ひろがるスカイ!プリキュア Imaginary Episodes 作:パイシー
Interlude「青い空の向こうから」
たまに、不思議な夢を見る。
何もない真っ暗な空間で、一人の女の子が何かの欠片を拾い集めて、パズルみたいに組み立ててる夢。
何をしているの?って聞くと、バラバラになった思い出を集めているの。って教えてくれた。
いつもは私に背中を向けていて、その子がどんな顔をしているのかは分からない。どこかで見覚えがあるような気がするけど、それが誰なのかは思い出せない。
周りを見渡すと、その子が直した思い出が宙に浮いている。
私がそれに手を伸ばすと、その子がわざわざ手を止めて、ごめんね、って言って私の手を遮った。
「その思い出はまだ返してあげられないの。今のあなたには辛すぎる思い出だから」
私にそっくりな顔をしたその子は、それだけ言って思い出の欠片を組み立てに戻る。
とてもとても、不思議な夢。
真っ黒な衣装を着た私に似た女の子が、悲しい目で頑張って思い出をかき集める夢。
私が全部を思い出したら、あの子も笑顔になるのかな。
ソラシド市の山間にあるとある公園。自然が豊かなこの町では珍しくない場所で、リコとましろが向かい合っていた。少し離れたところではみらいや、ここまで車を運転してきたあげはが見守っている。
「行くよ……」
ましろはゆっくりと腰を下ろして、自分の足元に広がる影を睨みつける。
リコも魔法の杖を構え、万一の事態に備え、みらい達にも緊張が走る。
心の準備を決めて、ましろは自分の中に宿った能力を解放する。
「じゃん、けん、ぽん!」
その掛け声ともにましろの影から真っ黒な腕が飛び出す。ましろが突き出した手はグーで、対する影の腕はパー。それ以上は何も起こらず、ましろは肩を落とした。
「負けた……」
勝負を終えた黒い手は手を振って影の中へ戻っていく。周囲の一同はましろの能力の暴走を警戒していたが、結局は杞憂に終わった。
「闇の魔法ってヤバそうな名前だけど、随分と平和だね……」
「うん。私が知ってるのより全然平和」
ましろが言う『魔法』が本当にじゃんけんをするだけで終わり、あげはとみらいは啞然としていた。だがリコだけは何か違和感を感じたようで、少し考え込んでいる。
「ねえ、その手、じゃんけん以外のこともできるのよね?」
「えっ、うん。スケッチブックを持ってもらうこともあるよ。私が考えた通りに動いてくれるし、こういう事もできるよ」
ましろが影の上に手をかざすと、またしても黒い手が生えてきて、ましろに真っ黒な細い棒を差し出す。ましろはそれを受け取り、リコに見せた。
「こうやって黒鉛を作って出せるよ。スケッチしたいけど鉛筆が無い!って時とか便利なんだ」
「それで助かるのってあなたぐらいじゃないかしら……。ちょっと触っても良い?」
「うん、いいよ。黒鉛だから手が汚れちゃうけど」
リコはハンカチを取り出してましろから黒鉛を受け取る。じっくりと見つめ、軽く指先でたたいたり振ったりしてみるが、何の変哲もないただの黒鉛である。
「リコさんって闇の魔法の先生なんだよね?やっぱりましろんみたいなこともできるの?」
「できないよ。使える魔法は私と同じで普通の魔法だけ。闇の魔法がどれだけ危ないかとか、どうやって身を守るのかを教えたりしてるんだって」
「どっちかって言うと麻薬を取り締まる人みたいなお仕事なんだ。高校とか中学でそういう話聞いたし」
「あっ、確かに近いかも」
そんな会話をしている中で、リコは確かめたい事を確かめたのか、ましろに黒煙を返す。ましろの手に戻ってきた黒鉛はすぐに霧散し、同時にリコのハンカチについていた黒鉛の跡も消えた。
「触った程度の跡は消えるのね……。うん、もう大丈夫よ。ましろさんも特に暴れたりしないし、魔法界も納得してくれると思うわ。次はそれで普通に魔法が使えるか試してみましょうか」
リコが魔法を使うのに続いて、ましろも影を操ってリコの魔法のマネをする。ましろの分の魔法の杖は無いが、影がその代わりになっているのは前と変わっていない。
