千舞は迷路の中に閉じ込められ、化け物に追い詰められる。
彼女は流と希華の助けを求めるが、彼らは千舞がいる事に気づかない。
千舞は化け物から逃げるために走り出すが、化け物は増え続け、彼女を追い詰める。
最終的に千舞は化け物に見つかり、気を失ってしまった。
ざらっとした埃っぽい臭いで、千舞は目を覚ました。
周りは真っ暗で、何も見えない。
「ええと……わたし、どうしたんだっけ?」
千舞は確か、化け物に捕まって――。
「――そうだ! あの化け物は……?」
―ガチャ!
「痛い!」
千舞は立ち上がろうとして、思いっきり頭をぶつけた。
「嘘……? わたし、箱に閉じ込められてる……!?
リュウ君、希華さん! ねぇ、リュウ君、希華さん、そこにいる!?」
返事はない。
こんなところに閉じ込められていたら、流も希華も千舞を見つけられない。
「ここから出なきゃ……」
千舞は箱を力任せに揺さぶった。
それでも開かないので、壁を思い切り足で蹴飛ばす。
バキンと弾ける音がして、箱の壁に小さな穴が開いた。
何度も何度も箱を蹴飛ばして、やっとの思いで外に出る。
「迷路のどこか……だよね……?」
あの化け物はもしかすると、
捕まえた獲物をここに連れてきて、箱に閉じ込めているかもしれない。
その時だ。
「やめろ! 嫌だ! 助けて兄さん! 助けてぇええ!」
男の子の悲鳴が聞こえて、千舞は飛び上がった。
辺りを見回すとドアが二つ。
どちらも大きく開いていて、向こう側が見える。
一つのドアに繋がっていて、ここから逃げられそうだが……。
千舞は声が聞こえてくる方……部屋の奥へと忍び寄った。
そっとドアの向こうを覗いてみると、先程の、イモムシの化け物がいた。
しかし、それだけではなく、人がいる。
椅子に縛り付けられていて、動けないようだが、化け物が邪魔で、顔はよく見えない。
(どうしよう……あれ、リュウ君じゃないよね?
リュウ君だとしたら、十狼太さんは? もしかして、食べられちゃった?
リリー人形が、他のオバケを食べたみたいに、十狼太さんも……?)
不安に震える事しかできない千舞は、じっと部屋の中を見続ける。
すると、化け物の体が少し横にずれて、男の子の顔が見えた。
しかし、男の子には顔がなく、髪の毛もなく、目も、鼻も、耳もなかった。
マネキンのようにツルッとした頭に、口だけがついている。
その口を、化け物が、きゅっと指で摘まんで引っ張った。
「オシオキ、オシオキ……うるさいからぁ、オシオキィ」
化け物はそう言って、さらに男の子の口を引っ張る。
すると男の子の顔から、ぷつりと口が取れた。
男の子はもう喋る事もできなくなって、椅子の上で苦しそうにもぞもぞしている。
イモムシの化け物は、男の子の口をひょいと食べると、
コツコツ、ズズ……と音を立てて、どこかに行ってしまった。
千舞はごくりとツバを飲み込む。
男の子は、千舞と同じ学校の制服を着ていた。
名札を見ると、射守矢タケミツと書かれていた。
(じゃあ、あれがタケミツ君……!? どうしよう、助けなきゃ。
それとも、リュウ君と希華さんを探して連れてくるべき?
今のわたしがタケミツ君を助けようとしても、
あの化け物に見つかったら、また捕まっちゃうだけだし……)
千舞はじっと様子を見た後、立ち上がった。
「……わたしだけじゃ助けられない。先にリュウ君と希華さんを見つけなきゃ……」
しかし振り向くと、すぐ目の前に、あの化け物が立っていた。
「きゃぁああぁ!」
化け物が、真っ黒な目で千舞を見下ろして、ニタリと笑った。
体から何本も伸びている細長い脚が、千舞の体を掴んで、高々と持ち上げる。
千舞を高く持ち上げたまま、化け物が大きく口を開いた。
耳まで裂けたその口は、千舞を簡単に丸呑みにできそうだ。
「助けてリュウ君! 希華さん!」
千舞は声の限りに叫んだ。
しかし、千舞の声が部屋じゅうにわんわん響くだけで、流と希華の返事はない。
「逃げたからぁ、オシオキィ」
化け物がばっと手を離すと、千舞は呆気なく、化け物の口の中に落ちていった。
化け物の口の中は、生温かく、千舞にとっては非常に息苦しい。
隠世で死んだら、現世でも死んでしまう。
しかし、いつまで経っても、千舞は死ななかった。
千舞は思い切り閉じていた目を開くと、そこには地下室のような窓のない空間が広がっていた。