堀北との問答を終えて寮に向かう
初めて自分の部屋という物を与えられたオレは内心ウキウキとしていた
今まではどうしても誰かの監視の目があったからな……
部屋についたら何をしようかと考えながら自分の部屋に向かうと声をかけられる
「やあやあ、ようこそ新入生君。
学校はやっていけそうかにゃ?」
現れたのは眼鏡をかけた長髪の男性だった
その腕には茶色い毛並みの猫を抱えている
「はあ、まあそうですね」
「それはよかった」
糸目を更に細めて微笑む
「私はこの寮の男子フロアの管理をしている大徳寺。寮のことで何かあったら遠慮なく私に連絡してくれたまえ」
「はい、わかりました」
腕の中の猫は俺を一瞥したと思ったらまた眠ってしまう
「ん? ああ、この子はファラオ。私の可愛い家族だにゃ」
そういってファラオをなでる
これが猫……実物は初めて見るな
「それじゃ、良き学園ライフをにゃ~」
手を振って立ち去っていく
……いいな、あれ。後でオレにも触らせてくれないだろうか
部屋に向かうためのエレベーターを待っていると背後から声が掛かる
「おーい! 綾小路ー!」
こっちへ走りながら遊城が向かって来ていた
「遊城か、どうした?」
「な、今日の夜ヒマか? 学校の近くにでっかいデュエルアリーナがあったんだよ! 小波も呼んで行ってみようぜ!」
入学初日でもう学園の設備を見回っていたのか……。
「構わないが……使うのに許可とか取ってあるのか?」
「大丈夫だって! 俺たちもうここの生徒なんだぜ!」
いや、大丈夫ではないだろう……。
「というか、今からじゃダメなのか?」
「あー、今はダメだ。上級生が占拠しちまってる」
それで人のいない夜に、ってことか。
どうするか考えているとエレベーターが降りてきて扉が開き
内から生徒たちが出ていきオレと遊城が中に入る
まあいいか、オレもアリーナの設備やらに興味がある。
「わかった。今日の夜に行ってみよう」
「お、そうこなっくちゃな!」
遊城が盛り上がっているとエレベーターが男子フロアの一つ下の階で止まる
扉が開くと一人の女子生徒が立っていた
「あっ、遊城くん、綾小路くん」
こいつは確か同じクラスの……。
「えっと、櫛田……」
「うん! そうだよ! 名前覚えてくれてて嬉しいな!」
あれだけ陽のオーラを纏っていれば自然と覚えてしまうものだ。
櫛田はエレベーターに乗り込み話しかけてくる。
「2人でなんの話してたのかな?」
「学校の近くにアリーナがあったらしい」
「そんで、今日の夜に行ってみようって話してたんだ、他の奴には秘密だぜ?」
人指し指を口の前に置いてシー、と伝える遊城
「ふーん、秘密……そっかあ」
何かを考えるそぶりを見せ櫛田は口を開く。
「ね、私も一緒に行っても良いかな?」
「んえ? 俺は構わないけど」
ちらりとこちらを見る遊城。
「……ダメ、かな?」
櫛田もウルウルとした瞳でこちらを見る。
「……オレも構わない」
「やったあ! ありがとう、2人とも!」
テンションの高い櫛田と待ち合わせの約束をして先に男子フロアで降りる
「お、部屋俺の隣じゃん。隣同士、これからよろしくな!」
遊城とオレの部屋は隣同士、部屋割りでの隣人には恵まれたようだ
オレは時間になるまで部屋で大人しく待つことにした
そして夜
部屋のインターホンが鳴り
ドアを開けると今か今かと遊城が待ち構えていた。
「よっ! 準備できてる?」
「ああ、問題ない」
「よし、じゃあ後は小波に声かけるか」
まだ声もかけていなかったのか……。
小波の部屋は男子フロアの一番端の場所にあり、オレ達の部屋とは少し距離があった。
「いきなり誘って大丈夫なのか?」
「へーき、へーき。おーい小波ー」
インターホンを鳴らすが出てこない
まだ寝るには早い時間だと思うが……。
「あれ、鍵開いてるな。入るぞー」
部屋に入ると小波は備え付けのベッドでスヤスヤと眠っていた
「おーい、小波、起きろって!」
遊城が揺り起こすとゆっくりと起き上がる。
「……もう朝か……?」
「違う、遊城が学校の近くにアリーナを見つけたからそこに行こうって話だ」
「そうそう! 行ってみようぜ!」
寝ぼけながらもわかったと了承する小波
無許可で部屋に入られたことは気にしないのが普通なのか……?
