「話とは何でしょうか、クロノス教諭」
扉を開け茶柱が部屋に入る
部屋には椅子に座ったクロノスが佇む。
「セニョリータ茶柱、アナタにお願いがあるノーネ」
「お願い、ですか」
クロノスは茶柱に話す
「これは必要なことです、わかってくれますノーネ?」
「……わかりました。実施しましょう」
「ありがとうございまスーノ。セニョリータ茶柱」
(ククク、これでドロップアウトボーイも退学確定ナノーネ)
一時限目の現在、オレ達Dクラスは室内プールにて自由時間を楽しんでいた。
いや、楽しんでいるのは半分、そうでないのが半分といったところか
ただただ、授業時間だけが過ぎていく
こうなった理由は朝のホームルームまで遡る。
「本当に愚かだな、お前たちは」
五月、Dクラスの生徒達は受け取るはずの10万ポイントが振り込まれていないことについて茶柱先生に質問をしていた。
その中でオレ達にこの学校の本当のルールを説明される
Sシステムについて、クラスポイントについて、オレ達が不良品だということについて、
そして、次の期末テストにて赤点の者は退学措置となるということも……。
「呑気なものね」
プールサイドでクラスの様子を見ていたオレの隣に水着の堀北が座る
「0ポイントの不良品と言われて、落ち込んだりしないのかしら」
「目の前の現実から目を背けていたいんじゃないか?」
「愚かね……」
茶柱先生みたいなことを言う堀北
自分が不良品の寄せ集めの一人と言われた事を余程気にしているようだ。
「……貴方、なにかスポーツとかトレーニングでもしてた?」
こちらをじっと見てつぶやく
「いや? 自慢じゃないが今の今まで帰宅部人生だ」
「……そう、デュエリストは筋肉をつけたがる人が多いから貴方もそうなのかと」
何故カードゲームで筋肉が必要になるんだ?
「おーい、綾小路ー!」
プールから池たちと遊んでいた遊城が上がってくる
「なーに話してんだ?」
「堀北が筋肉フェチだって話だ」
即座に堀北から手刀が飛んでくる。
「痛い……」
「馬鹿なことを言った罰よ」
こいつ……
「何の話かはよくわからないけど、せっかくのプールなんだから楽しまないと損だぜ」
「遊城君あなた、状況がわかってるの? とてもそんな気分にはなれないわ」
「あー、まあ0ポイントってのはショックだけどさ。今更クヨクヨしたってしょうがないって」
「楽観的で生きやすそうね、羨ましいわ」
堀北の物言いは置いておくとして、月初めのポイントをあてにしていた朝には絶望していたが今現在はケロッとしている
楽観的というか前向きなのは遊城のいいところだ。
「あ、もしかして泳げないとか?」
「別に得意でも不得意でもないわ」
目線を合わせず冷たく返す
「私は苦手だったけど、頑張って練習したら水泳が上手になったよっ!」
遊城と堀北が話しているところにプールから出てきた櫛田が入ってくる。
「遊城くんは泳ぐの得意?」
「俺は運動は大体得意だぜ。まっ、一番得意なのはデュエルだけどな!」
「……そう、よかったわね」
相変わらずの堀北に困ったように笑顔を向ける櫛田
いや、心なしかいつもより少しだけ不機嫌なようにも見える。
Dクラスに配属されたことがそんなに納得いかないのか?
