とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

16 / 36
~前回までのあらすじ~

魂絡繰による事件は、無事に解決した。
その後、千舞、流、希華は、以前に行った事があるオバケ廃墟を訪れる。
彼らはそこが最早怖くない事を認識し、
以前に祓った魂絡繰がかつて彼らを襲った幽霊であった事を理解する。
その後、流と希華は千舞の学校に編入し、千舞の騎士になる事を決めるのだった。


第二章 とある患者の血まみれ病院(ブラッディホスピタル)
15~血まみれ病院の噂話


 放課後、希華は自宅に帰り、パソコンで呪術に関する情報を調べていた。

 早く調べなければ、千舞や流に遅れてしまうからだ。

 千舞は生贄の血筋で、流の刀も呪いを祓う特別な刀で、希華は霊感も呪力もない普通の人間だ。

 だから、希華は知識を身に着け、呪いへの対策を練ろうと考えたのだ。

 

「……へー。呪術ってこんなものでありましたか。

 藁人形に釘を打ちつけるのは典型的でありますが、他にも色々あるんですね。

 なんだ、これって魔法と同じでありますね」

 魔法も呪術も本質的には同じものだと知り、希華はますます食い入る。

「しかし……人を呪わば穴二つとはよく言うのであります。

 誰かを呪ったら、必ず本人に返ってくるって。そうすれば……自分は呪術なんて使えませんね」

 希華は呪術を使わないと決めた。

 どうせ自分に呪力はないのだから、使っても無駄だと知るのだった。

 

「ちぃ! 血まみれ病院って知ってる!?」

 さて、その頃の御神楽千舞である。

 千舞が寮の部屋でリリー人形と遊んでいると、突然部屋をノックされて、

 ドアを開けるとキクノが真っ青な顔で立っていた。

「病院は普通、血まみれなんじゃない? ケガした人が来たり、手術したりするんだし」

 千舞は目をぱちくりさせて答えた。

 しかし、この答えはキクノが望んだものとは違ったようだ。

「普通は掃除してあるからピカピカでしょ!」

 と、キクノは握りしめた両手をぶんぶんと上下させる。

「うーん。言われてみればそうかも……?」

「もー! ふざけてる場合じゃないんだよ! 血まみれ病院は、患者を集めてるんだから!

 わたし達も狙われるかもしれないんだよ!?」

 キクノは千舞をぐいぐい部屋に押し込むと、

 どこかから聞いてきたらしい血まみれ病院の噂を話し始めた。

 

 あのね、血まみれ病院っていうのは、五十年くらい前にあった病院なの。

 古くて、あちこちペンキが剥がれててね。

 病院の名前が書いてある一番大きなカンバンが、

 赤いサビで血まみれに見えるからそう呼ばれてたんだって。

 でも、それだけじゃない。

 その病院に入院すると、どんなに症状が軽い人でも死んじゃうんだって。

 でも、その町には、入院できる大きな病院がそこしかなくて……だから、

 倒れて救急車で運ばれると、どうしてもそこに入院しなきゃいけなかったの。

 無理やり退院しようとすると、地下の病室に閉じ込められるんだって。

 隔離病棟っていって……ええと、ほら、伝染病だっけ?

 他の人に移りやすい病気を治す時に使われる病室で、お見舞いの人も入れないの。

 でも、あんまりその病院で人が死ぬから、

 ある日、警察官が仮病を使ってその病院に入院してみたの。

 仮病だから、もちろんどこも悪くないんだよ?

 なのに「これは大変な病気だ」って言われて、手術する事が決まって……

 これは絶対におかしいって、警察が病院を調べる事になったんだって。

 そうしたら、入院してる患者はみんなベッドに縛り付けられてて、

 起き上がる事もできないようにされてたの!

 どこも悪くないのに、しなくていい手術をされて、飲まなくていい薬を飲まされて……。

 病院の院長は、そうやって健康な患者さんがどんな風に死んでいくのか実験してたんだって。

 院長? もちろん逮捕されたよ。

 看護師さんや、他のお医者さんも全員ね。

 でも、逮捕された次の日に、院長と職員達は、全員自殺しちゃったんだって。

 しかも院長が入れられてた独房には、壁に血でこう書いてあったの。

 

「次の患者を!」

 

 って。

 それで、血まみれ病院の院長は、死んだ今も新しい患者を探してるって噂が広まったの。

 ほら、町を歩いてると、

 時々「あれ? こんなところに病院なんてあったっけ?」って思う事って、あるでしょ?

