とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞は全身をベルトで固定された車椅子に座らされ、首のないバラの看護師に押されていた。
彼女は診察室に連れて行かれ、一つ目の院長に「大変な病気」であると診断される。
千舞は手術を受ける事を恐れ、叫び続けるが、口を塞がれてしまう。
しかし突然、謎の少女が現れて千舞を救出する。
彼女は彼らと一緒に安全な場所に連れて行かれ、息を整える。
千舞が彼らの正体を尋ねると、彼らもまたこの病院に連れてこられたと答えた。


19~呪われた子供達

 答えてくれたのは、小学校低学年くらいの女の子だ。

 綺麗な黒髪を腰まで伸ばしていて、目つきはキリッと鋭く、

 どう見ても千舞より年下なのに、千舞は年上のように感じる。

 しかし一番目立つのは、左目を覆っている眼帯だ。

 黒い布で作ってあるしっかりとした眼帯で、何となく、怪我や病気でつけるものと印象が違う。

「何? あなたもシズカの目を変だって言って笑うの?」

「え!? あ、ごめん……! じっと見ちゃって……!

 こう言ったら失礼かもしれないけど……オシャレだなって思って」

「あ、そう」

 千舞がへらりと笑うと、女の子は少々照れたように眼帯を触って、そっけなく言う。

「ええと……シズカちゃん、で、いいのかな? 四年生くらい?」

 千舞の質問に、シズカは首を左右に振った。

「まだ二年。お姉さんは?」

「わたしは千舞。ちぃって呼んで。ちなみに五年生」

 千舞が自己紹介すると、子供達は次々に前に出て、自己紹介をしてくれた。

「あたしはカズハ。中学三年だから、この中では一番年上。

 さっき、車椅子を押して走ったのはあたし。乱暴にしちゃってごめんねぇ」

「ボクはハルヤ。こっちは弟のナツキ。ボクが十歳で、ナツキが五歳。

 さっきバラの看護師にタックルしたのはボクだよ」

 自慢げに胸を逸らしたハルヤの後ろにそっと隠れ、

 ナツキは「ナツです。よろしくお願いします」と礼儀正しく挨拶してくれる。

「ちぃは一人でここに来たの?」

 カズハの質問に、千舞は首を左右に振った。

「多分、どこかに友達がいると思うんです。

 一緒に救急車に乗ってて、それがぶつかって、気がついたらここだったから……」

「敬語なんて使わないでいいよ。

 あたしは年上ってだけで、あたし達を守ってくれてるのはシズカだから」

 カズハは少々困ったように笑って、逆に全く笑わないシズカの肩にそっと両手を置いた。

「シズカには霊能力があるの。オバケがどこにいるか分かるし、オバケの弱点が分かるんだって。

 マジでシズカがいなかったら、あたしらとっくに終わってたわ!」

「……別に、あなた達を守るためにここに来たわけじゃない」

 シズカは突き放すように言って、俯いた。

「どういう事……?」

「もう一人いたんだ、本当は。

 マヤちゃんていう女の子で……シズカのちょっと前に病院に来て、

 手術室に連れて行かれちゃった」

「手術室って……」

 千舞はバラの看護師と、院長の言葉を思い出した。

 無意識に首を撫でると、子供達も同じように首を撫でる。

 シズカはぎゅっと唇を噛んで、ぽつぽつと話し始めた。

 

「院長は、ここに来た人を、手術で化け物に変えちゃうの。

 手術されるまでは人間でいられるけど、手術されたら院長の手下になっちゃう。だから――」

 シズカは、千舞達全員に背中を向けた。

 まるで、誰にも顔を見られたくないように。

「マヤちゃんはもう、助けられない。助けられたって、この病院から出る方法も分からない!

 シズカの目を怖がらないでいてくれた、たった一人の友達なのに……!

 みんなの事だって、いつまで守れるか……」

「だ……大丈夫、助かるよ!」

 千舞の言葉に、シズカは顔を上げた。

 だが、振り向いたシズカの表情は険しい。

「どうしてそんな事言えるの?

