ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
「無限に広がる夜明けの光!キュアスカイ、プリズマティックスタイル!」
青と桃の長い髪をたなびかせ、純白の衣に身を包んだキュアスカイがプリズムと対峙する。
見慣れないスカイの姿にプリズムは眉をひそめたが、すぐにそのからくりを見抜き、その滑稽さをあざ笑う。
「へえ、『私』はそっちについたんだ。こんな事しておいて、今更ヒーローになんかなれるわけ無いのに」
消えゆくましろの心の最後の一片、ソラを信じて未来へ進みたいと思う気持ち。それが結晶となったのがあの純白のスカイトーンだった。
自分の意思でソラの敵に回ると決めて、数多くの人間を襲っておきながら、今更ソラの味方になると決めたもう一人の自分が、滑稽でたまらなかった。
『なるよ』
スカイの姿に一人の少女の面影が重なる。ソラを信じたいましろの心。例えそれが、虹ヶ丘ましろのほんの一部だったとしても、もう一人の自分に負けない輝きを放っている。
『ソラちゃんが言ってくれたもん。私の味方でいてくれるって。ソラちゃんの為に戦いたい!ヒーローのソラちゃんの隣に立っていたいから!』
プリズムが差し向けた光弾を、同じくスカイが操る光弾が相殺する。スカイはプリズムの技の使い方を詳しくは知らなかったが、身体が覚えている。常に自分を支えてくれた優しい光の面影を。
傍にいたフェリーチェを無視して、プリズムは断頭斧をスカイへ向けて振りかざす。だがスカイは白刃取りの要領で受け止め、その刃を粉々に砕く。
泥で作った斧だったが、スカイの手のひらに付着した泥はすぐに白い砂のようになり、スカイの手のひらからこぼれ落ちる。
スカイはすかさず掌底でプリズムの体を吹き飛ばし、プリズムの体が地面を転がる。
「ましろさんの心は返してもらいました。他のものも返してもらいます!その体も、ましろさんの未来も!」
吹き飛ばされたプリズムは影を介してスカイの体を掴もうと、泥の腕を伸ばす。だがスカイは臆せずに突き進み、自分に迫る腕を薙ぎ払い、再びプリズムに肉薄する。
だがプリズムはまだ残っていたヨクバールを集合させてスカイを狙う。
「そっちに私に返して、何になるの?どうせみんなバラバラになるのに、未来とか夢とか都合のいいことを言って、私を捨てようとしたくせに!」
「
変化を拒み、みんな一緒に居られる今を繋ぎとめようとするプリズムに対し、スカイは未来へ進もうと襲い来る怪物の群れをなぎ倒す。
「捨てるんじゃありません!友達が頑張っているって知っているからこそ、また自分も進みたい未来へ向けて頑張りたいって思うんです!」
『離れ離れになったとしても、私も頑張ろうって決めたの!ソラちゃんが応援してくれた『私』でいたいから!』
ヨクバールの軍勢がよろめいた隙に、スカイが空へ手を伸ばすと、再び円状のステージが出現する。
「プリキュアァッ!」
この絶望的な状況を希望の光で照らすように、ステージは徐々に大きくなっていき、ソラシド市の空を覆うほどの大きさになる。
「アップドラフト、シャイニングッ!」
スカイが伸ばした腕を振り下ろすと同時に、優しい光がソラシド市を覆い、自分たちを取り囲んでいたヨクバールが次々と浄化され、戦いの余波で滅茶苦茶になった街並が元の姿を取り戻す。
プリズムはスカイを再び狙うが、この優しい光は影すらも照らし、闇の魔法が発動しない。
それどころか、この光で黒一色に染まったプリズムも次第に元の色を取り戻し始め、自分に流れ込んで来ていた不安や恐怖といった感情の流れが徐々に弱まっていくのを感じる。
プリズムはスカイミラージュをかざして、もう1度黒いスカイを召喚しようとするが、何も起こらず鈍い光を発するだけだった。
もう影から腕を伸ばすこともできず、新しいスカイを召喚することもできない。プリズムは手のひらに光弾を作り、スカイに向けて放つが、片手で簡単にあしらわれてしまう。
あれだけ体にみなぎっていた力も感じられない。
この結果は分かっていたはずだった。虹ヶ丘ましろという少女が信じる希望が
プリズムは敗北を両腕を広げ、スカイの最後の一撃を受け入れる姿勢を取る。
「……私の負け。あなた達が望んだ通り、私が消えて、そっちの『私』に全部返すよ」
スカイはプリズムの意思を汲み取り、手のひらに光を集中させる。
「ヒーローガール―――」
(プリズムショット、かな。まさか自分の技でやられちゃうなんてね)
今のスカイが拳を握らないのは分かっていた。できることなら、スカイパンチでトドメを刺して欲しかったと叶わぬ夢を見て諦めるように目を閉じる。
「
だが放たれたのはプリズマの知らない技だった。優しい光がプリズムの体を包み込み、体の中に溜まっていたモノが抜け落ちていく。
その最中、プリズムは光の中にもう一人の自分の幻を垣間見る。
『多分あなたは消えない。だってあなたはもう一人の、明日が怖くてたまらない私。だからこれから先も、不安になる度に何度も現れるんだと思う。でも私、次は負けないから!』
