千舞は血まみれ病院で、院長と他の患者と出会った。
院長は、過去に看護師に殺された少女、ヤマザト カエの死を隠蔽した。
この事実が露見すると、病院はカエの呪いによって次々と不幸な出来事が起こる。
それを知った千舞は病院から脱出し、他の人々を助けるために戻る事を決意した。
「みんな! 戻ってこられたんだ!?」
「うん、何とか……」
「っていうか……だ、誰? その人達?」
ハルヤは、急に増えたメンバーに怯える。
流、希華、キクノはともかく、リリー人形と十狼太とサクリエルが増えているため、
急にオバケが乗り込んできたものだ。
「えーっと、まず……この子がキクノちゃんで、手術されそうになってたわたしの友達。
この人形が、さっき言ってたリリー人形で、この男の子がリュウ君で、この女の人が希華さん。
わたし達を助けに来てくれたの。
その仲間の十狼太さんとサクリエルさん。悪いオバケじゃないよ」
ハルヤは十狼太を見て「噛まないよね?」と心配そうだ。
しかしナツキは、十狼太を見て怖がるどころか、「おっきいワンワン!」とはしゃいでいる。
サクリエルは、カズハに懐いていた。
「あの、千舞殿。それ――手に何を持っているのであります?」
「え?」
希華に聞かれて、千舞は自分の手を見る。
「四つ葉のクローバーの……?」
千舞は希華を見た。
「わたし、さっき夢を見たの。院長がまだ生きてて、普通に病院に人が入院してる時の夢」
「それは……病院の記憶……でありますか?」
「分からないけど……希華さん、ヤマザト カエって知ってる?」
「いえ、聞いた事はありません。夢で会いましたか?」
「会ったっていうか……その子が殺されるところを見たの。多分、この病院の看護師さんに。
でも、院長と看護師さんはそれを隠して、事故で死んだように見せかけたの。
それで、ヤマザト カエが怒って病院を呪ったんだって」
説明しながら、千舞はだんだん不安になってくる。
「ほんとに、わたししか見てないの……?」
「自分達は見てないのであります。でも、千舞殿を疑ってはいません」
「ほんと……?」
「ちぃちゃんは、生け贄の血筋だから、オバケの記憶とか、気持ちとかを感じやすいのかもね?
あたし達がどんなに頑張って語りかけても、受け取ってくれる人って本当に少ないから」
リリー人形はそう言って、千舞の手から、ぱっと栞を取り上げる。
「でも、これは『物』って感じじゃないわねぇ。どちらかというと『護符』かしら?」
「護符? って、お守りみたいな?」
「そんな感じでありますね」
「魂絡繰は、人を呪うだけじゃないからね。持ってたら、危ない時に守ってもらえるかも。
大事にしまっとくのよ。さっきは結構危なかったし」
リリー人形は、栞を千舞の胸ポケットにぎゅっと押し込む。
「そういえば、どうやってリュウ君達を呼んだの?
なんか、ドア出してたけど……あれを使えば、すぐにここから出られる?」
「むーりーでーす」
リリー人形はキリキリと首を一回転させながらそう言った。
「あれは隠世限定。ここは正確には『呪物である病院の中』であっていうなれば霊場って感じね。
心霊スポットっていうか?」
「そ、そうなんだ……」
「隠世にいる間は、別の隠世にいるオバケに連絡できるの。
つまり、院長があたし達を自分の隠世に呼び込んでくれたから、
十狼太とサクリエルに連絡が取れたってわけ」
「そうなんだ……?」
千舞は十狼太とサクリエルを見る。
サクリエルは、ふわふわ浮いている。
十狼太は後ろ脚でかりかりと耳を掻きながら言った。
「ま、呼ばれたら聞こえるし、気が向いたら答える。招待されれば行き来もできる。
隠世も現世も、そんな感じのルールだ」
「そうなの?」
千舞は、今度は流と希華を見る。
「十狼太がそう言うなら、そうなのかもな。
正直、霊の世界のルールはオレにも分かってない事だらけなんだ」
「幽霊にも決まりはあるのでありますか」
流は軽く笑って、刀を腰に提げた。
「それにしても……まさかこんなに無事な人がいたなんてな」
流は、倉庫にいる子供達を順番に見る。
「あ、そうか。リュウ君にも紹介しなくちゃね! えーと、まずは……」
「……シズカ?」
シズカを見た瞬間、流は息を止めて、大きく目を見開いた。
彼女の方も、信じられないような目で流を見ている。
