とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

希華は呪術の知識を身に着け、自分で呪具を作る事に成功する。
一方、流は「血まみれ病院」の存在について千舞から聞き、
その対策を立てるために【ギャラリー】という組織に連絡する。
しかし、彼の提案した作戦は正午まで待つというもので、それに対して流は焦りを感じる。
だが、十狼太の助言により、流は落ち着きを取り戻し、朝まで眠るのだった。


17~呪いの救急車

「帰らないでね! 一緒にいてね! ずっとわたしの事見ててね!?」

 菊乃は本当に怖がりだ。

 昨日、お守りを作って部屋に帰っていった時は少々落ち着いて見えたが、

 今はまた非常に不安そうで、絶対に一人になろうとしなかった。

 理由を聞いても「噂をしたらダメだから」の一点張り。

 そして今は、放課後のクラブ活動中だ。

 菊乃が半泣きで頼むので、千舞は菊乃がグラウンドを走り回るのをリリー人形と見学している。

 流達が血まみれ病院を祓ってくれるといっても、連絡が来るまでは気が抜けない。

 

「人間って、変な事好きよねぇ」

 リリー人形は、短距離走や、ハードルや、

 走り幅跳びなどの練習をしている生徒達を見回して、不思議そうに首を傾げる。

「変な事って?」

「追いかけられてるわけでもないのに、あんなに必死に走り回るなんて」

「でも、普段から練習しておけば、いざ追いかけられた時に有利だよ?」

「そ、そういう事……!? 人間って真面目ねぇ」

「少なくとも、キクノちゃんはそうらしいよ」

 菊乃はリレーの選手だ。

 前の選手からバトンを受け取って、百メートル走って、バトンを次の選手に渡す競技だが、

 菊乃はアンカーなので、バトンを受け取ったら只管ゴールを目指して走る。

 初等部の女子生徒の中で、菊乃は一番足が速い。

 ゴールを目指して走る時は、いつもすぐ後ろにオバケがいる事を想像して走っているという。

 千舞が前に聞いた時は少々笑ったが、今は自分も走る練習をした方がいいと思うくらいだ。

「でも、ちょっと頑張り過ぎじゃない? なんかふらふらしてるけど」

 菊乃は100mを走り切って、はぁはぁと肩で息をしながらふらふらとグラウンドを歩いている。

 リリー人形の言う通り、少し危ない感じだ。

 そう思った、その時だ。

 

「――あ!」

 菊乃が、急にその場にばったりと倒れた。

 先生や周りの人達が驚いて、菊乃に走り寄る。

 千舞も慌てて菊乃に走り寄ると、菊乃は目を閉じて、苦しそうに「うーん」と唸った。

「動かさないで! 頭を打ってるかもしれない!

 鴻池さん、聞こえる? 大丈夫、今、救急車を呼ぶからね」

 先生が大きな声で菊乃に話しかけて、119にコールする。

 

「ちぃ……ちぃ、そこにいる……?」

 苦しそうに目を閉じたまま、菊乃は千舞を呼んだ。

「いるよ、ここにいる!」

 千舞は菊乃ノ手を握る。

「あのね、わたし、秘密にしてたの。噂をしたらオバケが寄ってくるって言われて、怖くて……」

「何? 何を秘密にしてたの?」

「昨日の夜、夢を見たの。血まみれ病院の夢。

 わたし、そこで手術台に縛られてて、手術されそうになって……必死にお守りを握って、

 『わたしはここにいない』って唱えてたけど、お守りは効かなくて……!」

 菊乃は怖くて、うなされて、何度も飛び起きていたらしい。

 そのため、菊乃は今日はずっと不安そうであり、寝不足で具合が悪かったのだ。

「ただの夢だよ、キクノちゃん。大丈夫!

 リュウ君と希華さんが祓ってくれるし、わたしが傍についてるから。

 リリー人形も一緒だよ。わたし達が守ってあげる」

「うん、信じてる」

 少しほっとしたように、菊乃は笑った。

 すると遠くから、救急車のサイレンが聞こえる。

「キクノちゃん、もうすぐ救急車、来るからね!」

 千舞がそう言って菊乃を励ますのと、ほとんど同時だった。

 

「患者さんを担架に乗せます」

 急にぽんと肩を叩かれて、千舞は驚いて飛び上がった。

「え、もう!?」

 気がつくと、救急車のサイレンは聞こえなくなっていた。

 菊乃は二人の救急隊員に担架に乗せられて、

 いつの間にかグラウンドに到着していた救急車に運び込まれていく。

 千舞もそれに付き沿って、救急車に乗り込んだ。

 

「先生、早く――」

 乗ってください、と声を上げかけた千舞の鼻先で、バタンと救急車のドアが閉まった。

 そして、救急車はサイレンを鳴らして猛スピードで走り出す。

「ちょ、ちょっと待ってください! まだ先生が乗ってません!」

 千舞が慌ててそう言うと、救急隊員のおじさんは、菊乃を見つめたままにっこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。すぐ病院につきますからね」

「そ、そうじゃなくて……!」

「大丈夫ですよ。すぐ病院につきますからね」

「……どういう事?」

「大丈夫ですよ。すぐ病院につきますからね」

 千舞は前に一度、救急車に乗った事がある。

 救急隊員の人は救急車の中で、倒れた人に呼びかけたり、血圧を測ったり、

 大忙しのはずなのに、目の前の人物はただ、菊乃を見つめているだけで何もしようとしない。

 それに、同じ事しか言わない。

 

「ちぃちゃん! そいつ、生きてる人間じゃない!」

 リリー人形が叫んだ。

 ぐわっとリリー人形の体が大きくなって、救急隊員に掴みかかる。

 やっと、救急隊員はリリー人形を見た。

 穏やかだった救急隊員の口が、急に耳まで一気に裂けて、

 鼓膜が破けそうなほど大きな声で笑い始める。

 笑い声というより、ほとんど救急車のサイレンのような凄まじい音だ。

 千舞が思わず耳を塞ぐと、救急隊員の首が、凄まじいスピードでぐるぐると回り始めた。

 左を向いた首が、真後ろに回って、また正面を向いて、ぐるぐる、ぐるぐる。

「あーもー! 五月蠅い!」

 リリー人形はイライラと叫ぶと、救急隊員を丸呑みにしてしまった。

「こんな車、とっとと止めて降りなきゃ!」

 リリー人形は、次は救急車の運転手に掴みかかる。

 

「ダメですよぉ、暴れたら。事故が起こっちゃいますからねぇ」

 すると、運転手は滅茶苦茶にハンドルを回して、アクセルを思い切り踏み込んだ。

 救急車が右に左に大きくゆれて、ふわっと浮かび上がる感覚があって――

 

―ガシャーン!

 

 救急車がどこかにぶつかった。

 衝撃で、千舞は救急車の壁に頭をぶつけて、一気に目の前が暗くなる。

 

「大丈夫ですよ。もう病院につきましたからね」

 遠ざかる意識の中で、穏やかな声が聞こえた。

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