主人公の少女が、町で起こる怪事件を解決します。
0~呪いは実在する
呪いは単なる都市伝説だと、現代では呼ばれている。
実際、テラで呪いと称した事件も、そもそもテラは魔法がないため大半はただの悪戯だ。
しかし、テラと異なる紫の地球、テラースフィアには魔法が隠されているが存在する。
つまり、呪いが実在するという意味なのだ。
これは、銃を手に仲間と共に呪いと戦った、一人の少女の物語である。
「ふわーああ、夏休みでありますね」
黒髪をショートにした少女が、欠伸をしながら起き上がる。
彼女の名前は橘希華、テラースフィアのとある高校に通う女子高生だ。
「デッキよし、銃器よし、そして……」
希華が言う「デッキ」というのはカードゲーム「マジカル&ソーサリア」で使うデッキの事だ。
マジカル&ソーサリアはアニメ化もした世界中で流行しているカードゲームで、
橘希華はそのプレイヤーの一人である。
銃器というのは当然、おもちゃの銃器だが、特殊な改造を施しているため実際に攻撃ができる。
彼女には呪いを祓う才能がなく、呪力も持っていない。
それでも希華は、戦うための準備をするのだった。
「呪い祓い、準備であります」
「ちぃちゃん。ねえ、ちぃちゃん」
「え? 何?」
返事をしてしまってから、千舞は違和感に気がついた。
ここは千舞の部屋で、家には今、彼女しかいないはずだ。
誰も、彼女の名前を呼ぶはずがない。
ぎし、ぎしと、誰かが階段を上がってくる足音がした。
誰かがいて、誰かが来る。
千舞は驚いて、部屋を飛び出した。
しかし、飛び出した先にあったのは、千舞が知っている廊下ではなかった。
千舞が見た事もない、西洋風の屋敷だった。
いつの間にか、千舞はこんなところに来てしまったらしい。
千舞が立ち尽くしている間にも、足音は少しずつ、千舞に近づいてくる。
千舞は廊下を走り出した。
だが、走っても走っても、廊下の終わりには辿り着けない。
千舞は全力で走っているのに、ゆっくりと近づいてくる足音は、今にも千舞に追いつきそうだった。
恐怖のあまり、千舞は目の前のドアを開けて飛び込む。
千舞は後ろ手にドアを閉めて、じっと息を潜める。
―コツ……コツ……コツ
足音は、千舞が飛び込んだ部屋の前で止まった。
どうやら、ここにいると気づかれているようだ。
「あーそーぼ」
甲高い、女の子の声だった。
友人のような優しそうな声だが、千舞は返事をする事ができなかった。
―コンコン、コンコン
「あーそーぼ。あーそーぼ」
千舞に呼びかける声と、ノックの音が、だんだん激しくなってくる。
―コンコン、コンコン……ドン、ドン、ドンドンドンドン!
「いるんでしょ? いるんでしょ? いるんでしょ?」
「やめて! あなたとなんて遊ばない!」
千舞が悲鳴を上げると、急に、辺りが静かになる。
助かった……と、千舞がほっとした、その時だ。
「ヤッパリ、ココニイタ」
すぐ耳元で女の子の声がして、千舞は自分の失敗に気がついた。
返事をしてはいけなかったらしい。
「来ないで! どこかに行って!」
千舞は走り出そうとして、ぐらりと床に倒れた。
慌てて立ち上がろうとするが、何故か立ち上がれない。
千舞は自分の足を見て、そして凍りつく。
「足が……! わたしの、足が……!」
千舞の膝から下には、何もなかった。
「ちぃちゃんの足、もらった」
―くすくす、くすくす
いくつもの笑い声が、床に倒れたまま立ち上がれない千舞の周りから、一斉に聞こえてくる。
「これでもう、どこにも行けないね」
「いやぁああぁああ!」
千舞は悲鳴を上げて飛び起きた。
それが、今から二週間前。
その夢を見た日の朝から、千舞の足は動かなくなっていた。