とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞とリリー人形は遊園地に行く計画を立てていた。
リリー人形は人間のふりをして一緒に行きたいと言い千舞の髪の毛を使って人間サイズになった。
しかし、駅で待ち合わせている時に無数の手に襲われる。
十狼太は手を追い払ったが、千舞の服は血で汚れてしまった。
雑霊でありながら何か裏があると、流は睨むのだった。


31~バラバラミラーハウス

「もー! せっかくちぃちゃんとお揃いの服を着られると思ったのに!」

「そ、それはまた今度ね……!」

 血の手形がついてしまった服を着替えるために、ショッピングモールに入ったが、

 そこでリリー人形が千舞にヒラヒラのドレスを着せようとするので大騒ぎだった。

 しかもリリー人形が選ぶのは「レースいっぱいのガーリーワンピ」とかではなく、

 ヒラヒラのドレスだ。

「また霊にちょっかいかけられて、汚れちゃう可能性もあるしさ」

「でも、そんな地味な服にしなくても」

「じ、地味かなぁ……」

 千舞は柔らかい生地のスカートを引っ張られた感覚が気持ち悪いらしく、

 固いデニム生地のジャンパースカートにしたのだ。

 中に着ているロンTも、汚れが目立たない黒を選んだ。

「でも、本当によかったの? リュウ君に買ってもらっちゃって。

 レシートくれたら、後でお父さんがちゃんとお金払うのに」

「いや、大丈夫。オレがっていうか、ギャラリーの経費で買っただけだし」

「自分も平気でありますよー! ……食事以外」

「じゃあ、ちょっとチケット買ってくるから」

「え? ネットで買ってないの?」

「自分と、集堂殿と、千舞殿の分は買ってありますが、リリー人形の分が必要ですよね?」

「あ、そっか!」

 リリー人形は今、人間のような姿なので、遊園地に入るにはチケットが必要だ。

 しかしリリー人形は携帯電話は持っておらず、当然、電子チケットは買えない。

「あ、確認なんだけど……チケットの種類……何にした?」

「え、入場チケットだけど」

「アトラクション乗らないの!?」

「いえ、自分達はオバケ屋敷を祓いに来ただけであります……! ちょっと窓口で相談しますね」

 

 そして、希華は三人分の乗り放題チケットを買って戻ってきた。

「まぁ……さっと使って、帰りに遊んで帰るくらいはできるかもしれませんしね。

 ほら、これリリー人形のであります」

 希華は、リリー人形にチケットを渡す。

「わたし、人間じゃないのに、アトラクションに乗ってもいいの?」

 リリー人形は、チケットを手にそわそわし始める。

「でも、今はどこからどう見ても人間だし乗っても大丈夫じゃない?」

「じゃあじゃあ、ちぃちゃん、一緒にメリーゴーラウンド乗ってくれる?」

「もちろん!」

「やったぁ! ちぃちゃん大好き!」

 人間サイズのリリー人形は千舞に抱きつく。

 人形の固い手足がゴツゴツして微妙に痛いらしい。

 人間にしか見えないが、やはり彼女は、人形の魂絡繰なのだ。

 

「オレはチケット貰えねーのか?」

 十狼太は流のカバンの中で、そうぼやいていた。

 しかし、今のところ十狼太はぬいぐるみである。

 

 入場ゲートを潜った途端に、賑やかで楽しい音楽が聞こえてきて、

 千舞もわくわくした気分になってしまう。

 千舞は流の服の袖を引っ張る。

「遊園地でありますか」

「オバケ屋敷行く前に、ちょっとだけ遊ばない? リリー人形もはしゃいでるし」

「え? まぁ、いいけど……」

 うーん、と流は腕を組んで悩み始めた。

「どうしたの?」

「いや、普通に遊ぶのってどうやるのか、ちょっと思い出せなくて」

「そんなの、普通に楽しめばいいんだって!」

 と、リリー人形が流の肩に突進した……もちろん、人形の固い体で。

「痛った……!」

 流は肩を押さえて蹲った。

 本当に痛かったようだ。

 隠世では非常に強い流が、か弱い女の子にしか見えないリリー人形に

 ぶつかられただけで痛がってるのが、千舞にとっては何だか面白い。

 彼女はオバケ屋敷の呪いを一瞬忘れて、リリー人形とくすくすと笑い合った。

 

「……何なのでありますか?」

 希華は三人を見て、そう呟いた。

 

「これが、例のオバケ屋敷か」

 結局、希華達は午前中いっぱい遊んで、昼食を食べてから、オバケ屋敷にやってきた。

 行方不明者が出た事もあって、アトラクションは立ち入り禁止になっている。

「これ……凄く強い呪いじゃない……?」

 千舞が恐る恐る聞くと、流は渋い顔をして頷いた。

「ああ。どうして今まで【ギャラリー】が放置してたのか……こんなに強い呪いなら、

 行方不明者なんて今まで何十人出ててもおかしくない」

「……明らかにおかしいのであります」

「これも、最近急に強くなった呪いなのかな……」

「可能性はある」

「とにかく、隠世に入って調べるのであります!」

 希華はライフル、流は呪滌刀をオバケ屋敷に突きつけた。

 