ソラのいない明日が嫌で、一度は誘惑に負けてしまったましろ。今度は負けないと言い放った彼女の笑顔には一点の曇りもなく、プリズムの口元もほころぶ。
「うん。じゃあまたいつか、だね」
憑き物が落ちて澄み切った表情のプリズムは、ふわりと広がった光の中に消え、完全に浄化されたましろの体が現れる。それと同時にソラの変身も解除され、純白のスカイトーンがソラの手を離れてましろの体へと還っていく。
「ましろさん!」
ソラがましろの下へ駆け出すと同時に、ましろの胸からホープダイヤが飛び出して粉々に砕け散る。その反動でましろの体は後ろへ大きく倒れ、間に合ったソラに抱きかかえられる。
ましろは安らかな表情で眠っており、ソラは全部が終わったのだと確信した。
「何とか間に合ったわね。取り返しがつかなくなる前で良かった……」
ホープダイヤの欠片を拾いあげ、リコはすべてが終わったことを悟った。ホープダイヤは完全にただの石と化しており、リンクルストーンどころか、宝石としての価値も無い。
変身を解除を解除したことはや、正気に戻ったみらいは何とか間に合った事に安堵し、ソラの腕の中で安らかに眠っているましろの下に集まってくる。
「ましろちゃん大丈夫かな?あれだけ闇の魔法を使ったら……」
「分からないわ。元に戻ったように見えてまた暴れ出すかもしれないし、眠ったまま何年も目を覚まさないかもしれない。後はましろさん次第ね」
今回の事は何もかもが例外だった。闇の魔法を使うプリキュアの出現に、精神を汚染する魔法。魔法界からも調査隊が送り込まれて、ましろを事件の首謀者として捕えようとするかもしれない。
リコは当初決めていた通り、ましろを連れて、みらいも知らない場所で2人で暮らそうとソラに近づく。
「……ん」
眠るましろへ手を伸ばした時、ましろが目を覚ました。最初は周囲の事態が呑み込めずあたりを見まわしていたが、ソラの顔を見て少しだけ何かを思い出したようで安心したような顔をする。
「なんだか、すごい怖い夢を見てた気がする……。でも、ソラちゃんが助けてくれたんだよね?」
「……はい!」
とりあえずましろが暴走しなかったことで、リコはひとまずの不安から解放された。後はソラを説得してましろの身柄を引き渡してもらうだけ。
そう思った時、後ろにいたみらいがリコの小さくした箒を持っていた方の手を掴んで止めた。
「リコ、ましろちゃんを連れていなくなるつもりだったんだよね?」
「……今回の事は完全に私の責任だもの。これからきっとましろさんは魔法界から追われる立場になる。だから、一生をかけてでも私がましろさんを守るわ」
リコはみらいを振り切ってましろを連れて行こうとしたが、みらいの意志は固く、握った手を振りほどけない。
「私もさ、リコがリンクルストーンを作るって言いだした時に、リコを止めてたらって思ってた。だから私もリコと同罪。私にもリコのお手伝いをさせて?」
まっすぐと自分を見つめるみらいの目を見て、リコは逆らっても無駄と悟り、箒をポケットの中へ戻す。
「もう、分かったわ。一旦魔法界に戻って道具を揃えるから、手伝ってくれるかしら?みらいと……はーちゃんも」
みらいに説得されて、リコは一人で罪を背負うのを止めた。きっとこのままどこかへ姿を消しても、みらいなら地球の裏側まで追ってきそうな勢いである。それでみらいに何かあっては本末転倒だ。
「ねえソラちゃん、あの人たちは……?」
見慣れないリコ達の姿を見て、ましろが不思議そうに尋ねた。
「今回、ましろさんを助けるのに手を貸してくれた人達です」
自分が知らないところで迷惑をかけたのかもしれないと思い、ましろは少し悲しそうな目をする。だがソラはまずはましろが無事に戻ってきたことを喜び、ましろと目を合わせる。
「ましろさん」
言いたいことは色々とある。けれども、ソラがましろに最初に言いたい言葉はたった一つだった。
「おかえりなさい!ましろさん!」
「本っ当にごめん!抑えたつもりだったんだけどさ!」
目を覚ましたあげはは、ツバサとエルに真っ先に謝罪した。
最初は何をしていたのか記憶も朧気だったようだが、心配そうに見るツバサや、何故かスカイランド神拳のような不思議な構えをしているエルを見て、昼間自分が何をしていたのか思い出した。
「でもあげはさんだけでも正気に戻ってよかったです。後はましろさん達をなんとかするだけですけど……」
今ソラがどうしているかは分からない。もしかすると、あげはのように反転してしまっているかもしれない。
タイタニックレインボーアタックで元に戻せることは分かっているが、黒いキュアスカイと戦わなければならないと考えると、少し気が重かった。
ツバサが今後の事を考えていると、玄関の扉が開いた。一同の視線が集中したその先では、もう不安そうな様子など一切ない、澄み切った表情をしたソラが立っていた。
(さて、どっちだ……?)
