血まみれ病院でヤマザト カエの霊を浄化した希華達は、それぞれの日常に戻る。
希華はカードゲームに夢中になり、千舞は陸上や剣道に挑戦する。
キクノは陸上の記録を更新し、流は妹のシズカを見守る。
シズカは千舞の学校に編入し、新しい生活を始める。
血まみれ病院の呪いはまだ終わっていなかったが、ひとまずは安心するのだった。
26~蠢く怪異
希華はいつものように、デッキと銃の準備をしていた。
彼女がやっているカードゲーム「マジカル&ソーサリア」のルールを説明しよう。
デッキを組んで戦い、ライフが0になるか、デッキが無くなると負け。
プレイヤーである魔導師の代わりに戦ってくれるユニットカードは、
土水火風光闇のコストを消費して召喚する。
それらユニットをサポートするソーサルカードや、ユニットに装備するアイテムカード、
戦場全体に効果が及ぶフィールドカードも存在する。
土はパワーが高く戦闘が得意で、水は変わった効果のカードが多く、
火はダメージを与える能力に長け、風はコストが低く展開力に優れ、
光はライフ回復や防御が得意で、闇はトラッシュの利用に優れているなど、
様々な属性を組み合わせた駆け引きが魅力だ。
先攻は1ターン目はドロー不可、行動したユニットや消費したコストは横向きにするなど、
一般的なカードゲームに近いので、非常に流行していた。
「それじゃあ、ご飯を食べに行くのでありますね」
場面は千舞が、リリー人形に相談しているところに戻る。
これは夢の話なんだけどね。
気がついたら、わたしは一人で遊園地にいたの。
でも、電気もついてないし、誰もいなかったから、多分もう終わっちゃってる遊園地。
どうしよう、早く家に帰らなきゃ……って思って歩いてると、
一つだけ電気がついてて、人が並んでるアトラクションがあったの。
オバケ屋敷だった。
でも、サーカスのテントみたいにカラフルで、何だかちょっと楽しそうだったの。
ほら、海外の映画に時々出てくる、移動遊園地にあるみたいな感じのオバケ屋敷。
入り口のゲートの形が面白くてね。
歯がギザギザの、怖い顔をしたピエロが大きく口を開けてて、みんなその中に入ってく。
それで、わたし、気がついたらその列に並んでたの。
家に帰ろうとしてたのに、変だよね?
でも、まあ夢ってそういうものだし。
わたしは列に並びながら、ずっと「家に帰らなきゃ、家に帰らなきゃ」って思ってた。
だって、絶対に何かが変だもの。
オバケ屋敷から、ずっと叫び声が聞こえてきてた。
助けて、出して、怖いよぉって。
オバケ屋敷なんだから当たり前なんだけど、わたしはそれが本当に怖くて……。
それなのに、どうしても列から抜けられないの。
前の子が一歩進むと、わたしも一歩前に進んじゃう。
まるで、誰かに操られてるみたいに。
(それに、どうして誰もオバケ屋敷から出てこないの? 出口はそこにあるのに)
オバケ屋敷の入り口から、十メートルくらい離れたところには、
出口って書いてある小さなゲートがある。
さっきから何人もオバケ屋敷に入っていくのに、そこからは誰も出てこない。
ついに、わたしの前に並んでいた子がオバケ屋敷に入っていった。
ゲートの横にはカラフルな服を着たピエロが立っている。
メイクじゃなくてマスクだから、表情は全然分からない。
虹色のもじゃもじゃ髪で、小さな帽子をちょこんと被っていた。
「次は君の番」
ピエロはわたしの背中を押して、オバケ屋敷に入るように促した。
(やめて! わたし、入りたくない……!)
