Re:ゼロからではない楽しいロールプレイング   作:村崎京

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おつむはそんなによろしくないのです

 

ガーフィールの説得に成功したスバルは、リューズさんとの拍子抜けするほどとんとん拍子に進んだ交渉を経て、村人たちをアーラム村に送る段取りを組んだ。送るといっても聖域から出られないエミリアを除いてスバルとオットーも同行するが。とにかくエミリアの試練に関しては時間が必要だし、このまま村人たちを聖域に幽閉し続けるのも無理があったので、とりあえず衝突は避けられそうで安心する。

パトラッシュとフルフー2頭を先頭に走る竜車の上で手綱をとるスバルは、オットーとの軽口に乗じながらガーフィールとも言葉を交わしていた。結局スバルの中でのガーフィール評はよく定まっていないままだ。乱暴な奴だが根っから悪いやつではないだろう...とかなり願望が入った推測が精一杯である。

 

「話はそれっまでだ。そろっそろ聖域の境界に差し掛かっちまうかんな。そこから先ァ俺様は抜けらんねェからよォ」

 

「...ちなみに参考までに聞くけど、無理やりに通り抜けようとするとお前ってどうなっちゃうの?」

 

「試したこたァねェからわかんねェが、お姫様のときのことを考えると意識が持ってかれちまうんじゃァねェか?まァ、んなこたァどうでもいいんだよォ」

 

エミリアの試練の話が逸れるのにこれ幸いと乗っかるスバルに、話をぶった切ったガーフィールはそのまま跳躍し竜車の荷台に飛び乗った。そして振り返る二人に対して指を突きつけ、

 

「条件としちゃァ、後ろの連中を村に戻してお前らは出戻り...あァ、そっちの兄ちゃんは別にいらねェんだけどよォ」

 

「馬鹿言っちゃいけませんよ、僕も戻りますからね。なにせ、いまだにメイザース辺境伯へのお目通りがまともに叶っておりませんので!」

 

「あれ?そうだっけ?まだ紹介してなかった?」

 

「そうですよ!一週間近くいたっていうのに、どのタイミングで行っても都合が悪いかあるいはお休み中か...ラムさんに散々追い返されましたからね!」

 

己の不運に深い憤りを覚えているオットーだったが、おそらくそれは意図的だろう。なにせ、「試練」の日から何かと理由をつけてロズワールと会わせてもらえないのは、スバルも同じだったからだ。表向きは傷の療養に専念しているとの話だったが、それだけでないことは明白だった。

それに、会えなかったといえば聖域内での要注意人物のもう一人...ロズワールに聞いて少しだけ情報を仕入れることができたセレスと呼ばれる人物。その謎に包まれた人物とも聖域に来てから約一週間、スバルはいまだに顔を会わせることができていなかった。本当にいるのかスバルの中ではその存在すら疑わしくなっている状況だが、試練のことやエミリアのことなどで手いっぱいだったため、積極的に探そうとしなかったのもある。とにかく、屋敷から戻ったら探してみるのもありか...

 

「考えごとしてっとこわるいけどなァ、とにかく戻ってくるってんなら同じ道使え。今度は襲わねェように気ィつけっから、最悪の場合は合言葉を忘れんな」

 

「合言葉?」

 

「この境界を越えるとき、ちゃんと合言葉を言えば襲撃者扱いにゃならねェんだぜ?合言葉は『バイラバイラはグリモールの下』ってなァ」

 

「え?なんだって?」

 

合言葉が意味不明すぎる慣用句表現だったため、顔をしかめるスバルだったが幸いオットーが慌ててメモしてくれているので、記憶の方は彼に任せることにした。

 

「とにかく、それを言えば通してくれるってことでいいんだな?」

 

「お前ら、試練の邪魔をしたい連中からしたら格好の的だからなァ。血の気の多いやつらもわりといるんだぜ?」

 

「...そういや、前にも言ってたな」

 

不用意に付け込む隙を与えるな、というガーフィールのありがたい忠告に心の中で礼を言う。

 

「わかった、了解だ。なんだかんだでいろいろと世話になったな...つっても、まだ半日ぐらいしたらすぐ再開すんだけど、ありがとよ」

 

「ババアの頼みだ、気にすんじゃァねェよ...」

 

そう言ったガーフィールは何か考えるような素振りを見せたが、それも一瞬のことで、荷台から再び跳躍し地面に戻ったガーフィールは、そのまま直立した。

 

「逃げるんじゃァねェぞ、スバル! 約束は死んでも守れ! それっが、俺様がてめェらをこっから逃がしてやる一個だけの条件だ!」

 

「ああ、安心しろい。最近の俺の、約束守るぞパワーはすげぇんだぜ」

 

