とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~
千舞はリリー人形と遭遇し、その人形がかつての持ち主である少女が強盗に殺された悲劇を語る。
それを知った千舞だったが、どうしてもリリー人形と友達になりたくないと言う。
すると、リリー人形は千舞を自分だけの友達にするべく、彼女の体を人形に変え始める。
しかし、流と希華が現れてリリー人形を倒し、千舞を無事にリリー人形から救うのだった。


5~初めてのコレクション

 いつの間にか、十狼太は狼男に戻っていた。

 そのため、千舞は最初にこの隠世に来た時のように、

 二本足で立っている十狼太の肩に座っている。

 リリー人形は、元の可愛らしい姿に戻っていて、

 あの大きなドールハウスに置いてあるソファに深く腰かけたまま動かない。

 希華も、元のリリー人形がこんなのだったのか、と見つめる。

 

「……し、死んじゃったの?」

「呪力を封じただけだ。死んでない」

「じゃあ……殺しちゃうの?」

 千舞が十狼太の肩の上から恐々聞くと、流は金色の目でちらっとだけ千舞を見た。

「足、戻ってるな」

「ホントであります」

 流達がリリー人形を倒したため、その影響はすっかりなくなっていた。

 唇まで人形になっていた千舞の体は元に戻っており、足も元通りになっている。

「ちぃを下ろせ、十狼太」

「お? なんだなんだ? やきもちか?」

「うるさい! 呪言をもって命じるぞ……!」

「やめろやめろ! 今下ろすから!」

「楽しそうであります」

 十狼太がしゃがんだので、千舞はそろりそろりと床に下りた。

 

 千舞は流の隣まで歩いていくと、リリー人形が涙を流している事に気がついた。

「……泣いてる」

「何、何が起こったのであります?」

「どうしてこんな事するの? わたしはちぃちゃんと一緒にいたいだけなのに」

 リリー人形は、流と希華を睨んだ。

 流は溜息をつく。

「普通の人形として、傍にいればよかっただろう」

「リリー人形は、千舞殿を人形にしてまで一緒にいたかったのでありますか?」

「だってかなちゃんは殺されちゃったじゃない!」

「かなちゃん……か。お前の最初の持ち主だな」

「1990年に殺されましたね」

 千舞はマネキンに襲われる前に見た、カレンダーの日付を思い出した。

「わたしが守ってあげれば、きっと助けられたのに!

 あの時、かなちゃんに『返事をしちゃダメ』って言えてれば!

 あの時、かなちゃんに『動かないで』って言えてれば!」

 リリー人形は、泣きながら両手で顔を覆った。

 希華は、ふむと顎に手を当てた。

「そうか……その後悔と、持ち主を想う強い心が、お前を魂絡繰にしたんだな」

「……ですが、自分は戦士であります」

 流と希華は、リリー人形にそれぞれの武器を突きつけた。

「選ばせてやる。

 呪いを祓う魂絡繰としてオレのコレクションになるか、このままオレ達に祓われるか」

「選択肢は二つでありますよ!」

「あんたのコレクション? 何それ、最悪だわ」

「なら、この銃で祓うしかないのであります」

「いいわよ。ちぃちゃんに捨てられるなら、消えちゃった方がいい」

「ま、待ってリュウ君、希華さん! わたしに話をさせて!」

 流の目が冷たく光り、希華が笑みを浮かべたのを見て、

 千舞はリリー人形を守るように二人を押し下げた。

 流、希華、リリー人形は、驚いて千舞を見る。

 

「ねえ、どうしてそんなにわたしと友達になりたいの? 他の子じゃダメなの?」

 千舞の質問に、リリー人形はにっこりと微笑んだ。

「わたしねぇ、呪いの人形なの」

「え?」

「わたし、かなちゃんが殺されちゃってから、呪いの人形って呼ばれててね。

 わたしを見ているのは曰くつきの呪物を集めてる人ばかり。

 そういう人だって、全然わたしを大事にしてくれないの。

 小さな箱に閉じ込めて、飾っておくだけ。何年も、何十年も」

「わたし以外にも……誰か、呪ったの?」

「呪ってないよ。ちぃちゃんだけ。

 わたしを買ったコレクター達は、わたしが喋ったり、誰かを呪ったりする事を期待してたけど、

 わたしはそんな期待には絶対答えてやらないって決めてたの」

 なるほど、と呟いたのは希華だ。

 千舞が振り向くと、希華は肩を竦める。

「あー、これほど強い力を持った魂絡繰が、どうして今まで事件を起こさなかったのか、

 不思議だったのであります。

 普通、こんなに力をつける前に、誰かが祓ってるはずでありますから」

「でもちぃちゃんは、わたしの事を怖がらないで、わたしの事を大事にしてくれた。

 わたし、ちぃちゃんを守ってあげたかったの」

「守って……? 呪って、じゃなくて……?」

 リリー人形は頷いて、流と希華を見た。

「気づいてるでしょう?

