学校で流行っている怖い話「オシエテさん」が実際に生徒を襲い、舌を奪う事件が起こる。
千舞達は霊を祓うために行動するが、
オシエテさんは答えられない問題を出し続け、舌を奪おうとする。
十狼太がオシエテさんを食べて千舞を救うが、千舞は不気味な声を聞く。
それは彼女が以前に見た悪夢のピエロの声だった。
その男の子は心臓が弱くてね。
学校を休みがちだし、体育もずっと見学してるから、
クラスの子達に「弱虫」とか「サボり魔」とか言われて、からかわれてたんだって。
それを心配した男の子の両親が、
「遊園地のチケットをあげるから、みんなで遊んできたらいい」って言ってくれて……。
それで、男の子はクラスの子を何人か誘って、遊園地に行ったんだって。
男の子が誘ったのは、クラスの中でも大人しい三人くらいだったんだけど、
話を聞いた他の子達が「自分達も行く」って言い出して、
結局クラスの子が半分くらい参加する、遠足みたいになったんだって。
クラスの子のお兄ちゃんとか、お姉ちゃんが一緒についていく事になったから、
大人は一人もついていかなかった。
でもさ、お兄ちゃんって言っても、みんな中学生とかなんだよね。
遊園地に入ったら「じゃあ、集合時間まで自由行動ね」って事になった。
そこで、誰かがこう言い出したんだって。
「オバケ屋敷で、肝試ししようよ! 一人ずつだって、出てきたら次の子が入るの!」って。
もちろん、男の子は嫌だった。
ドキドキするような事はしちゃダメって言われてたから。
でも、参加しないと仲間外れにするってみんなに言われて、どうしても嫌だって言えなかった。
肝試しのルールは、こう。
順路の外にいくつもあるマネキンの口に、
最初の一人がメッセージカードを入れるから、それを見つけてメッセージを読む事。
でも、クラスのみんなが考えた肝試しは、それだけじゃなかった。
みんな、男の子の心臓が弱いって話を、本当に軽く考えてたの。
ちょっとドキドキした方が、鍛えられるんだって思ってた。
だから、男の子を脅かす事に決めたの。
男の子がオバケ屋敷に入ったら、何人かの子が、
家から持ってきたピエロのマスクを着けて、男の子の後を追いかけた。
男の子は、マネキンの口の中を一つ一つ見て、メッセージカードを探したの。
もちろん、オバケ屋敷にあるマネキンだから、全部血まみれで、不気味な奴。
見るだけでも怖いのに、それの口の中を見て回らなきゃいけないなんて、
わたしだったら絶対にやりたくない。
でも、男の子は、やったの。
友達が欲しかったから。
それで、男の子がメッセージカードを見つけると同時に、みんなで一斉に脅かしたんだって。
後ろから、わぁ! って。
とっくに限界までドキドキしてた男の子の心臓は、それで完全に壊れちゃった。
男の子は胸を押さえて座り込んだけど、
脅かした子達はそんな事には全然気づかないで、オバケ屋敷を出ていっちゃった。
それからどんなに待っても、男の子はオバケ屋敷から出てこなかった。
それで、みんな何だかこわくなって――そのまま、男の子を置いて遊園地から帰っちゃった。
クラスメイトのお兄ちゃんもお姉ちゃんも、男の子が一人足りない事になんて気づかなかった。
いつまでも帰ってこない子供を心配して、両親がクラスの子達に片っ端から電話して、
ようやく男の子をオバケ屋敷に置き去りにしたって分かったの。
男の子は、肝試しのために順路の外にいたから、
見回りでも気づいてもらえなくて……発見されたときには、死んじゃってた。
それ以来、このオバケ屋敷に一人で入ると、男の子の声が聞こえてくるって言われてるの。
「痛い、痛い、助けて、助けて……」って。
その声を聞くと呪われて、自分もオバケ屋敷から出られなくなるって言われてる。
あ、そうだ! 話してたら思い出した。
そのメッセージカードに書かれてた言葉。
死んだ男の子が、そのメッセージカードをぎゅっと握って死んでたって、
ネットの記事に書いてあったの。
その言葉がね……。
「次は君の番」
「な……なんで!?
