しきれず、2人は少し吹き飛ばされて、不安定な姿勢で着地する。
「どうしてみんな私の邪魔をするの……。私はただ、スカイに戦ってほしいだけなのに」
「友達を無理やり戦わせるの!?それが本当にあなたのやりたいことなの!?」
「うるさい……」
ミラクルの説得も意味をなさず、プリズムの光弾が2人を襲う。魔法で防御壁を展開し直撃は免れたが、
「どうしよう。やっぱり全然聞いてくれないよ……」
「こんなハイペースで魔法を使ったんじゃ、もうましろさんの心が残っているかも怪しいわ。ソラさんが、上手くやってくれるといいんだけどっ!」
プリズムの攻撃の隙間を縫ってマジカルが肉薄するが、プリズムは足場を作って空へ逃げてしまう。
だが、偶然空を飛んでいたフェリーチェと遭遇し、そこから逃れるために地上に舞い戻る。結果的とはいえ、プリズムは3人のプリキュアに挟まれる格好になる。
「フェリーチェ!来てくれたんだ!」
「よくない気配を感じましたから。こんな禍々しい気配、まるでドクロクシーのようです」
「また新しいプリキュア?もういいや、
プリズムは影から泥のようなものを呼び出すと、それを掴み、泥の形が斧のような形状へと変化する。
トパーズスタイルで作るハンマーやブーメランとは違う、人を殺すための武器。人の首を落とすために特化した形状をした斧を軽く振り回し、プリズムはその完成度が納得のいくものになったと確信する。
「これなら簡単にプリキュアを壊せるよね。刃が欠けてもまた作ればいいし」
プリズムは手始めにフェリーチェに襲い掛かり、その首を落とそうとするが、その扱いは素人のそれで、フェリーチェに簡単にかわされてしまう。
「避けないでよ。当たらないでしょ」
プリズムは不機嫌そうに斧を持ち上げて、マジカルたちの近くに移ったフェリーチェを睨む。
確かにあの斧は人を殺めるのに効率的な形状をしているのかもしれない。だが、あの様子ではプリキュアどころか一般人に傷をつけることさえ難しいだろう。
「彼女、私が先ほど戦った黒いプリキュアと似ています。確かに強くはなっていますが、力任せに暴れているだけ。冷静に戦えば私たちの敵じゃありません」
「黒いプリキュア、ってあの子の他にも闇の魔法使いがいたってこと……?伝染する魔法なんて聞いたことないわ」
フェリーチェの話を聞いて、マジカルは焦る。当初、ホープダイヤの力に呑まれたプリキュアは一人だと思っていた。
だがそれが何らかの条件で増えるとなれば話は変わってくる。下手をすれば自分たちも暴走をはじめ、誰もこの事態を収束させようとしなくなるのだから。
叶いもしない願いのために戦うその様はまるで道化のようで、マジカルに1つの決心をさせる。
「ミラクル、フェリーチェ。もう時間が無いわ、レインボーキャリッジで一気に決着を付けましょう」
最大の大技、エクストリームレインボーを使って、残っているヨクバールごと一気に浄化する。人間相手に使用して無事である保証はないが、ミラクルやマジカルの体力に限界が近いことも考えれば、他に方法はない。
レインボーキャリッジを呼び、アレキサンドライトスタイルにチェンジする。これが最後の大技。持っている力を振り絞り、狙いを定める。
「キュアップ・ラパパ!虹の彼方にっ!」
放たれた光がプリズムを巻き込んで周囲のヨクバールを浄化する。プリズムは影から盾を呼び出して防御するが、あっという間に盾にヒビが入り、3人の勝利は目前のように思えた。
だが突如こちらの放っている光が弱くなり、プリズムが持っていた斧であっという間に振り払われてしまった。
「ねえ、マジカル……」
一体何が起こったのか分からず、マジカルとフェリーチェが戸惑っていると、ミラクルが口を開く。
「あの子を浄化する意味って、あるのかな」
3人の意志とは無関係にエクストリームレインボーが終了した理由、それはミラクルが技を中断したからだった。
「何を言って―――」
