桜里島で15年前に亡くなった生け贄の血筋の少女・滝川カナエは、
島の人間に復讐するため強力な悪霊になり、隠世と現世を重ねてしまう。
カナエは同じく生け贄の血筋を持つ千舞をさらって食らおうとする。
希華、流、リリー人形、十狼太は、彼女を助けるために桜里島にやってくる。
彼らは隠世化した島で千舞を探し、カナエと対決する事になった。
希華達はさらわれた千舞を探すべく、隠世と現世が重なった桜里島を探索した。
「うっ……これは、酷いガスでありますね」
島の中には、獲物を眠らせる不可思議なガスが漂っている。
吸い込んだら眠気に襲われてしまうため、鼻をつまみながら希華達は迂回する。
しばらく島を歩いていると、「桜里小学校」と書かれた建物に辿り着く。
恐らく、千舞はここにさらわれたのだろう。
四人は覚悟を決めて、桜里小学校に潜入した。
「千舞殿ー! どこにいるのでありますかー?」
「しっ、静かにするんだ」
大声を出す希華を、流は注意する。
ここは隠世と現世が重なっているため、たくさんの幽霊がいる。
もし刺激して襲ってきたら大変だ。
「……あれ?」
ふと、希華は虚ろな表情の、人間そっくりなマネキンを発見した。
マネキンは希華が前に立っているにも関わらず、全く反応しない。
「これって……人間がマネキンになったもの……でありますか?」
希華はじっとマネキンを見つめる。
まるで、何者かがマネキンになったようだ。
「こんなところにも、マネキンがあるとはな。刺激しないように、そっと進むぞ」
「はい、であり……待った!」
マネキンを避けて進むと、這いずる影が三体、蠢いていた。
滝川カナエに呼ばれた幽霊だろうが、まだ幽霊達は希華に気づいていない。
希華は慎重に銃を構え、弾丸を一発撃って、影の幽霊を攻撃する。
「敵は気づいていない、迅速に仕留めるぞ」
「ああ! どんと来い!」
流は刀を振るって影の幽霊を一体倒す。
すると、もう一体の影の幽霊が闇の手を伸ばし、流の体力を減らしていく。
「ぐっ……やはり、カナエの力は強いな……!」
「雑魚敵がこれなら、カナエ殿はどれほどの力であります!?」
希華は何とか影の幽霊の攻撃をかわし、光の弾丸を影の幽霊に撒き散らす。
「オレの攻撃が効かねぇ!」
「わたしもよ!」
十狼太は爪で引き裂き、リリー人形もドアを開けて人形を呼び出して攻撃するが、
手ごたえを感じる事ができない。
「……でも、ここで諦めるわけにはいかねぇからな」
「ちぃちゃんは絶対にわたしが助けるんだから!」
「リリー人形、訂正してください。自分『達』であります」
「あ、そうだったわね」
十狼太とリリー人形が召喚した人形の魂絡繰が、二体目の影の幽霊を倒す。
リリー人形は傷ついた希華の体力を回復し、流は刀を振るって影の幽霊を倒した。
「千舞殿は一体どこに……」
希華がそう呟いていると、先程から周囲が嫌に暗かった。
まるで、オバケ屋敷に迷い込んでしまったようだ。
「おかしい、オバケ屋敷は祓ったはずなのに……」
流がそう思った瞬間、希華達は小学校の通路に出る。
「こ、これは!?」
そこは、カナエが通っていた、桜里小中学校だった。
希華達は嫌でも、カナエの追体験をさせられてしまう。
「あなた、幽霊が見えるんだってね」
「そんな~、カナエちゃんは嘘をついてるんじゃないの?」
「ひっく……うぅっ……」
一人の少女が、群がった生徒達に酷い事を言われている。
希華は霊感がほぼなかったが、この少女が滝川カナエである事は理解できた。
彼女は生きていれば、27歳くらいになるだろう。
「本当に、わたし、オバケが見えるのに……。どうして、信じてくれないの……?」
