とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞は怪物に飲み込まれ、地下室でナイフを持った男と出会った。
男は千舞、女性、男の子に迷路ゲームを強制し、負けた者には罰が待っているという。
男の子は女性を助けようとするが逃げられず、男によって罰を受ける。
千舞は彼らの魂が混ざり合い、魂絡繰になるのを目撃する。
それを知った千舞は彼らと友達になる事を提案するが、
地面に開いた大きな口に飲み込まれてしまった。


13~少女達の死亡記事

「何これ!? 何があったの!?」

「ヒロアキ達が、別の魂絡繰に食べられたんだ!」

「千舞殿、こっちへ!」

 黒いねばねばに溺れながら千舞が叫ぶと、流と希華も叫び返した。

 流は思い切り千舞に手を伸ばして、千舞はその手を掴んで、何とか流されないようにする。

 希華は自力で脱出し、サクリエルは飛んでいる。

「十狼太! 呪言をもって命じる! 呪術封緘……解!」

 流が言うと、十狼太は大きなオオカミの姿に変わる。

「オレの背中に掴まってろ!」

 十狼太は、背中に千舞と流を乗せて、黒いねばねばの海の上を走った。

 希華は忍者の如く、素早く海の上を走る。

「ヒロアキ君と先生が別の魂絡繰に食べられたって事は、わたし達って今、どこにいるの?」

「二人を食べた魂絡繰の隠世だよ」

 十狼太がしばらく走ると、地面が見えてきたので、

 千舞と流は周りを見回しながら十狼太の背中から下りた。

 窓一面に、べたべたと新聞紙が貼ってある部屋だった。

 

「……オバケ廃墟?」

 千舞は呟いて、流を見た。

 流は真剣な目で強く刀を握り込み、希華も銃を構えていた。

「あ、この迷路……」

 千舞は、床に落ちている迷路のおもちゃを拾った。

「ヒロアキ君が持ってた奴だよね?」

「ここに貼ってある新聞記事をよく見るのであります」

「え? 何が書いてあるの?」

 迷路のおもちゃの後ろの壁に貼ってあった記事を読んで、千舞はぎくりとした。

 

 先生と生徒を、オバケ廃墟の地下室で殺した。

 先生は階段から落とした。

 生徒は地下に閉じ込めて衰弱死。

 

「これ……ヒロアキ君と、先生が死んだ時の記事?

 でも、なんか変な感じ。新聞記事っていうか……」

「ああ……普通の記事じゃない。殺した人間の視点で書いてあるんだ」

「あ!」

「殺した、落とした、つまり他殺事件でありますね」

「どういう事……?」

 ずらりと並んだ新聞記事には、アヒルのおもちゃだったり、

 変身ステッキだったり、子供のおもちゃが点々と置いてある。

「あ! リュウ君、あそこ見て!」

 少し離れたところの床に、リリー人形が置いてある。

 千舞は急いで駆け寄ってリリー人形を抱き上げた。

 しかし、眠っているようで、動かない。

 千舞はリリー人形の後ろに貼ってある記事を読んだ。

 

 家族の留守中、一人で留守番しているところを殺した。

 落とした人形を拾おうとしたところを、ナイフでぐさり!

 

「これ、かなちゃんの死亡記事だ……!」

「かなちゃん……リリー人形の最初の持ち主の?」

 流と希華も、新聞記事を覗き込む。

「これも、殺した人の視点で書いてあるな」

「でも、それって、なんか変じゃない? だって、これじゃまるで……」

「犯人は同一人物であります!」

「あ……!」

 希華の言葉で、千舞は気づいてしまった。

 先生に食べられた時、千舞は腹の中で、先生とヒロアキが殺されるところを見た。

 あの殺人犯が持っていたナイフは、かなが殺されたのと同じナイフだった。

「じゃあこの魂絡繰は、生きてた時は連続殺人犯だったって事?」

「おい、こっち見てみろ!」

 十狼太の声がして、千舞達はそちらに走った。

 新聞記事があるが、床には何も置いていない。

 記事を読むと……。

 

 御神楽千舞。

 隠世で魂を食べられて、二度と目を覚まさない。

 

「え!? これ、わたしの事?」

「自分の記事もあります……不快であります……」

「リュウの記事もあるぞ。それから……こっちは射守矢兄弟って書いてあるな」

「え? 射守矢先輩と、タケミツ君?」

「弟が行方不明で、兄が寮の窓から飛び降りるってよ」

 千舞は、はっと思い出す。

「そっか……射守矢先輩……! あの人が、最初に殺人犯の魂絡繰にとりつかれたんだ!」

「電話で言ってた、ちぃ殿に呪いの人形を渡した人でありますか?」

「うん。キクノちゃんが言ってたんだけど、

 射守矢先輩、前から呪いのアイテムとかを集める趣味があったんだって」

「って、素人がそういうものをコレクションすると、大体ろくな事にならないのであります!」

「うん……殺人に使われたナイフを見つけた日から、

 急に子供の遺品ばっかり集めるようになって……弟のタケミツ君も怖がってたって。

 迷路のおもちゃも、射守矢先輩がタケミツ君に渡したって言ってた」

「そうか」

「迷路と同じように、リリー人形も、本当は射守矢が手に入れる予定だったんだ」

「犯人は、あちこちにちらばってた自分のコレクションを、

 射守矢にとりついて集めようとしてたのでありますね」

 しかし、リリー人形は、千舞のコレクションになった。

 スマホの画面に並んだ「返せ」の文字の意味が、千舞にはやっと分かった。

 それと、もう一つ分かった事がある。

 射守矢は――いや、彼に取り憑いた魂絡繰は、ただ、子供の遺品を集めていたわけではない。

 自分が殺した子供の遺品を集めていたのだ。

 

