オレの名は綾小路清隆。
とある高校に入学するための試験に合格し、現在高校直通のバスに揺られている。
結局、あの後
赤帽子の男はどこかに消え、デッキは借りたままになっている。
あいつも合格していると良いんだが
そんな心配をしつつも初めての学園生活に内心心躍らせていると
「ねえ、席、譲ってもらえないかな?」
……え、ひょっとしてオレに言われた?
ハッとして目を向けるが声をかけられているのは少し前の優先席に座る男だった。
「そこ優先席だし、お婆さんに座ってもらう方がいいと思うの」
「おやおやプリティガール、優先席は優先席であって、法的な義務は存在しない」
「若者だから席を譲れと? ハハッ、実にナンセンス」
なにやら揉めているようだが……オレは余計なトラブルには首を突っ込まない事なかれ主義
オレの隣に座る女子も微動だにせずにいる。
ここは見て見ぬふりを……。
「すみませんっ、どなたか席を譲ってくれませんかっ!?」
埒が明かないと思ったのか女子は車両全体に呼びかけ始める。
しかしそんなに目立つような行為は逆効果、
下手に目立つような事はしない方が……。
「あ、じゃあ俺の席に座ってくれよ」
何……⁉
手を挙げたのは一番後ろの席に座っていた男。
というかこいつは……。
「あ、ありがとう! ……って君は……」
「え? 俺のこと知ってるの?」
「うん、入学試験でHEROデッキ使ってたよね?」
「お、そうそう! いや~俺って有名人?」
やはりあの時の、名前は確か。
「私は櫛田桔梗、よろしくね。あなたは確か……」
「俺は遊城十代! デュエルキングになる男さ!」
そうだ、遊城十代。
あれだけ目立っていれば有名にもなるか。
「デュエルキング……? アハハ、遊城くんって面白いね」
「なんだよ! 俺は本気だぜ⁉」
2人で雑談に盛り上がっている中、バスが目的地に到着する。
「あ、着いたみたい」
「おっしゃー! 俺のデュエルキングへの道が今始まるぜー!」
到着と同時に学園の中へ走り去ってしまう。
「あ、一緒に……ってもう行っちゃった」
女子と一緒に並んで行けたのに、遊城め勿体ないことを。
オレは一人寂しく歩いていくか、とバスを降りて歩き出すと。
「ちょっと、あなた」
「ん?」
先に降りていた女子から声をかけられる。
……まさか、オレと一緒に行こうと言ってくれるような女子が……!
「さっきから何なの? バスの中で私のことじっと見てきて」
……違った、というか何故か怒っているように見える。
「悪い、あんたもバスの席を譲らないんだなって」
「ええ、そうよ。私は譲る気なんてなかった。それがどうしたの?」
「いや、同じと思っただけだ。オレも席を譲るつもりはなかったからな」
「事なかれ主義としては、ああいうことにかかわって目立ちたくないからな」
「事なかれ主義? 私をあなたと一緒にしないで。私は席を譲ることに意味を感じなかったから譲らなかっただけよ」
「……それ、事なかれ主義よりひどいんじゃないか?」
「そうかしら。私は自分の信念を持って行動しているに過ぎないわ」
「ただ面倒ごとを嫌うだけの人種とは違う。そして、あの能天気にも席を譲った彼にも呆れている」
彼とは、遊城のことか。
「願わくばあなた達のような人とは関わらずに過ごしたいものね」
ちょっと意見を交わしたかっただけなのに
こう言い返されて良い気分はしない。
「……同感だな」
互いにため息をついて同じ方角へと歩き出した。
オレと遊城でどうしてこうも違うのだろうか……。
入学式、オレにとっては初めての行事が目白押しだ。
体育館と呼ばれる大きな会場に集まり、
順番に名前を呼ばれて、列に並ぶ。
そういえば帽子のあいつはいないかと周りを見渡してみると……。