 血まみれ病院は、そんな風に、気がつくと町のどこかにあるんだって。

 何もなかったはずの空き地とか、空っぽのビルがあったはずの場所とかに、

 赤いサビだらけのカンバンがある古い病院が。

 新しい患者を捕まえて、殺して、その魂を病院に取り込むために!

 

「……どう!? 怖くない!? ヤバくない!?」

 一気に話し終えたキクノは、千舞が用意したオレンジジュースを飲みほした。

 千舞はひざに抱いていたリリー人形と顔を見合わせる。

 しかし、千舞がリリー人形を動かしたわけではない。

 千舞が下を向いたら、リリー人形が上を見て、自然に視線が合っただけだ。

 このピンクのひらひらしたドレスをきた少女の人形は、

 自分の意思で動いて喋る、呪いの人形である。

「まさかとは思うけど」

 リリー人形はぴょんと千舞の膝から立ち上がり、

 テーブルの上に乗っかって、ずいとキクノに顔を近づけた。

「その血まみれ病院を見た――なんて言うんじゃないでしょうね?」

「わたしは見てはいないけど、どこかのクラスの誰かが見たって……」

「何よ、そのふわっとした噂話は!」

「だ、だってぇ」

 キクノは、リリー人形に睨まれて物怖じする。

 千舞の親友で、クラスメイトでもあるキクノは、霊感が非常に強い少女だ。

 非常に怖がりなため、あれこれとオバケの情報を集めては、

 どうにかしてオバケに会わずに済むように日々努力している。

 どこそこにオバケが出ると知っていれば、そこに近づかないようにできるからだ。

 最初はリリー人形の事も怖がっていたが、慣れれば動いて喋るだけの可愛い人形なので、

 こうして同じ部屋で一緒にお喋りができている。

 とにかく、世の中にオバケは本当にいるし、千舞とキクノはその事をよく知っている。

 だから血まみれ病院の噂も、話を聞いて「きゃー怖い!」と楽しむためのネタではなく、

 割と命の危険を感じる情報だ。

「陸上クラブの子達なんて、肝試しに行こうなんて言い出してて……一応止めておいたけど、

 何人かは本当に行っちゃうかも! ただの噂ならいいけど、もし違ったら?」

 キクノはまゆげをハの字にして千舞を見た。

「うーん……確かに、ちょっと心配だね。

 死んだ院長が新しい患者を探してるって話が本当なら、

 滅茶苦茶危ない気がするし……ちょっとリュウ君に電話してみる」

 千舞はスマホを取り出した。

 アドレス帳から「集堂流」をタップして、ビデオモードで通話を繋ぐ。

 呼び出し音が鳴る間、千舞とリリー人形とキクノで、揃ってスマホを覗き込んだ。

 

『ちぃ? どうし――うわっ!』

 ぱっとスマホに映った流が、弾かれたように仰け反ってカメラアウトした。

 千舞が画面に映ると思っていたのに、

 小さい画面に三人がぎゅっと集まって映っていたため驚いたようだ。

「なーによ。人をオバケみたいに」

 リリー人形は、そう言って不機嫌そうに腕を組む。

「呪いの人形は立派なオバケだと思うけど……」

 キクノがぼそっと呟くと、リリー人形は「そういえばそうだった!」と、

 何故かショックを受けている。

 流がスマホ画面に戻ってくると、千舞はヒラヒラと手を振った。

「こんばんは、リュウ君。今、大丈夫だった?」

『大丈夫だけど……どうしたんだ? 三人で集まって』

「ちょっと怖い話してて」

『怖い話?』

 流は目をしばたたいた。

『どんな?』

「血まみれ病院」

『見たのか!?』

 急に、流の表情が険しくなった。

 その勢いに、今度は千舞の方が驚いて仰け反ってしまう。

「み、見てないけど……キクノちゃんが、今日、学校で噂になってたって」

「あ、あのですね!」

 キクノが、千舞に張りつくようにして通話カメラを覗き込んだ。

 流は中等部なので、初等部の千舞達にとっては、同じ学校の先輩という事になる。

「病院の場所は分かってるんですけど、誰が見たの? って聞いても、誰も答えられなくて……」

 千舞は首を傾げた。

「誰が見たのかも分かってないのに、場所まで分かってるの?」

「だから、もしかしたら、ただのデマかもしれないんだけど……」

『いや、場所が分かってるのに、

 誰が見たかは分からないっていうのは、心霊現象ではよくある事なんだ。

 噂を広めた最初の一人がどうしても見つからないのに、気がつくとみんなが知っている』

「そ、そう! まさにそんな感じなんです!