 そんな目を持っているんだから、ちぃちゃんがわたし達にとって、どれくらい特別か」

 流は顔をしかめ、希華はきょとんとする。

「この町には今、わたし以外にも魂絡繰があるわよ。

 ぼんやりしてたら、ちぃちゃんは、あっという間に食べられちゃう。

 わたし、ちぃちゃんの呪力にしか興味がないような連中にちぃちゃんを取られたくなかったの」

「……えー、つまり、要するに……千舞殿は……」

「ちょ、ちょっと待って、全然話についていけないんだけど……!」

 千舞はとうとう我慢できなくなって、三人の会話に割って入った。

「これは言わないつもりだったんだが……」

「教えてよ! ちゃんと、わたしにも分かるように!」

「……仕方ない」

 流は、こほんと一息ついた。

 

「ちぃは……その、所謂生け贄の血筋なんだ」

「い、いけにえ……?」

「マジカル&ソーサリアで『生け贄に捧げる』とは、

 何らかの効果のためにユニットをトラッシュへ送る行為であります。

 例えば○○を生け贄に捧げると闇のコストを3つ得る、みたいなものであります」

 希華は現在プレイ中のカードゲーム「マジカル&ソーサリア」に例えていた。

 流は「脱線しすぎだ」と言い、話を続ける。

「要するに、生け贄とは、命を捧げて人ならざる者に力を与える事。

 だから、ちぃは幽霊とか、そういうのに狙われやすいんだ。

 ……三年前にちぃがケガをしたのも、そのせいだったんだ。

 オレはその時、弱くて、臆病で、ちぃの事を守れなかった」

「う、うそぉ! わたし、幽霊なんて見た事ないよ!?」

「見えない、気づかないっていうのは、心が強い証拠なんだ。

 見えなければ怖がれないし、怖がらない人間に霊は大した事はできない」

「だから魂絡繰レベルの呪物に出会わない限り、大丈夫なはずだったのでありますが……」

 しかし、千舞は魂絡繰のリリー人形に出会ってしまった。

 そしてリリー人形は、この町には他にも魂絡繰があるという。

 

「じゃあ……リリー人形は本当に、わたしの事を守ろうとしてくれてたの?」

「そうよ。信じてもらえないかもしれないけど」

 かくん、とリリー人形が首を真横に傾ける。

「足が動かなくなれば、一人で危ないところに行ったりしないでしょう?

 なのにちぃちゃんが足を治したがるから、わたしの隠世に閉じ込めようと思ったの。

 現世には怖い事がいっぱいだもの。かなちゃんみたいに殺されるかもしれない。

 悪い魂絡繰に食べられちゃうかもしれない。

 だったらわたしが作ったこの世界で、毎日お茶会している方が、絶対に楽しいでしょう?」

 千舞はこの子を倉庫で見つけた時、なんて寂しそうなんだろうと思った。

 彼女は大事にしていたつもりだし、友達だと思っていた。

 その気持ちは、想いは、もしかしたら間違いではなかったのかもしれない。

「リュウ君、希華さん。この子、わたしが持ってたらダメかなぁ?」

「ちょい待ちであります!

 この人形がその気になったら、千舞殿はあっという間に取り殺されるのであります!」

「でも、いつでも取り殺せたのに、希華さん達にバレるまでそうしなかったわけでしょ?」

「それは……」

「ねえ、リュウ君のコレクションになるのが嫌でも、

 今まで通り、わたしが持ってるならいいでしょ? 嫌じゃないでしょ?」

 千舞はリリー人形を抱き上げた。

 リリー人形はキラキラの目で千舞を見つめて、両手を広げて、ぎゅっと千舞を抱きしめる。

「ちぃちゃん、大好き! わたし、絶対にちぃちゃんの事を守るから!」

 

 こうして、リリー人形の魂絡繰は、引き続き千舞の友達として一緒にいられる事になった。

 希華は「はぁ」と溜息をついたが、これにて一件落着であった。

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