エレベーターで一階に降りると約束通り櫛田が出入口で待機していた。
「もー、遅いよー! 私との約束忘れたのかと思ったよ……ってあれ、小波くんも一緒?」
「悪い悪い、小波が中々起きなくって」
「え? あ、ホントだ。小波くん寝ぐせついてる」
クスクスと笑いながら指先で寝ぐせをつつく櫛田。
「これは流行りの自然ヘアー」
「アハハ、そーなんだ。なかなかオシャレだね」
「じゃあ早速行こうぜ! 今ならきっと誰もいねえだろうし!」
遊城を先頭にオレ達は夜の世界へ飛び出した。
……静かだ。
明かりは所々に設置された街灯のみ
同じ場所を通っているはずなのに昼間と違い靴音がはっきりと聞こえるほど響いている
ホワイトルームでの様な窮屈な音の反射は存在せず、
空は一面の暗闇が広がっていて、今にも吸い込まれそうだ。
今までいた世界とは真逆の世界
オレは今、自由でいるんだなと実感する……。
「ね、聞いてる? 綾小路くん?」
いつの間にかこちらに密着して上目遣いで話しかけてくる櫛田が視界に飛び込んでくる。
というか顔が近い……。
「……すまない、何の話だったか」
「もー。綾小路くんのことだよ。中学はどこ行ってたのとか聞いてたのに全然答えてくれないんだもん……」
気づけば遊城と小波は2人並んで話し込んでいて、
オレと櫛田が横に並んで歩いていた。
「悪い、ぼうっとしていた」
櫛田はクスリと笑う
「いいよ、もう夜だし眠くなっちゃうもんね」
相変わらず笑顔が絶えないな、流石は陽の人間。
「でもなんだかドキドキするね、夜中に友達と一緒に外を歩くってちょっとイケナイことしてる気分……」
「ああ……」
「……」
沈黙。
まずい、なにか話題を振らないと。
「あー、櫛田は中学の時はどんな……」
「お、着いた着いた。ここだぜ」
こちらの質問とほぼ同時に遊城が声をかける。
街灯に照らされているアリーナは一種の運動場のように広く見える
「わあ! すっごい大きいね!」
「だろ? 中に入ってみようぜ!」
遊城が中に入ると隣にいた櫛田もそれに続いて入っていく。
……別に少し残念とかは思っていないが。
「俺達も行こう、綾小路」
小波がオレの肩に手を置いた。
……本当に残念とか思ってないからな。
ゲートをくぐり中に入ると照明がフィールドを照らしている
周辺には大掛かりな装置が配備されていてソリッドビジョンシステムも搭載されているようだ
他に生徒は見当たらず、オレ達だけがこの空間に存在していた。
「すっげー! 貸し切りだぜ俺たち!
やっぱこの時間まで待ってて良かったー!」
はしゃぐ遊城達
「じゃあ早速デュエルすっか!
4人だからタッグデュエルなんてのも面白そうだよな!」
遊城がいそいそと準備する中、
「あ、ごめんね? 私は観戦だけにしておくね」
櫛田が申し訳なさそうに手を合わせて謝る。
「え? そっか、じゃあ3人で順番にやっていくか」
ちょっと残念そうにしているがディスクディスクを構える遊城
それに合わせて小波もディスクを構える。
初回はこの2人か、どんな勝負になるか気になるな……。
2人がフィールドに上がりデュエルが始まろうとするその時
「よう、なにやってんだお前ら」
背後から声が掛かる。
「あれ、誰だお前」
オレたちに声をかけてきたのは赤紫の長い髪が特徴の男子生徒だった
「Cクラスの龍園くんだよ。
私たちみたいにアリーナを利用しに来たのかな?」
もう他のクラスの生徒と知り合いなのか、本当に全生徒と友人になりそうだな。
「へー、龍園っていうのか。な、お前も俺らとデュエルしねえか?」
他クラスの人間にも物怖じしない遊城
「お前は……入学試験でクロノスを倒したって奴か……」
どうやら遊城の存在は他クラスまで知れ渡っているようだ
「……いいぜ、相手になってやる」
快諾した龍園は口角を吊り上げながら答える
「ただし、アンティルールでだ」
「なんだと?」
アンティルール?