「2人ともー! 戻って続きしようよー!」
「あ、はーい! じゃあね堀北さん、綾小路くん」
櫛田の友人グループが声を掛け遊城と櫛田がプールに戻っていく。
助かった、正直池たちの「俺たちの櫛田ちゃんを返せ」オーラが凄まじかった所だ。
「……ねえ、綾小路くん」
「なんだ堀北」
「貴方のもう一人の友人……赤帽子の彼はどうしたのかしら。姿が見えないようだけれど」
なんと。堀北が他人のことを気にするとは
明日の天気は雨だな
「もう一人って……小波のことか?」
「……ええ、そうよ」
背後の観覧席を指さして教える
「あそこだ」
観覧席にはプール授業に参加せず見学している生徒が何人か座っていてそこに小波の姿があった
プールだと帽子を外さなきゃいけないからって見学するとは、よっぽど帽子を外したくないようだ
「なにか用があるのか?」
「……別に、見当たらないと思っただけよ」
オレと同じように適当にぼうっとしているだけかと思ったが
意外と視野が広いな。
観覧席には小波の他には長谷部や佐倉といったクラスで目立たない生徒のほかに、
クラスのヒーロー平田の彼女にいち早く収まったギャルの軽井沢もいた。
前者2人は池たちが妙なランキングにドン引きして見学に回ったのだろうが
軽井沢が参加していないのは意外だな、平田と一緒にはしゃいでいそうなものだが。
プールの授業の終わり頃、平田が全員に声をかける。
「皆、少し真剣に聞いてほしい」
突然の声掛けだが、全員何となく内容は察している様だ。
「知っての通り、今月の僕たちのクラスポイントは0。これは今後の学校生活において深刻な問題だ。まさか、卒業まで0ポイントで過ごすわけにもいかないだろう?」
「そんなの絶対に嫌!」
クラスも女子が反応する。
「もちろんだよ。だからこそ、来月は必ずポイントを獲得しなくちゃいけない。だから、今日からは遅刻や私語なんかをしないように改めて、期末テストの赤点を回避するために……」
言い終える前に平田を押し退けて更衣室に向かう生徒が一人。
「お前らが何をやろうが勝手だけどよ。俺を巻き込むな」
池たちの友人、須藤が歩き去っていく。
昼休み、食事を買い出しに向かおうとすると堀北に呼び止められる
「綾小路君、お昼食堂で一緒にどうかしら」
「悪いな。先約がある」
珍しく昼休みに堀北から話しかけられたが、妙に悪い予感がしたため即座に断る。
「待ちなさい」
直ぐに制服の首根っこを掴まれウッと声が漏れる
オレはお前のペットじゃないんだぞ……。
「綾小路ー、早く行こうぜー」
そんな問答も知らずに廊下で遊城と小波が手を振って待っている。
「ダメよ。今日は私に付き合って貰うわ」
女子からこんなことを言われて普通の男子なら飛んで喜ぶところだろうが、
隣人であるオレはこの女の恐ろしさを知っている
絶対に面倒ごとになる、そう確信できた。
「なにやってんだ綾小路……って堀北、なにしてんだお前」
「助けてくれ遊城、オレはこいつに刻んで食われそうになっている」
「八つ裂きにされたくないなら黙りなさい。遊城君、悪いのだけれどお昼の間彼を借りるわ」
制服を掴んだまま決定事項の様に宣言する堀北
ペットどころかもはや奴隷の気分だ……。
「んー。悪いけど、今日は屋上で三人で食べるって約束してたんだ、離してやってくれ」
流石だ遊城。堀北相手にも物怖じしないその心の強さ、オレは敬意を表する。
そのまま助け出してくれ……。
「あっ、どうしてもって言うんなら、この俺を倒してからにするんだな!」
あっ、その先は蛮勇だぞ。
「……そう、わかったわ」
制服から手を放し、遊城の前に立ちはだかる堀北
身長は遊城のほうが大きいはずなのに不思議とその背中は恐ろしく見えた。
「え、マジ?」
思わぬ接近にたじろぐ遊城
逃げるんだ、勝てるわけがない……!
「いや、確かに倒してからって言ったけどよ、喧嘩とかそういうのは良くな……」
「ハッ!」
一瞬、堀北が手を振りかぶったかと思った次の瞬間、
遊城の意識は刈り取られていた。
おそろしく速い手刀……オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。
「大変、遊城君が急に倒れてしまったわ。きっとお腹がよっぽど空いていたのね。急いで食堂へ向かいましょう」
独り言のように喋りながら遊城の首根っこを掴みズルズルと引きずっていく堀北。