そう言いたいのに、言葉が出てこない。
ピエロがわたしの耳元で囁いた。
「もう二度と出られない」
「って感じだったんだけど――そこで目を覚ましたの」
千舞は学校に行くための支度をしながら、リリー人形に夢の内容を話した。
朝は寮のお風呂場が開いていないため、沸かしたお湯にタオルを浸して、固く絞って体を拭く。
千舞は寮での生活は嫌わないが、こういうところは少々不便だと思っていた。
「それって、ちょーヤバい夢じゃない?」
リリー人形が、千舞の髪を梳かしながらそう言った。
彼女は呪いの人形だが、流達が調伏して以来、人を傷つける事はなくなり、
千舞が見た怖い夢の話も聞いてくれ、千舞の朝の身支度を手伝ってくれるようになった。
「やっぱりそう思う?」
「普通の悪夢だとは思えないけど。希華かリュウに相談してみなさいよ」
「うーん……あんまり小さな事で相談するのもどうかなって……。
リュウ君や希華さんだって忙しいだろうし」
「ちぃちゃんを守るより大事な用事なんて、あいつにあるわけないでしょ!」
「そんな事はないと思うけど……」
千舞は頭を通して、スカートを履いた。
「そんな事あるの! ちぃちゃんは生け贄の血筋なんだから!
悪い霊にとっても狙われやすいの! 忘れないでよね!」
「あー、そっか。そうだっけ」
「そうだっけって……リュウと希華はちぃちゃんを守るためにこの学校に入ったんだから、
ちゃんと相談しなきゃダメだからね!?
そもそも、最近のちぃちゃんはちょっと油断しすぎだと思うけど」
「じゃあわたし、学校行ってくるから」
「あ、ちょっとぉ!」
千舞は説教が始まりそうな気配を感じて、リリー人形から逃げるように部屋を飛び出した。
すると、ほとんど同じタイミングで、菊乃が部屋から出てくる。
千舞と違って制服の下はズボンだが、同じクラスの女の子だ。
陸上クラブのエースで、千舞と同じ青翠学園初等部五年。
明るく優しい性格なので、上級生にも下級生にも人気だ。
「ちぃ! タイミングぴったりじゃん! 一緒に教室行こ!」
菊乃は千舞の手を握って、先へ先へと歩き出す。
千舞と菊乃は元々仲良しだったが、
最近は「親友」を通り越して「戦友」のような感じになりつつあったらしい。
何故なら、菊乃も千舞と同じで、霊が見えるからだ。
千舞と希華は最近見えるようになったタイプだが菊乃は幼い頃からずっと見えていたタイプだ。
だから、霊がいそうな場所がなんとなく分かるし、霊の避け方もよく知っている。
「キクノちゃん、昨日何か変な夢見なかった?」
「昨日? 何にも見てないけど」
「そっか……じゃあ、やっぱりただの夢だったのかな……」
「え? 何々?」
「ううん。怖い夢の話。キクノちゃんは聞かない方がいいよ、怖くて眠れなくなっちゃうから」
「えぇ……! そ、そう言われると聞きたくないけど……
でも聞いておかないと逆に不安みたいな気持ちもあって……」
「――ん? なんだろう、あれ」
見ると、寮の出入り口に、たくさんの人がガヤガヤと集まっていた。
「どうしたんだろう?」
千舞は不安そうな菊乃と手を繋いだまま、人だかりまで足を進める。
「ごめんね、ちょっと通してね」
千舞達は、全く先に進む様子がない人だかりをかき分けて進む。
すると、急に視界が開けた。
そして、二人は皆が寮から出られずにいた理由を理解する。
「な、なにこれ……カラスの死骸……!」
菊乃が引きつった声を上げた。
数え切れないほどのカラスの死骸が、足の踏み場もないほど落ちている。
これでは、寮から出たくても出られない。
「今、寮の管理人さんが業者を呼んでくれてるみたい」
立ち尽くした千舞と菊乃に、人だかりの中の誰かが教えてくれた。
「ねぇ、ちぃ。わたしやっぱり、ちぃが見たっていう怖い夢の内容、
聞いといた方がいいかなって気がしてきた……絶対予知夢的な奴だと思う……」
「うーん……これは確かに……後で、リュウ君か希華さんに相談かなぁ」