とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞と菊乃は学校で始業式に出席するために体育館に向かった。
しかし、菊乃は射守矢タケミツという人物を全く覚えていなかった。
十狼太はこれが呪いのせいだと説明し、千舞と菊乃はタケミツの部屋を訪れる。
しかし、部屋は空っぽで、他の生徒もタケミツの存在を知らなかった。
その後、千舞は迷路のおもちゃの中に引きずり込まれてしまった。


10~イモムシの怪物との遭遇

「まずいな、希華。十狼太がちぃを探しに行ったっきり、いない」

「え、それはどういう事でありますか?」

 希華は、鬼気迫る流の表情を見て不安になる。

「十狼太がいないという事は、サクリエルもいなくなっている可能性がある」

「はぁーっ、それは大変であります!」

 サクリエルも十狼太に同行した以上、同じく行方不明になっている可能性が高い。

 早めに見つけなければ、手遅れになるかもしれない。

 焦る流と希華だが、希華は目を閉じて首を振った。

「集堂殿、パニックになってはいけないのであります。

 千舞殿は絶対に、自分達で見つけるのであります」

「そ、そうだな」

 年上の希華の助言で、流は慎重に、十狼太を探しに行った。

 

 しばらく二人が十狼太とサクリエルを探して歩いていると、

 目の前に魔物が現れ、流達の行方を阻んだ。

 見た目は鬼だが、その鬼よりも二回り大きい身体を誇り、棍棒まで持っている。

 鬼に何とやらと言っていいだろう。

 二人は物怖じせず、希華は銃を構えて巨大な鬼を撃ち、流は木刀で鬼を打ち払う。

 これくらい、千舞が抱えている恐怖に比べればなんて事はないからだ。

 

 数分後に鬼は撃退され、希華と流は走り出す。

 大切なヒトを、見つけるために。

 

「さっき、わたしに話しかけてきた男の子……きっと魂絡繰だったんだ……」

 一方、視点は千舞に戻る。

 千舞には普通の男の子に見えたが、考えてみれば、おかしかった。

 学校の制服を着ておらず、千舞が知らない男の子と話しているのに、

 菊乃は会話に交ざってこなかった。

 まるで、千舞が誰かと話している事に、全く気づいていないようで――

「って事は、キクノちゃん……タケミツ君と同じようにわたしの事も忘れちゃうのかな……?」

 しかし、十狼太や流、希華はどうだろうか。

 流と希華が覚えていたとしても、

 十狼太と菊乃が何も覚えていなかったら、千舞がここにいると流と希華は気づけない。

 つまり、誰も千舞を助けに来てくれないかもしれないという事だ。

 千舞は泣き出しそうになる。

 

―コツコツ、ズズ……コツコツ、ズズ……

 

 その時、ふと、廊下の向こうから音が聞こえてきた。

 重たいものを引きずっているような音だ。

 廊下の向こうから、少しずつ近づいて、角を曲がって。

 この音は、千舞の方に向かっていた。

 何が近づいてきているのかは分からない。

 しかし、このまま迷路のスタート地点に立っていたら、大変な事になると千舞は思った。

 千舞は咄嗟に、すぐ近くの横道まで走った。

 だが角を曲がった瞬間、長い廊下の向こう側にも「それ」がいて、

 千舞は一歩も動けなくなってしまった。

 「それ」は黒い、イモムシのような化け物だった。

 ずんぐりした体からは、クモのような細い脚が何本も生えているが、

 頭の部分に髪の長い女の人の顔がついている。

 目は開いているが中は真っ暗な空洞で、大きく開いた口からはぼたぼたとよだれが滴っている。

「何、あれ……!」

 細い脚が動くたびに、コツコツと床をハイヒールで歩くような音がした。

 化け物が前に進むたびに、ずんぐりした体が引きずられて、ズズズズと音がする。

―コツコツ、ズズ、コツコツ、ズズ……

 化け物は同じ場所を、ずっと行ったり来たりしている。

 後ろからも、コツコツ、ズズ……と、あの音が確実に近づいてきている。

 この化け物は迷路の中にたくさんいるだろう。

 もしも食べられたら、千舞はもうこの隠世から出られず、

 皆に忘れられたまま消えるかもしれない。

 このままここに立っていたら、前と後ろを化け物に挟まれて、どこにも行けなくなってしまう。

 

(早く何とかしなきゃ)

 十歩くらい歩いた先に、横道がある。

 あの横道まで行ければいいが、走れば化け物に気づかれるかもしれないし、

 ゆっくり歩いていたら間に合わないかもしれない。

 千舞が悩んでいる間にも、足音は近づいてくる。

 彼女が勇気を振り絞って一歩を踏み出した……その時だ。

 

「ちぃ! どこだ! オレの名前を呼べ!」

 銃砲の音と共に、どこかから流の声が聞こえた。

 返事をしようとして、しかし千舞はぐっと言葉を飲み込んだ。

 今、叫んだら、化け物に気づかれるからだ。

 千舞は横道を目指して、一気に走り出した。

 その途端、同じところをうろうろしていた化け物が、大きく体を仰け反らせる。

 カツカツ、カツカツと、助走をつけるように、細い脚が地面を叩いた。

 千舞は急いで、横道に飛び込んだ。

「リュウ君! 希華さん!」

 二人の名前を呼びながら、千舞は振り向かずに、前だけを見て走った。

 迷路は道があちこちに分かれていて、千舞が横道を通り過ぎるたびに、

 化け物が飛び出してきて千舞を追いかけ回す。

 音がカツカツカツカツカツカツと、ずっと追いかけてくる。

 千舞は息が苦しくて、足がもつれる。

「リュウ君、希華さん、助けて!」

「「――ちぃ(千舞殿)!」」

 鉄格子の向こうに、流と希華の姿が見えた。

「こっちは行き止まりだから引き返すのであります!」

 鉄格子を挟んだ、向こう側の道で、希華は叫んだ。

「無理だよ! だって後ろに……!」

 振り向いて、千舞は「え?」と声を上げると、“何も”いなくなっている。

「……あれ? 何も……」

「ちぃ! 上だ!」

 流の言葉通りに、千舞は上を見る。

 数え切れないほどの化け物が左右の壁に張りついて、首を長く伸ばして千舞を見下ろしていた。

「きゃああああ!」

 千舞が叫ぶと、ずらりと並んだ化け物の顔が、一斉に、全く同じ動きで口を開く。

 

「みぃつけた」

 目の前が真っ暗になって、千舞は気を失った。

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