とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

希華達はオバケ屋敷を訪れ、そこで急に強くなった呪いに遭遇する。
隠世に入り、オバケ屋敷を調査するが、
千舞が突然、見知らぬ男の子に掃除用具入れに閉じ込められる。
彼女は掃除用具入れの中でピエロの顔を見つけ、恐怖で気を失ってしまった。


32~消えた千舞

「どうしよう! ちぃちゃんがいなくなっちゃった!」

 ミラーハウスの真ん中で、リリー人形は今にも泣き出しそうにそう言った。

「どうしたんだ、あいつ。急にオレ達から逃げ出すなんて……」

「様子がおかしくなったでありますね……」

 十狼太と千舞も困惑したように、千舞が走り去った方向をじっと見つめて立ち尽くす。

 まずい事になった、と、流は歯ぎしりした。

 手を繋いで歩いていた千舞が、いきなり悲鳴を上げて、

 流とリリー人形を振り払って逃げ出したのだ。

 驚いて思わず手を放してしまったが、放すべきじゃなかったと、

 今更後悔してもどうにもならない。

「多分、霊に騙されたんだ。物凄く怯えてたから、オレ達がバケモノに見えてたのかもしれない」

「ずっとお喋りしてたけど、途中からちょっとおかしかったもんね……

 わたし、どうして気づかなかったのかしら……」

「とにかく、千舞殿を追いかけないといけません。

 リリー人形、千舞殿がいるところまで、ドアは出せそうですか?」

 リリー人形はドアを出現させて、ここではないどこかに一瞬で移動する事ができる。

 特に、霊的に深い繋がりのある千舞のところにならば、問題なく移動できるはずだ。

「ちょっと待って。出してみる」

 リリー人形は、鏡でできた壁をノックした。

 すると、そこにドアが現れ、ぎぃ、と音を立てて開く。

 中に入ると、そこは小学校の教室のようだった。

 教室の真ん中には、ガムテープでぐるぐる巻きにされた掃除用具入れがある。

「十狼太! 掃除用具入れを開けろ!」

「あいよ」

 十狼太は掃除用具入れの取っ手を掴むと、ガムテープを引きちぎりながら戸を開いた。

 その中に倒れていたのは、中学生くらいの男の子だった。

「……誰、この子? ちぃちゃんじゃない」

 リリー人形は不満そうに男の子を睨んだ。

「ネットの記事にあった、行方不明の男の子であります」

「じゃあ、ちぃちゃんは!? なんでわたしのドアは、ここに繋がったの!?」

「分かりません。十狼太殿、教室の外はどうなっていますか?」

「通れるドアは一つだけで、さっきの鏡の部屋に繋がってるみたいだな。

 後のドアには全部カギがかかってる」

「リリー人形。もう一度ちぃのところにドアを出せるか?」

 リリー人形は首を左右に振った。

「だめ。出せない……見つからないの。ちぃちゃんはこの隠世にいない!」

「また、神隠しでありますか!」

 神隠しとは、子供がある日突然、どこかに消えてしまう事だ。

 消えてしまった子供は、何十年も経った後、

 子供の頃の姿のまま、全く違う場所に戻ってきたりする。

 そして戻ってきた子供はきょとんとして、

 「一日くらい、外で遊んでただけだよ」なんて言ったりする。

 隠世の時間は、現世に比べてゆっくり進む。

 そのため、隠世に囚われていると、

 自分が何十年そこにいても、ほんの一日くらいしかいなかったように感じてしまう。

 流はよく隠世を「夢に似てる」と言う。

 夢の中では一瞬なのに、目が覚めたら何時間も経っていたり、

 その逆に、夢で何十年も過ごしたのに、目が覚めたら数時間しか経っていなかったりするのだ。

 消えたのとは別の場所から現れるのは、隠世の出入り口は一つではないからだと言われている。

 隠世は一つだけではない。

 狭い隠世もあれば、広い隠世もあって、いくつもの隠世が繋がっている場合もある。

 いくつもの隠世が繋がっていれば、当然、それだけ出入り口も多くなる。

 まるで、たくさんの電車が行き来する駅で、

 行き先が分からない電車に乗ってしまったようなものだ。

 千舞は、もうこのオバケ屋敷の隠世にいない。

 そして、行き先は誰にも分からない。

 流は、千舞をさらわれてしまった悔しさに、拳を握り締めた。

 

「……自分達は必ず、見つけ出すのであります」

 希華が呟いた、その時だ。

 倒れていた男の子が飛び起きて、希華の肩を掴んだ。

「あそこだ! みんなあそこにいる……!」

 男の子は、黒板に書いてある文字を指差す。

 

 桜里小学校 卒業おめでとう

 

「桜里小学校……そこに、千舞殿がいるのでありますか?

 どうして分かるのであります? 誰の事であります?」

 希華は男の子に詰め寄った。

 男の子はカッと目を見開いて、怯え切った表情で黒板を睨みつける。

「タキガワ、カナエ」

 そして、震える唇で言った。

 次の瞬間、希華達はオバケ屋敷の外に弾き出されていた。

 太陽が眩しい空と、ガヤガヤと賑やかな遊園地……現世だ。

 

「隠世から追い出されたなら、もう一度入るのであります!」

 腕の中にいたはずの男の子がいなくなっていた。

 希華はオバケ屋敷を睨んだ。

「……希華、呪いの気配が消えてる」

「もう、このオバケ屋敷は呪われてない」

 ぬいぐるみに戻った十狼太が、流の肩に上って低く唸った。

 流も、状況を判断して呟いた。

「ちぃちゃんをさらわれて、完全に逃げられたって事?

 あいつ、このオバケ屋敷に取り憑いてる地縛霊じゃなかったの!?」

「多分、別の霊に取り込まれたんだ。

 だから地縛霊じゃなくなって、このオバケ屋敷からも離れられるようになった」

 流は木刀を袋に戻し、希華もライフルをしまう。

 ここでぐずぐずしている場合ではない。

 千舞を見つけて、助けなければ。

 

「大丈夫だ。ヒントはある」

 オバケ屋敷の隠世から追い出される直前に、行方不明の男の子が教えてくれた。

 「みんなあそこにいる」と。

 

「桜里小学校と、タキガワ カナエ。千舞殿は、そこにいるのであります」

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