あっ、いた。相変わらず赤い帽子をかぶっててなかなかに目立つな
少し離れているが同じクラスのようだ、後でデッキを返しに行こう。
遠くから観察していると帽子を外すように注意されている。
……帽子を外すの滅茶苦茶嫌がっているな。
数十分後
校長と呼ばれる人間の話は長い、というのは本当だったのか。
高度育成校、デュエルアカデミア。
将来、日本を背負うエリートを育てる国が主導して作られた学校。
進学率、就職率100%を誇っておりプロデュエリストやエリートを輩出、入学できれば将来は安泰……。
「Zzz……」
赤帽子のあいつのすぐ近く、
遊城は退屈さに耐えられなかったのか立ったまま眠っている。
あいつも同じクラスだったのか、騒がしい学園生活になりそうだ。
「以上が校長先生からの挨拶でした。続いて生徒会長から新入生への挨拶です」
「生徒会長の堀北学です。本年度、わが校に入学した皆さんに……」
壇上で生徒会長からの祝辞が始まる。
入学式に集まった他の新入生に目を向けた。
その中に生徒会長を睨む様に見つめる、オレにきつく当たられたあの少女を見つけた。
……同じクラスなのか。
前途を多難に感じつつ入学式を終えた。
1ーD
自分の名前が書かれているクラスに入る。
席順は指定されており、オレの席は一番後ろの左から2番目だ。
席に座り、一息つく。
初めての行事、初めての教室の匂い。
今日ここからオレの青春が始まる……。
「本当に嫌な偶然が続くわね」
……早速青春に陰が見えたかもしれない。
「隣の席だったか……」
「私もあなたとの再会にため息をつきたい気分よ」
相変わらずきっついな。
担任の先生が来るまでの少しの時間。
学校生活を満喫するために必要不可欠なもの、
それは友達作り。これができるかどうかはこの入学式の日からの数日に全てがかかっているのだ。
そうだ、わかっている。待っているだけじゃダメなのだと。
待ちの姿勢はただ孤立していくだけなのだと。
今のオレの流れはまずいのだと。
……でも、友達って何なんだろうな。
どこまでいったら友達なんだ?
一緒に飯を食うようになったら友達なのか?
……ええい仕方ない、ここは当たって砕けて……いや待て。
オレは手元にあるデッキを見る。
そうだ、これがあったじゃないか。
これをあいつに返してお礼を伝え、ついでに仲良くなる……完璧な手だ。
教室を見渡してあいつを探すと
「……あっ、あそこか」
奴を見つけた。結局帽子は外さなかったのか、目立っててすぐに見つかった。
オレは重い腰を持ち上げ席を立ち、あいつの待つ席へと向かう。
待っていろ、オレの恩人。今行くぞオレの青春。
あいつの背後に立ち意を決して声をかける。
「よ、ようこの間は……」
「よーっす! 何してんのー?」
……被った────。
「ン? あれ、おまえデュエル試験の時にいたやつじゃん。お前も同じクラスだったんだなー!」
試験で一瞬会っただけのオレを覚えていたのか。
……良いやつかもしれないな。
「俺、遊城十代! 未来のデュエルキングになる男! よろしくな!」
自然な流れで自己紹介を始めた、やはりこの男出来る。
「オレは綾小路清隆。こちらこそよろしく」
すかさず自己紹介に乗っかる。
いいぞ、上手く流れができている。
「おまえは?」
遊城が帽子の男に話しかける。
「……
小波代栖……。
また特徴的な名前だな。
「お、んじゃ小波! よろしくな!」
小波はコクリとうなずき遊城と握手する。
「オレも、よろしく頼む」
すかさずこちらからも握手を求める。
「ああ! よろしくな綾小路!」
がっしりと握手を返す遊城。
なんだ、友達を作るってこんなに簡単なことじゃないか……!