初めて聞くな……。
「櫛田、アンティルールってなんだ?」
「えっと、お互いが自分の一番価値の高いカードを賭けて勝った方が相手のカードを貰える……ってルールだったかな?」
そんなルールがあるのか……恐ろしいゲームだな
「校則でも別に禁止されてねえからな、それとも怖気づいたか?」
余程自身があるのか、挑発をする龍園
「……いいぜ、乗ってやるよ」
闘志に火がついたのか勝負に乗る遊城
「遊城くん、大丈夫なの?」
「まあ見てなって」
2人がディスクを構え、ソリッドビジョンが起動する
「「デュエル!」」
遊城十代 LP 4000
VS
龍園翔 LP 4000
「先行は俺だ! 俺のターン!」
先行は遊城から。
「E・HERO スパークマンを召喚!」
E・HERO スパークマン ATK 1600
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
「……なんだ、それだけか? 俺のターン、ドロー!」
「手札からスネークアイ・エクセルを召喚!」
スネークアイ・エクセル ATK 800
龍園が召喚したのは竜の形を模した黒い骨に
青い炎を纏ったモンスター
その中心には妖しく紅く光る瞳が煌めいている
「スネークアイ・エクセルの効果発動! デッキから炎属性・レベル1モンスターを加える!」
「スネークアイ・ワイトバーチを手札に、そして加えたワイトバーチの効果! 手札から特殊召喚!」
スネークアイ・ワイトバーチ DEF 2100
更に現れたのは獣の骨に紫の炎のモンスター、エクセルと同じ紅い瞳が中心にくっ付いている。
現状、龍園の場には低攻撃力レベル1のモンスターが並んでいるだけだが
入学試験から今日までの間、オレはデュエルモンスターズについてある程度調べて学習した。
こういう時は大体デカいモンスターが出てくる前振りなのだと。
「スネークアイ・エクセルの効果! エクセルとワイトバーチを墓地へ送り、デッキからスネークアイを出現させる!」
2体のスネークアイが燃え盛り、巨大な炎となる。
「燃やし尽くせ、
そしてスネークアイの炎の中から紅い瞳が開かれ
青い炎を纏ったドラゴンがフィールドに姿を現す。
蛇眼の炎龍 ATK 3000
大きな舞台だからか、ソリッドビジョンの気合の入り方も全然違うな……。
「うおぉ!! かっけぇ!!」
「遊城くん! 関心してる場合じゃないよ!」
「バトルだ! 蛇眼の炎龍でスパークマンを攻撃!」
龍園が高らかに宣言する
「蛇剣のフランベルジュ・デストラクション!!」
蛇眼の炎龍 ATK 3000
VS
E・HERO スパークマン ATK 1600
蛇眼の炎龍の炎が更に激しさを増し、青い炎のブレスを雷のヒーローに放つ
その炎に飲み込まれたスパークマンが破壊され
遊城もその炎の余波を受ける
「ぐあああぁ!!」
遊城十代 LP 4000→2600
こちらにも熱量が伝ってくると錯覚するほどの凄まじい攻撃だ。
「フランベルジュ」とは刀剣類の内、炎を模したような刃を持つ剣の形式の名、
切られた傷は癒えにくく荒れた傷を残すという凶悪な武器と言われている
しかしこの程度では遊城の闘志は変わらない
「なんの! この瞬間リバースカードオープン! 《ヒーローシグナル》!」
残火を振り払うように伏せカードを発動する遊城
「俺のモンスターが破壊された時、新たなヒーローを呼び起こす!」
「策を弄していたか、ただの雑魚じゃ面白くねえ……もっと足掻いてみろよ!」
龍園は相変わらず遊城を挑発し続ける
落ち着け遊城、ここで逆上すると勝てるものも勝てなくなるぞ。
「楽しいぜ……! この学園にはお前みたいに強いやつが沢山いるってことだろ? 滅茶苦茶ワクワクするじゃないか!」