傍から見たら人さらいのようだ。
「……何してるの? あなた達も来なさい」
勇者遊城は魔王堀北に倒され、ただの村人のオレ達2人は逆らえるはずもなく食堂へ向かうこととなった。
オレと小波は互いに目を合わせ、そして再び
「「何なの……あの人……?」」
「……ウーン、いい匂い……はっ!? ここは一体!?」
食堂にて席に座っていた俺たち、注文を取りに行った堀北が戻ってきたタイミングで遊城が目覚める
「おはよう遊城くん。あなたは空腹で倒れてしまったのよ」
「そうだっけかな……? そうだったかも……」
しっかりしろ遊城、お前は騙されている。
「そんなあなたに私からささやかなプレゼントよ」
堀北の手には大きな皿に豪勢なおかずが盛られた定食
この食堂で一番高額なスペシャル定食が遊城の前に出される。
いや、遊城だけではなくオレ達三人の前にそれぞれ同じものが用意されている
結構な出費だろうによくもまあ……。
「どうしたの? 遠慮なく食べなさい?」
いやいやいや、こんな見るからに怪しいエサに引っかかるわけが……。
「いらないのならこの美味しそうなエビフライは私が貰おうかしら」
「いただきまーす!」
いかん、遊城が堕ちてしまった。
奴のエビフライ好きを利用するとはなんて卑劣な奴だ。
美味しそうに食べる遊城を見て満足そうに頷く堀北
「ほら、あなたたちも」
……まあいいか
前々からこのスペシャル定食の味がどうなのか気になっていたところだ。
小波と目を合わせて覚悟を決める。
「「いただきます」」
まずはメインのとんかつを一口。
ザクリと噛むと衣の香りと肉の絶妙な調和が……
「早速だけど話を聞いてもらえるかしら」
おい、まだ途中だぞ。
「平田君達は昼休みの間に方針を決めたみたい。試験までの期間中に勉強会を開くらしいわ。けれど、成績不振な人たちがこれを拒否している」
名前が挙がったのは池、山内、須藤の三人
まあ、勉強熱心ではないだろうな
「クラスを上にあげるためにはマイナスを無くしてプラスになるポイントを集めなければならない」
「つまり、マイナス要素の三人に赤点を回避してもらうために勉強会を開くと」
小波が味噌汁を啜りながら堀北の説明を補足する
「そうよ、理解が早くて助かるわ。彼らが何もしなければDクラス全体がダメージを受けることになる
……本当に私がDクラスと判断されたのなら、必ずAクラスに上がってみせる」
ん?
「ちょっと待て、今Aって言ったか? Cじゃなくて?」
「Aクラスよ。私は私がDクラスに割り振られたことを納得してないの」
「オレ達を巻き込むなよ……」
「食べたわよね。私の奢りで。スペシャル定食、豪華でよかったわね」
「……汚ねぇ」
「ごちそーさん!」
パン、と手を合わせて定食を綺麗に平らげた遊城が満足そうに椅子に体を預ける。
「要は須藤達を勉強会に集めりゃいいんだろ? 勉強は堀北が教えるんだったら俺にもできるぜ!」
「そう、頼もしいわね。でも遊城君、残念だけどあなたも赤点ギリギリなの。あなたも対象者なのを忘れないで」
「うげっ……マジ?」
「マジよ。それじゃあ、よろしく。明日の放課後に三人を図書館まで連れてきて。
私の連絡先を渡しておくから何かあったらここに知らせて」
堀北はオレ達三人に連絡先を渡す。
俺たちは堀北の連絡先をしっかりと記録し、食堂を出る
放課後、
オレ達は手分けしてそれぞれに勉強会に誘ってみることにした
その結果……。
「あー、ムリ」
「パスで」
「部活あんだよ!」
夜、オレの部屋に集まり、それぞれの結果を確認していた。
「全滅とはな……」
「いやー、一人くらいは来ると思ったんだけどな!」
「どうする? このままだと堀北に何をされるか……」
小波の一言にオレ達の顔色が悪くなる
何をされるんだろう、半殺しで済めばいいんだが……
「うーん、なんかあいつ等がすぐさま飛んでくるようなアイデアがあれば……」
ウンウンと頭を悩ませる遊城と小波
「来たらポイント出すとか?」
「テスト期間が終わるまでポイントが持たないだろう」
「デュエルで勝負して連れてくるか?」
「いや、無理矢理連れてきた所であいつ等自身が学ぶ意欲が無ければ意味がない」
ああでもないこうでもないと案を出し合い
一つの結論に至る
それは、新たなる協力者を募ること