感動を噛みしめていると男子生徒から教室全体に声が掛かる。
「皆、ちょっと良いかな」
声の主は落ち着いた雰囲気を漂わせ優しく微笑みながら続けた。
「今から皆で自己紹介をして、一日も早く友達になれたらと思うんだ。先生もまだ来ないみたいだしどうかな?」
その言葉に大勢の女子が反応する。
「賛成!」
「いいんじゃないのー?」
「だよね。私たち名前も知らないし」
「ありがとう、じゃあまずは僕から」
「僕は平田洋介。気軽に洋介って呼んでほしい」
「趣味はスポーツ全般で、この学校ではサッカー部に入る予定だよ。みんなよろしく」
うーむ。お手本のような自己紹介だ。
こういう奴がクラスの中心になって、皆を引っ張っていくんだろうな
「平田くんは何のデッキ使ってるのー?」
女子から質問が飛んでくる、というか聞くことそれなのか
「うん。僕はライトロードを使っているよ」
「ライトロードだって!」
「すっごい! カッコいいな~!」
……よくわからないが女子からの黄色い歓声が凄まじい。
「じゃあ次は私だねっ!」
あいつは……バスの時に席で揉めてた……。
「櫛田桔梗っていいます! ここにいるみんなと仲良くなることが目標です」
「たくさん思い出を作りたいので、皆さんどんどん誘ってください! あっ、好きなカードはファーニマル! よろしくね!」
櫛田か、男女ともに人気出るんだろうな……誰とでも仲良くなれますオーラが出ている。
というか皆好きなカードとかちゃんとあるのか。
って、批評している場合じゃないな。
「はいはーい! 俺、遊城十代! 好きなものはデュエルとエビフライ! デッキはE・HERO! よろしく!」
遊城が自己紹介すると周りがざわめく。
「あの人、試験会場でクロノス教諭を倒したっていう……」
「あいつが……? ガセじゃなかったのか……」
どうやら遊城の活躍は生徒たちの中で周知の事になっている様だ。
「俺は池寛治! 好きなものは女の子で、嫌いなものはイケメンだ! 好きなカードは当然ブラマジガール! 彼女は随時募集中なんで、よろしく!」
「俺は山内春樹。小学校では卓球で全国に、中学では野球部のエースで四番でデュエルの助っ人やってた。どんなデッキでも使いこなしてたけど今はあえて弱いカードを使って修行中だ。よろしくぅ」
この自己紹介でクラス内での立ち位置が決まる。
ウケを狙うべきか?
ハイテンションで笑いを狙って……。
いや、ドン引きされるだろうな
そもそも趣味も特技もないし。
オレは何も持たない自由な鳥……。
「じゃあ次は……そこの君」
「……えっ、オレ?」
……まあいい、オレはすでに遊城と小波という友を得ている。
さっきと同じようにやれば問題ないハズだ……!
「えー……えっと、綾小路清隆です」
「えー……よろしくお願いします」
「あ、えー……得意なことは特にありませんが」
「えー……仲良くなれるように頑張ります。
……あっ、好きなカードはインスペクト・ボーダーです」
「えっ……」
「メタビ使いだ……」
「うわ、相手したくねー」
………………。
失敗した────。
ダメだ。相手が遊城達ではないことを失念していた。
心なしか好きなカードを言った時から周りの視線が痛い……。
「あはは……よろしくね、綾小路君。仲良くやっていこう」
平田が優しく声をかけてくれるが、
その優しさが今は辛い。
「ふっ」
背後から鼻で笑う声も聞こえる……。
「それじゃあ次は……」
突然、バンッと大きな音が響く。
「何が自己紹介だ、俺らはガキかよ! やりたい奴だけでやってろ」
いかにも不良という言葉が似合う男が平田達を睨みつけていた。
揉め事になるかと思いきや、教室に女性教師が入ってくる。
「席につけ」
教師が来たことにより空気はリセットされ、各々の席に戻る。
「Dクラスの担任となった茶柱佐枝だ」
「この学校にクラス替えはない。卒業まで3年間、私がお前たちの担当となる」
「まずは本校の資料を配ろう」
前列から順に『高度育成デュエルアカデミア要項』と書かれた冊子が配られる。