……心配無用だったか。
「遊城くんー! 頑張ってー!」
「おう! ヒーローシグナルの効果により、俺はこのモンスターを呼び出す! 来い、E・HERO リキッドマン!」
E・HERO リキッドマン DEF 1300
「壁を出したか、だが……フランベルジュ・ドラゴンの効果発動!」
フランベルジュの額の紅い瞳が光を放つ
その光を浴びたリキッドマンの体は徐々に石化していき、動かなくなってしまった。
「リキッドマンが、石に変えられた……!?」
「こいつは1ターンに1回自分か相手の場か墓地のモンスターを永続魔法として封印する事ができる。せっかく出したのに残念だったなあ?」
相手のモンスターを永続魔法として無力化する……
そんなものがあるのか
面白いな……。
「ククッ、俺はこれでターンエンドだ」
遊城の場には石化しているリキッドマンのみ、
対して龍園の場には攻撃力3000のフランベルジュ・ドラゴン
この状況……どう切り抜ける、遊城
「いくぜ、俺のターン!」
「ドローフェイズ開始時、フランベルジュの効果発動!」
「なに!?」
「永続魔法として置かれているモンスターを、俺の場に特殊召喚する!」
フランベルジュの咆哮とともに石化したリキッドマンがカタカタと動き出し、龍園の場へと飛び出した
E・HERO リキッドマン DEF 1300
相手のターン中に効果を発動するモンスター……
相手を無力化させ、その後自分のしもべとして利用する
高い攻撃力も相まってかなり厄介な存在だな。
「どうした? テメエの実力はこんなもんか?
この分じゃあクロノスを倒したってのもマグレだったみてえだな」
執拗に挑発を続ける龍園
激昂させてのプレイングミスなど期待できないハズなのに
ここまで続けるということは何か別の目的が……?
「諦めろよ、万に一つも勝ち目はねえよ」
「……それはどうかな?」
遊城は不敵な笑みを浮かべ答える
「何……?」
「俺のターン! ……ドローッ!!!」
遊城はドローしたカードを見て目を大きく見開く。
「……来たぜっ! 手札からバーストレディを召喚!」
E・HERO バーストレディ ATK 1200
「はっ、そんな雑魚に何ができる」
「教えてやるぜ! 俺とヒーローの絆は断ち切れないって事を! 魔法カード、《バーストリターン》発動!」
「バーストリターン……だと?」
「こいつは俺の場にバーストレディが存在するとき、バーストレディ以外のヒーローを全て手札に戻す!」
「何だと……!?」
「戻ってこい! リキッドマン!」
石化されたリキッドマンの体にひびが入り中から元のリキッドマンが解放され、遊城の手札へ戻っていく
「これで準備は整ったぜ! 魔法カード、《融合》を発動!」
「手札のリキッドマンとフェザーマンを融合!」
リキッドマンとフェザーマンが飛び出し、渦となって交わっていく
「お前が炎の龍なら、こっちは氷のヒーローだ! 来い! E・HERO アブソルートZero!」
E・HERO アブソルートZero ATK 2500
現れたのは新たなるヒーローモンスター
白銀のマントと氷の力が黒いフランベルジュと対照的に煌めいている。
「更に! 融合素材となったリキッドマンの効果により、デッキから2枚ドローし、1枚捨てる!
そして魔法カード、《ミラクルフュージョン》発動! 墓地のリキッドマンとスパークマンを除外し融合!
現れろ! E・HERO サンライザー!」
E・HERO サンライザー ATK 2500
またも新しいヒーロー、赤いアーマーが太陽の輝きを放つ
「サンライザーの効果! デッキから2枚目のミラクルフュージョンを手札に加え、そのまま発動! 墓地のフェザーマンと場のバーストレディで融合召喚!
