とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

千舞が突然悲鳴を上げて逃げ出し、希華達は彼女を追いかける。
しかし、彼らは異世界の学校に転送され、そこで行方不明の男の子を見つける。
男の子は「桜里小学校」と「タキガワ カナエ」を指摘するが、その後、彼らは現世に戻される。
オバケ屋敷の呪いは解け、千舞は隠世に取り残されてしまう。
希華達は、千舞を見つけるための手がかりを得るのだった。


33~隠世の島

 はーい、みんな。わたしわたし。リリー人形!

 今日は「滝川カナエ」のウワサを教えてあげる。

 そう! ちぃちゃんがさらわれたオバケ屋敷で、

 隠世に閉じ込められてた男の子がわたし達に教えてくれた子の事よ。

 リュウが調べたところによると、滝川カナエっていうのは、

 桜里小学校の六年生で、十五年前に事故死した女の子らしいの。

 桜里小学校っていうのは、桜里島っていう、小さな島に一つだけの小学校。

 桜里島は、東京の沖合にあるすごーく小さな島で、今はもう地図にも載ってないみたい。

 五年くらい前まではちゃんと人が住んでて、

 小学校と中学校が一つにまとまった桜里小中学校っていうのがあったみたい。

 全校生徒数が、小学生と中学生を合わせて二十人くらいしかいなかったんだってさ。

 で、滝川カナエは、そこの六年生だったって事。

 え? 今、「桜里小学校」じゃなくて「桜里小中学校」って、どういう事? って思った?

 あの黒板に書いてあったのは「桜里小学校 卒業おめでとう」なのに。

 

 あのね、滝川カナエって子は、島のみんなに嫌われてたの。

 理由は、幽霊が見えたから。

 島のみんなに「ウソつき」って言われて、両親も味方になってくれなかった。

 卒業式の日、クラスのみんなは滝川カナエを掃除用具入れに押し込んで、

 ガムテープでぐるぐる巻きにして閉じ込めて、こう言った。

 

「滝川さん、桜里小学校卒業おめでとう! 中学生になったら、もうこの学校には来ないでね!」

 

 掃除用具入れに閉じ込められた滝川カナエが、ようやく外に出られたのは、

 すっかり日が暮れてからだった。

 見回りの先生? もちろん来たよ!

 滝川カナエは泣いたけど、先生は出してくれなかった。

 

「出して、出して!」

「またこんなくだらないイタズラをして。自分で入ったんだから、自分で出られるしょ」

「そんな事、ないのに……!」

 

 滝川カナエはいじめられてたんだけど、

 先生は「滝川カナエがいじめられてるふりをして周りの生徒を困らせてる」って思い込んでた。

 どうして? さぁ、大人って時々、訳の分からない事考えるよね。

 

 すっかり暗くなって、やっと両親が学校に「娘が帰ってきてない」と連絡して、

 掃除用具入れから出してもらえた。

 

「「カナエ!」」

「お父さん、お母さん……」

「こんな時間まで掃除用具入れに隠れて、大人達を困らせて!」

「そんなに帰ってきたくないなら、帰ってこなくていい!」

 

 でも、大人達は滝川カナエを叱ったの……両親もカンカンになって怒ってね。

 そして、滝川カナエを家の外に閉め出しちゃった。

 想像できる? 幽霊が見える霊感少女が、

 夜、一人で家の外に閉め出されるって、どんな気持ちなんだろうね?

 わたしは人間だった事なんて一度もないけど、きっと凄く怖かっただろうなぁ。

 それでね、これはわたしが魂絡繰だから分かるんだけど、

 怖がってる子供って、幽霊的にはごちそうなの!

 しかも滝川カナエは、島でたった一人の生け贄の血筋だった。

 滝川カナエの本当のお父さんとお母さんは、事故で死んじゃったの。

 だから叔父さん……つまり、お父さんの弟が住んでるこの桜里島に引き取られて、

 父さん夫婦の子供として生きる事になったんだけど……。

 滝川カナエの生け贄の血は、お母さんから受け継いだものだから、

 新しい両親は霊感なんて全くなかったってわけ。

 当然、滝川カナエが「オバケがいる」って怖がって泣いても信じてくれなかったし、

 ウソをつくなって叱ってばかりだった。

 家から閉め出された滝川カナエは、オバケに襲われて逃げ出した。

 逃げて逃げて、走って走って、どこでもいいから隠れたくって、

 古い井戸に落っこちて死んじゃった。

 

 滝川カナエは島の人間全員を、物凄く、物凄く、恨んだの。

 霊が見えるって信じてくれなかった奴らを恨んで、桜里島で一番強い悪霊になった。

 桜里島にいる霊を次々食べて、全部自分の手下にして、

 島の人間なんて簡単に食い殺せるくらい強く。

 ちょっと新聞を調べると、桜里島で、子供と教師が次々に変死したって記事が出てくるけど、

 もちろん全部滝川カナエがやった事。

 島の人達は、すぐに「何か変だ」と思い始めた。

 霊感のなかった人も、「きっと滝川カナエが呪ってるんだ」って思って、

 お祓いのために霊能者を島に呼んだ。

 それで、どうなったと思う?

