希華達はオバケ屋敷を訪れ、そこで急に強くなった呪いに遭遇する。
隠世に入り、オバケ屋敷を調査するが、
千舞が突然、見知らぬ男の子に掃除用具入れに閉じ込められる。
彼女は掃除用具入れの中でピエロの顔を見つけ、恐怖で気を失ってしまった。
「どうしよう! ちぃちゃんがいなくなっちゃった!」
ミラーハウスの真ん中で、リリー人形は今にも泣き出しそうにそう言った。
「どうしたんだ、あいつ。急にオレ達から逃げ出すなんて……」
「様子がおかしくなったでありますね……」
十狼太と千舞も困惑したように、千舞が走り去った方向をじっと見つめて立ち尽くす。
まずい事になった、と、流は歯ぎしりした。
手を繋いで歩いていた千舞が、いきなり悲鳴を上げて、
流とリリー人形を振り払って逃げ出したのだ。
驚いて思わず手を放してしまったが、放すべきじゃなかったと、
今更後悔してもどうにもならない。
「多分、霊に騙されたんだ。物凄く怯えてたから、オレ達がバケモノに見えてたのかもしれない」
「ずっとお喋りしてたけど、途中からちょっとおかしかったもんね……
わたし、どうして気づかなかったのかしら……」
「とにかく、千舞殿を追いかけないといけません。
リリー人形、千舞殿がいるところまで、ドアは出せそうですか?」
リリー人形はドアを出現させて、ここではないどこかに一瞬で移動する事ができる。
特に、霊的に深い繋がりのある千舞のところにならば、問題なく移動できるはずだ。
「ちょっと待って。出してみる」
リリー人形は、鏡でできた壁をノックした。
すると、そこにドアが現れ、ぎぃ、と音を立てて開く。
中に入ると、そこは小学校の教室のようだった。
教室の真ん中には、ガムテープでぐるぐる巻きにされた掃除用具入れがある。
「十狼太! 掃除用具入れを開けろ!」
「あいよ」
十狼太は掃除用具入れの取っ手を掴むと、ガムテープを引きちぎりながら戸を開いた。
その中に倒れていたのは、中学生くらいの男の子だった。
「……誰、この子? ちぃちゃんじゃない」
リリー人形は不満そうに男の子を睨んだ。
「ネットの記事にあった、行方不明の男の子であります」
「じゃあ、ちぃちゃんは!? なんでわたしのドアは、ここに繋がったの!?」
「分かりません。十狼太殿、教室の外はどうなっていますか?」
「通れるドアは一つだけで、さっきの鏡の部屋に繋がってるみたいだな。
後のドアには全部カギがかかってる」
「リリー人形。もう一度ちぃのところにドアを出せるか?」
リリー人形は首を左右に振った。
「だめ。出せない……見つからないの。ちぃちゃんはこの隠世にいない!」
「また、神隠しでありますか!」
神隠しとは、子供がある日突然、どこかに消えてしまう事だ。
消えてしまった子供は、何十年も経った後、
子供の頃の姿のまま、全く違う場所に戻ってきたりする。
そして戻ってきた子供はきょとんとして、
「一日くらい、外で遊んでただけだよ」なんて言ったりする。
隠世の時間は、現世に比べてゆっくり進む。
そのため、隠世に囚われていると、
自分が何十年そこにいても、ほんの一日くらいしかいなかったように感じてしまう。
流はよく隠世を「夢に似てる」と言う。
夢の中では一瞬なのに、目が覚めたら何時間も経っていたり、
その逆に、夢で何十年も過ごしたのに、目が覚めたら数時間しか経っていなかったりするのだ。
消えたのとは別の場所から現れるのは、隠世の出入り口は一つではないからだと言われている。
隠世は一つだけではない。
狭い隠世もあれば、広い隠世もあって、いくつもの隠世が繋がっている場合もある。
いくつもの隠世が繋がっていれば、当然、それだけ出入り口も多くなる。
まるで、たくさんの電車が行き来する駅で、
行き先が分からない電車に乗ってしまったようなものだ。
千舞は、もうこのオバケ屋敷の隠世にいない。
そして、行き先は誰にも分からない。
流は、千舞をさらわれてしまった悔しさに、拳を握り締めた。
「……自分達は必ず、見つけ出すのであります」
希華が呟いた、その時だ。
倒れていた男の子が飛び起きて、希華の肩を掴んだ。
「あそこだ! みんなあそこにいる……!」
男の子は、黒板に書いてある文字を指差す。
桜里小学校 卒業おめでとう
「桜里小学校……そこに、千舞殿がいるのでありますか?
どうして分かるのであります? 誰の事であります?」
希華は男の子に詰め寄った。
男の子はカッと目を見開いて、怯え切った表情で黒板を睨みつける。
「タキガワ、カナエ」
そして、震える唇で言った。
次の瞬間、希華達はオバケ屋敷の外に弾き出されていた。
太陽が眩しい空と、ガヤガヤと賑やかな遊園地……現世だ。
「隠世から追い出されたなら、もう一度入るのであります!」
腕の中にいたはずの男の子がいなくなっていた。
希華はオバケ屋敷を睨んだ。
「……希華、呪いの気配が消えてる」
「もう、このオバケ屋敷は呪われてない」
ぬいぐるみに戻った十狼太が、流の肩に上って低く唸った。
流も、状況を判断して呟いた。
「ちぃちゃんをさらわれて、完全に逃げられたって事?
あいつ、このオバケ屋敷に取り憑いてる地縛霊じゃなかったの!?」
「多分、別の霊に取り込まれたんだ。
だから地縛霊じゃなくなって、このオバケ屋敷からも離れられるようになった」
流は木刀を袋に戻し、希華もライフルをしまう。
ここでぐずぐずしている場合ではない。
千舞を見つけて、助けなければ。
「大丈夫だ。ヒントはある」
オバケ屋敷の隠世から追い出される直前に、行方不明の男の子が教えてくれた。
「みんなあそこにいる」と。
「桜里小学校と、タキガワ カナエ。千舞殿は、そこにいるのであります」