おはようございます、こちらセレスです。
起きてすぐ、寝ぼけ眼のままドアを開けたら目の前に
しょうがないじゃん。私、朝滅茶苦茶弱いんだよ!!
とはいえ、もうばっちりご対面しちゃってるわけだから、逃げも隠れもできずどうしようもない。とりあえず二人を中に招いてお茶をいれることになった。
しかし困ったな...私の予定ではこんなに早くスバル君と顔を合わせるつもりなかったんだけど、まさかお婆ちゃんと一緒に乗り込んでくるとは想定外。スバル君が今何回目の死に戻りかは正確にはわからないけど、とりあえずまだ序盤だということはわかる。なぜなら顔にまだ余裕が見て取れるから。ただ、何回目だろうと「セレス」という人物に対してどんな印象を持ってるのかはわかんないし、泣き言を言ってもしょうがない。一応まだミステリアスな謎多き女で通っていると願っておこう。
「それで、こんな朝っぱらから私に何の用かなお二人さん。私はとても気持ちよく寝ていたんだけれども、それに見合うくらいの話があるんだろうね?」
出来上がったお茶をテーブルに置きながらそう問いかけた。だいたい想像はついてる...と言いたいところだけど、正直『死に戻り』とかいうデメリットに目をつぶったらチートでしかない力を持ってるスバル君が、どこまで私のことを知っているのかこちらからは観測できない以上、何を聞かれても動揺しないようにしなければならない。何しろこちらはミステリアスな女をロールプレイ中の身。ミステリアスな女はどんなときも不敵に笑っていなければならないのだ。
「セレス...さんでいいんだよな?俺の名前はナツキスバル。色々あって聖域に滞在中なんだけど、誰かから俺のこと聞いてたり?」
「セレスでいいよ。さん付けはムズムズするんだ」
スバル君がかしこまるのはちょっとやな感じだし。
「うーん、珍しく外からの来訪者がいたのは知っていたよ。誰から聞いたかは...まあ秘密かな」
「秘密...それってもしかして、ガーフィールだったりする?」
おう、ズバッと聞いてくるねえ。さすがスバル君だ期待を裏切らない。しかしそれには答えずにニコッと笑いかけてからお婆ちゃんの方に向き直る。
「お婆ちゃんがここにわざわざ連れてきたってことは、ガーフィールのことを話しに来たってことなのかな?」
「そうじゃな。わしが一対一でスー坊に話すよりも、セレスを入れて話した方が建設的じゃろと思っての。なにやらスー坊はワシらのことを根掘り葉掘り聞きたいことがあるようじゃから」
「根掘り葉掘りってのは聞こえが悪いな!でも聞きたいこととか確認したいことが割とあるのは本当。どこまで答えてくれる感じ?」
「そうだね...出せる情報に制限があるのは私もお婆ちゃんも一緒だけど、一つ保証するのはリューズお婆ちゃんは噓は付けないようになってる。私はそうではないけどね」
それどころか嘘と謎に満ちた女ということになってるよ、スバルくん。
「そこは私もであってほしかったけど、嘘がつけないって...どういう原理?」
「そういう契約なんじゃよ。嘘はつかない契約じゃ」
「契約...また契約か。まあ嘘がつけないってのは了解。じゃあ、とりあえず一つ質問しても?」
「ああ。どうぞ、なんなりと」
「ゴホン。では...ガーフィールとセレス、それとフレデリカ。この三人って兄妹姉妹だよな?」
しょっぱなから核心に迫る質問をしながら、スバルは目の前の人物について思考を巡らせていた。
リューズさんからガーフィールについての情報を引き出そうと思っていたら、知らない女性の家に連れてこられ、しかも自分をセレスだと名乗るのだ。スバルはこの名前を前回のループでロズワールから、そしてフレデリカから要注意人物だと聞かされたばかりで、しかしついぞ自分から見つけることのできなかった人物である。そんなセレスと名乗る人物は、最近面識ができたばかりの二人...ガーフィールとフレデリカにとてもよく似ていた。
さて、当の本人はスバルからの直球な質問に対して数秒逡巡したかと思えば、にっこり微笑みながら口を開いた。
「ナツキスバル君だっけ、スバル君って呼んでいいかい?」
「え?あ、ああもちろん」
「スバル君が聖域に来てから一週間も経ってないと聞いてる。それに私と会ったのもこれが初対面だ。それにしてはなかなか勘が鋭すぎると思うんだが、お婆ちゃんバラしてないよね?」
「そんなことするかいな。というか儂も驚いとるわい。よくわかったなスー坊」
「まあガーフィールとフレデリカが姉弟だってのは結構当たりつけてたから、それを今日リューズさんに確認取ろうと思ってたんだけど...あまりに似た人が追加で現れたもんだから、つい勢いでって感じ。でもどうやらお二方の反応からして...」
「うん。正解だよ、ご名答。三姉弟の一番上の姉がフレデリカ姉さんで、一番下の弟がガーフィール。で、私が二番目の姉のセレスだ。そんなに似てるかな私たち」
「そりゃあもう、一瞬フレデリカがここにいるかと思ったぐらいだし」
それに、どことなくガーフィールに似たところも見て取れることも改めて分かる。