「このオバケ屋敷が、ちぃの事を呪ってる」

 

 急に夜になった。

 空が真っ暗になって、遊園地の照明がバチバチついて、周りから人がいなくなる。

「これ……夢とおんなじだ」

「そうでありますか?」

 千舞のスマホの時計の秒針はピタリと止まったまま、少しも動いていない。

 隠世は魂の世界だ。

 それに対して、現世は肉体の世界。

 二つの世界は時間の流れ方も、物の動き方も、何もかもが違うが、

 もし希華達がこの隠世で死んだら、現世の希華達も死んでしまう。

 魂を傷つけられれば、同じように体も傷つく。

 隠世と現世は別の世界だが、繋がっている世界でもある。

 

「自分達が千舞殿を守ります」

「ちぃ、オレと手を繋いで、絶対に離さないでくれ」

「う、うん」

「じゃあ、わたし、ちぃちゃんと腕組んでる!」

 千舞が流の手を握ると、リリー人形が腕にしがみついてきた。

 十狼太は、隠世に入った時からもうぬいぐるみの姿ではなく、二足歩行の狼男になっている。

 希華は、ライフルから光の弾丸を放てる。

 十狼太は状況によって姿を変える事ができる。

 ぬいぐるみだったり、背中に人が何人も乗れるくらい大きな狼だったり、

 今のように人間っぽい狼男だったり……。

 リリー人形は大きくなったり、小さくなったりできるし、マネキンを操って戦う事もできる。

 さらに、何もないところにドアを出して、あちこちに一瞬で移動できる。

 希華も、十狼太も、リリー人形も、隠世では現世よりずっと強い。

「オバケ屋敷の入り口、開いてるね」

「ちと、オレが先に入って様子見てくるわ」

 十狼太が最初にオバケ屋敷に入って、危険がないかをチェックした。

 入り口には分厚い布がかけてあって、中は見えない。

 

「入っていいぞ」

 しばらく待っていると、布の向こうからぬっと十狼太の手が出てきて、手招きした。

「よし、行きますよ」

 希華が歩き、流が千舞の手を引っ張る。

 布を潜ると、部屋の中は真っ赤だった。

 天井を見ると、照明が赤い。

「リュウ君、これって……」

「ちぃ、それオレじゃない」

 千舞が目の前にいる流に話しかけると、横から流の声がして、千舞はぎょっとして横を見た。

「あれ!? リュウ君が二人……っていうか、これ……鏡!?

