とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞は、自分が呪物のせいで呪われた事を希華に伝える。
しかし、窓から見える怪物に気づき、慌てて希華に連絡するが、通信が途切れてしまう。
その後、怪物が部屋に侵入し、十狼太とサクリエルが現れて怪物を追い払うが、
千舞の大切なリリー人形が奪われてしまう。
十狼太は千舞に明日まで待つように助言し、千舞は不安ながらも、その助言に従うのだった。


9~迷路の呪い

 千舞は制服に着替えて、菊乃と共に始業式に出るために体育館に向かった。

 最初、千舞と一緒にいる十狼太とサクリエルを見て、菊乃は驚いたが、

 大きくてモフモフしている狼の幽霊と、小さな天使なら、怖がりな菊乃も全然怖くないようだ。

 十狼太は、怖がってもらえなくてショックだったみたいだが……。

「ねぇキクノちゃん。タケミツ君と仲いいんだよね?

 ちょっと、射守矢先輩の事で聞きたい事があるんだけど……」

「タケミツ君?」

 きょとんとして、菊乃は千舞を見る。

「誰それ?」

「え!?」

 聞き返されて、千舞はぎょっとした。

「射守矢先輩の弟だよ! キクノちゃんと同じ陸上クラブで、背の高い……」

「ごめん……誰の事? 射守矢先輩に、弟なんていないと思うけど」

「でも、昨日、射守矢先輩をわたしに紹介してくれたじゃない!

 タケミツ君のお兄ちゃんだよって」

 菊乃は首を傾げる。

 本当に、何も覚えていないようだ。

 千舞が困り果てていると、十狼太の尻尾が、わさっと千舞の顔をくすぐった。

「わ、わ……! 十狼太さん、何……!?」

「呪いの臭いがする」

「え?」

 千舞も空気のにおいを嗅いでみたが、何も分からない。

 サクリエルは、ふるふると首を振る。

「どこから? リリー人形と関係ある?」

「分からん……だが、かなり強いぞ。――キクノの記憶を書き換えちまうくらいにな」

 千舞は驚いて菊乃を見た。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 菊乃は慌てて言った。

「わたしは本当はタケミツ君って子の事を知ってるのに、知らないって思い込んでるって事?

 そんなのあり得ない!」

「だったら実際見に行けばいい。

 どっちにしろ、そのタケミツって奴に話を聞きに行く予定だったんだろ? ――こっちだ」

 十狼太はくんくんと鼻を動かしながら、千舞達の先に立って、ゆうゆうと空中を歩いて進む。

 サクリエルは、翼を羽ばたかせて飛んでいる。

「でも、もしこれが呪いなら、どうしてわたしは覚えててキクノちゃんだけ忘れちゃってるの?」

「お前は呪いへの耐性が強いんだよ。逆にキクノは呪いに弱い」

「わたしが弱いから、友達の事、忘れちゃってるって事?

 それって、なんか凄く嫌だし、凄く怖い」

 悲しそうな菊乃の手をそっと握ると、菊乃も握り返してくれる。

「そうじゃないよ。キクノちゃんがいたから、

 タケミツ君に何かあったのかもって、すぐに気づけたんだよ!」

「うん……ありがとう」

 二人で手を繋いだまま、千舞達は男子寮の階段を上った。

 十狼太が、一番奥の部屋の前で立ち止まる。

 ネームプレートは……「射守矢タケミツ」。

「……この部屋だ」

 千舞が呟くと、菊乃は苦しそうに胸を押さえた。

「わたし、本当に忘れちゃってるんだ……!」

「十狼太さん、サクリエル、どうするの?」

「リュウと希華を待つ。今、こっちに向かってる頃だろうしな」

 十狼太はくあっと大きく欠伸をすると、

 タケミツの部屋の前で丸くなって、ぐうぐうと眠り始める。

 サクリエルは、ふわふわと浮いている。

 

「――おまえら、空き部屋の前で何やってんの?」

 向かいの部屋から出てきた男の子に声をかけられて、千舞は振り向いた。

「ここ、空き部屋なの? いつから?」

 千舞の質問に、男の子は不思議そうに首を傾げた。

「え? 知らないけど、ずっとじゃない?」

「でも、ネームプレートがあるよね? 射守矢タケミツって」

「それよりさぁ。オレ、面白いもの持ってるんだ。ちょっと見てくれよ」

「面白いもの?」

 今はそんな場合ではない。

 そう思っていながら、千舞はどうしてか、男の子が差し出したものを見てしまった。

 男の子が差し出してきたのは、迷路のおもちゃだ。

 本体を傾けて、銀色のボールを転がして、真ん中の穴に入れたらゴール。

「オレと友達になってよ。一緒に遊ぼう。――この迷路の中で、ずーっと」

「――え?」

「千舞! ダメだ、そいつは――」

 十狼太の声が聞こえて、千舞は慌てて振り向いた。

 しかしそこにはもう、十狼太もサクリエルも菊乃もおらず、

 どこまでもどこまでも続く、長い廊下だけがある。

 天井はないが、空は真っ黒で何もない。

 廊下にはたくさんの横道があって、後ろは行き止まり――つまりここは迷路の中。

 

「……どうしよう」

 一人、たった一人だ。

 十狼太も、リリー人形もいないのに、

 千舞は迷路のおもちゃの隠世に引きずり込まれてしまった。

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