希華はパソコンで呪術について学び、自分が呪術を使わないと決める。
一方、千舞とキクノは「血まみれ病院」という怖い話を聞き、
その病院が実際に存在する可能性を心配する。
彼らは流に連絡し、彼から霊を追い払う方法として「言霊」の力を利用する方法を教えてもらう。
千舞とキクノは流の助言に従ってお守りを作り、安心して眠る事ができた。
希華には呪力は無い。
それは理解しており、銃も特殊な弾丸を発射する呪具と呼ばれるものを使用している。
だが、負けず嫌いな希華は、千舞と流に遅れを取りたくなかった。
「簡単な呪文くらいなら、何とかなるのであります」
希華はパソコンで調べた呪術の情報を元に、何かに呪文を封じる手段を取った。
彼女はペンと紙を引っ張り出すと、紙に明かりをつける呪文を書いた。
もちろん、これだけでは良くないので、カーテンを閉めて、
サクリエルと二人きりになり、精神を集中した。
「……これで大丈夫であります?」
希華が呪文封じを確認すると、紙は光を放っていた。
しっかりと呪文が封じられている事が分かる。
呪力はないと言っても、適切な方法ならとりあえず、呪具は作れるのだ。
呪具が完成した事を確認すると、希華は頷いた。
「よし、連絡するのであります」
希華は、ギャラリーにメールを送った。
「行くぞ十狼太。準備しろ」
千舞との通話を切って、流は黒い木刀を手に取った。
呪滌刀……呪いを祓う力を持った、特別な木刀だ。
「行くって……今からか?」
くたびれたオオカミのぬいぐるみが、流の声に応じてやる気がなさそうに顔を上げる。
ぬいぐるみでありながら眠たそうに欠伸をして、そのままぺたりと机に伏せてしまう。
「おい、十狼太」
「まず【ギャラリー】に連絡して、作戦を立ててからだ。
血まみれ病院ってのがどんな魂絡繰か分からねぇし、
建物系の魂絡繰は、うっかり取り込まれると一生外に出られなくなる」
「そんな事、分かってる!」
イライラと怒鳴って、流は【ギャラリー】にメールを送る。
文は短い。
「血まみれ病院が町に出現した」
これだけだ。
すると、三十秒もしないうちに返信があった。
「正午に作戦開始」
「正午……!? そんなに待ってて、病院が消えたりしたらどうするんだ!」
思わず口にした言葉を、そのままメールにして【ギャラリー】に送った。
返信はない。
つまり、作戦の変更はない。
流は溜息をついて、ベッドにうつぶせに倒れ込む。
「落ち着けよ、リュウ。焦って一人で突っ込んで、お前が死んだら誰が千舞を守るんだ?」
流は答えず、むっつりと黙ったまま、枕に顔を埋めて目を閉じる。
「ま、焦る気持ちは分かるがな。なんせお前は、あの病院に『大切なもの』を奪われてる」
「取り返すさ……絶対に。どんな形でも。
五年も待って、やっとオレの手が届く場所に現れたんだ」
「だったら、万全を期するために、正午まで待つくらい何て事ないだろ?」
軽く笑って、十狼太はぬいぐるみの体から飛び出した。
すると、流より遥かに大きいオオカミの霊が現れる。
これが、十狼太の本当の姿だ。
死んで、霊になって、ぬいぐるみに封印される前の姿。
十狼太はその姿で、ベッドにうつ伏せで倒れている流の体を包み込むように丸くなった。
「困った時はお互い様だぜ、リュウ」
霊でしかない十狼太の体には温かさも、ふかふかとした毛並みの柔らかさもない。
だが、何となく安心できて、流は気がつくと朝までぐっすり眠り込んでいた。