 オバケ屋敷だと思ってたんだけど、これってミラーハウスじゃない?」

「ん? サーカスがコンセプトみたいだし、

 ちょっと日本のオバケ屋敷とは変えてあるのかもしれないのであります。

 海外のオバケ屋敷だと、ミラーハウスが組み込まれてるのは珍しくないのであります」

「あ、そっか……そういえばわたしも夢の中で、『海外の映画みたい』って思ってた気がする」

 千舞はペタペタと鏡をさわった。

「鏡の一部がドアになってて、オバケ役の人が追いかけてきたりするんだよね、

 こういうミラーハウスっぽいオバケ屋敷って……」

「だから手を繋いでた方がいい。ミラーハウスは、現世でも迷いやすいから」

「そ、そっか。そうだよね」

「精神を集中するのであります」

 赤い照明は見づらいし、気をつけて歩かないと鏡に顔をぶつけそうだ。

 鏡で作られた道は、右にも左にも天井にも、

 希華、千舞、流や、リリー人形や十狼太が映っている。

「うぅ……何だかクラクラしてきた」

「目をつぶって、心眼で見るほうがいいかもしれないのであります」

「大丈夫だよ、オレが引っ張って歩くから。鏡に何が映るか分からないし」

「こ、怖い事言わないでよぉ!」

 千舞は慌てて目を閉じた。

「ねぇ、リュウ君。このオバケ屋敷が、

 最近急に強くなった呪いだとしたらさ……何だかちょっと不思議じゃない?」

「不思議って?」

「だって、誰も犠牲者が出てないのに

 『男の子の泣き声を聞くと、オバケ屋敷から出られなくなる』って

 ウワサがあった事になるでしょ?」

「心霊系のウワサなんて、みんなそんなものだよ。

 犠牲者なんていないのに、起こった事件や事故になぞらえて、

 それっぽい『怖い話』ができていく」

「それは分かるんだけどさ……なんていうか、えーと……」

「ちぃちゃんが言いたいのは、

 『でも、急に力をつけたオバケ屋敷の呪いは、噂と同じように人を閉じ込めちゃったよね』

 って事じゃない? 呪いがウワサの後追いでできてるみたいで、なんか不思議って事でしょ?」

「そ、そう! それ! そういう事!」

 千舞はこくこくと頷く。

「あぁ、それは簡単だよ。ウワサをもとに、呪いができるんだ」

 都市伝説は人間に敵対的である。

 その理由は、人間のせいなのだ。

「聞こえてくるんだ。みんながウワサしてる声が。

 このオバケ屋敷で呪われると、どんな事が起こるのかって」

「……霊が、ウワサ話を聞いてるの?」

「生きてる人間と同じだよ。

 周りのみんなに『お前はこういう奴だ』って言われると、何だかそんな気がしてくる」

「うん……ちょっと分かるかも……」

「だから、怖いウワサはしない方がいいんだ。すればするほど、呪いが育つから」

 流と握り合っている手が、汗でじっとりと濡れてきた。

 だが、流の声ではなかった。

「ねぇ……リュウ君」

 おそるおそる、千舞は呼びかけたが、返事はない。

「リリー人形?」

 ぎゅっと、千舞の腕を掴む力が強くなった。

 くすくす、くすくす……前と後ろから、笑い声が聞こえてくる。

 オバケ屋敷に入る前からずっと、千舞は流の手を握っていた。

 リリー人形は千舞の腕にしがみついていた。

 しかし今、ここには、希華も、流も、リリー人形も、十狼太もいない。

 

「気づいてる?」

「きゃあ!」

 急に、耳元で知らない男の子の声がして、千舞はがまんできずに目を開けた。

 目の前に、ピエロのマスクを被った男の子が立っている。

 腕にしがみついているのも、全く同じ、ピエロマスクの男の子だ。

「は、放して!」

 千舞は力を振り絞って二人を振り払うと、視界の悪いミラーハウスを、壁伝いに走り出した。

 ずっと目を瞑っていたせいで、千舞はどこから来たのか、

 どちらに進めばいいのか少しも分からない。

 全ての鏡に、ピエロマスクの男の子が映っている。

 その全部が今にも千舞に襲い掛かってきそうで、千舞はとにかく走り続けた。

 何度も鏡にぶつかりながら走るうちに、急に道が真っ直ぐになる。

 ミラーハウスの出口だ。

 息を切らしながら、千舞はミラーハウスから飛び出した。

 そして、あまりにもいきなり、想像もしていなかった部屋が現れて千舞は立ち尽くしてしまう。

 

「……ここ……教室?」

 ミラーハウスを抜けたら、いきなり小学校の教室に出た。

 しかも、窓の外の景色は「夜の遊園地」ではなく、「昼間の町並み」だ。

 千舞は携帯電話を取り出してみるが、時計は動いていなかった。

「現世に戻っちゃったってわけじゃないのか……なんか、急に違う隠世に来ちゃった感じ……」

 千舞は前に、迷路の隠世に入ってしまった時、急に別の隠世に引っ張り込まれた事がある。

 黒板には「桜里小学校 卒業おめでとう」と、カラフルなチョークで書いてある。

 教室の椅子と机は片づけられていて、

 教室の真ん中にガムテープでぐるぐる巻きにされた掃除用具入れがあった。

―ガンガン、ガンガン!

 掃除用具入れの中から、激しく戸を叩く音がした。

「な……中に誰かいるの!?」

 千舞は掃除用具入れに駆け寄った。

 オバケ屋敷に閉じ込められている男の子かもしれない。

「大丈夫! 今出してあげるから!」

 千舞はガムテープを剥がし、戸を開いた。

 しかし、中には誰もいない。

「そんな……でも……中から叩く音が……」

 千舞はどうしたらいいか分からなくて、空っぽの掃除用具入れを見る。

 その時だ。

 

「次は君の番」

 千舞の耳元であの男の子の声が聞こえて、千舞は掃除用具入れの中に突き飛ばされた。

 あ、と声を上げる間もなく、外側から戸を閉められてしまう。

「何するの! 開けて!」

 千舞は掃除用具入れの内側から戸をたたいた。

 だが、外から掃除用具入れをぐるぐる巻きにするガムテープの音と、

 クスクス笑う声だけが聞こえてきて、誰も千舞に答えてくれない。

 ふと、千舞は違和感に気づいた。

 クスクス、クスクス……笑い声が、異様に近い。

 まるで、掃除用具入れの中で、誰かが笑っているようだ。

 

 千舞はじっと息を殺した。

「クスクス、クスクス」

 千舞の、頭の上の方から聞こえてくる。

 彼女が恐る恐る顔を上げると、掃除用具入れの天井に、ピエロの顔が張りついていた。

 

「もう、二度と出られない」

「きゃあああぁあ!」

 自分の悲鳴が、掃除用具入れの中にわんわんと響くのを聞きながら、千舞は気を失った。

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