 だって昨日まで、誰もこんな噂してなかったのに、今日になっていきなりみんな知ってて……」

『霊が噂を流すんだ』

 流は真剣な声でそう言った。

『そして噂を流すタイプの霊は、噂に集まってきた人を食う』

 千舞はリリー人形を抱きしめて、キクノの手を握った。

 急に、どこかから視線を感じた気がして、千舞は窓に振り向いた。

 窓もカーテンも閉まっていて、そこには何もない。

『ちぃ、キクノ。約束してくれ。二度と血まみれ病院の話はしないって。

 人の言葉には強い力がある。噂を口にするたびに、霊は噂話に寄ってくる』

 千舞は頷いた。

 キクノも、真っ青になって頷いている。

 はっとして、流は慌てて軽く微笑んだ。

『そんなに怖がらなくてもいい。大丈夫、オレと希華が祓っておくから』

「希華って?」

『別の学校の高校生だ』

「それで、病院を祓えるの?」

『病院をっていうか……病院の中にいる霊達を、かな。

 ちょっと変な言い方になるけと、これは病院の魂絡繰なんだ』

「たまからくり?」

 キクノが、不思議そうに聞き返した。

「あ、そうか。キクノちゃんは知らないんだっけ」

「え? 何々? 怖い話じゃないよね?」

「あのね、魂絡繰っていうのは、魂の力で動けるようになった物の事なんだって。

 魂で動く絡繰りだから、魂絡繰」

「それって、リリー人形みたいな?」

 キクノがリリー人形を見ると、リリー人形は「そういう事」と言って自慢げに胸を反らした。

「あと、勝手に部屋を動き回る日本人形とか、

 捨てても捨てても戻ってきちゃう呪いの鏡とかも魂絡繰なんだってさ」

「へぇ……だから空き地に急に現れたり消えたりする病院も、魂絡繰って事になる感じ?」

「多分そんな感じ……で、合ってる? リュウ君」

『まぁ、そんな感じかな』

 千舞とキクノがスマホを覗き込むと、流は曖昧に答えた。

「病院の中にいるオバケを祓うと、病院は消えるの?」

 千舞の質問に、流は頷いた。

『少なくとも、この町から追い出す事はできるはずだ。

 出たり消えたりするタイプの魂絡繰は、弱ると別の町とか、山奥とかに移動するから、

 そこから先は【ギャラリー】の仕事になるけど』

「【ギャラリー】って?」

 キクノが、またも聞き慣れない単語で不安そうになる。

「リュウ君と希華さんが所属してる、オバケ退治の会社みたいなところ。

 魂絡繰をやっつけたり、集めて仲間にしたりしてるんだってさ」

 千舞がそう説明すると、キクノはまたリリー人形を見た。

「つまりリリー人形は、集めて仲間にした魂絡繰?」

 キクノが首を傾げると、リリー人形はまた胸を反らして、

「そういう事!」

 と自慢げに言った。

「リリー人形は、魂絡繰の中でも強い力を持ってる。

 よほどの事がない限り、リリー人形がいれば他の霊は追い払えるけど……」

 うーん、と流は考える。

『なぁ、さっき、人の言葉には強い力があるって言っただろ?』

「うん、言われた」

『口にする言葉だけじゃなくて、文字にも力が宿るんだ。

 ほら、神社のお守りとか、護符とか。そういうのを「言霊」っていうんだけど』

 流は紙にさらさらと文字を書いて、スマホの画面にそれを映した。

 

 我此無

 

「よ、読めない……!」

 千舞とキクノが顔をしかめると、流は笑った。

『ガシムって読むけど……読み方は気にしなくていい。「わたしはここにいない」って意味だ。

 もし、手に負えない霊に襲われたら、これを握りながら

 「わたしはここにいない、わたしはここにいない、わたしはここにいない」

 って心の中で唱えるといい。多分、ほとんどの霊は二人を見つけられなくなる』

「それだけでいいの?」

『ああ。ただし、紙にちぃの髪の毛を挟んでおくんだ』

 千舞は目をぱちくりさせる。

「髪の毛? わたしの?」

 流は頷く。

『人の体のパーツには、霊的に強い力が宿るんだ。

 特に髪の毛は、呪いにもお守りにもよく使われる。

 ちぃは強い呪力を持ってるから、ちぃの髪の毛と言霊があれば、強力なお守りになる』

「す、凄い! すぐ作ろう! そのお守り! 今すぐ!」

 

 流に教わりながらお守りを作った千舞達は、通話を切った後、

 ついでにハンカチを縫って小さなお守り袋も作った。

 少々夜ふかしになったが、千舞は安心して眠れる気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。