とある少女の呪物回収(ノロイアツメ)   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

流、十狼太、希華はリリー人形を倒し、千舞を救った。
しかし、リリー人形は千舞を守るために彼女を呪ったと明かす。
千舞の家系である御神楽家は生贄の血筋で、魂絡繰に狙われやすいという。
リリー人形は他の魂絡繰から彼女を隠し、守るために千舞を呪ったのだ。
それを知った千舞はリリー人形を友達として受け入れ、一緒にいる事を選ぶのだった。


6~オバケ廃墟の思い出

「ところで千舞殿、さっき三年前に怪我をしたって言いましたよね。

 どうしてなのか、自分に分かりやすく教えてほしいのであります」

 希華が千舞に、彼女が怪我をした理由を問いただした。

 リリー人形から千舞を助けた後、流は千舞が三年前に怪我をしたと言っていた。

 希華はそれが気になって、問いただしたのだ。

 千舞は「いいよ」と言うと、希華に事情を話した。

 

 あの事件が起きたのは、今から三年前の夏休みだった。

 千舞の母が死に、千舞の父も忙しく、千舞は「早く大人にならなくちゃ」と一生懸命だった。

 そのため、千舞はあちこちを探して、

 わざと「子供は近づいちゃいけません」と言われている場所を選んで遊んでいた。

 もちろん、今はそんな危ない事はしていないが、

 その時は「危ない事をするのが大人への近道」だと思い込んでいた。

 

 その日も千舞は、呪いアパートの貯水タンクを見に行くために、朝から大張り切りだった。

 しかし、呪いアパートの前で泣いている流と、

 彼を囃し立てている五人くらいの男の子を見つけて、千舞はぽかんとしてしまった。

「呪いがウソだって言うなら、一人で貯水タンクまで行ってこいよ!

 それで、中を覗いて帰ってこい!」

 五人の中で最も体が大きい、リーダーらしき男の子が流を突き飛ばした。

 流は転んで、声も出さずに泣きながら、ふるふると首を左右に振る。

「ねぇ、あなた達。今すぐいじめをやめないと、わたしのお父さんがここに来るからね」

 千舞はそう言いながら、流が転んだシーンから撮影した、スマホの動画を突きつけた。

 男の子達はあれこれ言い訳しながら、大急ぎで逃げていく。

 

「逃げるくらいなら、最初からいじめなんてしなきゃいいのに」

 千舞はそう言って、転んだままぼんやりしている流の手を掴んで、

 立ち上がるのを手伝ってあげた。

「大丈夫? ケガしてない?」

「うん……ありがとう。でも、危ないよ」

「え?」

「動画撮っても、スマホを取り上げられて、壊されてたかもしれないし。

 怒ったあいつらに殴られてたかも」

「うーん、そうかも。……でも、無視はできないでしょ?」

「じゃあ、大人を呼ぶとか」

「大人が来る前に、あなたがケガさせられちゃったら意味ないでしょ? 大丈夫!

 だって、もしスマホを壊されたりしたら、

 あの子達のおこづかいがなくなるまで、一生弁償し続けてもらうから!」

「あはは……そっか。それ、いいね」

 流はくすくす笑って、服の袖でごしごしと涙を拭う。

「ねぇ、あなた、呪いがウソだって言ったの? それでいじめられてたの?」

「うん」

「どうしてウソだって思うの?」

「だって呪いアパートの噂って、貯水タンクに落とされた子供が溺れ死んで、

 その霊が子供を貯水タンクに引っ張り込むって奴だろ?」

「そう、それ!」

「バカバカしいよ。貯水タンクを覗き込むと、水面に自分の顔が映るんだ。

 でも暗くてよく見えないから、身を乗り出しすぎて落っこちる。

 そういう事件が続いたから、呪いアパートなんて噂になっただけ」

「そっかぁ!」

 呪いの真相がわかって、千舞は大喜びした。

「あなたって物知りなんだね! ねぇ、他の怖い噂についても、詳しく知ってたりするの?」

「まあ……うん。詳しいよ」

「すごい! ねぇ、お友達になってくれる? わたし、御神楽千舞。

 みんな、ちぃって呼ぶから、あなたもそう呼んでいいよ」

「オレはリュウ。流れるって書いて、集堂流」

 その日から、千舞と流は親友になった。

 