「本校には独自のルールが存在する」
「まず全寮制で基本的に在学中にアカデミアの敷地内から出ることと、外部との連絡を制限している」
「だが心配するな、学園にはあらゆる施設が揃っている。生活に必要なものは全て手に入る。当然、カードもな」
「買い物には、学生証端末に保有されているポイントを使う。このポイントであらゆるものを購入できる」
「このポイントは毎月一日に振り込まれる。1ポイントで1円の価値だ」
「お前たちには既に今月分の10万ポイントが振り込まれている」
先生の言葉にクラス中がどよめく。
「10万⁉」
「マジかよ……」
「この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値があるということだ」
「それと、デュエルを行う場合はこの学生証端末がデュエルディスクとなる。イカサマ等の不正防止の為というわけだ」
「端末に細工をしようとした場合、システムに検知されて処罰対象となるのでくれぐれもしないように」
「展開方法の詳しい説明は、冊子を読んで確認するように」
えっと……なになに。
端末の画面を上にした状態で腕に着け側面のスイッチを押すとアームバンドが展開されて固定、
カードプレートが展開して完了……。
試しに腕に着けてスイッチを押すと、ガシャガシャとパズルが解けるように端末が開いていき……。
「おぉ……」
気づけばオレの端末はデュエルディスクとなっていた。
感心しているとクラス中の視線がこちらに向いていることに気付く
あわてて解除方法のページを見つけ、もう一度スイッチを押す。
するとディスクはパタパタと収納され、学生証端末へと戻っていた。
「ふっ……」
また笑われた……。
「……どうやら問題ないようだな。では本日はこれで解散となる。明日は8:30迄にこの教室に集合すること、以上だ」
そう言って担任の先生は教室を去っていった。
入学初日ということもあり生徒たちは各々自由にしている。
教室に残って友人を作るもの、
既にできたグループで遊びに向かうもの、
さっさと教室から出ていくもの、
オレの隣人はとっくに教室を出てしまった。
オレも一度、寮に向かうかと席を立つが……
教室に残っている人間に話しかけている小波の姿を見つける。
凄いな、あいつ。
オレもあんな風に出来たら……。
……後学のために何を話しているのか聞いてみるか。
神経を集中させて小波達との会話を聞き取る。
「平田、早速だが俺と一戦やらないか?
お前の『ライトロード』がどう戦うのか興味がある」
「え? う、うん。僕で良ければ構わないけど……」
「ダメー。
平田君は私たちとこれから買い物行くの~!」グイッ
「あっ、ちょっと……! ご、ゴメンね、また今度……!」
「あっ……」
「櫛田桔梗……成る程そういう動きもあるのか……面白いな……」
「えっと……どういう意味か分からないけど、ありがとう……?
それじゃ私、他のクラスの人にも挨拶するから、じゃあね~」
「なっ……」
「お前が高円寺六助か……。高円寺グループの人間とやるのは始めてだ。お前と今すぐやり合いたい、そういう気分だ……!」
「おやおや、それは光栄だねレッドキャップ君。しかし、残念ながら私はこれからデートの約束があるのでね、失礼するよ」
「……」
前言撤回、奴はただのバトルジャンキーだ。
小波のターゲットがこちらに移る前にそそくさと教室を抜け出した
教室を出て途中にあるコンビニへ向かう。
水とカップ麺を購入して画面を見ると会計分を差し引かれた残高が表示されている。
「ほんとに金として使えるんだな……」
水を飲んで落ち着きを取り戻す。
「……またしても嫌な偶然ね」
コンビニには真っ先に教室を出た堀北の姿があった
「そう警戒するなよ……」
「まあ隣の席同士、今日からよろしく頼む。名前は?」
「拒否しても構わないかしら」
「……隣同士で名前も知らないのは、居心地悪いと思うけどな」
暫くの沈黙の後、大きくため息をついて口を開く。
「……堀北鈴音よ」