わたし、そんな声聞いた事ないし、そもそもオバケ屋敷なんて何年も行ってないよ!?」
「でも、ちぃの話だと、絶対これじゃん!」
「そ、そうだけど……希華さん、どう思う?」
「自分にはよく分かりませんが、調べるのであります」
希華は慌てて、携帯電話で何かを検索する。
「そのオバケ屋敷って、これでありますか?」
希華は携帯電話を千舞に見せる。
そこには、千舞が夢に見たのと全く同じオバケ屋敷の写真がのっていた。
「間違いないけど……どうして急に、わたしの夢に出てきたんだろう」
「やっぱり、ちぃが生け贄の血筋だから狙われてるんじゃない? 希華先輩はどう思います?」
「それは間違いないと思いますが、ちょっと違和感はあります」
「うん……なんでいきなり? って気はする……だってキクノちゃんが知ってたって事は、
このオバケ屋敷のウワサって、結構前からあったんでしょ?」
「ネットでは有名な怖い話だし、遊園地で死んだ子の記事も探せば出てくると思う。
確か、五年前くらいかな……?」
「――三日前であります」
ふと、希華が呟くと、彼女は再び携帯電話を見せた。
中学生くらいの男の子が、遊園地で行方不明になったという記事だ。
何日か前から、オバケ屋敷の悪夢を見るようになって、
ある日「遊闘地に行ってくる」と言って出ていったきり帰ってこなくなったらしい。
カメラの映像では、オバケ屋敷に入る姿が映っていたが、出てきた姿は映っていない。
記事には、男の子の顔写真が載っていた。
「子供を探しています……か。まだ見つかってないんだね」
キクノは心配そうに呟く。
「っていうか、ちょっと待って。わたし、この男の子、夢で見たかも」
「夢って……オバケ屋敷の夢でありますか?」
「オバケ屋敷に入るための列にいたと思う。わたしの一人か、一人前に並んでた」
「それで『次は君の番』でありますか」
「希華さん、リュウ君、どうしよう」
「実際に行ってみるのが一番でしょうね」
「行かなければ、話にならないしな」
希華はライフル、流は腰の木刀を握った。
「だよね……うん。わたしも行く」
菊乃は真っ青になった。
「い、行くって……ちぃを呪ってるオバケ屋敷に!? ちぃが!?
駄目だよ、そんなの危なすぎるって!」
「大丈夫だよ。リリー人形もいるし、十狼太さんもサクリエルさんもいるし」
「ま、攻撃は最大の防御って言うしな」
「まぁ……最近、急に霊障が増えてるし……ちぃを一人にしておく方が危ないかもな」
「こうなったら自分達が守るのであります!」
希華は、ぐっと拳を握り締めた。
彼女のライフルは霊の世界……隠世でしか使えない武器だが、何とか戦いたいようだ。
オシエテさんを倒した帰り道に、希華達は、
リュウのクラスメイトが入院している病院にお見舞いに行く事にした。
「どうぞ!」
病室のドアをノックすると、中から元気な返事がある。
ドアを開けると、男の子はベッドから飛び降りて、いきなり流に抱きついた。
「うわ、なんだ急に……!」
「舌、元に戻ったんだ! ありがとう。お前が助けてくれたんだろ?」
「いや、まぁ……それが仕事だし」
流は照れくさそうにそう言って、居心地が悪そうにもぞもぞしている。
「オシエテさんに襲われたって言っても、お前以外、誰も信じてくれなかった。
それが本当につらくて……信じてくれただけでも救われたんだ。
でも、舌まで取り戻してくれるなんて」
「分かった……! 感謝は伝わったから、いい加減放せって……!」
「きつい締め付け方でありますね」
希華は二人を暖かい目で見守った。
「そういえばですが……結局、オシエテさんとは何だったのでしょう?」
病院からの帰り道、希華は真偽を聞いてみた。
一昨日まではただの「ウワサ」でしかなかったのに、急に危険な霊になるからだ。
「十狼太。おまえ、あいつを食べたんだったら、どんな霊だか分かっただろ?」