 流と千舞は、毎日公園で待ち合わせして、色んな心霊スポットに行った。

 千舞が怖い噂を聞かせると、

 流は必ず「それは、実はこういう事で、全然オバケとは関係ないんだよ」と教えてくれた。

 そうやって怖い噂の正体を知るたびに、

 千舞は一つずつ大人になっていく気がして、嬉しかったし、楽しかった。

「でもリュウ君って、オバケは信じてないのに、怖がりだよね。

 暗いところで大きな音とかすると、すぐにわたしの手を引っ張って、泣きながら逃げ出すし」

 千舞がからかうと、流は、恥ずかしそうに真っ赤になる。

「人が少ないところには、悪い大人がいるかもしれないだろ?

 大きな音がしたら、とりあえず逃げるべきだよ!」

「そうかなぁ?」

「それより、今日はどこに行くの?」

「えーっとね。H坂の途中にある、オバケ廃墟!」

「そこはダメだ」

 流が急に怖い声を出したので、千舞は非常に驚いた。

 今まで流は、どこにだってついてきてくれたはずだが。

「どうしてダメなの?」

「そこは……危ないんだ。オバケじゃなくて、悪い大人が出る」

「大丈夫だよ。まだ朝だし、誰かがいたらすぐ逃げれば」

「ダメだよ。オレは行かない。違うところにしよう」

「じゃあいいよ。わたし、一人で行くから」

「ちぃ、ダメだよ! そこは本当に危ないんだ!」

 千舞は流が止めるのを聞かずに、オバケ廃墟までどんどん歩いていった。

 オバケ廃墟は、上るのが大変なほど急なH坂の、ちょうど真ん中くらいにある。

 ずらりと並んでいるビルのうち、子供達がオバケ廃墟と呼んでいるビルだけが、

 窓に全て新聞紙を貼ってあって、柵もパイプも茶色く錆びている。

 学校でも有名な心霊スポットで、オバケ廃墟だけで怖い噂が百個くらいあるほどだ。

 破けた新聞紙の向こうから、誰かがこっちを見ていたとか。

 夜に誰かがおいでおいでをしていたとか。

 イタズラで中に入った子供がいなくなったとか。

 流と探検するうちに、怖い噂は全てウソと信じられるようになってからは、

 オバケ廃墟も大丈夫なはずだと千舞は思った。

 

 オバケ廃墟は、昼間なのにとても暗い。

 外から見ても、その周りだけ暗く感じるくらいだ。

 三階建てのビルで、壁は灰色のコンクリート。

 ドアはなくなっているのに、中は真っ暗で何も見えない。

 入り口には鎖があり、「立ち入り禁止」の紙が、お札のようにずらっと並んでいる。

 千舞は、その鎖を乗り越えて、中に入った。

 窓を全部新聞紙で塞いでいるせいで、光が全く入ってこない。

 そのため、千舞は窓の新聞紙をバリバリとはがした。

 これで、少し光が入ってくる。

 千舞がぐるりと見回すと、大きな木の板や鉄パイプが、壁に立てかけてあるのが分かった。

 段ボール箱も五箱くらい積み上げてあるが、中に何が入っているのかは分からない。

 千舞は段ボール箱の中が気になって、足場になるものがないか、きょろきょろ辺りを見回した。

 その時だ。

 

「ちぃ! 待ってよ、オレも行くから!」

 後から追いかけてきた流が、ぎゅっと千舞の手を握った。

「ちょっと見るだけだよ? 一階だけ少し見て回って、すぐに帰る。二階や地下には行かない」

「怖いなら、来なくていいのに」

「このビルの噂、知ってるだろ?」

「色々ね。子供がいなくなっちゃうとか」

 流はごくりとツバを飲む。

「それ、ほんとなんだよ。ここには、人さらいが住んでるんだ。

 気に入った子供を連れ去って、コレクションにしちゃうんだよ」

「そんなのウソ。じゃあ、なんで警察に捕まってないの?」

 