「生きてる間に人を殺して、死んでからもまた人を殺して……

 こいつぁオレが知ってる中でもトップクラスに邪悪な魂絡繰だな」

「許す訳にはいかないのであります」

「ああ……絶対に祓わないと」

 十狼太、希華、流が、力強く頷き合う。

 その時だ。

 

「祓う? 僕の事を祓うって?」

 廃墟の真ん中から声が聞こえて、千舞達は振り向いた。

 そこに、男の人が立っていた。

 黒いロングコートに、ズボンと、長靴……それに手袋までしているため、

 服の中身はほとんど見えない。

 唯一見える顔を見て、千舞は「ひっ」と声を上げた。

 

「……骸骨!?」

 マスクやメイクではない。

 白い骨と、空っぽの目に、むき出しの歯……服を着た骸骨だ。

 骸骨は、千舞が抱いているリリー人形を指さした。

「その人形……元の場所に戻してくれないか。僕の大事なコレクションなんだ。

 僕が最初に成功させた殺人の記念品なんだよ」

「いや! リリー人形はわたしの友達なんだから!」

 千舞がぴしゃりと跳ね除けると、骸骨は顎の骨をカタカタと鳴らして大笑いした。

「何がおかしいの!?」

「友達かぁ。君はそう思ってるかもしれないけど……リリー人形の方はどうかなぁ?」

「え?」

 いきなり、千舞の腕の中でリリー人形が目を覚ました。

 しかし口は耳まで裂けて、ギザギザの歯をがちがちと勢いよく噛み合わせ始める。

「リリー!? 何するの!?」

 千舞はよろけて、その場に倒れ込んだ。

 リリー人形は、そんな千舞に馬乗りになる。

「ちぃ!」

「リュウ! 危ねぇ!」

 千舞を助けようとした流の前に、

 ヒロアキとイモムシの化け物……ヒロアキと先生が立ちはだかった。

「リリー! お願い、やめて!」

 今にも千舞に噛みつきそうなリリー人形の顔を、どうにか押し戻そうとする千舞の耳に、

 骸骨の笑い声がゲラゲラと、五月蠅いくらいの声量で飛び込んできた。

「お願いなんて、意味ないよ。そいつらは、みんな僕のコレクションだ。僕の思う通りに動く」

「そんな……!」

 よく見ると、リリー人形の首には、金属製の首輪が、がっちりと嵌められている。

 ヒロアキと先生の首にもだ。

 皆、あの魂絡繰に操られているのだ。

 

「君達が死ねば、新しいコレクションが三つ増える。

 君達を殺した後は、あのキクノって子を殺して、ここに死亡記事を飾るよ」

「そうはいかないのであります!」

 刀と銃の音が聞こえるが、いくら倒してもキリがない。

 

「……リリー、ねぇリリー! 目を覚まして!

 わたしを守ってくれるって、約束したでしょ!?」

 びくりと、リリー人形が反応した。

 千舞に噛みつこうとする顎の動きがゆっくりになって、

 何かを思い出そうとするように、首を傾げている。

「わたし達、友達でしょ!? 倉庫であなたを見つけた時、凄く可愛いお人形だって思ったの。

 あなたが呪いの人形で、わたし、嬉しかった!

 だってお父さんはずっと仕事で忙しいし、お母さんもいなくて……

 でも、あなたと友達になってから、毎日楽しかった!

 夏休みなのに家に誰もいなくても、ちっとも寂しくなかったの!」

 ぽろぽろと、リリー人形の目から涙が溢れる。

「呪言をもって命じる! 呪術封緘……解!

 リリー! 目を覚まして! かなちゃんを殺した魂絡繰なんかに負けないで!」

うぁああぁあぁ!

 リリー人形が叫んで、バキン、と首輪が砕けて外れた。

 千舞とリリー人形は見つめ合って、ぎゅっと強く抱きしめ合う。

「ごめんね、ちぃちゃん! 酷い事しようとして、ごめんね!」

「リリーのせいじゃないよ、大丈夫……! 全部あいつが悪いんだから!」

 千舞は骸骨をキッと睨んだ。

 彼女は人を嫌ったり、憎んだりする事はほとんどないが、今は骸骨に強い憎しみを抱いている。

「リリー! あんな奴、やっつけちゃえ!」

「任せて、ちぃちゃん! あいつ、絶対に許さない……!