決して3人集まって手に負えないとかそういう話ではない
「ポイントを消費せず、且つあいつらが自分から来るような状況」
「学力も問題なく協力的な生徒と言えば……」
「ああ、あいつしかいないな」
自室の備え付きの電話機で管理室に繋ぐ
数コールで電話は繋がる
『はい、こちら男子フロア管理室の大徳寺、何かお困り事かにゃ?』
「夜分にすみません、401号の綾小路です」
『おや、君かい。どうかしたのかにゃ?』
「えー、1年の櫛田さんに繋いでほしいんですが」
『櫛田さん……ああ、あの元気な子だね。何かあったのかい?』
「授業のことで聞きたいことがありまして」
『ふむふむ……わかった、繋いでみるよ』
「ありがとうございます」
『綾小路君、がんばるのにゃ~』
何故か謎の応援を受けたがとりあえず繋いでもらうことには成功した。
しばらく時間が空いた後、櫛田が電話に出る
『もしもし? 綾小路くん?』
「櫛田、急に済まないな。今平気か?」
『うん、今お風呂出たとこだよ。でもびっくりしたよ、
部屋の電話なんて始めてかかってきたから。ドライヤーかけながらでもいい?』
「ああ、大丈夫だ。喜べ櫛田、お前は親善大使に選ばれた」
『へ?』
今までの経緯を櫛田に話す。
「……というわけなんだ。頼めるか?」
『うん! もちろんオッケーだよ! せっかくできた友達が退学するなんて絶対に嫌だもんね』
流石は櫛田、お手本のような優等生っぷりだ
「それじゃあよろしく頼む」
『うん、親善大使として頑張ってくるね! あ、あと私の番号教えとくね?』
また部屋にかけられたらびっくりするから、と言われ
俺は櫛田の連絡先をゲットした
一日に女子2人の連絡先が手に入るなんてデュエルアカデミアって良いところだな。
「どうだったんだ?」
電話を終えて遊城がオレに聞いてくる
「協力してくれるみたいだ。あとは櫛田が取りなしてくれるだろう」
そうこう話していると早速端末にメッセージが入る。
『池くん達、明日来てくれるって!』
早いな。想像以上に効果ありだったようだ
遊城に見せるとガッツポーズをして安堵している
良かった、これで堀北に半殺しにされずに済む。
この日はそのまま解散し、オレ達は明日に備え眠ることにした。
……そういえば櫛田が来ること、堀北に伝えてなかったな。
まあいいかと、この時のオレは深く考えずに眠りについた。
翌日の放課後、図書館にて
「お待たせっ、堀北さん!」
「……何故彼女がここに居るのかしら?」
明らかに不機嫌な堀北がこちらを睨みつける
おかしいな、半殺しルートは回避したはず……?
「何か問題があったか? あの3人を連れてこれたのも櫛田の助力あってこそだ」
「まず私に一言あるべきじゃないかしら」
「それは悪かった。だが櫛田は成績も良いし邪魔になることはないと思うぞ」
「……まあ良いわ、今は彼らに勉強を教える方が優先だから」
明らかに良くなさそうだが、そのイライラは櫛田にデレデレのあの3人にぶつけて貰おう。
中間試験の教科は国後、数学、理科、社会、英語の基本の五教科とデュエル問題の合計六教科
今思えば入試試験の時にデュエルが実技試験だけで本当に助かったと思う。
席に座り教科書を開く。
堀北の隣に櫛田がニコニコしながら座り堀北の顔が更に険しくなっていく
おいおい、頼むから喧嘩だけはしないでくれ。
さて、あとは堀北が勉強を教えて行くだけの会になる、ハズだったのだが……
「だぁ~っ! もう訳わかんねえ!」
やはりというか、苦戦している様だ。
「何で永続魔法が発動したときに破壊されたら効果無効になるのにモンスターは破壊されても効果が通るんだよ!」
「何度でも言ってあげるわ、そういうものとして受け入れなさい」
「だからそれじゃあ納得できねえんだっつの!」
何度も繰り返す須藤との問答に堀北も思わずため息が漏れる
が、それが須藤の癇に触ってしまう。
「……ンだよその態度」
「別に、今までそれでよく生きてこれたと思っただけよ」
「あぁ!?」
まずい、本当にイライラをぶつけてしまっている
「何でお前にそんなこと……そもそも勉強なんざ出来なくたって俺はプロのバスケ選手になるんだよ!」
「プロ? 不都合なことがあればすぐに逃げ出すあなたがプロになるなんて絶対に無理ね。大方、バスケでも何かあるたびに逃げ出しているんでしょう?」
「……ここが図書館じゃなけりゃぶん殴ってやるところだぜ……!」