 さっきだって車椅子に縛り付けられて、何もできなかったじゃない!」

「それは……」

「シズカ達だって、今まで何度もここから逃げようとした。でも、出られないの。

 外に続くドアも窓も、全部カギがかかってて開けられない。

 カズハが棒で叩いても、椅子を投げつけても、窓を割る事もできないんだから!」

「それ、本当……?」

 シズカがウソを言っているようには見えなかったが、

 千舞はどうしても聞き返さずにいられなかった。

 カズハも、ハルヤも、ナツキすら、千舞の質問にこくりと頷く。

 シズカは泣き笑いのような表情で千舞を見た。

「ほら、ね? 何も知らないのに、助かるなんて簡単に言わないで。

 シズカ達にできるのは、逃げ回る事だけ。いつか捕まって、手術されるまで」

 一瞬、千舞まで絶望しそうになってしまった。

 しかしすぐに、そんなに悪い状況ではない事を思い出す。

 昨日、流と話した事を思い出す。

 だから、千舞はやはり言い切れた。

 シズカには、無責任な言葉に聞こえるかもしれないが――

 

「そんな事ない。絶対に助かる」

「いい加減にして! シズカ達は助からない!」

「そんな事言っちゃダメ! 言葉には力が宿るの。

 そんな風に“助からない”って言ってたら、本当に助からなくなっちゃう。

 大丈夫。助かるから。助けが来るから!

 わたしがここにいるって、外にいる友達が気づいてくれるはずだもの!」

「助け? そんなの当てにならない! シズカの事だって、誰も助けに来てくれなかった!

 ずっと待ってるのに……お兄ちゃんは、シズカがここにいるって知ってるはずなのに!」

 その時だ。

 

―ザ、ザザザ……ザ……

 

 マイクノイズのような音が、天井の方から聞こえてきた。

 見上げると、壁には古いスピーカーが張りついている。

「何……? 放送……?」

 千舞が呟くと、急に、わっとナツキが泣き出した。

 ハルヤはナツキを抱き寄せて、その両耳を塞いでいる。

 何か、良くない放送が始まるらしい。

 

『これより手術を始めます』

 そんなアナウンスが流れ始めた。

 これは、院長の声だ。

 

『可愛いお花でいっぱいにして、綺麗でみんなに愛される病院を目指しましょう。

 それでは、お花を咲かせたい医師と看護師は、手術室に集合してください』

 

 ブツリと、耳障りな雑音を残して、放送が終わった。

 全身から、さぁっと血の気が引いていく。

「ちぃ……あんたさっき、友達と一緒に病院に来たって言ってたよね?」

 カズハの質問に、千舞は頷く。

 院長が診察室で千舞の手術を決めた時、「今日は別の手術がある」と言っていた。

 つまり、今日はキクノを手術する予定だったらしい。

「助けに行かなくちゃ……! 手術室ってどこにあるか知ってる!?」

「む、無茶だよ! 手術室の周りには、どんな小さな物音にも反応する化け物がいるの。

 とてもじゃないけど近づけないって! それに、どうせ……」

「どうせ、何?」

 千舞はカズハを真っ直ぐに見た。

 カズハは「どうせ」の続きが言えなくて、困ったように俯く。

「わたしは助けに行く。守ってあげるって約束したもの。

 だから絶対にキクノちゃんを見捨てたりしない!」

 千舞は、倉庫の子供達を見回した。

「お願い、手術室の場所を教えて。わたしが一人で行くから」

「ううん。シズカが案内する」

「え?」

 急に、シズカが倉庫の外に向かって歩き出した。

 千舞は慌てて、シズカの手を掴む。

「待って! ダメだよ、シズカちゃん。手術室は危ないんでしょ?