 よくもわたしにちぃちゃんを襲わせたわね!?

 よくも、よくもよくもよくも! よくもわたしのかなちゃんを!」

 リリー人形の体がみるみる大きくなって、骸骨に掴みかかった。

 骸骨はリリー人形の攻撃をひらりと避けると、一瞬力を溜めるように体を丸めて、

 こちらもリリー人形に負けないほど大きくなっていく。

 黒いロングコートがビリビリと疲れて、服の中のあばらが見えた。

 そのあばらの中に、たくさんの子供達の霊が見えた。

 あばら骨は牢獄のように固く閉じていて、子供達の霊は出られずにもがいている。

 あれは、この魂に殺された子供達だ。

 骸骨の手がバキバキと音を立てて変化して、大きな鎌の形になる。

 死神は大きな鎌で、リリー人形に襲い掛かった。

 

「十狼太さん、リュウ君、希華さん!」

「希華がやってくれた」

「ばっちりであります!」

 千舞の声に、流と希華が答えてくれた。

 彼女が振り向くと、希華、流、十狼太は、

 数えきれないほどのたくさんの化け物達を従えて立っている。

「自分、首輪だけ狙って壊すのは得意でありますよ!」

 希華が銃を構えて笑った。

 化け物達の首輪は全て壊れている。

 首輪を壊された化け物達は……先生やヒロアキや殺人犯に殺されたその他の子供達の霊は、

 流、希華、十狼太、サクリエル、リリー人形と共に殺人犯と戦ってくれるようだ。

 

 十狼太は素早く死神に間合いを詰め、希華は銃弾を二発、死神に放つ。

 流は刀を構えると、踏み込み突きを放った。

 刀は真っ直ぐ死神に突き刺さるが、骨は隙間だらけなので大したダメージは与えられなかった。

「いけないねぇ~、僕から離れるのは。君の命を吸い取っちゃうぞ~」

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 死神はリリー人形に向かって命を吸い取る術を放ちリリー人形の体力を吸い取る。

 リリー人形は防御しようとしたが相手の方が威力が大きく、ダメージを受けた。

 サクリエルは翼をはばたかせ幽霊達の力を高めると、幽霊達は傷ついたリリー人形を修復した。

「ありがとう……みんな。よぉし、行くわよ!」

「おうよ! 食らいな!」

 十狼太は舞うように死神を爪で切り裂き攻撃する。

 死神が鎌で攻撃を防ごうとしたが十狼太の動きはそれをすり抜けるほど速かった。

「いくであ……うわっ!」

 銃を撃とうとした希華を鋭利な闇の鎌が切り裂く。

 希華の身体から、ぼろぼろと赤い液体が滲んだ。

「あぁっ、希華さん!」

「隠世なら実際の体力には影響しませんが……それでも死んだら終わりであります」

「そうだな、絶対に祓ってやる!」

 流は刀で死神を突き崩し、鎌で切り裂かれながらも払い斬りで反撃する。

 サクリエル、リリー人形、そして霊達は傷ついた希華を癒した。

「幽霊なのに傷を癒すのは複雑であります。サクリエル、ありがとうございます」

「おしっ、相手の体力は残り僅かだ。これで決めるぞ!」

 そう言って十狼太は、思いっきり爪を死神に振り下ろし、

 大ダメージを与えて死神を戦闘不能にする。

 流は完全に動けなくなった死神の頭に着地して、刀を振り上げた。

 死神が、流の刀を見て悲鳴を上げた。

「なんだ! その刀は!」

「呪滌刀……呪いを祓う刀だよ」

「返せ! そいつらは僕のコレクションだ! そいつらは――!」

 呪滌刀が、死神の眉間に突き刺さる。

「お前には、選ばせない!

 お前なんか、オレのコレクションには絶対に入れてやらない! 消え去れ!」

 流が突き刺した刀の切っ先で、白い、光の球が砕け散る。

 空気が揺れるような大声を上げて、死神はひび割れて、さらさらと崩れていった。

 あばら骨の中に閉じ込められていた幽霊達も、同じように消えていく。

 一緒に戦ってくれたオバケ達も。

 だが、みんな喜んでいるように見えた。

 

「……ねぇ、やっぱり、オレ達、友達にはなれないや」

 ヒロアキが、千舞にそう言った。

 先生も、ヒロアキも、もう消えかけている。

「オレ達、やっと楽になれるんだ。あいつがいなくなったから」

「そっか……でも、わたし達、もう友達でしょ?」

 ヒロアキはにっこりと笑った。

 その目は、サインペンで塗り潰されたような黒い目ではなく、

 明るく優しく、元気な男の子の目だ。

 イモムシの化け物だった先生も、女の人の姿に戻って、さらさらと崩れて消えていく。

 気がつくと、千舞達は全員揃って、タケミツの部屋に立っていた。

 タケミツも、射守矢も、すうすうと寝息を立てている。

 

「六根清浄……俯仰天地に愧じず」

 流は、バラバラに砕けた迷路のおもちゃと、

 折れたナイフをじっと見つめながら、静かにそう言った。

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