「やれるものならやってみなさい。あなたじゃ私に指一本触れられないわ」
「おいおい2人とも落ち着けって……」
遊城が静止しようとするが一足遅く
須藤は立ち上がり大きく舌打ちする
「やってられっかよ、せっかく部活休んでまで来たのにとんだ無駄足だったぜ!」
バッグを手に取り図書館を出て行く
「おい須藤!」
遊城も立ち上がり、須藤を追いかける
「……俺も帰ろっと。堀北ちゃん頭良いかもだけど言い方キツすぎだし」
「俺も帰るわ」
続けて池と山内も立ち上がって帰ってしまう。
「退学してもいいのなら、好きにすることね」
「ほ、堀北さん、これじゃ誰も勉強なんてしてくれないよ?」
「あなたもよ、櫛田さん」
今度は櫛田に矛先が向く
「え……?」
「あなた、何がしたいの? わざわざ私の隣に座って、邪魔でもしに来たのかしら?」
「……そんなつもりは……私はただみんなの役に立ちたくて……!」
「だったらもう来ないで。それが一番私の役に立つから」
堀北の言葉に櫛田は目を見開く
「そんな言い方、ひどいよ……!」
俺達の中で一番協力的だった櫛田も図書館を去ってしまう。
結局、こうなるのか……
オレと小波、そして堀北が残された机は不気味なほどに静かになってしまった。
ここで櫛田が消えるのは不味い、そう判断し小波に耳打ちする
「小波、悪いが櫛田を連れ戻してくれないか? あいつがいなきゃ須藤達も戻ってこないだろう」
小波はオレの頼みを了承し席を立つ
「彼に何を言ったの?」
ギロリと俺を睨む堀北
正直に連れ戻すように言ったと白状すれば半殺しでは済まないような眼光だ。
「飲み物を買いに行ってもらっただけだ。それよりも本当に良いのか? 須藤達が退学になっても」
「ええ、間違っていたのは私のようね。足手まといには早々に脱落して貰った方がいいわ」
「そういうところがお前がDクラスになった原因じゃないのか?」
「……どういう意味?」
構わずに続ける
「他人を見下し、拒絶する。それじゃ誰も協力なんてしてくれない。そんなところをお前は学校側に判断されたんじゃないのか?」
「あなたに何が……」
「それに、Aクラスに上がるには一人も退学者を出さないことが条件、なんてこともあり得る。そうじゃなくても何かしらのペナルティはあると見るべきだ。それはお前の本意じゃないだろう?」
「……」
堀北は押し黙る
「……オレも須藤達を追いかける。少し頭を冷やした方がいい」
立ち上がり出口へ向かう
一人残された堀北は何も言わずただ座っているだけだった。
さて、須藤達はどう説得するか……
考えながらオレは体育館に向かっていた
須藤は部活を休んできたと言っていたから恐らくは遅れた分を取り戻そうとするだろう
あいつの性格のことだ、部活でも問題を起こしていなければいいんだが……
「んだとゴラァ!」
……嫌な予感ほどよく当たるという奴か
声は体育館の近く、校舎裏から発せられていた
「上等だ! かかって来いよ!」
制服のままの姿を見る限り、どうやら部活中のいざこざではないようだが
他クラスの男子生徒複数人と対峙しているところだった。
険悪な様子に近くのテニス部も視線を注いでいる
というか須藤を追いかけた筈の遊城はどこに行った?
「お前いつの時代のヤンキーだよ? ダッセ!」
「哀れなほど醜い生き物だな」
その中の一人にオレは見覚えがあった
あれは……確か龍園という生徒だったか
ならあの集団はCクラスの生徒たちか……。
「なあ、万丈目。お前もそう思うだろ?」
龍園の取り巻きが背後に話す
その先には校舎の壁にもたれて目を閉じたまま腕を組んでいる生徒がいた。
「万丈目”さん”だ。俺はどうも思わん、貴様たちで好きにしていろ」
「チッ、なんだよ、龍園さんに認められてるからってクールぶりやがって」
余所見をする生徒に須藤が掴みかかろうとするが逆に2人から両脇を掴まれ拘束される。
「放せこの野郎! 俺は今気が立ってんだよ!」
「今度のテストでお前達の中から何人退学者が出るか楽しみだ」
笑いを浮かべ「まず一人目は……」と
須藤を指さし、見開かれた目に近づけていく。
目の前まできた指を反射的に目を背けて回避した直後、挑発するように額に弾いた。
「……覚悟はできているか?」
拘束を強引に振りほどき、龍園に殴りかかろうとする
いよいよヤバいか?