 わたしが友達を助けたいだけなのに、あなたまで危ない目に遭う事ない」

「別にあなたのためじゃない」

 シズカは、拳をぎゅっと握り締めて、廊下に向かうドアを睨みつけた。

「ただ、こう思ったの。

 危ないって分かってるのに、あなたが友達のために手術室に行くって言うなら……。

 あなたが待ってる『友達』も、もしかしたらほんとに助けに来てくれるのかもって。

 だったら……ほんとに助けが来るなら、あなたの友達を助け出して、

 ほんの少し逃げ回るくらいなら、できるかもしれないって」

「でも、それってやっぱりわたしのためじゃない?」

「違うよ」

 シズカは、少しだけ微笑んだ。

「本当はシズカだって、みんなの事、助けたい。

 無駄じゃないなら……無意味じゃないなら……少しくらい怖くても、

 つらくても、大変でも頑張れる」

「ありがとう、シズカちゃん。じゃあ、一緒に――」

 「一緒に行こう」と言おうとして、千舞はぐっと言葉を飲み込む。

 シズカは、そんな千舞を不思議そうに見上げた。

「ちぃ?」

「シズカちゃんは、オバケの位置が分かるんだよね?」

「え? うん」

「それじゃあ……もしかして、今日増えたオバケのいる場所って、分かる?」

 シズカは首を傾げる。

「分かるよ。凄く強いのが一体増えた。

 じっとして動かないみたいだから、そこに近づかなければ大丈夫だと思うけど……」

 恐らく、それがリリー人形だ。

 シズカは、霊の居場所は分かるが、流と違って戦えない。

 霊感が無いが戦える希華とは、正反対だ。

 今、何よりも必要なのは、リリー人形の戦う力だ。

「シズカちゃんにお願いしたい事があるの。

 もしかしたら、わたしと一緒に手術室に行くよりも、危ない事かもしれないんだけど……」

「何? 言ってみて」

「信じてもらえないかもしれないけど、わたしを守ってくれるオバケがいるの。

 リリー人形っていう、ピンクのドレスを着た可愛いお人形。

 でも、気を失った時に、どこかに行っちゃって自分で動き回れる子だから、

 わたしを探しに来ないって事は、どこかに閉じ込められてるかもしれない」

「それを、シズカなら見つけられるんじゃないか……って事?」

「できる?」

 千舞が期待を込めて見つめると、シズカは少しも千舞を疑っていない目で見つめ返してくれる。

「閉じ込められてるなら、保管庫で間違いないと思う。

 院長は、この病院に連れてこられた子から、『大切なもの』を取り上げるの。

 カズハさんはシールブックを取られたし、ハルヤ君はおもちゃの車を取られてる。

 ナツキ君は猫のぬいぐるみ」

「シズカちゃんは?」

「……お兄ちゃんの写真」

「そっか……お兄ちゃんと仲良しなんだね」

 シズカは、こくりと頷く。

「お兄ちゃんは、危ないからこんなところに入っちゃダメだって、シズカの事を止めてくれたの。

 でも、シズカは言う事を聞かなかった。シズカなら友達を助けられるって、そう思って……」

 シズカは少し黙って、すぐに気を取り直して顔を上げた。

「だから、謝らなくちゃ。

 この病院から逃げ出して、またお兄ちゃんに会って、ごめんなさいって言わなくちゃ」

 シズカは二年生とは思えないほど、本当に心の強い人物だ。

 千舞は力強く頷き返す。

「みんなで一緒にここを出よう。

 リリー人形さえ取り返せば、絶対にみんなを守ってくれるし、助けてくれるから!」

 すると、今まで黙っていたカズハが、シズカの隣に立って、その肩を抱き寄せた。

「あ、あたしがシズカと一緒に行く!」

「え? カズハさんが……?」

 千舞は驚いて、目を瞬《しばたた》いた。

「でも……」

 千舞が疑いの目でカズハを見ると、カズハは少々気まずそうに肩を竦めた。

「年下のシズカとちぃが頑張ってるのに、

 あたしばっかり“怖いから何もしたくない”なんて言ってられないよ。

 それに、保管庫にはいつも化け物がうろついてて、

 あたし達から取り上げた『大切なもの』を守ってる」

「そ、そうなの?」

「だから、あたしが化け物の気を引いて、その間にシズカがリリー人形を取り返す。

 そういう作戦でどう? シズカ」

「まぁ、悪くないんじゃない?」

 シズカはカズハの提案に、ぶっきらぼうに返した。

 しかし、一緒に行くと言ってもらえて嬉しそうだ。

「じゃあ、ちぃはボクが案内する! 手術室まで行ける秘密の道があるんだ」

 ハルヤも挙手したが、千舞は首を左右に振る。

「ダメだよ。ハルヤ君は、ナツキ君を守ってあげなきゃ。

 連れていくのは危なすぎるし、置いてはいけないでしょ?」

「そ……そうだけど……女の子を一人で行かせるなんて……」

 思わず、千舞は噴き出してしまった。

「なぁに、その昔のマンガみたいなセリフ。オバケ相手に、男の子も女の子も関係ないよ」

「む、むかしのマンガじゃないよ! マンガの主人公はみんなそうだよ!」

 ハルヤは唇を尖らせて、ぷいとそっぽを向く。

 そして、ナツキをそっと抱き寄せてこう言った。

「でも……ここにいるよ。ここでナツキを守ってる」

「うん、お願い」

 そして、千舞達はハルヤとナツキを残して、倉庫から飛び出した。

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