 滝川カナエは、その霊能者も呪い殺して、魂を食べちゃったの!

 本当に、生け贄の血筋を持つ人間が悪霊になるとびっくりするくらい最強になっちゃうのねぇ!

 しかも、その霊能者も、滝川カナエやちぃちゃんと同じ「生け贄の血筋」だった。

 もちろん、滝川カナエはパワーアップ!

 そして、桜里島では、隠世と現世が重なった。

 どういう意味か分かる?

 今まで霊感のある人間にしか見てもらえなくて、人の魂にしか触る事ができなかった霊達が、

 誰にでも見えるし、誰にでも触れるようになったって事!

 島の人間達は、みーんな滝川カナエに食べられて、手下にされちゃった。

 意地悪ばっかりだった学校の子も、

 叱ってばっかりだった学校の先生も、信じてくれなかった両親も、みんなみんな島にいる。

 それが今の桜里島で、ちぃちゃんがいるところ。

 

 え? どうしてそんな事知ってるのかって?

 それはねぇ……。

 

 滝川カナエがぜーんぶわたしに教えてくれたの!

 

 わたしもビックリしちゃった。

 わたしが隠世で眠ってたら、急に知らない女の子がやってきて、

 あれこれ勝手に話し出すんだもの。

 今の滝川カナエは、島に取り憑いてる地縛霊だから、桜里島からは出られない。

 けど、他の霊の隠世にお邪魔して、お喋りする事はできるみたい。

 オバケ屋敷の男の子も、こんな風に仲間にしたんだって。

 滝川カナエは、リュウと希華をやっつけて、

 ちぃちゃんを殺して食べるのを、わたしに手伝ってほしいんだってさ。

 普通に考えたら、そんなの当然断るよね?

 だってちぃちゃんは友達だもの!

 でも、滝川カナエはこう言うの。

「別に、死んでも友達でいられるんじゃない?

 わたしが御神楽千舞を食べれば、日本全部を隠世にできる。

 死んでても生きてても変わらない世界にできる。

 そうすれば、わたしが御神楽千舞を食べて、

 御神楽千舞が魂だけの霊になっても、今と何も変わらないんじゃない?」

 確かにそうかも!

 わたしは人間になれないけど、ちぃちゃんがオバケになる事はできるものね?

 オバケになったら、今までの友達や家族と会えなくなるなんて可哀想……って思ってたけど、

 隠世と現世が重なれば、そんな心配もなくなるじゃない!

 いい考えかも、いい考えかも!

 

 アハハ、アハハハハ!

 アハハハハハハハハハハハ!

 

 でも、どうしようかな?

 どうすると思う?

 みんな、よーく見ててね。

 わたしが一体、どうするか!

 