「ウソでしょ……リュウ兄ちゃんなの?」
希華は「なるほど」と頷いた。
千舞はあまりの事に、口をあんぐりと開けて流を見る。
「リュウ君って……妹がいたの?」
「ああ。ずっと探してたんだ。シズカが血まみれ病院に奪われてからずっと」
「道理で似てると思いましたよ」
流はシズカの前に両膝をつき、その体をぎゅっと抱きしめた。
「よかった……! また会えて、本当によかった!」
流は泣きそうな声で言う。
「は……離して!」
シズカは、怒ったように流を突き飛ばした。
彼女は、目に涙をいっぱいに浮かべて、首を左右に振る。
「違う……あなたがリュウ兄ちゃんのはずない。だって……シズカ達は双子だもの!」
シズカは、保管庫から取り戻した大切なもの……兄の写真を千舞達に突きつけた。
右目が金色の男の子の写真……まだ小さい頃の、流の写真だった。
千舞が会った頃の流よりまだ少し小さいが、間違いなく彼は、集堂流だ。
「シズカ……ごめん……!」
流は、もう一度、今度はゆっくりとシズカを抱きしめる。
「五年経ったんだ。病院の外では、もう五年経ってるんだ……
シズカは友達を助けるためにここに来て、そのまま病院に閉じ込められた。
長い間、助けに来られなくてごめん……ごめん……!」
シズカはわんわんと泣き出した。
だが、希華以外は流の言葉の意味を理解できずにいた。
カズハはシールブックをぎゅっと抱きしめて、おずおずと口を開く。
「ど、どういう事? 五年経ったって……あたし、
まだシズカと会って五日くらいの気持ちでいるんだけど……?」
「それは多分、神隠しであります」
混乱している千舞達に、希華は真剣な声でそう言った。
「パソコンで調べましたが、ある日、突然姿を消した子供が、
十年後、子供のままの姿で戻ってくる事があります。
何があったのか子供に聞いても、
子供はけろっとして『山でちょっと遊んでただけ』と答えるのであります」
「神隠しって……そんな昔話みたいな事が、本当に起こるわけない!
ねぇ、からかってるんでしょ?
あんたはシズカのお兄ちゃんじゃなくて、ちょっと似てる親戚か何かなんでしょ?」
カズハはどうしても信じられない様子で、流に詰め寄った。
流は少し困って、シズカを見る。
「シズカ。眼帯を外せるか?」
「……うん」
千舞が質問するより先に、シズカは眼帯を外している。
その、左目は……。
「あ……リュウ君と同じ……」
「ですよね」
金色の目だ。
流は右目が金色だが、シズカは左目が金色。
「オレは、シズカ以外にオレと同じ目を持ってる奴を見た事がない」
「シズカも、リュウ兄ちゃん以外に、金色の目の人なんて知らない」
シズカはもう、流が実の兄である事を受け入れているようだった。
千舞はカズハと、彼女が抱きしめているシールブックを見た。
シールブックの背表紙に、日付が書いてある。
「……平成十五年?」
思わず千舞が読み上げると、カズハはシールブックを見る。
「あぁ、うん。去年から使ってるんだけど、そろそろいっぱいになりそうなんだ。中、見たい?」
千舞はカズハからシールブックを受け取った。
開くと、そこにはゲームセンターで作れる、写真シールがたくさん貼ってある。
日付は平成十五年のものと、後半は平成十六年のものだ。
友達とポーズをキメていて、楽しそうだ。
……だが、この日付は今から二十年近く前の日付だ。
千舞はハルヤを見る。
「ハルヤ君。誕生日って、いつ?」
「ボク? 昭和六十年の十月だけど」
「昭和!? そんなはずない! だってあたしが平成生まれなのに……」
カズハは叫んで、それから、はっとしてシズカを見た。
「この病院と、病院の外だと、時間の流れが違うって事?」
流は首を横に振った。
「そうじゃない。君達は確かにこの病院で何十年も過ごしてるんだ。そうと気づいてないだけで」
「気づいてないって何!?
何十年もこんな病院に閉じ込められてたら、気がつくに決まってるじゃん!
お腹だって空くはずだし、それに――!」
「気がつかないんだよ。
そしてどんどん、人間としての形を失って、自分が誰だったのかも忘れていく。
むしろ、何十年もここにいた君達が、人間である事を忘れてない方が不思議なんだ」
カズハが、へたへたと座り込んで、頭を抱えた。
「じゃあ、あたしの友達は? パパとママは?