少しでもリコに近づこうと、影を練り上げてリコが持っている杖ソックリのモノを作り、リコのマネをして魔法を使う。学校で教師をしているリコには及ばないにせよ、少しだけモノが浮いたり、目の前の光景を絵に写したりしている。
そんな2人の光景を見ていると、唐突にあげはが周囲に目を配り始め、何かに警戒し始めた。
「どうしたの?」
「今誰かがいたような気がしたんだよね。気のせいかな……」
「ましろちゃんが心配だからって気にしすぎじゃないかな?様子を見に来たプリキュアの子かもしれないし」
基本的にプリキュア間での対立というのは無い。だがチーム間での繋がりは必ずしも強固であるとは限らない。
既に暴走したましろが起こした一連の騒動は『ソラシド市に怪獣現る!』などと言った見出しであちこちで話題になっていた。事の顛末を知らず、ましろが世界を滅ぼす悪のプリキュアと勘違いされて襲われる可能性が無いとは断言できない。
「ちょっと見てくる。話せばわかってくれるかもしれないし」
あげははみらいと別れると、視線を感じた方向へと向かう。もし視線の主が見つかれば説得できるかもしれないし、見つからなくても今の様子を見ていたなら、すぐに敵対することも無いだろう。そう思いながら視線の主を探した。
みらい達がいる場所より少し離れた場所の茂みの中、少し見通しが悪い樹上にて、その人物は耳元の無線機を操作して周波数を合わせる。
自分を追ってきたあげはをやり過ごし、無線機のスイッチを入れる。姿は見られていないが、自分の存在を悟られてしまった以上、あまりこの場に長居はできない。
「……AI、聞こえるかしら」
『はい。音声品質、通信速度ともに問題ありません。どうぞ』
聞きなれた電子音声が聞こえる。使い慣れない機械を使う時は不安になるが、問題なく動いてくれるなら話が先へ進む。
「ララの容態はどう?」
『現在は非常に安定しております。先ほど意識が回復し、もう間もなく活動可能なレベルに回復する見込みです』
「そう。無事でよかったわ」
本来であればここに来るまで10年かかると言われている。だが今回はかなり強引な方法を使い、その距離を一週間程にまで縮めた。その代償として2週間ほど寝込んでいた上に、乗ってきたロケットもかろうじてAIが動作するだけで宇宙へは上がれない。
星空界どころか宇宙にさえ帰れるか怪しい状況に追い込まれたが、どうしても地球に向かわなければならない事情があった。万全と言える体調ではない体に鞭を打ち、残されたわずかな時間で目的を果たさなければならない。
「続いて報告よ。音声記録は取ってるわよね?」
『はい、すべて録音済です』
「あの子、虹ヶ丘ましろって言ったかしら。やっと見つけたわ。何人か保護者も一緒。目撃情報にあった力もそのまま使えるみたい。見た感じ悪い人じゃないみたいだったけど、評議会を納得させる材料としては弱いでしょうね。残り猶予はどれぐらい?」
『はい、残り2週間ほどです。ララ様の回復、私の設備の復旧作業を考えると、残り1週間以内に必要な情報を集めることをお勧めします』
「説得や交渉の時間は無さそうね……。あの周りにいた人達がプリキュアだったとして、私もララも戦えないから、できるだけ戦闘は避けたいところね。……AI、地球人用の麻酔は無事かしら」
『はい。無事に転送されております。解凍すればすぐにでも使用可能です』
「分かったわ。後でララにもこの録音を聞かせて。あの子は私が連れてくわ。あの子の近くにいる誰かに化ければ簡単に近づけるでしょうし」
『かしこまりました。ユニ様もお体にはお気をつけて』
「ええ。それじゃ、また後でね」
ユニは無線のスイッチを切り、隠し持っていたパフュームを取り出す。数日前に初めてましろを見かけた時、隣にいた少女を思い返す。今知っている中で唯一ましろが笑顔を見せている少女。
(確か、ソラちゃん、って言ってたわよね)
自身に香水を振りかけて姿を変える。どうしても耳と尻尾は残ってしまうが、上から服や帽子を羽織れば隠せる。
記憶を頼りに声も似せて、軽く話す練習をしてみる。もしかしたら細かい口調の違いでバレるかもしれないが、ましろに警戒されずに近づければそれでいい。
後は機会が来るのを待つだけ。ましろが一人になる瞬間を狙って近づくのだ。