お互いに拳を突き上げ、見送りの言葉に笑みで応じた二人。

そのまま竜車が森の影に消えるまで、ガーフィールは拳を掲げたままスバルたちを見送り続けていた。その目は竜車よりも更に奥の何かを見ているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖域から屋敷への道中は、特に大きな邪魔が入ることも無く順調に進んだ。途中休憩を2度ほどとったが、はやる気持ちを抑えられないのかすぐに切り上げ、8時間ほどでロズワール領に到着することが出来た。

 

「座りっぱなしで尻が痛ぇ...けど、よかった」

 

すっかり夜が更けた村のあちこちに、再会を喜ぶ声がいたるところで上がっている。中には涙を流している者もいるが、この村を襲った危難を思えば大げさではないだろう。

 

「ナツキさん、このまますぐとんぼ返りですか?」

 

周囲の喧騒から離れて見守っていたスバルに、小走りで駆け寄ってきたオットーがそう声をかける。

息を弾ませるオットーにスバルは「んにゃ」と首を振り、

 

「さすがに性急過ぎるし、小休止してからでいいだろ。屋敷に顔出して、フレデリカとペトラに事情も説明しなきゃならんしな。それに...」

 

「それに?」

 

「いや、こっちの話だ。オットーは何かあるのか?」

 

「ああ、はい。僕も行商人仲間と話を詰めておかないといけないので」

 

何やらお金の話をするオットーに、この後ロズワールがいくら吹っ掛けられるのか想像する。スバルは半分意趣返しもありながら好きにしていいと返すと、オットーは小躍りしながら行商人仲間のもとへ戻っていった。

とりあえず、村のみんなに関しては問題ないだろうと判断したスバルはロズワール邸に向かうことにする。村から15分ほど歩いた先にある、夜闇でどこか怪しい雰囲気を漂わせている屋敷の門前から眺めると、光りが灯っているのは玄関ホールと使用人室、それとおそらくロズワールの執務室だけだった。

こんな夜分まで事務仕事に追われているのかと物思いにふけりながら、ノッカーで扉をたたくが、

 

「返事がねえな」

 

てっきりフレデリカあたりが飛んでくると思っていたのだが、物音ひとつ聞こえず置いてけぼり状態である。ずっと待っているわけにもいかないので、いっそ堂々とドアを押し開きつかつかと侵入。

 

「とりあえず、上階に行くか...執務室ならフレデリカがいるだろ、使用人室にペトラであとどっかにベア子」

 

ベアトリスとの前回の別れ方を思い出して、苦虫を嚙み潰したような顔をつくりながらとりあえず屋敷内を徘徊する。何個かの部屋をノックしてドアを開けるも、当たりを引けずにペトラの私室まで到着してしまった。

驚かせようと勢いよくドアを開けるが、どうやら不在のようで、かわいらしい反応を期待していたものの肩透かし。

 

「灯りつけたまま出るってペトラらしくねえけどな...ここにいないとなると、フレデリカと一緒か?」

 

結晶灯がついたままの部屋に若干違和感を覚えるも、とりあえずペトラの居場所を考える。こんな時間だし一人でいることはないだろうと考えたスバルは、執務室にフレデリカと一緒だろうとあたりを付け、小走りに向かうことにした。

階段を二段飛ばしで駆け上がり、最上階のど真ん中...ロズワールの執務室に到着。なんとなく咳払いをしてからノックを打ち込むが、しかしやはり反応がない。

 

「...」

 

いくらなんでもおかしい、とさすがのスバルもそこで警戒を大きく引き上げた。

ペトラの部屋は明かりがつきっぱなしだったが整頓されていた。屋敷の中も一見するとおかしなところは何もない。二人の姿が見当たらないことだけがおかしいのだが、

 

とりあえず、湧き出る違和感を抑えて執務室の中の物音を確認するが何も聞こえてこない。意を決して戸を開けて中を覗くと、そこはもちろん無人の部屋だったが、

 

「これ、確か隠し通路だよな?...そうだ、覚えてる。あの時は...パックに氷漬けにされたんだ、と思うけど」

 

思い返すと全くいい思い出がない。そういえばあの後、確認することもしなかったこの隠し通路が開かれているということは、少なくとも避難の必要があったということだ。ということは、

 

「何かから、逃げるために?」

 

緊急避難だと考えれば、屋敷の中の違和感も頷ける。村人たちが気づいてなかったことから、魔女教ではないだろうし、もちろん魔獣でもないだろう。

となれば、とりあえずフレデリカたちと合流するかと考えたところで、スバルはあの少女のことを思い出した。

ベアトリスは、屋敷に残っているのではないか。フレデリカに促されたとしても、あの少女が素直に避難に応じているとは思えない。

 

「引っ張り出してやる....!」

 

この場所に危険が迫っているとわかっていて、そこに置き去りにするなどできるはずがないのだから。

そう決意を固めたスバルは、とにかく見つけだすために屋敷の扉を片っ端から開けはじめようと勢いよく執務室から出たところで、

 

「とと?」

 

何かに足がもつれて転んでしまった。

 

幸先悪いなあと思いながら立ち上がり、何につまずいたのかと振り向いた先にはピンク色の長い物体があって。

そして、それは執務室の扉から床を伝って...スバルの腹まで続いていた。

 

「...ぉぶ」

 

それが自分の臓器だとわかった瞬間、口からせりあがる血塊が喉を塞ぎ、膝から崩れ落ちる自分の体を止めることができるはずもなく、そのまま床に倒れこんだ。

何が起きたのかわからない。今スバルは確かに走り出したところで...