病院から出られても、あたし、一人ぼっちじゃん……!」
「……でも、ここにいるよりずっといいよ」
静かに、だが、はっきりとハルヤはそう言った。
千舞達は、ハルヤを見る。
「だって病院から出られたら、もうこそこそ隠れたり、怖い思いをしたりしなくていいんだ。
ボク達が本当に、何十年もここにいたなら、もう一日もここにはいたくない」
「ハルヤ殿……」
彼は続けて話す。
「ボク、もうお父さんとお母さんの顔を思い出せない。
思い出せない事にも、今まで気づけなかった。お父さんとお母さんなんていないと思ってた!
ボク、忘れかけてるんだ! 大事な事、色々! そんなの絶対に嫌だ!」
カズハは、ごしごしと涙を拭い、そして立ち上がる。
「そうだよね。あたしもそう。でも、シールブック見て、思い出せたよ。友達の顔。
あたしには、こんなにたくさん友達がいたんだって事。あたしも忘れてた。
あたしも早く、こんなところ出ていきたい!」
「あぁ、オレもそれに賛成だ。シズカを助けるついでに病院を祓おうと思ってたが……
ちぃやキクノまで一緒じゃ戦いにくい。一度帰ろう」
「戦うのは後でありますね」
「あ、でも……! みんな、病院からは出られないって。
ドアも窓も開かなくて、割ろうとしても無理だったって」
「あぁ、それはもう大丈夫よ。みんな『大切なもの』を取り返したでしょ?」
リリー人形がさらりと言う。
千舞が首を傾げると、流がリリー人形の説明を補足してくれた。
「『大切なもの』って、人の魂に深い繋がりがあるんだ。
だからそれを奪われると、人は霊的にそこに縛られる事になる。魂絡繰も『物』に宿るだろ?」
流はそう言いながら、シズカを十狼太の背中に座らせ、希華も何とか登る。
「ほら、お嬢ちゃんも乗った乗った」
千舞はリリー人形を抱き上げて、キクノと共に十狼太の背中によじ登る。
カズハが、ハルヤとナツキを手伝って、全員しっかり十狼太の背中にしがみついた。
「飛ばすぞ! 落っこちたら拾ってやれねぇからな!」
流が十狼太の頭に座ると、十狼太は軽く頭を振って倉庫から飛び出した。
十狼太がオオカミの姿で廊下を走ると、どんな怪物も追いつけなかった。
彼はあっという間に病院の受付まで駆け抜けて、
鎖でガチガチに鍵がかかっている扉に体当たりする。
ギシギシ、ギシギシと鎖がきしんだ。
これならすぐに出られそうと千舞が思った、その時だ。
「……退院してしまったら、二度とお友達には会えませんよぉ。
何せ、この子は重病人。面会謝絶ですからねぇ」
院長の声がして、千舞達は振り返る。
頭の大きな、一つ目の院長が、長すぎる腕を思い切り広げて、千舞達に話しかけていた。
「いいんですか? この患者は、あなたのお友達ですよねぇ?」
そう言って、院長が肩を抱いたのは、ヒマワリ頭の女の子だった。
人間の首の代わりに、花がある……手術をされたという、シズカの友人だ。
「――マヤちゃん!」
千舞がダメ、と声をかける間もなく、シズカは十狼太の背中から飛び降りた。
思わず千舞も飛びおりて、シズカを追いかける。
ヒマワリの女の子……マヤに駆け寄ろうとするシズカの腕を、千舞は掴んで引き戻した。
「シズカちゃん、ダメ! 行ったらあなたも手術されちゃう!」
「でも、ここに置いていけないよ! 友達なのに!」
シズカが泣きながら言うと、院長は大きな頭で、ぐわんぐわんと、
大きな鐘が響くような笑い声を上げた。
「そうですとも。病気が治れば、みんなで退院できるんです。
我儘を言わないで、入院をして、手術を受けて、みんなで元気になりましょう」
「ふざけないで! わたし達は病気じゃない! 分かってるでしょ?
院長先生。どうしてそんな風になっちゃったの?