流はカバンの中から十狼太を引っ張り出した。
十狼太は、眠そうに欠伸をする。
「ただの地縛霊だったけどな。最初に感じた通り、
人間の舌を奪えるような霊力もない、小物の霊だったよ」
「どんな霊でしたか? ウワサ通り、勉強熱心な子、でしたか?」
「いや、母親の霊だった」
「母親でありますか?」
驚いて聞き返した希華に、十狼太は頷く。
「自分の子供に問題を出して、答えられなかったらメシ抜きとか、そういう育て方してたらしい。
そしたら子供がある日、家に帰ってこなかった。
探しに出たところで事故にあって死んじまって地縛霊になったんだ」
「どうして幽霊になった後も、子供に問題を出し続けてたんですか?」
「霊ってのは、死ぬ前に強く執着してた事に囚われるもんなんだ。
こいつは死ぬ直前『勉強もせずに遊び歩いて、帰ってきたらたくさん問題を出さなくちゃ』
と思ってた。だから死んだ後も、通りかかるガキに問題を出し続けてた」
菊乃の質問に答えながら、十狼太はカバンに戻ろうとして、流の手の中で身じろぎする。
「帰ってこない子供の心配じゃなくて、問題を出さなきゃって思いの方が強いなんて、
霊は本当に嫌な奴であります」
希華は、プンプンと腹を立てた。
「ああ、そうだよな」
「でも、大事な事はなーんにも分かってないじゃない」
リリー人形が、千舞の腕の中で不満そうに手足をふり回した。
「十狼太にぺろって食べられちゃうくらい弱っちい霊なのに、
なんでオシエテさんは人間の舌を奪えたの?
そんな事ができる霊がこんなに近くにいるのに、どうして今まで大した被害が出なかったの?」
「あーそりゃ、最近まで『舌を取る』なんてできなかったからだな」
十狼太がそんな事をさらりと言うので、希華達は全員、流のカバンに注目した。
十狼太はすっかりお休みモードで、カバンの中から声だけが聞こえる。
「昨日まで、こいつは霊感のあるガキに問題を出して、
答えられなかったら『舌を取ってやる』ってビビらせるだけの悪霊だったんだ。
それが昨日、急に強くなった。
こいつが強くなったっつーか……別の霊から力を借りてるって感じだったがな」
「別の霊から、力を……? そんな事できるの?」
千舞は流を見た。
「そうだな……例えば……強い霊が弱い霊を食べて、
自分の手下にした場合なんかは、弱い霊が強くなる」
「じゃあ、十狼太さんが食べたから、オシエテさんはもっと強くなったって事?」
「オレは食った霊を手下にする能力なんかねぇよ。そういうのは霊による。
リリー人形はできるんじゃねぇのか?」
「まぁ、わたしはできるけど」
「え、そうなの!? 今まで食べた霊全部!?」
「ほら、わたしって人形に魂が宿った『付喪神』だし?
誰かさんみたいな動物霊とは魂の作りがそもそも違うっていうか?」
リリー人形がわざわざ十狼太を怒らせるような言い方をしても、十狼太は無反応だ。
それどころか、流のカバンの中からぐうぐうとイビキが聞こえてくる。
「霊ってイビキかくんだね」
何となく千舞が呟くと、流と希華は笑った。
「生きてる時のクセが、霊になっても出る事があるんだ。
そういうところも、生き物だった事がないリリー人形とはちょっと違うな」
「ちょっと、何よ!」
リリー人形が、急に怒って流を睨んだ。
「生き物だった事がないからって、バカにしないでよね!
わたしは人間のために作られて、ずっと人間と一緒にいたんだから!
人間よりも、人間の事はよく分かってるんだから!」
「バカにしたわけじゃないし、リリー人形が人間を理解してる事は分かってるよ。
ちぃともいつも仲良くしてる」
「ふーん? 分かってるならいいけど」
リリー人形は、まだ少しふてくされている感じだ。
そのため、千舞は流の真似をして、リリー人形の頭をぽんぽんと叩いてあげた。
この時、彼女はまだよく分かっていなかった。
リリー人形が、流の言葉で非常に傷ついていた事を。