 

「言ったでしょう? 約束をしたでしょう。 ...あら、あなたは」

 

ふいに、声が聞こえた。

かすみ始めた視界で必死に状況を把握しようと見た先には、かつて嫌というほど見た黒装束女。そして、その女の視線の先には...スバルではなく、見知らぬ女性がもう一人。

 

「すまないね、間に合わなかったみたいだ。残念だが私は回復魔法を使えないんだよ」

 

「あなた、その子の知り合いかしら?依頼には含まれていないのだけれど...お相手してもらえる?丁度退屈してた頃なの」

 

「私も殺されたくはないからね...個人的な仇もあるし相手してあげるよ」

 

顔を上げられない。だが、意識が遠くなる中かろうじて最後に見えた女の背中に流れている髪は、どこかで見たことあるような金髪だった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

ハイ、こちらセレスです。一つ大きな勘違いをしていたことに気づきまして激萎え中でございます。

 

そうだよ、六日目に屋敷に行ってもフレデリカ姉さん殺されてんじゃん、エルザに。何で忘れてたのか自分の馬鹿さ加減にあきれて言葉もないが、過ぎたことに何言ってももう遅いのでとりあえずこの場をどうにか切り抜けよう。私は回復魔法使えないし、スバル君はもう意識失ってて助からないから死に戻りは確定だね。でも私だって死にたくないので、この場は全力で抗わさせて貰います。

 

「その髪...あなた、あの大きいメイドのお姉さんの関係者かしら?」

 

「妹だよ。久しぶりに会えると思ってたのに随分なことしてくれるじゃないか」

 

「その割にはあまり怒ってないようだけれど...まあいいわ。あなたの腸、見せてもらえる?」

 

そういいながら、慣れた手つきで刃物をいきなり投擲してくる蜘蛛女。それは簡単に私の体を貫く...

 

「あら?」

 

ことはなく、空中を切り裂きながら飛んでいたナイフは突然何かに踏まれたように床に落下した。

 

「これは、陰魔法かしら。重力操作ね?」

 

「ご明察。投擲物は当たらないよっと...ジワルドォ!!!」

 

とりあえず本気で熱線をぶっ放してみるが、

 

「やっぱ当たんないか!すばしっこいな!」

 

「あなたこそ、陰魔法と陽魔法を使うなんてずいぶん珍しいわね。でも動きと目線でどこに撃つかバレバレ」

 

「それはどうもご教授ありがとう」

 

いろいろ試し打ちしたい魔法もあるんだけど...ちょっとここ狭すぎるんだよな。いったん距離取るか...

 

「シャマク!」

 

スバル君御用達の魔法を放ち、とりあえずの目くらましをかましてから、くるりと背を向けて廊下を全力で疾走。とにかくこの狭い空間だと、どう考えても戦闘スタイル的にあの蜘蛛女の方が有利で、こちらには分が悪い。少しでも広いところに出て戦った方が良いのは明白。

 

「逃がすと思う?」

 

「だから投擲物は当たらないってぇー!わ、わ、」

 

エルザが投げてきたナイフは私ではなく、屋敷の天井に衝突。そして崩落する天井のがれきが凄まじい速さで私めがけて一直線に落ちてくる。それをなんとかバックステップし間一髪でよけるが、行先はふさがれてしまった。

 

「危なかったあ。もうちょっとでぺしゃんこだよ。重力強化してるのを逆手に取られるとは、存外頭も回る感じ?」

 

「逃げる獲物を追い詰めるのは得意なの」

 

不敵な笑みを浮かべ、そう言いながら距離をじりじり詰めてくるエルザを見ながら、どうしたもんかなと考える。思考を走らせているとちょうど右側には扉があって...

 

「ああ、ここに開いてたのか」

 

さすがスバル君、やっぱり君好かれてるよ。

 

「あら?」

 

「途中で終わらせてすまないね、続きをやりたいのはやまやまだが、どうせ終わる世界だ。戦っても意味がないし、また今度会えたら続きをやろう」

 

ドアを開き、急いで中に入って閉めると同時に視界に広がるのは予想通り...

 

「全く、はた迷惑な奴かしら」

 

不機嫌な顔そうな顔でベアトリスが座ったままこちらを見つめていた。

 

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