患者を大事にする人だったのに……病気の女の子にあんなに優しくできたのに!」
千舞は、霧の中で女の子にもらった四つ葉のクローバーの栞を院長に向かって突き出した。
「そ、それを……どこで……どうして……」
院長は大きな一つ目をさらに大きく見開いて、栞に向かって手を伸ばす。
「あなたが患者を助けようとする気持ちは本物だったでしょ?
どんなに頑張っても助けられなくて、助けたい人が死んじゃって、
だからって死ななくていい人まで死なせていいの?」
「五月蠅い、返せ! その栞を返せ!」
院長は、地団太を踏んで怒った。
だが、襲ってこない。
千舞が護符となる栞を持っているため、彼女を攻撃できないのだ。
夢の中で、女の子は千舞に「間違いを正して」と言ったが、千舞にはまだ分からなかった。
いや、考えなくても分かった。
「この子が死んだのは、ヤマザト カエの呪いのせい。
でもその呪いは、院長がヤマザト カエの本当の死因を隠したせい」
「よせ! それはヒミツだ! 誰も知らないヒミツだ! 誰も知ってはいけない!
誰にも言ってはいけない!」
「看護師が……ううん。病院がヤマザト カエを殺したの。
看護師にいじめられてたのに、誰も気づいてあげなかった! 誰も助けてあげなかった!
命まで取られたのに、それも自分のせいにされて、そんなの誰だって怒るに決まってる!」
千舞の言葉に合わせてパキパキと、院長の体に罅が入った。
少しずつ体が崩れて、どんどん小さくなっていく。
「あなたの病院なんて、潰れたってよかった。
だってそうしたら、新しい病院ができたかもしれない。町の人が引っ越したかもしれない。
あなたが病院を守るために、ヤマザト カエの呪いに町の人達を巻き込んだ。
この栞の女の子だって、あなた以外の医者が治療してたら助かったかもしれない!」
「あぁああぁ! あぁあぁあああぁ!」
院長の長い腕が、肩からごとりと床に落ちた。
一つ目の頭がなくなって、下から出てきたのは、
千舞が夢で見たのと同じ、人間の姿をした院長だった。
院長はぼろぼろと泣きながら、床にうずくまっている。
「すまない……すまなかった……分かっていた……隠すべきではなかった。
罪を償わせるべきだった。私も償うべきだったのに、私は……!」
おいおいと泣く院長の周りを、ぐるりと怪物が取り囲んだ。
院長が、手術で頭を花にした人達だ。
「許してくれ……許してくれ……! 許してくれぇええぇ!」
花の怪物達は、院長に群がって、何かをしているようだった。
しかし、千舞達からは何も見えない。
院長の悲鳴が響いて、怪物達が、ふと全てに興味をなくしたように、
ふらふらとその場を離れると、
そこには、頭に百合の花を咲かせた白衣の医者がたった一人、
取り残されたようにゆらゆらとゆれていた。
胸のネームプレートには、「院長」と書いてある。
「……まだ、黒幕がいるのであります?」
希華はうろたえた。
院長の間違いを正したのに、まだ頭が花の人達はそのままだった。
ただ、院長が花の怪物になっただけだ。
クスクスクスクスと、笑い声がどこかから聞こえてきた。
ヤマザト カエの笑い声だ。
「ぜぇったいに、許さない」
そして、彼女は千舞の耳元で囁いた。
「来ましたね、ヤマザト殿!」
慌てて希華は飛び降りて、銃を構える。
十狼太から飛び降りてきた流がどうしたらいいか分からずにいる千舞の腕を掴んで引っ張った。
「リュウ君、希華さん、わたし……!」
「確かに院長は祓いました。でも、まだ魂が残っているのであります。
千舞殿が弱らせた院長を、別の魂絡繰が取り込みました」
「そんな……」
「じゃあ、マヤちゃんは? 助けられないの?」
シズカに聞かれて、流は首を左右に振る。
「助けられる。いつかは。でも、今は無理だ。みんなを守らないと。
必ずまた、助けに戻ってくる。シズカを助けに来たように、シズカの友達も助けに来る」
流に説得されて、シズカは渋々頷いた。
だが、逃げようとした矢先に危機は起こる。
「――リュウ、希華! まずいぞ! 隠世に引っ張り込まれる!」
十狼太が大声を上げた。
花になってしまった院長の足元から、