「カナエちゃんの嘘つき」
「嘘つきは泥棒の始まりだよ」
「うーそつき! うーそつき!」
生徒達はさらに、カナエを殴ったり蹴ったりする。
まるで、カナエを物だと思っているかのように。
「……」
生徒達の、人とは思えない行為に希華達は呆然とする。
見ている側の希華は、心に痛く感じるものを捉えていた。
走馬灯のように次々と景色が変わっていくが、
どれもカナエを心身共に、傷つけるようなものばかりだった。
「卒業おめでとう! もう二度と、中学校に来ないでね!」
生徒達がカナエをガムテープで縛り、掃除用具入れに閉じ込めたり。
「カナエが私達を困らせてるなんて……」
「もう、許さないからな!」
両親も教師も、カナエのせいで困ったと言って彼女を家から追い出したり。
「見てるだけでつらくなっちまうぜ……」
誰も助けてくれないカナエを見る者からすれば、十狼太もつらく感じてしまう。
「もうやめてください、自分達は貴殿の苦しみなんて……」
「見たくないって言うの?」
耐えられなくなった希華が叫ぶと、知らない少女の声が聞こえてきた。
はっ、と希華が気づくと、彼らの前に不気味な笑みを浮かべた少女が姿を現した。
「滝川、カナエ、殿……!」
その少女の姿を見た希華が取り乱し、武器を落としそうになる。
「そうよ。わたしは生け贄の血筋、滝川カナエ。
みんなと違うからって、みんなで寄ってたかってわたしを傷つけて。
わたしの気持ち、分かってくれた?」
カナエは自身が傷ついた事を希華達に話す。
追体験をした希華達は、彼女の言葉に対し何も言えなくなってしまう。
「ああ……お前には同情する。でも、お前は悪霊だから、祓うしかない」
しかし、流は冷静に呪滌刀を抜いた。
いくら同情しても、カナエが今までにしてきた事を、流は見過ごせないからだ。
「祓う? たかが子供如きが、わたしを祓えるっていうの?
わたしは霊能者の魂を食べて、それ以外のみんなも食べたのよ」
「とんだ大食いでありますね」
希華の顔に青筋が入り、ライフルを構える。
大食いなのは自分だけだという表れである。
「だからねぇ……これから、あなた達も食べてあげる!
これは本体じゃないけど、それでも手加減なしで、行くわよ!」
「……来るっ!」
流が呪滌刀を構えると同時に、戦闘が始まった。
カナエの分身の笑い声と共に二体のマネキンが現れる。
十狼太は丸くなり、体当たりしたがカナエは呪力で十狼太の攻撃を防ぐ。
流はカナエの呪力を刀で切り裂き、リリー人形は召喚した人形をカナエにけしかける。
「わたしが味わった苦しみを、みんなにも味わわせてやる!」
「ぐっ……!」
カナエが呪力を放つと、希華達は遠慮なく入ってくる呪力に苦しむ。
つらい思いを抱えていたカナエに、
さらに生け贄の血筋特有の呪力で、希華の体力が尽きそうになる。
「希華、気をしっかりしろ! 十狼太もリリー人形も、ここで諦めるのか!?」
「はっ……!」
「そ、そうだった!」
流から激励を受けた希華達は、カナエの呪力を弾き飛ばす。
「な、なんですって!?」
「ど、どうしてこんな事に……」
ダメージを与えられなかった事にカナエも希華も驚く。
しかし希華はすぐに首を左右に振り、ライフルから光の弾丸を放ち、
油断しているカナエにダメージを与えた。
「不意打ちは常套手段……であります」
「よくも……みんな、許さないんだから! やっちゃいなさい!」
「じゃあ、わたしだってやっちゃうわよ」
カナエは呪力でもう一体のマネキンを呼び出し、リリー人形は別の隠世から人形を呼び出す。
そして、カナエの呪力が再び襲い掛かるが、希華達は何とか攻撃を防ぐ。