ソラの様子を警戒しつつ、ツバサは腰のミラージュペンに指をかける。反転したプリキュアは変身するまで正気なのか分からない。
ましろを手にかけた後にこっちに戻ってきたのかもしれない。そんな不安がツバサの脳裏をよぎる。
だがそんな期待を裏切るように、ソラは外に立っていた誰かを呼ぶ。その人物はこちらに来るのをすごいためらっているようだが、ソラを信じてツバサ達の前に姿を現す。
「ましろん!」
「ましろさん!」
「ましろ!」
ソラが連れてきたのは、ぎこちない笑顔を見せるましろだった。ソラの様子を見るに、無事にましろを救い出せたのだ。
自分たちを攻撃したことに引け目を感じているのか、ましろの態度は一歩引いたものだったが、あげは達は気にせずましろに駆け寄った。
「良かった!ましろも元に戻ったんだね!」
「これで全部元通りです!ヨヨさんにもさっそく報告に行きましょう!」
最悪の事態を回避できた喜びで、ツバサ達がはしゃいでいると、ましろは驚いた様子でソラの後ろに隠れてしまった。
普段のましろでは考えられない反応にツバサは不思議に思いつつも、ましろに手を伸ばす。
「どうしたんですか?元気に帰ってきた姿を見れば、ヨヨさんだって元気になりますよ!」
だがましろはソラの背中にしがみついて離れず、ソラはこの状況を予測していたのか乾いた笑みを浮かべる。
すっかり怯え切ったましろは、まるで未知の動物でも見るかのようにこちらの様子をうかがっており、その状態に心当たりがあったあげはが目線をましろに合わせて、優しく話しかけた。
「私、聖あげは。昔、遊んだこととかあるんだけど、覚えてる?」
ましろは返事にためらいながらも首を横に振り、消え入りそうな細い声で、ごめんなさい。とだけ返した。
「何とか助けられましたけど、殆ど記憶が残ってないみたいです。私のことを何とか覚えてたぐらいで、その、あげはさん達の事は……」
ソラはその先を言わなかった。無事に戻ってきたことは嬉しいが、今のましろにとって、自分たちはいきなり詰め寄ってきた他人でしかない。
しかしあげはにとっては些細な事で、ましろを怯えさせないように笑いかけた。
「でも目が覚めてからの事は覚えてるんでしょ?私、もう一度ましろんの仲良くなりたいな。こういうのって、ひょんなことで戻ることがあるっていうし!」
あげはの言葉に裏はないと感じ取ったのか、少しだけソラの背中から離れて、ましろがゆっくりと口を開いた。
「えっと、私も、頑張って思い出せるように、頑張るから……。その、よろしく……でいいのかな」
「うん、よろしくね!」
ましろは勇気を出して一歩を踏み出し、ソラの隣に立つ。
たとえすべてを失っていたとしても、大好きな親友の隣にいたい。その思いが真っ白な少女に明日に進むだけの一握りの勇気を与えてくれたのだった。
キュアスカイ プリズマティックスタイル
ましろとソラの互いを想う気持ちが重なった結果発現した奇跡の変身。
見た目は一見するとキュアプリズム色に染まったキュアスカイのように見えるが、顔つきがソラとましろを足して2で割ったような少女のものになる。
スカイ、プリズムの技はすべて使用可能な上、アップドラフト・シャイニングを単身かつスカイミラージュ無しで発動できる。
2人の未来を信じる意志は固く、『泥』に内包されている呪い程度では揺るがない。
ただしましろとソラが1つの体を共有した上で、それぞれが別々のプリキュアに変身しようとしたというイレギュラーすぎる誕生経緯故に、再度の変身はできない。