仲裁しようと身を出すが、その時女子生徒の声で立ち止まる。
「貴方たち! そこまでよ!」
声の主は俺とは反対側で仁王立ちをする生徒
金髪の長い髪に金色の瞳が特徴的な姿だ
その姿に万丈目と呼ばれた生徒が反応する
「天上院君……⁉」
「んだテメエ! 部外者は引っ込んでろ!」
「いいえ、この学校の生徒の一人として暴力沙汰は見過ごせないわ。
それに、貴方たちもデュエリストなら揉め事はデュエルで解決しなさい!」
「チッ……」
「天上院、これは喧嘩じゃねえ。俺たちは被害者だ」
「龍園君、貴方は学校側からも問題児として見られているそうね? これ以上続けるなら学校側にこのことを報告するわ」
「ふん……」
龍園は須藤から離れ立ち去っていく。
「おい、そこのサル。お前は良いおもちゃになりそうだ」
「待てやコラッ!」
「須藤」
龍園たちを追いかけようとする須藤を押しとどめる。
この場に残ったのはオレと須藤、
揉め事には我関せずの万丈目、
天上院と呼ばれた女子生徒となる
「万丈目君、貴方も龍園君と同じクラスなら止めてくれないかしら?」
「……悪いが天上院君、俺は奴らに関しては何も言うことはない。そういう約束だ」
「そう……まあ他クラスについて私がどうこう言う権利もないわね」
万丈目と話した天上院は次にこちらに注意を向ける
「貴方たちも。龍園君の挑発に乗らないように。揉め事は正々堂々デュエルで白黒つけなさい」
堂々とした佇まい、はっきりと意見できる自信
何となくわかる、この2人相当に強い
「須藤ー!」
2人の観察中、俺の背後から先に追いかけた筈の遊城がジュースを抱えて走ってくる
「サイダー買ってきたぜ。これ飲んで落ち着いてさ、もっかい勉強会来いよ」
須藤にジュースを手渡す
「悪いけどよ……俺は……」
「貴様、遊城十代!」
突然万丈目が大声を出す。
「うわっ、ビックリした……って万丈目じゃん。お前もこの学校に来てたんだな」
「万丈目”さん”だ! というか貴様、入学から一か月たって俺様のことに気づいていなかったのか⁉」
「しょうがねえじゃん。他クラスなんて早々行かないんだし」
「貴様は~!」
何だ、遊城の知り合いか?
「……んじゃ俺部活行くからな」
「あっ、待てよ須藤!」
「やめておけ遊城、今日は諦めよう」
「でもよ、綾小路……」
「今は頭を冷やして貰おう、須藤には後日来てもらえばいい」
今日はトラブル続きで勉強どころではなさそうだからな。
「貴方、十代のクラスメイト?」
遊城を留めているところに天上院がこちらに話しかけてくる
「こいつの相手大変でしょう? 呆れずに相手してやってね」
それじゃ、といって天上院は踵を返し歩いていく
「ふん! いいか十代、貴様を倒すのはこの俺だ! 赤点なんぞで退学したら許さんからな!」
それに続いて万丈目も去っていく
気付けばこの場に残されたのはオレと遊城だけとなった。
「退学かぁ……なあ、綾小路。堀北怒ってた?」
「怒るというか、完全に須藤達を切り捨てるつもりらしい」
「そっか……一旦俺達だけでも戻るか」
遊城の提案に従い、俺たちは図書館に戻ることにした。
「小波はどうしたんだ? 堀北の所?」
「いや、出て行った櫛田を追いかけている」
「何で櫛田を……あ、いいや。何となく察した」
遊城と共に図書館の入り口に向かうと
すぐ側に2人を見つける
どうやら小波はうまく連れ戻してくれたようだ。
「……あ、遊城くん、綾小路くん……」
佇む櫛田の表情にいつもの笑顔はない
「ごめんね、急に出て行っちゃって……」
「構わない、戻ってきてくれて助かる」
「うん……」
櫛田が戻ってきたことで須藤達はどうにか連れ戻せるとして、
問題は堀北の方か
さてどうするかと考えていると
「堀北のことなら、俺に任せてくれないか?」
遊城が俺たちに打診する。
「何か策があるのか?」
「いや? 別に作戦なんてないさ」
遊城はディスクを手にして俺たちに見せる
「こいつでぶつかって分かり合う、それだけさ!」
そうして図書館に入る遊城
デュエルで分かり合う、か
果たしてそんなにうまくいくかな。
遊城に続いてオレ達も図書館に入っていく中、
小波が自身の右手を開いたまま見つめていることに気づく。
「何かあったか?」
「……綾小路」
小波はこちらに目線を合わせず静かに話す
「大きいのってすごいんだな……」
「……は?」
困惑していると櫛田に急かされ中に入る。
「ねえ、何してんの二人とも、早く行こうよ」
「あ、ああ……」
小波よ、お前に何があった。