「これ以上、ちぃを傷つけるなら容赦はしない!」
「ふん、その刀で何ができるっていうの?」
流が振るった刀を、カナエは強力な呪力で防ぐ。
「希華!」
「了解!」
流が目配せすると、希華は不意打ちでカナエに光の弾丸を放つ。
ダメージは小さかったが、確実にカナエの体力は削った。
不意打ちは常套手段……希華の言葉に、カナエはさらに悔しがる。
「おらぁっ、食らえ!」
十狼太は爪を大きく振り、カナエと彼女が召喚したマネキンをまとめて攻撃する。
リリー人形が召喚した人形も、マネキンにパンチして罅を入れた。
「もっと大きな奴を呼び出しちゃうわよ? いっけ~!」
リリー人形は二体の人形を融合すると、
少女の姿をしながらも腕が丸太のように太い歪な人形を召喚した。
元は呪いの人形らしい、不気味な人形だ。
希華は多少、不快な気分を覚えながらも、マネキンの攻撃を銃であしらう。
「あいつにとどめを刺しちゃって!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」
リリー人形が人形に指示を出すと、人形は思いっきりカナエにタックルする。
そして、カナエの身体を締め上げて、見事にカナエの分身を倒すのだった。
「……どうやら、ちぃちゃんはここにいるみたいね」
カナエがいた気配に千舞がいる事が、リリー人形には分かった。
「んじゃ、ドアを出してくれ」
「もちろんよ!」
そう言ってリリー人形はドアを出し、四人は一気にその中に入った。
希華が見ると、千舞が今にもカナエに井戸に落とされようとしていた。
千舞は何とか耐えているものの、このままではカナエと同じように井戸に落ちて死んでしまう。
「ちぃちゃん、今、わたし達が助ける!」
そう言って、リリー人形は思いっきりカナエの方に飛び込む。
希華、流、十狼太も、急いで千舞を助けようとする。
「なんで邪魔するの!? 手伝ってくれるって言ったじゃない!」
カナエは、リリー人形に地面に押さえつけられていた。
じたばたと暴れながら、大声で怒鳴っている。
「わたしは『どうしようかな?』って言っただけだけど?」
リリー人形はしれっと答えた。
「ちょっとアリかもって思ったのは本当よ。でも、『こんなの』はナシ。
ちぃちゃんを怖がらせて、傷つけて、泣かせるような事が、ほんの少しも『アリ』なはずない」
リリー人形は千舞を見た。
「ごめんね。ちぃちゃん。わたし、ちぃちゃんと同じになりたかったの」
リリー人形の目から、ぽろぽろと涙があふれた。
「だからちょっとだけ、滝川カナエを手伝った。
本当はドアも出せたのに、すぐに助けに来られたのに、ちぃちゃんを助けに来なかった」
「リリー……」
「わたしの事、嫌いになる?」
「ならないよ……!」
千舞は答えを迷わなかった。
「まだ、わたしと友達でいてくれる?」
「ずっと友達でいるし、カナエちゃんとも友達になる!」
千舞は立ち上がった。
そして、リリー人形に押さえつけられているカナエに駆け寄り、
ぽかんとしているカナエの手を握った。
「ほら、ね? わたしが死ななくても、カナエちゃんが幽霊でも、わたし達、友達になれるよ。
少なくとも、わたしはカナエちゃんと友達になりたい」
「や、やめて……!」
怖がるように、カナエは千舞の手を振り払った。
そして、力任せにリリー人形を突き飛ばして、井戸の底に飛び込んだ。
「カナエちゃん!?」
慌てて、千舞は井戸の淵に飛びつく。
「やめて、やめて、やめて!」
井戸の底から、カナエが叫ぶ声がした。
「わたしは人間を憎んでるの! 憎んでないといけないの!
人間とは友達になんてなれない! どうしてくれるの!?