マイフェイバリットカード! E・HERO フレイム・ウィングマン!」
E・HERO フレイム・ウィングマン ATK 2100
三度の融合、最後に現れたのは入学試験の時に見たあのヒーロー
遊城の場に大型の融合ヒーローが3体並んだ、
まさに圧巻という奴だろう。
「サンライザーの効果で俺の場のヒーロー全てがパワーアップするぜ!」
E・HERO アブソルートZero ATK 2500→3100
E・HERO サンライザー ATK 2500→3100
E・HERO フレイム・ウィングマン ATK 2100→2700
「行くぜ! バトルだ! アブソルートZeroでフランベルジュ・ドラゴンを攻撃!」
これらヒーロー達の攻撃が通れば龍園のライフが尽きて遊城の勝利……のハズだったが、
アブソルートZeroが攻撃を繰り出す直前、ガクンと装置の切れる音が聞こえ、ソリッドビジョンが消える
「え? あれ? どうしたんだ?」
遊城が慌てているとアリーナからアナウンスが鳴り響く
『午後10時になりました。節電のため、ソリッドビジョンを強制終了します。ご利用ありがとうございました』
「……どうやら時間切れのようだな」
龍園がディスクを戻してステージから降りていく
「あ、おい! こんな所で終わりにするのかよ!」
「お前の実力は大体わかった。もうここに用はねえよ」
「何だよそれー!」
「遊城、今日はここまでにしておこう。時間も時間だ」
小波が暴れる遊城を取り押さえて落ち着かせる
「龍園! 次は最後までやるかんな!」
遊城の叫びに龍園は目線を少し向けて、
「気が向いたらな」
とだけ言い残し、アリーナを去っていった
「遊城くん、惜しかったね。時間切れにならなかったら勝ってたのに……」
櫛田が残念がっているが、遊城はそうは思っていないようだ
「いや、多分あいつ本気じゃなかったぜ」
「え? そうなの?」
「何となく、そうだと思う」
それでも勝ったのは俺だけどな! と豪語する遊城
結局この日はこのまま寮に戻り解散となった。
……結局、龍園の乱入でデュエルできなかったな
翌日、オレは初めての授業というものを体験した。
このレベルの内容なら問題ない、
入学試験同様に適当に手を抜いてこなしていくか……
「Zzz……」
……。
オレから少し離れた席の遊城が机に突っ伏して眠っている……
昨日の興奮をそのまま引きずって眠れなかったとか大方そんな話だろう
しかし、あそこまで堂々と眠っているのに茶柱先生はスルーして授業を続けている
キーンコーンカーンコーン
「今日はここまでだ、各自、復習を忘れないように」
結局特に何のお咎めもないまま授業を終えてしまった。
授業の合間の休み時間、生徒たちは思い思いに時間を過ごす。
「……随分と甘い学校なのね」
オレの隣人、堀北が呟く。
「授業中に居眠りや私語、スマホでこっそりゲームをしても誰も注意もしない。本当にこれが進学校?」
もっともな疑問だろう、オレも同じ思いだ。
「生徒の自主性に任せているんじゃないのか?」
「そうかしら……」
放課後、オレたちは食堂で夕食を取っていた
「うおー! エビフライ定食! いただきまーす!」
「「いただきます」」
遊城はエビフライ定食大盛り
小波はかつ丼
オレはカレーライスを注文していた
知識としてしか知らなかった食堂という物にこうして友人と共にテーブルを囲んでいる
このなんてことのない平穏を飯と共に噛みしめる。
「あれ。そのパンどうしたんだ?」
「そこに売ってた」
小波の指さす先にはドローパンと書かれている売り場があった
「ドローパン……中身が食べるまで分からないパンって事か! 面白そうだな! 俺も一個買おうっと!」
流石はデュエルアカデミア、そんなものまで売ってあるとは
「中身はなんだったんだ?」
「プリンだった」
プリン……! 食後のデザートとしては大当たりだろう
「ただいまー。さて、中身は何かなっと」
遊城がパンにかぶりつく
「おっ、カスタードだ。やりぃ!」
遊城もデザート系列を引き当てたようだ
……オレも気になってきたな
「オレも買ってくるか」
「おう、良いの引けると良いな!」
売り場に向かいポイントを支払って購入する
1個200ポイントか、まあそんなものか
パンはビニールに包まれていて外からでは何が入っているのかわからない
席に戻り、ビニールを開く
匂いを嗅いでみるが普通のパンの匂いだ、徹底的に中身の隠ぺいにこだわっている
いざ、一口かぶりつく。
「どうだ? 中身は何だったんだ?」
この味、この匂い……間違いない、これは……!