じわじわ、じわじわと赤サビが広がって、病院全体を飲み込んでいく。
扉を壊そうとして、正面玄関に体当たりしていた十狼太は、
子供達を背中に乗せたまま、千舞達に駆け寄ってきた。
「十狼太殿、ドアは?」
「ダメだ。ドアの鎖が固すぎて壊せねぇ。
リリー人形のドアも鎖でロックされてて使い物にならんかった。完全に閉じ込められた」
「でも、シズカ達は、病院から『大切なもの』を取り返したのに……
これを取り返せば、外に出られると思ったのに……!」
シズカは手の中の写真を見る。
「それは院長の呪いだ、シズカ。今、オレ達をここに閉じ込めてる呪いは、別の奴だ。
そいつは院長の魂を取り込んで、さらに強くなってる」
流の言葉で、千舞の頭に浮かんだ名前は一つだった。
「ヤマザト カエの呪い……」
遺体安置室のロッカーに閉じ込められて、出られずに死んでしまった少女。
ヤマザト カエがどんなにもがいてもロッカーから出られなかったように、
千舞達もきっと、彼女の怒りを鎮めない限り、病院から出られないだろう。
「ヤマザト カエを探そう。この隠世のどこかにいるはずだ」
「――遺体安置室」
流の言葉に、シズカがふと、思いついたように答えた。
「シズカ……ヤマザト カエの居場所が分かるのか?」
シズカは頷く。
「前からずっと、ずーっと、遺体安置室から動かない霊がいるの。
でもさっき、院長がお花になっちゃった時、その霊の気配が急に強くなって……
ヤマザト カエが院長を食べたなら、ヤマザト カエはそこにいると思う」
千舞は、遺体安置室での出来事を思い出した。
泣き声が聞こえるロッカーを開けても、中には誰もいなかった。
しあし、千舞に見えていなかっただけで、本当はあそこにいたのかもしれない。
「行こう、リュウ君、希華さん。遺体安置室に」
流と希華は頷いて、千舞を抱き上げて十狼太に飛び乗った。
すると……。
「いけないよ、みんな。大人しくしていないと。ごらん、綺麗なお花だよ。
お花が咲いたら、みんなも退院、したくなくなるだろぉお?」
花に変えられた院長が、花弁をぱくぱくと閉じ開きして喋った。
花弁の真ん中に口がある。
口の中には舌と歯があって、まるで生き物のようだ。
「なんか、嫌な予感……」
―バンバン、バンバン!
リリー人形が呟くと同時に、窓を激しく叩く音がした。
振り向くと、病院の全ての窓に、首から上が花になった人達がびっしりと張りついて、
バンバンと激しく窓を叩き続けていた。
隠世の外で見た時は、大人しく、ゆらゆらしているだけの怪物だったのに、
今はその全てが、ギザギザの歯をガチガチと噛み鳴らしている。
「あ……! 窓が……!」
キクノが息を飲んだ。
次の瞬間、窓に罅が入って、中に花の怪物が雪崩れ込んできた。
花の怪物達は、手足を茎やツルのように伸ばしたり、
枝分かれさせたりして絡み合い、どんどん一つの大きな植物に育っていく。
あっという間に、それは見上げるほどの怪物になった。
頭の部分には全ての花の怪物の頭が寄り集まって、
この世で一番最悪な花束……という感じになっている。
花の怪物はくねくねと動く手足を振り回して、千舞達に襲い掛かってきた。
「病室にぃ、戻りなさぁあぁい」
流はすり足で花の怪物に近づき、
十狼太は花の怪物に近づこうとしたがその巨体に阻まれてしまう。
希華は射程外から銃を三発撃って、花の怪物を攻撃する。
花の怪物は流に蔦を伸ばし、動きを止めた後、もう一つの蔦で叩きまくった。
「攻撃が激しい! 十狼太、希華、相手しつつ遺体安置室に急ぐぞ!」
流は負傷しながらも十狼太と希華に指示を出し、
十狼太は流の傷を癒しつつ、希華と共に遺体安置室に走っていく。
希華はその身体能力で、銃を撃ちながら遺体安置室に真っ直ぐ走る。
「待ちなさぁぁい、まだ退院してませんよぉぉぉ」
「くそっ!」
花の怪物が十狼太に蔦を伸ばしてダメージを与え、流は何とか刀で応戦する。
「おりゃぁぁぁっ!」
直後、十狼太が花の怪物にタックルを繰り出して弱った花の怪物を倒した。
「早く、遺体安置室に急ぐのであります!」
そして、希華達はヤマザト カエがいる、遺体安置室に急ぐのだった。