あなたが友達になるなんて言うから、わたし、どんどん壊れてく!」
防水タイプのスマホは、水に落ちてもまだ生きていて、
付きっぱなしのライトのおかげで井戸の底の方がよく見えた。
井戸の底で、カナエは苦しんでいた。
どんどん崩れて、壊れて、小さくなってく。
「そんな……! カナエちゃんが……!」
「消えるのであります」
「どうして!?」
「集堂殿、お願いするのであります」
「……魂が由来だから」
希華と流は、千舞と一緒に井戸を覗き込んだ。
「どういう意味……?」
「滝川カナエの力の源は、人間に対する憎しみだった。そして、人間に対する憧れだった。
友達が欲しかったんだ。ずっと。生きてる人間の友達が欲しかった」
「そして、自分達が滝川殿の負の感情を祓い、さらに千舞殿が友達になったから、
滝川カナエは人間を憎めなくなり、悪霊でいられなくなったのであります」
「ちぃは優しさで悪霊を祓ったんだよ」
「でも……消えちゃうなんて……!」
「滝川カナエ!」
叫び声が聞こえたのは、その時だ。
ふり向くと、ピエロマスクの男の子が立っている。
「そんな……! ダメだ! 消えるな! 君が消えたら、ボクはどうなる!?
もっともっと、大嫌いな人間をたくさんいじめて、オモチャにして、
苦しめて遊ぼうって約束したのに!」
ピエロマスクの男の子は、千舞を見た。
マスクの向こうから、千舞を睨みつけている。
「そいつが悪いんだ……! そいつを殺せば、君はまだ人間を憎める!」
「希華さん、リュウ君……!」
「あいつは無理だ。あいつは優しさじゃ祓えない」
「自分が、やるのであります」
希華はライフルを構えた。
襲い掛かってくるピエロマスクの男の子に向かって、
希華はたった一発だけ、頭に光の弾丸を放った。
ピエロのマスクにヒビが入って、地面に落ちる。
気弱そうな男の子の顔が、ぐしゃぐしゃに泣きながら、千舞達を見ていた。
「ずるいよ……! ボクだって、まだ生きていたかったのに……!」
「貴殿はもう死んでいるのであります」
割れて地面に落ちたマスクが、灰になって崩れると同時に、男の子の霊もふっと消える。
千舞は井戸を覗き込んだ。
もう、カナエもそこにいない。
「終わった……の?」
「ああ。もう、隠世と現世も重なってない」
流が答えると、どん、と千舞の胸に衝撃があった。
人形サイズに戻ったリリー人形だ。
「ちぃちゃんごめんねぇ! 怖い思いさせて本当にごめんねぇ!」
「ほんとだぞ、お前。一歩遅くて、ちぃが死んでたら、お前、完全に討伐対象だったからな」
ぬいぐるみの中に戻った十狼太が、リリー人形を容赦なく足蹴にする。
いつもは文句を言うリリー人形も、今日ばかりは大人しく蹴られていた。
「なんか……何だか、ちょっと悲しいね。
人間と霊が一緒に暮らして、友達になれる世界なんて、
本当にあったら絶対に楽しかったのに……」
「そうでありますね」
希華は、寂しそうに月を見上げた。
「ですが、不可能であります。
霊と人間は同じじゃないし、死んだ人間が必ず霊になるわけじゃないのであります」
「だからオレ達は、命を大事にするんだ。
死んでからできる事もあるけど、生きてないとできない事が、世の中には多すぎるから」
カナエも、ピエロマスクの男の子も、死にたくて死んだわけではない。
生きていたかったのに、周りの人があまりにも意地悪で、生きている事ができなかった。
二人が人間を憎んだ気持ちは、千舞には痛いほど分かる。
しかし、二人は間違いなく悪霊だった。
放っておけば、もっとたくさんの人を傷つけて、呪い殺していただろう。
「ねぇ、リュウ君。あの二人は、魂絡繰じゃなかったの?」
「ああ……魂絡繰は『魂の力で動く呪物』の事だから……今回は違うな。
滝川カナエが呪ってたのは、人間全部だし……オバケ屋敷の呪いも、やっぱり人間を呪ってた。
物じゃないから、コレクションにも加えられない」
「ただ、祓う事しかできない、悪霊って事?」
「そうであります。そして祓わないと、永遠に人間を呪い続けるのであります」
「ちぃは、誰かを怒っている時の気持ちがずーっと続いたら、どう思う?」
「凄く嫌だと思う」
「うん。だよな。――それを終わらせたんだ、オレ達は」
「悪霊は、絶対に幸せになれないのであります」
「そっか……」
千舞も、希華と同じように月を見上げてみて、こう言った。
「六根清浄……俯仰天地に愧じず」