「マジカルはそんなつもりはなかったけど、今回の事でましろちゃんの人生を滅茶苦茶にして、これだけの騒ぎを起こした。校長先生だけじゃなくて、ましろちゃんのご両親だってきっとマジカルを悪者扱いして、寄ってたかって責め始める」
ミラクルの衣装が一気に黒く染まり、マジカル達はうろたえる。一方のミラクルはリンクルステッキをこちらに向け、
「そうなったらきっとマジカルは耐えられない。だからマジカルが壊れちゃう前に、私がここで壊すよ。安心して。私も一緒だから」
黒く変異したミラクルがアクアマリンをセットしたリンクルステッキを振るい、マジカルの足を凍てつかせる。
「どうして……」
いきなりミラクルが変異して戸惑っているフェリーチェを狙って、プリズムがこちらに向かってくる。暴走するミラクルを止めたかったが、プリズムの攻撃に阻まれて2人から徐々に遠ざけられていく。
ミラクルは逃れようとするマジカルを優しく抱きしめて、2人の体を氷で覆う。
「こうしてると、マジカルの温もりが伝わってくるみたい。ちょっと寒いけど、私はリコとならどこまでもいくよ」
もう一度リンクルステッキを振るい、頭上に巨大な氷塊を作りだす。身動きが取れなくなった今、あれが落ちてきたらひとたまりもないだろう。
何とか身をよじらせて拘束から逃れようとするが、2人を閉じ込めている氷は厚く、ヒビすら入れることができない。
万全の状態であればこの拘束から逃れられたかもしれない。だが疲弊した体ではそれは叶わず、このまま凍え死ぬか、頭上の氷塊に押しつぶされるのを待つばかりである。
もしホープダイヤの回収に躍起にならず、ミラクルの状態に気を配っていればこんなことにはならなかったかもしれない。後悔の思いが募り、マジカルの中に諦めのような感情が沸き上がる。
(これが、私への罰、ってことかしら……。それも良いわね……。)
元々今回の事が終われば、学校を辞めるつもりでいた。自分の不始末で一人の少女の人生を滅茶苦茶にしてしまったのだ。家族とも縁を切って、ましろを引き取ってナシマホウ界のどこかで暮らすつもりだった。
だが想定以上にましろの力は成長しすぎた。このまま世界滅亡の現況を作った人間として生きるぐらいなら、ここで終わってしまうのも良いのかもしれない。
そうすべてを諦めようとした時、空から舞い降りた何者かが氷塊を砕き、ミラクルの頭上に円形のステージのようなものを展開する。
「プリキュア!アップドラフト・シャイニングッ!」
円形のステージから放たれた光がミラクルを包み込み、黒く変異したミラクルの体が元の色を取り戻す。
虹色に輝くマントを翻し、ミラクルを元に戻した彼女は地面に降り立つと、二色の瞳で黒いプリズムを見据えて言い放つ。
「さあ、ヒーローの出番
キュアミラクル(ネガ)
『泥』の呪いで反転してしまったキュアミラクル。
すべてが終わった後に発端となったリコが責められる事を危惧し、リコが苦しまないようにと彼女の命を狙う。
変身前の状態で泥でできた偽のキュアスカイを直接つかんでしまった為、バタフライとは比べ物にならない速度で変異してしまった。
キュアマジカルの悩みを解決したい、という行動原理は同じだが、それがリコの思いを無視し、自身の考える最良の結果を一方的に押し付けるという形で歪んでしまった。
マジカルを守ろうとするものはすべて敵としか映らない為、ツバサが危惧した、プリキュア同士での殺し合いに発展しかねない危険な存在。
願い:リコが辛い思いをしない世界にしたい
かけがえのない親友であるリコの為にあらゆる手を尽くす。
今回の場合、リコの不安が生まれないようにとリコの命を絶つことでそれを実現しようとした。
リンクルストーンを使った魔法の効果がすべて歪められ、自身とマジカルが一定距離内に存在する場合、2人の命を同時に絶つようなものに変わってしまう。
作中ではサファイヤを使用し、自身とマジカルを氷漬けにして凍死を狙いつつ、巨大な氷塊を召喚して圧死しようとした。