「何をニヤニヤしてんだ、お前は」

 そう言って、ぬいぐるみ姿の十狼太は、リリー人形の頭を指先でつついた。

 リリー人形はもう、いつものサイズに戻っていて、

 島を目指して海を進む船の手すりに座っている。

「人形なんだから、ニヤニヤなんてできるはずないでしょ」

「『普通の人形』だったら、そもそも動いて喋る事もできねぇだろうが」

 つんとすまして言ったリリー人形に、十狼太は呆れたようにそう言った。

「そもそも、表情が変わってなくても、

 心の中で笑ってるかどうかなんて、雰囲気で何となく分かるってーの」

 そこに、希華と流が歩み寄ってきた。

「もうすぐ桜里島だ」

「千舞殿がいるのであります!」

 船が進む先に、小さな島の影が見える。

 遊園地で千舞が消えたのが、午後の二時。

 それからすぐにこの島を見つけて、

 船を手配して向かったけれど、もうほとんど日がくれかけている。

「本当に、ちぃがこの島にいるといいんだけど……」

「なぁ、リュウ」

「うん?」

 十狼太に呼びかけられて、流は小さなぬいぐるみを見た。

「今から行く島、隠世化してるぞ」

「え!?」

 十狼太の言葉に、流はぎょっとして聞き返した。

 希華とリリー人形も、驚いた目で十狼太を見る。

「隠世化って……どういう意味であります?」

「まあ、島に入ったら最後、そこは霊の世界って事だ。

 隠世と現世が完全に重なってるから、危なくなったら現世に逃げるって事ができない」

「どうして分かるのであります?」

 十狼太は軽く笑うと、狼のぬいぐるみから飛び出した。

 彼は狼の霊で、普段はぬいぐるみに封じられていて、

 流が「出ろ」と命じない限り、ぬいぐるみからは出られない。

 そのはずなのに今、十狼太は自分の意思でぬいぐるみから飛び出した。

「ど、どうやって……!?」

「無理やり出たわけじゃない。むしろ、もうぬいぐるみの中に入ってられねぇんだよ。

 ほら、触ってみろ」

 十狼太は、流に向かって手を差し出す。

 流が恐る恐る手を伸ばすと、ふかふかとした毛並みの感触があった。

 それは、隠世で触る十狼太の感触だ。

「え、よく分からないのであります」

「信じられない……これが、滝川カナエの力なのか?」

 希華はぽかんとして、流はリリー人形を見た。

「じゃあリリー人形も、人形から出られるのか?」

「わたしは別に、人形に封印されてるわけじゃないもの。でも、そうねぇ。

 ちぃちゃんの髪の毛がなくても、大きくなれそうな感じはするかも?」

 リリー人形はそう言うと、ぴょんと手すりから飛び降りた。

 ぐっと力を込めて立ち上がると、一気に身長が流と同じくらいまで伸びる。

「ほら、できた!」

「はー、凄いのであります」

 ぽかんとして、希華は十狼太とリリー人形を見比べる。

 そして、安心したように微笑んだ。

「ちぃをさらった悪霊の力だって思うと複雑だけど……

 オレの呪力がなくても二人が戦えるなら、凄く心強い」

「じ、自分だって頑張るのでありますよ、この銃で」

「魂絡繰を信じすぎたら危ないんじゃなかったのか?

 オレが今その気になれば、お前を海に放り込んだり、食っちまう事もできるんだぞ」

「あぁ、確かに……」

 流も、まさに今日、リリー人形を大きくしてきた千舞に

 「魂絡繰に気を許しすぎるな」と注意したばかりだ。

「でも、大丈夫であります。現世が隠世と重なって、

 貴殿達が隠世と同じように動けるって事は……ほら」

 希華はライフルを取り、流は、腰の袋から木刀を引き抜いた。

 呪滌刀と呼ばれるこの木刀は、悪霊と戦うための強力な武器だ。

 希華のライフルは特別なもので、光の弾丸を撃てる。

 現世では黒い木刀だが、隠世では、触るもの全てを切り裂く本物の刀になる。

 そして流が思った通り、流の呪滌刀は、隠世に入った時と同じように、本物の刀になっていた。

 流は、呪滌刀の刃を傾けて、キラリと光らせてみせる。

「オレと戦ったら、十狼太だってケガをする。

 それに、もし十狼太がオレを食べたりしたら、

 【ギャラリー】の奴らが許さないって知ってるだろ?」

「そうなんだよなぁ」

 ぺたりと耳を伏せて、十狼太はリリー人形を見た。

「お前も、妙な事は考えない方が身のためだぞ。

 オレとお前で力を合わせて希華とリュウを倒しても、

 希華とリュウより強い奴らがオレ達を祓いに来るだけだ」

「な、何よ……! わたしはあんたと違って、ちぃちゃんを助けたいだけ!

 あんたみたいな邪悪な動物霊と一緒にしないでよね!」

「ならいい。オレもお前と戦うのは面倒だからな」

「ふん!」

「喧嘩してるのでありますね」

 十狼太はそう言うと、のしのしと船首の方に歩いていく。

 リリー人形はその背中をじっと睨んで、思い切りそっぽを向いた。

 

 ――そして、船は桜里島に着いた。

 

「リリー人形。ちぃのいるところに、ドアは出せるか?」

「待って。試してみるから」

 上陸してすぐ、リリー人形は何もない空間にドアを出そうと試してみる。

 だが、リリー人形がどんなに頑張っても、ドアを出す事はできなかった。

「駄目、出てこない」

 リリー人形は腰に手を当てて、俯いた。

「隠世と現世が重なってるからって、完全に隠世と同じにはできないみたいね」

「なるほど……隠世にいるときの、半分くらいの力って感じか。十狼太も?」

「そうだな……まぁ、お前らを乗せて跳ぶくらいはできる」

 そう言うと、十狼太はぶるりと体を震わせて、その場で四つん這いになった。

 人間と同じくらいだった体はぐんぐんと膨らんで、

 希華、流、リリー人形が乗れるくらいに大きくなる。

 

「乗れ。お嬢ちゃんを探しに行くぞ」

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