「そうかい。それはまた興味深い話だがひとまず置いておくとして、私たちの関係を見破ったスバル君は他に何が聞きたいのかな?」
そうだ、スバルとてただ単に三人の続柄を暴きたかったわけではない。しかし、三人が姉弟だと確定した今スバルには聞かなければならないことができたのだ。
「三人が姉弟ってことはフレデリカは元々聖域にいたってことでいいんだよな?」
スバルの問いかけにセレスとリューズは揃って頷き返す。
「俺がフレデリカに会ったのはロズワールの屋敷なんだけど、これは俺の知ってる情報だと矛盾してるんだよな」
「へえ、どこがおかしかった?」
「フレデリカがガーフィールの姉弟ってことは、あいつもハーフってことになる。ついでにセレスもそうだ。つまり三人とも例外なく聖域の外に出れないはずなんだよな」
ハーフの血に反応して逃さない聖域の結界だが、それを破って外の世界に出ていった例外がいる。その可能性は到底看過できるものではない。
それに今になって推測できることが一つある。それは前回のループの最後に見た金髪且つ長身の女性の正体だ。ほとんど確信を持って言えるが、あのときの後ろ姿は目の前で不敵に笑っているセレス=ティンゼルその人だったのだろう。なぜあの時屋敷にいたのかは謎だが、あのしゃべり方や身体的特徴を見るに間違いない。だとすると、聖域の結界条件に該当しない人物が二人も存在することになる。これはさすがに偶然では片付けられないことだ。
「何か結界に抜け道か裏技があるんだとしたらご教授願いたいんだけどな。そうすれば全員で一旦ここから外に出ることも可能だし」
「それはまた随分思い切ったことを言い出すねスバル君は。そういうのは嫌いじゃないけどエミリア様のことはいいのかい?まだ試練途中だろ?」
「確かに試練を受けて得られるもんはあるんだろうけど、まあ戦略的撤退ってやつだな。完全にアウェーな環境でやらなきゃいけない場面ってのもあるだろうけど、自分に有利な環境を作るのも賢い立ち回りだし。それに...」
「それに?」
「エミリアはいずれ必ず過去と向き合うよ。逃げ出したりする子じゃないって俺は信じてるから」
そう。エミリアは絶対にそんなことをする子ではないことをスバルは確信している。スバルが騎士として仕えたい尽くしたい期待したい、エミリアという人はそんな女の子なのだ。そんなことを恥ずかしげもなく言い切ったスバルを見てリューズは呆気にとられ、そしてもう一人は
「そりゃあまたスバル君はエミリア様に随分ぞっこんなんだね」
と、微笑んだ。
「スバル君の献身っぷりは十分伝わったけど、残念ながら結界に抜け道はないよ。姉さんの場合は例外だからね」
「まじかー、まあしゃーないか。そううまくはいかないよな。じゃあ次の質問だけど」
「儂が言うことじゃないかもしれんが、立ち直りが随分と早いんじゃな。いい気骨をしておる」
「自分で言うのもなんだけど、諦めの悪さと愛情深さしか武器がないんで、俺」
これくらいで折れていたら今頃鯨のお腹の中で息絶えていただろう。とりあえず気を取り直して別角度からの質問を試みることにする。
「色々手を回さずともエミリアが試練を乗り越えてくれるのが一番物語的にはよろしいんだけど、そこらへん試練チャレンジャーの先輩としてお助言ありませんかね?」
「助言ねえ、結局あの墓所の試練は個々人によってまるで違うからあんまりあてにならないと思うよ」
「ん、ちょっと待ってくれ。セレスも試練に挑戦したことあるのか?初耳なんだけど」
「セレスもって、スー坊の中では儂も受けたことになっとるんか。儂は間違っても試練を受けに行ったことなどないぞ」
「はい?」
意外な返答をもらい、スバルは思わず間抜けな声をあげてしまった。だが、今のはさすがに聞き捨てならない発言だったのだ。
「いやいやいやいやおかしいおかしい。ちょっと待って俺の脳が処理落ちしそうだから一旦待って」
「ちょっとだけだよ」
快い返答にありがたく頷き、スバルは必死に記憶を遡る。
スバルの記憶の中で、試練前夜のリューズはこう言っている。
――試練を受けた者はこれまでに皆無。今まで一度も挑戦者を見たことはない。
スバルの記憶の中で試練の直前のリューズはこう言っている。
――自分も試練を受けて、踏破はできなかったが無事だ。挑戦しても害はない、と
嘘をつけない者のはずの人の証言がまるっきり正反対になって食い違っている。どうやったらこんな摩訶不思議な状況を作り出せるのか。
「何かお悩みのようだけど、現時点で私たちが話せる情報はあらかた喋ったよ。ちなみに私にしては珍しく嘘もついていないしあとはスバル君次第だね」
「...わかった。じゃあ辛気臭い話はこれくらいにしといて、話題を変えよう」
「まだ何かあるのかい。そろそろ私は二度寝としゃれこみたいんだけど」
「まあまあ、そう言わないで。セレ姉に聞きたいんだけどさ」
「なんだいその呼び方は」
「ガーフィールの野郎の弱点とか嫌いなものとか、見ただけで卒倒するようなものとかない?」
「ええ...」
と、ずっと微笑んでいたセレスの顔を初めて崩すことに成功したのだった。