「カレーだ……」
「……そっか、カレーか……」
……いや、悪くはないんだが、
しかし、カレーライス食べた後にカレーパンは……。
「いやー、食った食った」
「味も一級品だったな」
確かに料理は美味かった。
今まで栄養が取れればいいというメニューばかりだったから正直感動した。
次は何を頼んでみようか、楽しみだ。
「この後はどうする?」
「俺はショップでカードを見たい」
小波が提案する。
「お! 良いね、行ってみようぜ。綾小路もそれでいいか?」
「ああ、かまわない」
おっと、そういえば結局返していなかったものがあったな。
「そういえば小波、入試の時にお前から借りたままだったこのデッキを返す。助かった」
デッキを手に取り渡そうとするが、小波に静止される。
「それはもうお前の物だ。それの他にデッキがないのならそれを使ってくれ」
「いや、そういうわけには……」
「ん? それ小波のデッキだったのか?」
やり取りに気付いた遊城がこちらに聞いてくる
「ああ、実は……」
オレは遊城に入学試験での出来事を話した。
「すっげー! じゃあデュエル初心者でアカデミアに合格したのかよ!」
食堂を出てショップに向かう道中、驚愕した遊城がオレに尋ねる
「でもそれなら何でデュエルアカデミアに入学したんだ? 普通の高校にも行けたんじゃねえの?」
「家庭の事情という奴だ」
当然の反応だろう。ここは適当にごまかしておく。
「フーン。色々あるんだな」
あっさり受け入れられてしまった。こちらとしては助かるが、世間ではこんなものなのか?
「お、ここだな」
話している間にショップに辿り着いていた
様々なカードパックの他にショーケースにシングルのカード、
それ以外にもスリーブやデッキケース
果てにはモンスターのフィギュアまで売られている
店内は結構な広さがあり、モニターの広告や生徒たちの喧騒で賑わっていてみんな買い物を楽しんでいるようだ。
「ここでカードを買ってデッキを強化していくか!」
迷いなく店内に入ってパックを物色する遊城、オレと小波も続いて入店する
遊城に習ってオレも何かパックを買ってみようと思ったが
そもそもどのパックに何が入っているのか知らないので何を選べばいいのかが分からない。
うーむ、どれを買うか迷う……
とりあえずここは己の運に身を任せて適当に……。
「きゃっ」
「おっと」
パックを手に取ろうとすると他の女子生徒とぶつかってしまう。
「ごめんね、大丈夫?」
「いや、こっちも不注意だった」
見た感じ同じ1年生の生徒か、
同じクラスでは見たことがないが……。
「一之瀬さーん! 早く行こうよ!」
「あ、はーい! それじゃ、バイバイ!」
一之瀬と呼ばれた生徒はそのまま友達と一緒に行ってしまう。
「ふー、大漁、大漁。……ってどうした綾小路?」
大きな袋を抱えた遊城が戻ってくる
ってそれ全部カードパックなのか……?
「そんなに買ってポイントは大丈夫なのか?」
「大丈夫だって! 毎月10万ポイント貰えるらしいし!」
……毎月10万か、いくら国が主導になってできた学校とはいえ相当な出費になると思うんだがな
「それに、今日は綾小路の初ショップ記念日だろ? 豪勢に楽しもうぜ!」
遊城……!
「あれ? 小波はどこ行った?」
そういえばいつの間にか消えていたな
店内を見渡すとゲームコーナーで遊んでいる姿を発見する
あれは……UFOキャッチャーという奴か
確か、アームを操作して景品をつかみ取り出し口まで持ってくるゲームだったか
小波は既に2つ景品を手にしており、今3つ目の景品を手にした所だった
「こっちも大漁だ」
「よっしゃ、じゃあ俺の部屋でパック開封すっか!」
遊城の部屋に向かい、パック開封の儀を行う
「カードパックは上の部分をこうやってハサミで切るんだ。中のカードを切らないように注意しながらな」
ハサミでパックを切り、カードを取り出す。
「おお……」
初めて見るカードばかりだ。
「それじゃ、じゃんじゃん開封していこうぜ」
こうしてオレ達は夜遅くまでカードを開封していった。
そのうち、オレのデッキに合いそうなカードをいくつか貰ったりなどして過ごしていく
1ヶ月後、この散財を大きく後悔することになる事も知らないまま……。