「――人間じゃないから」

 

 千舞は流を見るが、流は千舞を見ていなかった。

 じっと、まっすぐに、床の黒いシミを睨みつけている。

「呪いやオバケなんてウソだって、言ってたじゃない」

「ほとんどは、ただの作り話だよ。でも、ウソじゃない事もある。

 呪いも、オバケも、本当にあるんだよ」

 じわじわ、じわじわ、オバケ廃墟に暗さが戻っている。

 千舞は急にドキドキと鳴り始めた胸をぎゅっと押さえて、窓の方に振り向いた。

 先程、千舞が新聞紙を剥がして、光を取り入れた窓。

「……嘘。どうして?」

 剥がした新聞紙がひとりでに集まって、どんどん窓が塞がっていく。

 あっという間に、オバケ廃墟は真っ暗になった。

 隣にいるはずの流の顔すら見えない。

「逃げよう。見つかった……!」

 流がそう言って、千舞の手を引っ張った。

 千舞は流に手を引かれるままに、無我夢中で走り出す。

 

―ガラガラガラ!

 

 鉄パイプが崩れる音がして、千舞はとっさに流を突き飛ばした。

「リュウ君! 危ない!」

 

―がつん!

 

 鉄パイプが千舞の頭にぶつかって、千舞は倒れてしまう。

 その足を、誰かが掴んだ。

「ちぃ! ちぃ、大丈夫!?」

 流の声は、千舞のすぐ正面から聞こえてくる。

 つまり、千舞の手を掴んでいるのは……。

「ちぃ! 立って! 走って!」

 流は泣きながら、千舞の上にのしかかっている、重い鉄パイプをどかしてくれる。

 千舞は足をバタバタさせて、彼女の足を掴んでいる、

 見えない誰かの手を振り払って立ち上がった。

 流は千舞の手を掴んで、オバケ廃墟の出口を目指して走る。

 ずっと、彼女のすぐ後ろから、誰かが追いかけてくる気配がしていた。

 立ち止まったら肩を掴まれて、オバケ廃墟の中に引っ張り戻されそうで、

 千舞は振り返らずに必死に走った。

 オバケ廃墟から飛び出して、H坂に出て、H坂を下りても、千舞達は走り続けた。

 人がたくさんいる公園に戻ってきて、ようやく千舞と流は走るのをやめて、

 へたへたとその場に座り込む。

 

 そして、悲鳴が上がった。

 公園に集まっている子供達の親が、千舞と流を見て大騒ぎする声だった。

「あなた! どうしたのそのケガ!?」

「え……?」

「ちぃ、頭から血が出てる」

「あ……多分、鉄パイプがぶつかった時の……」

 千舞が頭を触ると、温かくてぬめっとする。

 しかし、そんなに痛くないし、ちょっと切ったくらいだと思った。

 だが、公園の大人達がざわざわしているのは、頭のケガのせいだけではなかった。

 

 千舞の足首に、くっきりと、人の手の形にアザが残っていたからだ。

 

 千舞の父に連絡が行って、救急車が呼ばれて、

 病室には警察までやってきて、本当に大騒ぎになった。

 流は救急車に乗る千舞を見送りながらずっと「ごめんね、ごめんね」と謝りながら泣いていた。

 どんなに探しても流はどこにもおらず、流をいじめていた男の子達を見つけて話を聞いて、

 やっと海外に引っ越したと教えてもらえた。

 

「……というわけ。だからリュウ君は、わたしを守るために戦う事になったんだよ」

「へぇー、そういう事でありますか。自分も、頑張らなきゃいけませんね」

 希華は千舞からオバケ廃墟の思い出を聞いて、頷いた。

 彼女は部外者だったが、千舞と流の力になりたいと思うのだった。

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